big joe turner

「FLIP,FLOP & FLY」(PABLO2310−937)
JOE TURNER WITH COUNT BASIE AND HIS ORCHESTRA

 ジョー・ターナーといえばカンザス・シティ、カンザス・シティといえばカウント・ベイシー……なので、両者はひとくくりで語られることも多いし、「カンザスシティジャズの侍たち」でもたっぷり共演していたので、相性ばっちりと思われているようだが、実際には、水と油とまではいかないが、かなり持ち味が違う。やはりジョー・ターナーはスモール・コンボで自由自在に、気儘に歌うのが合っているようである。ビッグバンドのきっちりしたアレンジをバックにして歌うジミー・ラッシングなんかとは根本的にちがうのだ。だから、本作はとうていビッグ・ジョーの代表作とはなりえないわけだが、内容がよくないかというとそうでもなく、それなりのレベルには達している。このひとはほんとに死ぬ直前まで衰えがほとんどなかった。まあ、ジョー・ターナーを聴くなら、ほかの名盤から聴いたほうがいいし、ベイシーを聴きたいひとも同様だと思うが……。ところで、タイトル曲にフォレスト参加とあるがソロはどう聴いてもロックジョウだ、と思っていたら、英文ライナーに「フォレストは『グッド・モーニング・ブルース』に参加」と書いてあるではないか。どうなっとんねん。あと、ドラムが72年の段階でソニー・ペインというのも貴重な録音といえるかも。

「TURNS ON THE BLUES」(KENT KST−542)
BIG JOE TURNER

 ビッグ・ジョー・ターナーのアルバムとしてはかなり異色なのだが、このアルバム、私がまだブルースを全然わかっていないときに買ったものなのだ。「カンサスシティジャズの侍たち」という映画を観て、歌いまくる巨漢ビッグ・ジョーの凄まじい迫力に圧倒された私はなにがなんだかわからぬまま中古レコード屋でこのアルバムを買った。たぶん、生まれてはじめて買ったブルースアルバムである。何度も何度も来る日も来る日も聴き、かっこええなあ、と思っていた。今から考えると、ビッグ・ジョーというジャンプ系の社歌ーのバックにジョージ・スミスのハープ? これはあかんやろ、と思うのだが、その当時はなにもわかっていなかったので、とくに気にしなかった。今、聞き返してみると、決して悪くない。「TVママ」をはじめ、ビッグ・ジョーは誰がバックであろうと、いつもの豪快さで自分のペースに持ち込んでいる。かえって、ミスマッチさが新鮮な感じさえする。まあ、ビッグ・ジョーの全キャリアのなかではとるにたらない、というか、異色の顔合わせでたいした成果もあがらなかった作品という位置づけになってしまうのかもしれないが、私にとっては大事なアルバムである。

「JOE TURNER」(ATLANTIC 8005)
JOE TURNER

 ジョー・ターナーのアルバムで一枚挙げろといわれたら、やっぱりこれでしょうね。ヒット曲が全部詰まっている。ターナーも若く、やる気満々で、カンザスシティ時代とはちがった、新しいなにかに挑戦しよう、という意欲に満ちているし、スタッフやレコード会社の「こいつを売りだそう」という気持ちが感じられる。そして、実際にそうなったのだからすごい。歌詞の内容は、ほんと、とるにたらないというかちょっとした言葉遊びが多く、ティーエイジャー向けヒットを狙ったものばかりで、大人のファンには耐え難いところがあるのかもしれないが、かっこいいんだからしかたがない。ビッグ・ジョーの、カンザスブルースで鍛えた強烈なリズム感や豪快なシャウトが、こういった初期R&Bにぴったりだったのだろう。調子の良さにひきずられて、ついつい最後まで聴いてしまう。名盤ですなあ。伴奏陣も豪華で、テナーにはバド・ジョンソン、リー・アレン、ピアノにファッツ・ドミノ、ギターにエルモア……などが入っている。

