「A LOOSE KITE IN A GENTLE WIND FLOATING WITH ONLY MY WILL FOR
AN ANCHOR」(OGUN RECORDING LIMITED OGCD030)
KEITH TIPPETT
めちゃめちゃ長いタイトル。キース・ティペットがラリー・スタビンスやエルトン・ディーン、コルネットのマーク・チャリグ、ボントロのニック・エヴァンスなどをフロントにすえた一種の組曲。ドラムはトニー・レヴィン。個人的にはラリー・スタビンスの参加が気になっていたのだが、アンサンブルもかっこいいし、ドラムはすばらしいし、フロントのソロもいいし(とくにボントロのニック・エヴァンスというひとが耳に残った)、言うことはない。なにしろ一時間を超える組曲なので、その次に収録されているミンガスに捧げた12分ほどの曲が「小品」に聞こえてしまうのはしかたがないが、これもいい。ライヴなので、正直、ダレるところもなきにしもあらずだが、何度聴いても、とてもライヴとは思えないアンサンブルもふくめて非常に気に入った。
「66 SHADE OF LIPSTICK」(EDITIONS EG EGED64)
KEITH TIPPETT/ANDY SHEPPARD
偏愛している一枚。私はプログレとかキング・クリムゾンとかをほぼ聴かないので、キース・ティペットがどういうすごいひとかは、このアルバムをはじめとするジャズ系の諸作(といってもポール・ダンモール、ルイス・モホロ、エヴァン・パーカー……などとの諸作)によってのみ知っているわけだが、とにかくこのアルバムは凄すぎる。おそらく完全なインプロヴィゼイションと思われる曲と、周到に用意されたコンポジションがバランスよく並べられ、それもさまざまな顔の演奏(明るいハッピーな曲、シリアスな曲、プログレっぽい曲、耽美的な曲、激しい曲、主流派ジャズっぽい曲、フリージャズなど……)がショウケースのように並んでいて、毎曲べつのチャンネルを切り替えているようだが、それらがすべてこのたったふたりのデュオによって作り出されているというのはすごい。まあ、このアルバムのすごさはだれでも、冒頭の1,2曲聴けばわかるはずなので、個別にこれはこうですよああですよ的なことは書かないけど、とにかく一曲聴くごとに、ああ、この曲こそがこのアルバムの白眉だなあと思って次の曲を聴くと、いやいや、こっちこそが……と思うような,つまり白眉だらけの白眉シン的なアルバム。アンディ・シェパードのサックスはとにかく好ましい。なにからなにまで好ましい。音色、アーティキュレイション、緻密さ、フリーキーなオーバーブロウと実はそれを完璧にコントロールしている冷静さ、テクニック……一吹きですべてを伝えることと、多くの音で伝えることの両方を兼ね備えた化け物のように「うまい」ひとだ。もちろん圧倒的な個性もある。キースのピアノも、ほぼ同じような感想になる(パーカッションやピアノ線を掻き鳴らす現代音楽的奏法も多用。セシル・テイラー的なスタイルの演奏もあり、その音の粒立ち、リズム感などはあまりにかっこよすぎて死にそうになるぐらい。超短い17秒しかない作品などもあり、一番長いもので5分32秒なのだが、とにかくこのアルバムに収められた14曲には音楽のすべて、とはいえないが、かなりの部分がぎっしり詰まっていると思う。100回聴こうが1000回聴こうが新しい発見があると思う。(そんな恐ろしいことにはなるまいとは思うが)もし、全ジャズアルバムのベスト10を選べとかいう理不尽なことをせねばならないようになったら、それに入れてしまうだろうなと思ったり思わなかったりするぐらい、私が手放しで感心してしまっている、惚れ込んでいるアルバムです。CDは曲数が多いのかな? レコードしか持っていないので確かめようがない。「ザ・ブルー・ノートに捧げる」という献辞があるが、これはあのバンドのことでしょうなー。なお、「MELLOW MAYHEM」というオムニバスライヴ盤にはこのふたりのデュオが1曲だけ収録されているが、そちらのほうが録音は古い。