chester thompson

「POWERHOUSE」(BLACK JAZZ RECORDS/P VINE RECORDS PCD−5280)
CHESTER THOMPSON

 オルガン奏者チェスター・トンプソンのリーダー作。このひとは後年、タワー・オブ・パワーやサンタナで活躍するらしいが、この当時はまだそこまでの知名度は得ていなかっただろう。本作にも参加しているルドルフ・ジョンソンのグループに参加して19歳のときにプロ入りし、その数年後西海岸に移住して活動、71年には本作を吹き込むことになったらしい。かつてのボス、ルドルフ・ジョンソンともうひとりトロンボーンのアル・ホールというひとをフロントにすえたカルテットだが、私の興味は正直言って大好きなルドルフ・ジョンソンにしかなく、このグレイトなテナー奏者を聴くために本作を買ったのだが、聴いてみると、たしかにジョンソンはいい演奏をしているが、リーダーのトンプソンも非常にアグレッシヴでエグいプレイをぶちかましていてめちゃくちゃかっこいい。ジミー・スミスやジャック・マクダフ、ロニー・スミス、ドン・パターソン、ジミー・マグリフ……といったファンキーなオルガン奏者たちとは一線を画す、モーダルなジャズやヘヴィなロック、フュージョン……などにも対応できる新世代のオルガン〜キーボード奏者、という感じだ。1曲目はなかなか難しいテーマのブルースなのだが、オルガンジャズでのブルースということから連想されるようなものとはまるでちがう。とにかく初っ端から飛ばしに飛ばすルドルフ・ジョンソンの圧倒的なブロウには「おそれいりました!」という感じ。フリーに突入しそうなほど凄まじいゴリゴリの吹きまくりである。このひとはめちゃくちゃ上手いのだが、パッションもすごいし、音色も私の好みにぴったりなのである。つづくアル・ホールのトロンボーンソロは一転して端正な演奏。すごく上手いけど、きっちりしたソロ。ジョンソンの八方破れな感じのブロウのあとなので、対比になっていて面白い。トンプソンのオルガンソロは、これもルドルフ・ジョンソンを思わせるような過激な感じで、すばらしい。最後にバシッとテーマに戻るところもかっこいい。2曲目はファンキーな味わいもある70年代ジャズ、といった感じの曲だが、ルドルフ・ジョンソンが本領を発揮しまくったゴリゴリの演奏をぶちかます。16分を駆使した豪快なソロで、ある意味、荒っぽさが魅力になっている(このひとは、2年ほどまえにカーク・ライトシーとの南アフリカ録音の音源が何十年ぶりだかに陽の目を見たらしいが、レコードのみの発売で、めちゃ高いので聴いてない。聴きたいよー)。この曲でも1曲目と同じようにアル・ホールのソロは端正で歌心のある正統派なものだが、そのあとのトンプソンのソロはもうめちゃくちゃなテンションでかなりイキまくりな演奏。めちゃくちゃかっこいいです。3曲目はシンプルなリフをつないだジャズロックというかそういうタイプの演奏で、本来はエレベが入るべき雰囲気の曲なのだが、トンプソンはフットベースでしっかり対応している。ジョンソンはこういう曲でもダサくない感じで吹いていて聴きどころも多いのだが、やはり1〜2曲目のほうが自然に乗っている感じだ。アル・ホールのソロはなく、オルガンが盛り上げる。ちょっと時代を感じさせる一曲。最後の4曲目もジャズロック的なビートにモーダルなメロを乗せた曲。ルドルフ・ジョンソンは3曲目のいなたいファンキーさに比べると、コルトレーン的なシリアスなソロをぶちかましていて、ものすごくかっちょいいです! 全体にドラムのレイモンド・パウンズというひとが4ビートはもちろんファンクっぽい8ビートもちゃんと叩いていて、貢献大である。そして、全曲をオリジナルで固め(どれもいい曲である)、暴れるルドルフ・ジョンソンのテナーを支え、自身も過激なソロをぶちかまし、ベースラインもしっかり弾いてグルーヴを作り出しているリーダーのチェスター・トンプソンはほんとにすばらしい。後年の活躍ももっともだと思う。収録時間が28分しかないのだが、収められている4曲はどれもいい演奏である。傑作。