third person

「TRICK MOON」(TSUKI NO USO RECORD TU−001)THIRD PERSON FEATURING KAZUTOKI UMEZU

 トム・コラとサム・ベネットのふたりのユニットに、毎回もうひとりゲストを迎える(つまりサード・パーソン)形のトリオがサード・パーソンである。トム・コラが亡くなったあとも、梅津和時がベネットと組んでサード・パーソンは今も続いているが、本作はトム・コラ存命のころの作品で、トム・コラ〜サム・ベネットから梅津和時の3人に今堀恒雄のギターが加わった「フォース・パーソン」(?)形式でのアルバム。作曲者がいるものはクレジットされているが、それ以外のものは即興なのかというと、どう聴いてもきちんとしたコンポジションがあるとしか思えないものが多く、おそらく全員でその場でモチーフを出し、ヘッドアレンジをし……という感じで作っていったのではないかと思われる。どの曲もすばらしく、全員の魂の震えを感じる。雰囲気がのびのびとしているが、それは「音」自体もそうだし、ミュージシャンの心ものびのびしているように思える。コンポジションはあるが、精神的にはまるで制約がない。こういう演奏もフリーと呼んでいいのではないかと思う。とくにトム・コラのチェロの瑞々しくもまた禍々しい、妖しいまでに色っぽく、また諧謔的な音はどうだ。彼の演奏がこの作品にどれだけ輝きと深みを与えているかを思うと、亡くなって本当に惜しいひとだったとしみじみ思う。即興だなんだと怖れることは微塵もなく、ただただひたすら楽しく聴けるアルバムだが、よく聴くと一曲一曲、聴きどころ満載で、技術的にも音楽的にもたいへんな高みにいるものたちの結集なのだ。折に触れ、聴きかえしたいアルバム。傑作です。