malachi thompson

「THE JAZ LIFE」(DELMARK RECORDS DD453)
MALACHI THOMPSON

 2006年に50代という若さで亡くなったシカゴのトランペッターマラカイ・トンプソン。サイドメンとしてはレスター・ボウイのブラス・ファンタジーやシェップの「アッティカ・ブルーズ」、カラパルーシャのグループへの参加などが有名だが、あとの活動はほとんど自己のグループを率いてのもので、とくにデルマークには毎年といっていいほどリーダー作を吹き込んでいる。癌が見つかったのは89年だそうで、おそらくそのあとは治療を続けながらレコーディングに精力を注ぎ込んだのだろう。聴けばわかるが、フリージャズというより、正統派の力強いトランペッターで、しかも流暢ではなくなとも無骨で、きっちりと筋を通しながらも自分の言いたいことを言うタイプの……要するにシカゴ的なトランペッターである。AACMのミュージシャンに共通しているこういう特徴は、本当にジャズ的には宝物のようなものだ。タイトルが「JAZZ」ではなく「JAZ」であるところも、本作におけるトンプソンの主張のひとつである(要するに、当時流行っていたスムースジャズと自分がやっているリアルジャズを区別するため、ということのようだ)。メンバーはテナーがカーター・ジェファーソン(このひとも早く亡くなった)、アルト、ソプラノがジョー・フォード(マッコイとずっとやってたひとですよ)、ピアノがカーク・ブラウン(アリ・ブラウンの兄弟)、ベースがなんとハリソン・バンクヘッド、ドラムはネイザー・アベデイ、パーカッションがリチャード・ロウレンス。この編成がいかにも「ごつごつしたジャズをやりまっせ」という感じである。シカゴのAACM系に共通することのひとつは、作曲、編曲がじつに味わい深く、かっこいいことで、プレイだけでなくそういった部分でも自分を表現しようという意気込みみたいなものが感じられる。マラカイのトランペットはフリーキーになることはほとんどなく、張り詰めたトーンでひたすら地道に、自分の歌をつづっていく(もちろんハイノートを使ってブロウもするのだが、全体としては丁寧極まりない演奏で、しかもけっして「テクニシャン」ではなくきわめて個性的で見事だ)。カーター・ジェファーソンもジョー・フォードも正直、ほかのグループでの演奏よりいきいきしているように聞こえる。ソロスペースがたっぷりあって、たとえ失速してもあとで取り戻せばいい的なおおらかさも好ましい(実際、そういう部分はたくさんあって、ほぼライヴに近いと思われる)。1曲目はコルトレーンに捧げたオリジナルだが曲調自体はあまりコルトレーンっぽくないマイナーブルース(ただ、アレンジにコルトレーンの「カズン・メアリー」とかがはめこまれている)。2曲目は「マイ・ロマンス」でリズムが途中で変わるアレンジだが、演奏内容は完全にハードバップ。3曲目は超有名曲でレイ・チャールズでおなじみ「ドロウン・イン・マイ・ティアズ」。ファンキーな原曲の雰囲気を保ちながら、ごりごりのジャズに仕立てている。4曲目はマイルスに捧げたオリジナル。これも正直、マイルスっぽい曲ではないが、マラカイの頭のなかにあるマイルス像ということなのだろう。カーター・ジェファーソンのソロが(ウディ・ショウバンドで聞かれるように)ごつごつとしたモーダルで熱さのある演奏で、リーダーとの相性はばっちりである。このように6曲中3曲が自作で、あとの3曲はスタンダードなどだが、5曲目はビリー・ハーパーの「クロケット・バレエ」(リー・モーガンのラストセッションやハーパーの「ブラック・セイント」にも入ってるし、最近もハーパーはずっと演奏している)を演奏している。マラカイはビリー・ハーパーとも共演しているのでなにかそういう縁があるのだろう。何度聴いてもええ曲である。全員の張り切った演奏が聴ける。ラストの6曲目はパーカッションが大活躍する躍動的なリズムの曲でめちゃかっこいい。ベースとピアノが同じパターンを延々と繰り返す、いかにも70年代ジャズ的な曲で本作の白眉といっていい。カーター・ジェファンーソンもフリーな表現に足を突っ込んだブロウ。マラカイも目一杯激しいブロウを繰り広げていて、たまりまへん。というわけで、70年代ジャズ的なスピリチュアルな熱気と正攻法の熱い演奏を求める皆様には大推薦です。