「HAVE NO FEAR,BIG JOE TURNER IS HERE/ROOTS OF ROCK AND ROLL VOL.2」(SAVOY2223)
JOE TURNER

 ビッグ・ジョーのキャリアのもっとも初期、カンザスシティでピート・ジョンソンと演ってたころの記録。「私の話を聞いてくれ(ヒア・ミー・トーキン・トゥ・ヤ)」には(うろ覚えだが)、ピート・ジョンソンが出演していたクラブで、深夜、興がのると、バーテンのジョー・ターナーがブルースをシャウトしはじめる……みたいなことが書いてあったように思うが、最初はそういったセミプロ的な演奏家だったのかもしれないビッグ・ジョーが思えば遠くまで行ったもんだなあ。とにかくここに収められている演奏は、どれも凄まじいスピード感あふれるブルースばかりで、ある意味、アトランティック時代よりもロックであり、ロールである。ジョー・ターナーについても、ピート・ジョンソンについても、まずはこれを聴かなきゃ話になりません(ジョンソンの入っているのは一枚めのA面だけで、あとはいろいろなひと。アルバート・アモンズも入っている)。聴いていると、一種の懐かしさというか、まったく行ったことのないカンザスシティという街への郷愁が湧いてくるのはなぜだろう。

「EVERYDAY I HAVE THE BLUES」(PABLO OJCCD−634−2)
JOE TURNER WITH PEE WEE CRAYTON AND SONNY STITT

 パブロにけっこう残されているビッグ・ジョー・ターナーの演奏だが、これはスティットが入っているというので聴いてみた。この時期のターナーは、ほとんど緊張感はなく、「あいかわらず」「毎度おなじみ」という感じではあるが、それでもクオリティは絶頂期に比べてもあまり変わらず、声もブルース衝動もそのままなのが凄い。またか……と思いながらも、聞き出すとやはりかっこいいし引きつけられる。ピー・ウィー・クレイトンはクリーンヘッド・ヴィンソンと来日したときにライヴを観に行ったことがあり、そのときの印象と同じくかなり大味だが、あのギャラギャラギャラギャラというフレーズをノリ一発で聴かせる。で、肝心のスティットは相当不調といっていいのではないか。6曲中3曲しか入ってないやんけ! というのは置いておいても(3曲目「マーティン・ルーサー・キング・サウスサイド」と5曲目「シェイク・ラトル・アンド・ロール」、6曲目「ルシール」)、その3曲でのソロがどうも気合いが入っていないというか、とくに6曲目などは、これがスティット? というよれよれな感じだが、75年の録音なので、まだまだバリバリのころのはずだ。これは、あえてこういう雰囲気の歌伴にしたかったのか、それともターナーとキーが合わず、サックス奏者としてはやりにくいキーでの演奏だからか……と思って調べてみると、なんと3曲ともCやんけ! なんか音もちゃんと出ていないので、どうなっとるの?と気になって気になって。もしかしたら録音のせいなのか。まあ、とにかくスティットとターナーの丁々発止の演奏を期待すると肩透かしを食うと思います。

