「ANTHONY TUBA FATS LACEN」(GHB RECORDS BCD−344)
ANTHONY TUBA FATS LACEN WITH THE CONTI JAZZ BAND
先年亡くなったチューバ・ファッツことアンソニー・レイセンのリーダー作。トロンボーンのミック・バーンズ率いる「ルー・コンティ・ジャズバンド」に加わり、ヨーロッパで演奏したときのライヴらしく、ヨーロッパのデキシーミュージシャン2名がゲストに加わっているが、このふたりが前々からのレギュラーメンバーのように溶け込んでいるのも、デキシーという特別な場のもつ魔力なのか。ダーティーダズンの前身であるバンドの創始者というチューバ・ファッツだが、本作ではデキシーランドジャズに徹していて、しかも本場の凄味を見せつけてくれる。私は正直、デキシーは全然わからない門外漢だが、このアルバムはすばらしい。なにがよいか。まずリズムです。ニューオリンズR&Bなどとも共通する、あの跳ねるリズムなのだ。ニューオリンズは、ブラスバンドからファンクまで、この跳ねるリズムで押し通す。これは、そういう「方言」なのだろう。これが、どえらくかっこいいんですよ。つぎに、メンバーの徹底したデキシー狂いである。ラッパもトロンボーンも、「なるほど!」と思わず手を打つほど、ニューオリンズ魂のあるフレージングなのだが、とくにサックスのジョージ・ベリーというひとが、べつにめちゃめちゃうまいとかすごいというわけではないのだが、音色といい吹きかたといい、まさしくスウィング時代を思わせる演奏で、笑ってしまうほど。こういう「本物」なひとが、世の中にはいるもんだ。そして、一番の聞き物は、やはりチューバ・ファッツのチューバプレイであって、いやー、めちゃめちゃすごいです。ちょろっとソロをするだけで、いや、ソロなんかしなくても、このひとがラインを吹いているだけで聞き惚れる。いやー、すばらしい。かっこよすぎる。チューバってこんなにかっこいい楽器だったのか、ということが、ブラスバンドとかファンクバンドでない、こういったシンプルなデキシーのなかでしみじみ味わえます。また、選曲がええんよねー。「イン・ザ・スウィート・バイ・アンド・バイ」とかめっさええやん(ゴスペルなのか?)。