「BUDDY BOLDENS RAG」(DELMARK RECORDS DE481)
MALACHI THOMPSON & AFRICA BRASS

 マラカイ・トンプソンがずっと率いていた金管アンサンブル+リズムの「アフリカ・ブラス」のアルバム。ほかにも何枚も出ている。本作はレスター・ボウイをフィーチュアしているが、マラカイはレスターのブラス・ファンタジーのオリジナルメンバーでもある。アフリカ・ブラスといえばコルトレーンのインパルス盤を思い浮かべるだろうが、ああいう感じではなく、ブラス・ファンタジー的なファンキーでポップな雰囲気である。しかし、聴き終えた印象は、コルトレーンのヘヴィでスピリチュアルでスウィングする「あの感じ」がちゃんと継承されている。本作は、ジャズの創始者というか、初代ジャズ王と呼ばれているバディ・ボールデンをテーマにした作品だが、もうじきバディ・ボールデンの伝記映画(?)が公開されるらしいですね。バディの録音というのは存在しないのだが、インタビュー的なもの(?)は「ヒア・ミー・トーキン・トゥ・ヤ」などに載っていて断片的に読むことができる。本作は、30歳でアル中になり、最後は発狂して亡くなったというジャズキングに捧げられたトランペットの後継者の演奏なのだ。54歳で亡くなったというのだから、病院に入れられてから24年間も過ごしたうえで亡くなったのである。私もじつはバディ・ボールデンを扱った小説を書こうと思っているのでありますが……そんなことはどうでもいい。本作は、4トランぺット、4トロンボーン、ベース(ハリソン・バンクヘッド)、ドラム、2パーカッションというシンプルな編成で、ファンクな曲、ポップな曲、ジャズっぽい曲などを演奏……といえばブラス・ファンタジーと一緒じゃん、と思うかもしれないが、ほとんどがマラカイのオリジナル曲である点がちがう。このキャッチーな曲調の曲って、たぶんどこかの有名曲をアレンジしたんだろうな……と思っているとじつはマラカイの曲だったりするのである。バンド名は「アフリカ・ブラス」だが、さっきも書いたけど、あんまりアフリカっぽくはない。金管だけのアンサンブルに躍動的なリズム→ソロ回し+バッキングのリフ……という非常にシンプルで、荒削りで、プリミティヴで小細工のない演奏が多いが、その分力強い。曲はどれもめちゃくちゃいい曲ばかりで、マラカイ・トンプソンの作曲力を感じる。ライナーによるとニューオリンズブラスの現代版ということらしいが、ジャズ、ロック、ファンク、サルサ、サンバ、ポップス……といったいろいろな音楽をごたまぜにした感じはたしかにニューオリンズ的であり、そこにニューオリンズの伝説的トランペットキングの名を冠したところに意味を感じる。正直言ってメンバーのことはよく知らんが(スティーヴ・ベリーぐらい?)、ソロイストは全員すばらしい。デヴィッド・スペンサーというひとは超ハイノートヒッターだし、みんな微妙なテクニックなどいろいろ心得ていてジャズ的金管技のオンパレードである。ドラムもすばらしい。しかし、3曲目や5曲目、6曲目におけるハーフバルブを駆使したレスター・ボウイの、人間味あふれる、というか、諧謔的なソロの圧倒的な表現力を聞くと、あー、やっぱりこのひとは群を抜いて個性的だなあ、としみじみ思う。レスター好きならこの3曲だけを目当てに購入しても満足するだろう。で、なぜかメンバー表には入っていないのだが、なんと7曲目ではあのゼイン・マッセイが、8曲目ではあのアリ・ブラウンがフィーチュアされているのである(ソロオーダーのところを見ないとわからない)。びっくりしたなー。マラカイのすばらしい演奏のショウケースである7曲目ではマラカイはトランペット以外に角笛(?)や法螺貝も吹いているらしい。ゼイン・マッセイはテナーでごりごり吹いている。8曲目はすばらしいソロが相次いだあと、アリ・ブラウンがこれもテナーで渋いソロを聴かせる。ラストの9曲目は(たぶん)マラカイのボーカルをフィーチュアしたユーモアあふれるナンバーでバディ・ボールデンに捧げたアルバムの締めくくりにふさわしい。こういう書き方をするときって本当におもろいことはあんまりないかもしれないがこの曲はジャイヴとしてもよくできていて、マジ楽しいよ。傑作。