「LIVE AT THE MUSIC MACHINE 1983」(ROCK BEAT RECORDS ROC−CD−3198)
BIG JOE TURNER

 なにげなーくタワーレコードのブルースの棚を見ていると目についたのが本作で、どうせありきたりのメンバーで昔のヒット曲をやってる晩年のライヴだろうと思って、パッと見た瞬間、「フィーチュアリング・リー・アレン」という文字が目に入った。えっ、と思って詳しく見ると、たしかに私が思ったことの半分は当たっており、晩年も晩年、亡くなる2年前、85年のライヴであり、演奏曲目も、「ハイド・アンド・シーク」「コリーナ・コリーナ」「チェインズ・オブ・ラヴ」「ハニー・ハッシュ」「シェイク・ラトル・アンド・ロール」「ロール・エム・ピート」……と何十年もやってる大ヒットメドレー。だが、リー・アレンはどうやら、ソロイストとして参加してるだけでなく、「リー・アレン・バンド」としてバックバンドを受け持っているようだ。しかもしかも、2曲でクリーンヘッド・ヴィンソンが参加しているではないか。これは、正直、聴いてみないとわからないが、全員よれよれの可能性もあるし、奇跡的にリー・アレンががんばっている可能性もある。ジョー・ターナーは、シンガーとしては最後まで衰えなかったひとだったことは知っている(大味にはなっていったかもしれないが、もともと豪快なひとなので、共演者によっては最晩年までしっかりしていたはず)。聴くしかないでしょう。――で聴いてみて、結論だが、大傑作でありました。がんばってるとかそういうレベルではなく、最上級の演奏が詰まっているものすごいライヴだった。リー・アレン・バンドも、バリトンサックスのスティーヴ・バーリンというひとや、ピアノのジーン・テイラーなどが加わっていて、なかなかの陣容。そして、リー・アレンのテナーサックスはどの曲でも爆発・炸裂しまくっていてすばらしい。ソロだけでなく、ボーカリストを煽るリフひとつとっても、その吹き方、ノリ、音色などがほんと、リー・アレン好きにとっては垂涎なのです。あー、買ってよかった。バックバンドの見事なサポートに乗って、ビッグ・ジョー・ターナーも最高のシャウトを見せて、ちょっとこの時期とは信じがたい演奏になっている。全員での合いの手やバックコーラスも楽しそう。めちゃめちゃかっこええやん! サンタモニカにあるミュージックマシーンという店でのライヴだそうだが、いやー、これ生で見てたら失神ものだろうな。リー・アレンというひとは、生涯をブルースマンのバックサポートに徹してきたようなテナーマンだが、ほんとうにそういうことを心得ている感じで、単なるソリストとは大違いなのである。こういう、ブルースマンのサポートテナーといえば、古くはJTブラウンにはじまり、ACリードとかエディ・ショウとかいろいろいるけど、彼らはテナー奏者としては新しいタイプなのでブロウというかホンキングしてくれないので物足らない。といってビッグ・ジェイとかだと俺が俺がということになって前に出てしまう(それがいいのだが)。リー・アレンなんかは、そのへんの呼吸をちゃんと心得た職人だよなあ。ホンクもするし、なんでもできる。すばらしい。パーカーの「ナウズ・ザ・タイム」のフレーズをリフとして吹いたり、「ロール・エム・ピート」ではジャケーの「フライング・ホーム」のフレーズで盛り上げたり、「ワン・オクロック・ジャンプ」のフレーズを吹いたりとやりたい放題。ラストの2曲「リーズ・ブルース」(テナーでブルースを吹く、というのはこういうことなのだと思う。エンディングも洒落てる)とおなじみ「ウォーキン・ウィズ・ミスター・リー」でちゃんと自分を中心にした演奏もしている。リー・アレンのテナーは小難しいことはなにもしていないのに、その音色、リズム、ブルースフィーリング、気合い……などで聴くものをノックアウトしてしまう。テナーサックス本来の良さというものを再確認させてくれる。この太い、濁った音で、マウピがセルマーのソロイストというのもすごくないか? そしてクリーンヘッドは、基本的には歌は歌わず(ターナーに任せているみたい)、アルト中心だが、よく鳴っており(音程は悪いけど)、まだまだ元気だ(私が生で見たころよりも)。なぜかアルバムのいちばん最後の曲のあと、突然イタリア語(?)かなにかのMCがはじまり、謎の演奏がはじまるのだが、これはなんなんだろう(シークレットトラックということか?)。まあ、そこはさておいて、ジャンプ〜ブロウテナー系が好きなひとはぜったい聞きのがすなといえる音源であります。