「CAT ON THE KEYS」(SWINGTIME ST1027)
SONNY THOMPSON
これまで私はたくさんのレコードを買って、たくさん売ってきたが、売ろうかな、と思うたびに聞きなおして、うーん、やっぱり置いとこう、と思いなおすアルバム。日頃はまず聴くことはないが、そういうときに聴きかえすと、その良さを再認識する。私はこういう音楽の知識はないが、ソニー・ソンプソンはブルースピアニストで、このアルバムの曲はすべてインスト。そして、ピアノが前面に出るというより、ホンカー的なテナーサックスをフィーチュアした演奏が多い(そのあたりが、手放しにくい理由なのである)。ジャケットには、「フィーチュアリング・キング・カーティス、エディ・チャンブリー、デヴィッド・ブルックス」とあるが、これは看板に偽りあり、というか、一種の誇大広告で、全部で16曲入っているうち、キング・カーティスもエディ・チャンブリーも一曲ずつしか入っていないのだ。あとは全部、デヴィッド・ブルックスである。でも、正直言って、デヴィッド・ブルックスといえば、あのバッバ・ブルックスである(ほんとうはデヴィッド・バッシュフル・バッバー・ブルックスらしいが)。ティナ・ブルックスの兄、といわずとも、ブローテナーファンのあいだではスターである。このひとのすばらしいソロの数々を聴くだけでも、このアルバムの価値はある。音もすごいし、ほんと、めちゃめちゃうまいんですよ。では、キング・カーティスとエディ・チャンブリーはだめか、というと、そんなことはなくて、どちらも一曲ずつだが、すごいソロをしている(とくにカーティス)。ブルックスが、ダイナミクスを心得た、うねるようなソロ(つまり、ベン・ウエブスター系統のジャズっぽいソロ)をするのに対し、キング・カーティスは音を終始均一に濁らせて吹くあたりがソウルっぽく新時代的である。たぶんずっと売らないだろうなあ、と今は思っている。
「SWINGS IN PARIS」(BLACK & BLUE CDSOL−46049)
SONNY THOMPSON
このひとのことは全然知らないのだが、フレディ・キングの大ヒット「ハイダウェイ」を作曲したひとだそうだ。でも、本作を聞くかぎりでは、めちゃくちゃジャズで、しかも「どスウィング」なひとのように思える。ライナーノートによると、アール・ハインズやアート・テイタムに影響を受けたとあるが、まさにそんな感じ(でも、選曲的にはベイシーの影響を感じる)ボーカルも取らず、ひたすらピアノトリオでスウィングしまくる。しかも、ときどき細かいミスタッチ的なものがあり、それもまた人間的でよい。ストライドの魅力が存分に味わえる。管楽器のいない、たった三人でオーケストラのようにバンドを鳴り響かせるのは、アレンジの妙でもあるが、やはりストライドだからこそ、という気もする。舐めるように聞こう。ラムゼイ・ルイス、ジョージ・ベンソン、ジェイムズ・ブラウン、ジョン・メイオールらに曲を書いた、とあるが、ここに聴かれる演奏はオールドタイマー(しかも超ホンイキ、ど真ん中)のものである。ベースとドラムも、全体に小洒落た雰囲気で洒脱なバッキングをしている。ソロのフレーズも盛り上げかたも、もしかすると型にはまった定型的なものなのかもしれないが、それがこうした上質な状態で、よい録音で味わえるというのは最高ではないか。鍵盤とたわむれているのが伝わってきてほっこりする。それだけのソングライターがなぜ自作を1曲も演奏していないのかよくわからないが、それだけ「ジャズ」に取り組んだアルバムなのだろう。でも、とにかくひたすら楽しく聴ける作品。聞くたびにしみじみします。これを録音していたブラック・アンド・ブルーはえらい! 傑作。