「47TH STREET」(DELMARK RECORDS DE497)
MALACHI THOMPSON

 1996年の録音だが、3曲だけ1993年の録音曲が入っていて、そちらはジョー・フォードとカーター・ジェファーソンらを擁したオーソドックスな編成だが、残りはマラカイのトランペットにビリー・ハーパー、スティーヴ・ベリーという強力無比な3管に、ボーカルやコーラスやポエットリーディング(ラップ?)などをドドドッとフィーチュアした企画もの。これがめちゃくちゃかっこいいのです。タイトルチューンである1曲目はディー・アレキサンダーという女性ボーカルをフィーチュアしたバップボーカル(?)的なナンバー。マンハッタン・トランスファー的なおもむきすらあるポップな曲で、とにかくグレイトジャズミュージシャンが47番街でなにをしてたらしいが歌詞が聞き取れまへん。いやー、1曲目からやられました(この曲だけ、ロン・ブリッジウォーターがゲストで入っている)。2曲目はうってかわってゴリゴリの70年代的な曲調。ビリー・ハーパーのまさしくビリー・ハーパー的な重厚で鉈でぶった切るようなソロのあと、同じくヘヴィなマラカイのトランペットが続くのだが、なぜかフェイドアウト。なんでや! 3曲目はグルーヴするテンポと柔らかいアンサンブルで聴かせる曲で、聴いているとブルーノートっぽいなあ、と思ったり……。ジョー・フォードのバップ的なソロのあとマラカイの張り切ったトランペットがナイス! 4曲目はブルーズでマラカイのトランペットがベースだけをバックにひたすらバップフレーズをつむいだあと、カーター・ジェファーソンが同様にベースとのデュオで美味しいフレーズを重ねていく。趣向がいいですね。5曲目は伊福部昭のようなアンサンブルとトランペットの激突のあと、マラカイのカデンツァ(高音部と低音部をひとりで吹き分ける)の超絶技巧と表現力が凄まじすぎてすべてを持っていってしまう。そのあとまたアンサンブルとトランペットの過激な衝突があって、めちゃくちゃかっこいい。ビリー・ハーパーもかなり長尺のブロウをしているが、マラカイの気合いのほうが上回っているような……。躍動しまくるリズムも良くて、いやー、この演奏は本作の白眉かも。すばらしです。6曲目はショーターの「ミヤコ」で、なかなか選曲の妙もありますね。マラカイのトランペットをフィーチュアしたバラード的処理で、アレンジもシンプルでオーソドックスだがよく似合っている。最後のところ、すごくきわどいところで終わる。7曲目「アフリカン・サン・ダンス」はめちゃくちゃいい曲で、たしかにアフリカ的なおおらかなモードジャズで、アレンジも楽しい。ええ曲書くなあ。マラカイのソロもゆったりしたノリで自作曲をいつくしみながら吹いている感じでいいが、つづくジョー・フォードのソプラノソロがなかなか爆発していてかっこいい。8曲目以下3曲は「ミステリー・オブ・ジャズ」という組曲でジャズのつづりが「JAAZ」になっているところがこだわりを感じる(「THE JAZ LIFE」というアルバムのタイトルも連想させられる)。1曲目と同じくボーカルやコーラスがフィーチュアされ、非常にスピリチュアルな雰囲気のなかで曲が進んでいく。アレンジも斬新でハッと耳がそば立つ。ソロとアンサンブルが見事に有機的に結合していて、マジすばらしい。9曲目のビリー・ハーパーの低音から始まるソロなどは、ハーパーのいいところがドーン! と出た演奏でめちゃいい。組曲のラスト三曲目は1曲目でもはじけていたボーカルのディー・アレキサンダーがシャウトしまくるパンチのきいたソウルフルな曲だが、そのあと曲調が変わり、マー・コーエンという女性ボーカルのポエットリーディングからの美しいボーカルナンバーになる。ソウル的な爆発からバラード的な曲への移行。この落差もいいですね。ふたつの曲をつなげている感じなので、実際は4曲の組曲なのかもしれない。というわけで、いやー、これはものすごい傑作なのではないでしょうか。もっと話題になってもいいのに。というか、俺が知らんだけど話題になっていたのか? ストリートにコルトレーンとかキャノンボールとかレイ・チャールズとかサン・ラーとかがうろうろしているジャケットもめちゃくちゃかっちょええです。傑作!

「FREE BOP NOW!」(DELMARK RECORDS DE506)
MALACHI THOMPSON

 マラカイ・トンプソンのフリーバップバンドの結成20周年を祝う豪華メンバーによるアルバム。全部で13曲も入っているので、1曲あたりの演奏時間は短い。1曲目、いきなりウェイン・ショーターの「ブラック・ナイル」ではじまるのでちょっとびっくりする。ビリー・ハーパーがゴリゴリ吹いたあとはマラカイ・トンプソンが力強いソロをするが、オリジナル中心でやってきたマラカイの20周年をなぜ他人の有名曲で……という気はする。三管のアンサンブル、バッキングのリフなどまさにハードバップという感じ。2曲目は重々しいエキゾチックなリフのモーダルナンバーでめちゃくちゃかっこいい。これを1曲目にしたらよかったのに。ソロもどれもいきいきしている。3曲目は「セネガルへのフライト」というラテンっぽい曲で、コーラスが入っていて、パーカッションもいてゴージャス。テナーにソニー・シールズというひとが入っているのだが、途中のテナーソロはビリー・ハーパーっぽく聴こえる。マラカイのトランペットソロも攻めてはいるが美しい。4曲目はタイトルチューン。3管による複雑なテーマリフは、なるほどバップ。フィーチュアされるバップスキャットはだれだかわからない(トランペットとバトルになったりするのでマラカイ・トンプソンではないと思う。ピアノの音が聞こえないのでカーク・ブラウンか?)。ビリー・ハーパーの快調なゴリゴリソロやトロンボーンとのバトル(?)が存分に聞けるが、まあ、バップ的な要素はほとんどないです(テーマだけ?)。5曲目はミディアムテンポのスウィングする曲で「昔からあるスタンダード」と言われたら信じてしまいそうな曲。唯一フィーチュアされるマラカイもきっちり歌うハードバップ的なソロ。6曲目は「ラウンド・ミッドナイト」で、ものすごく正攻法な演奏。7曲目はメンバーがちょっと変わって、ジョー・フォード、カーター・ジェファーソン、スティーヴ・ベリーの4管。重厚にスウィングする。マラカイの凛々しいトランペットソロが大きくフィーチュアされたあと、ジョー・フォード、スティーヴ・ベリー、カーター・ジェファーソン、カーク・ブラウンも短いソロをリレーする。一種類のバッキングリフだけで全編を押し通すのだが、このシンプルさもいいですね。8曲目は能天気なイントロではじまるラテンナンバー。「ラテンナンバー」としかいいようのないオールドスタイルの曲で、パーカッションはなんとハミッド・ドレイク。マラカイも能天気でカラッと明るいソロを吹く。つぎに出てくる鋭いトーンのアルトはオリヴァー・レイクで、ダーティートーンをまじえてええ感じのほわっとしたソロ。これはこういう曲ということですね。9曲目は「ワーム・ホール」という曲名で、11曲目に「ブラック・ホール」という曲があるので、もしかしたらマラカイ・トンプソンは宇宙好き、もしくはSFファンかもしれない。ハードボイルドな、ええ曲です。マラカイのトランペットも爆発しているし、ドラムもバシバシ煽る。続くレイクのフリーキーなアルトソロはなかなか会心のソロではないでしょうか。ベリーのトロンボーンはアブストラクトだが力強い。10曲目は「古代アフリカの管楽器」というタイトルの超短い演奏。11曲目はマラカイと女性ボーカルによる朗読(?)がファンクなリズムの演奏に乗る、という曲だが、とくにソロとかはない。そして、12曲目は曲名はちがうけど11曲目と同じ曲。どうやらこちらは(なんと)アメリ・バラカによる朗読(まあ、ラップみたいな感じ)らしい。セックス、セックスいうとるなあ。そのあと曲調が変わってラリー・スミスというひとがぺらぺらしゃべる。なんやねんこれは。おもろいけど。13曲目は8曲目の別テイク。最後のほうはなんだかよくわからん。でも、いろいろなひとを「TALKING HORNS」(DELMARK RECORDS DE−532)
MALACHI THOMPSON WITH HAMIET BLUIETT AND OLIVER LAKE

 マラカイ自身の手によるかなり長文のライナーノートにはニューオリンズのバディ・ボールデンによるジャズ創生から説き起こされたブラックミージックとしてのジャズの歴史が綿々と語られている。本作はそのジャズ史のなかでも重要な位置づけを占めるシカゴとセント・ルイスの2都市出身のミュージシャンによるスペシャルグループの演奏である。マラカイはライナーノートのなかで、ヴァンダーマークの名も挙げたうえで、ケン・バーンズとマルサリスにかなり不満を持っているように読めるが、そういうことに対するマラカイのひとつの回答がこのアルバムなのだろう。いつものビリー・ハーパーやカーター・ジェファーソン、ジョー・フォードらとちがって参加サックスがBAGの猛者たちなので、マラカイのアルバムのなかではかなりフリー寄りな演奏になっていて、その分私好みである。AACMとBAGの合体(といってもBAGはもうないけど)を目指したようなコンセプトらしい。なので、いつもはマラカイのアルバムでは自身のコンポジションがほとんどだが、本作では4曲がマラカイ、2曲がオリヴァー・レイク、2曲がハミエット・ブルーイットという構成になっている。1曲目はブルーイットのコントラバスクラリネットの低音がずぶずぶと響き渡るかっこいいアレンジの3拍子の曲。「ウディズ・ドリーム」というタイトルだが、ウディ・ショウに捧げた曲かどうかはライナーに記載がないのでわからないが、ちょっと「カトリーナ・バレリーナ」に似てないこともないのでもしかしたらそうかもしれない。オリヴァー・レイクの気合いの入ったグロウルなソロ、マラカイのストレート・アヘッドなソロ、ブルーイットのめちゃくちゃかっこいいコントラバスクラリネットのディープなソロ、ウィリー・ピケンズのキラキラしたソロなどがチェイスされたあと、マラカイのトランペットを中心とした集団即興のようになるが、これがまたええ感じです。最後はフェイドアウト。2曲目はオリヴァー・レイクの曲でミディアムテンポの4ビートだが癖のあるテーマ。レイクのソロは相変わらず熱くて一直線。マラカイのソロのあとに出てくるブルーイットのバリトンサックスはストレートアヘッドだがめちゃ上手くて、お手本にしたいような演奏。3曲目もレイクの曲で、これまた変態的なテーマだがかっこいい。基本はワンコードの3拍フレーズの曲のようだが、レイクがダーティートーンでスクリームし、マラカイがプランジャーで吠え、ブルーイットがバリトンで煽る。テーマは複雑だが、ソロに入ると一発もの、というシンプルな趣向のようだが、こういうぐちゃっとした演奏をさせるとこのひとたちはほんとに味を発揮する。そのあとドラムソロを経てエンディング。4曲目はブルーイットの曲でなかなか意味深なタイトル。ウィリー・ピケンズの力強くも華麗なルバートのイントロに続いて、ブルーイットのヴァンプがはじまり、ベースがぶいぶいいわせるサンバ的リズムの明るい曲になる。てっきりバラードだと思っていたので驚かされる。マラカイのからりとしたソロに続き、、オリヴァー・レイクのややフリーキーなソロ、ブルーイットはフラジオを駆使したソロ……と管楽器がリレーしたあと、リズムが消えて3管だけのフリーなパートになり(若干オーバーダビングがあるような気がする)、またヴァンプがはじまって終了。5曲目はその名も「フレッド・ホプキンス」という曲で、3管だけでのフリーな部分から、トランペットのプランジャーとアルト、バリトンのリフによるテーマがはじまり、インテンポになる。軽快なブルーズである。それぞれのソロのバックでぐちゃぐちゃっとしたバッキングがついたり、レイクのソロのときはブレイクになってピアノとの激しいデュオになったり(だんだん参加者が増えていってもとに戻るパターン)、だれかがなにか叫んだり……と即興的にいろいろ面白い展開がある演奏。エンディングもかっこいい! 6曲目はアルバムタイトルにもなっている「トーキング・ホーンズ」という曲。トランペットだけでなくパーカッション群やヴォイスなどすべての楽器をマラカイがひとりで重ねている。とても雰囲気があるし、プリミティヴなノリもある曲だが、ちょっと長いかも。7曲目は70年代ジャズ的な熱さのあるモード曲。3管のアンサンブルもばっちりで、レイクのソロもマラカイのソロもブルーイットのソロもどれもアルバムで一番いきいきとしていて熱いかも。ピアノソロもドラムも白熱で、そのままの勢いでテーマに飛び込む。名演! ラストは血湧き肉踊るフリーなブルーイットの爆発ではじまる凄い演奏。変態的なテーマもかっこいい。全体にフリージャズ的なソロが続き、レイクもベースのバンクヘッドもピケンズも本領発揮の見事な演奏。マラカイもかなり攻めまくったソロを展開。そのあとはフリーなリズムに乗ってスキャットを。ああ、こういうぐちゃぐちゃさはマラカイのフリーバップバンドではなかなか聴けないものだが、やはりこのひともAACMなのだなあと感慨深くなったりして。レジー・ニコルソンのドラムソロもがっつりフィーチュアされる。あとのほうになればなるほど凄い演奏が控えているというアルバム構成で、最後には腹いっぱいに。傑作。聴けるいいアルバムでした。

「BLUE JAZZ」(DELMARK RECORDS DG−548)
MALACHI THOMPSON AND AFRICA BRASS

 本作はマラカイ・トンプソン率いるアフリカ・ブラスとフリーバップバンドが合体したようなメンバーによる演奏。2001〜2003年にかけて録音され、2003年に発表されたアルバムだが、マラカイは2006年に亡くなっており、おそらく最後のアルバムではないかと思うが、衰えなどは微塵も感じられない。ハリソン・バンクヘッド、カーク・ブラウンといういつものリズムセクションに、四人のトランペットと四人のトロンボーンが加わっているのはアフリカ・ブラス的だが、そこにビリー・ハーパーとゲイリー・バーツというフリーバップバンド的な2管が加わっており、演奏もマラカイがずっと追求してきたジャズの歴史を扱ったふたつの組曲で、本人がどのような気持ちで演奏したのかはわからないが、マラカイの音楽の集大成的な内容になっていると思う。ゲストも多彩で、2名のボーカリストに、アリ・ブラウン、そしてジーン・ダディG・バージという、私は全然知らないテナー奏者が入った曲もある。だが、組曲だからといってビビることはない。いつものマラカイの音楽だ。最初の組曲「ブラック・メトロポリス組曲」の1曲目はサンバ的なリズムで、マラカイの快活なソロのあと、バーツの柔らかい音色のアルトソロ。こういうのを聞くと、「このおっさんも昔はぶいぶいいわしてたけど、丸うなったもんや」みたいな言葉が思い浮かぶ。アーサー・ブライスやチコ・フリーマンなどにもそういう言葉が浮かぶ。でも、これがなかなかええ感じなのである。そしてビリー・ハーパーの軽い感じのソロ。大編成のブラスのせいで、最後はいきなり盛り上がる。2曲目は昔ながらのジャズロックみたいなやつ。ビル・マクファーランドのトロンボーンソロのあとバーツの「音は軽いけど熱血のソロ」。ド迫力のリフとレオン・ジョイス・ジュニアのドラムのチェイスもかっこいい。3曲目は「ジャズ・リヴェレイションズ」という曲だが例によってジャズの表記が「JAAZ」であるところがマラカイのこだわりだ。4ビートではあるが、すごく明るい曲調で、マラカイのトランペットもカラリと明るい。これがこのひとの「ジャズ」ということか。でも、どこかじめじめしているのもこのひとの特徴だ。ビリー・ハーパーは1曲目とはうってかわって本領発揮の中音域中心のゴリゴリのソロ。そして、弾けまくったピアノソロを堪能。あくまで明るくスウィングするビッグバンドジャズという雰囲気。これはなんなのだろう。最初の組曲の最後を飾るのは、ベースのアルコではじまる曲。スティーヴ・ベリーのトロンボーンが大々的にフィーチュアされる重厚な演奏。アンサンブルとトロンボーンソロが交互に叫ぶ。そして、ビリー・ハーパーのソロのあとマラカイが吹きまくる。これはすごいです。そして組曲の2曲目。最初の曲は陰鬱な、思わせぶりな雰囲気ではじまり、女性ボーカル(ディー・アレクサンダー)がそれに加わる。だんだんビートが強くなっていき、マラカイとボーカル、そしてホーン陣がどんどん加速していく。2曲目は3拍子のマイナーの曲でマラカイの柔らかで表現力豊かなトランペットが大きくフィーチュアされる。アンサンブルとトランペットの対比なのに、リズムが次第に速くなっていく……というのは凄いと思う。これはなかなか手に汗握る演奏だと思う。そしてテンポが緩やかになっていきエンディングだが、まったくどこにも不自然さがない。すばらしい。3曲目は「ルイと呼ばれた聖人のためのブルーズ」というタイトル。セントルイス・ブルースを思わせる曲調で、ニューオリンズテイストのマイナーの曲。雰囲気のあるクラリネットはアリ・ブラウン。ディー・アレクサンダーによるルイ・アームストロングの伝記的な内容の歌詞が歌い上げられる。かっちょええ(この曲についてはライナーノートに詳しいいきさつが載っている)。4曲目はアルバムタイトルでもある「ブルー・ジャズ」。ゆるい三連のビートが心地よい、ワンコードだがブルーズっぽいテイストの曲。マラカイのプランジャーとディー・アレクサンダーのシャウトのからみが熱い。そのあと超アップテンポになり、ゲイリー・バーツとビリー・ハーパーがソロをするが、その後のテンポがゆるやかなファンクに戻ってからのほうが本領発揮な感じである。そして次の曲はなぜかショーターの「フットプリント」で、マラカイ・トンプソンがショーター好きであることがわかる。単にマイナーブルーズとしての素材扱いしていない感じ。マラカイのコードを縫うような訥弁ではあるが説得力のあるソロはAACMのトランペッターに共通する雰囲気。ゲイリー・バーツのアルトはものすごくオーソドックスではあるが力強い。つづくビリー・ハーパーのソロは、あいかわらずラーセンのメタルでゴリゴリ吹く感じ。つまりバーツもハーパーも「あいかわらず」なのである。ラストの6曲目はザ・ビッグ・ドゥーワッパーというボーカルがフィーチュアされたブルーズ。オルガンも入り、ダディGというテナーのひとのオブリガードもあってファンキーに盛り上がる。そして、マラカイ・トンプソンの音楽……というか生涯はこの作品をもって終わりをとげたのではないか。私は詳しくないが、本作が最後の作品かと思われる。