steve turre

「THE SPIRITS UP ABOVE」(HIGHNOTE RECORDS HCD7130)
STEVE TURRE

 最近、カークに捧げるアルバムが流行ってるのだろうか。ヴァンダーマーク5の「フリージャズクラシックス」もそうだったなあ。どちらにも共通しているのは、バンドが、トロンボーン、テナー、アルトの3管であること。3本くわえて吹きまくるカークの音楽を再現するには、ワンホーンでは無理ということか。で、このアルバムだが、メンバーは超豪華。アルト、ソプラノにヴィンセント・ハーリング、テナー、フルートにジェイムズ・カーター、フルートのゲストになんとデイヴ・バレンティン、ピアノにマルグリュー・ミラー、ベースに大御所バスター・ウィリアムス、ドラムにウィナード・ハーパー。これだけ豪華なメンツをそろえても、ただのハードバップになってしまっては意味がない。そういう点で、やはりリーダーであるトゥーレはたいしたもんだ。全体がいかにも「カーク」的になっているのは、トゥーレの手柄であろう。あと、サウンド的にはジェイムズ・カーターの参加が大きい。彼のソノリティや演奏は、非常にカークに近いものがある。ベルグラーセンの、エッジのたったビッグトーン。豪快で、ぴいぴいいうフラジオをいり混ぜた奏法。おおらかに聞こえるが、実は完璧なテクニック。ブルース臭……などなど。テナーがカーターでなくて、ほかの誰かだったら、全体のサウンドがカーク的ではなくなっていたかもなあ。そのあたりの人選も、トゥーレはちゃんとわかっているのだ。どの曲も楽しく、欲を言えば、もう少し(カーク的な)破綻があってもいいかなあとは思ったが、スタジオ盤だし、けっこうぎりぎりまでがんばったといえるのかもしれない。また、この「まとめた」感じが、トゥーレの持ち味なのかもしれない。ボーカルやコーラスをまじえた、にぎやかなお祭り的な曲もあり、どの曲も、カークの代表作といえるナンバーばかりなので、最後まで飽きずにきける。ソリストとしては、とくにヴィンセント・ハーリングの健闘が目立つ。ええアルトやなあ(ソプラノも)。ヴァンダーマーク盤以上にカークの魅力に迫った感じのある好盤である。

「FIRE AND ICE」(STASH RECORDS ST−275)
STEVE TURRE

「ヴュー・ポイント」に続くトゥーレの二枚目のリーダー作(のはず)。なにしろウディ・ショウやローランド・カークのファンならば、トゥーレを応援したくなるのは人情というものなので、こうしてちゃんとアルバムが出ると聴いていたわけです。1枚目はたしか(なぜか探しても見つからん。どこいったんや)ジョン・ファディスやボブ・ステュワートなんかがやたらとたくさん入った、やりたいこと全部やってみます的アルバムだったんじゃないかな。本作はシンプルにワンホーンで、バックはシダー・ウォルトン、バスター・ウィリアムス、ビリー・ヒギンズ、つまり当時のシダー・ウォルトントリオそのもの。これは期待できますねー。しかも、7曲中5曲に「クワルテッテ・インディーゴ」という弦楽アンサンブルが入っている(ジョン・ブレイクとかもいる)。これはトゥーレの企画力(?)の勝利である。ワンホーンでバリバリ吹きまくることはもちろんたやすいひとなので、そこに弦楽アンサンブルが加わることで深みが出ている。しかも、いわゆるウィズ・ストリングス物とかとはまったく違っていて、ストリングスの存在がトゥーレカルテットのジャズになんの障害にもなっていない。ジャズバンドをそっくりそのまま、より深化させるようなストリングスの使い方なのだ。70年代ジャズ的に豪放に吹きまくる曲あり、バラードあり、スタンダード(「フェン・ライツ・アー・ロウ」でのトゥーレの超絶技巧バップフレーズの連打は聞きもの)あり、ローランド・カークの曲あり(本盤でいちばんストレートアヘッドな演奏か)、スティーヴィー・ワンダーのおなじみの曲(ヴァイオリンソロ見事!トゥーレはトロンボーンソロもすごいうえ、シェルも吹いてるし、全員すばらしい演奏)あり、アル・グレイを継ぐようなグレイト・プランジャーぶりを見せ付けるエリントンの曲(「ムード・インディゴ」は、ほとんど人間が歌っているのとかわらない。そこにストリングスがかぶってきて、もう最高。シダー・ウォルトンやビリー・ヒギンズ(ブラッシュ!)もすばらしい。全員がタペストリーのようにひとつの音楽を織りなしている感じ)あり、アフリカンなポリリズムのモーダル曲(リズムの饗宴!)あり、でめちゃめちゃ楽しく聴き応え十分。というわけで、トゥーレに駄作なしとはいえ、本作はなかでも屈指の傑作といえるのではないか。もちろん一番好きなのはファラオ・サンダースの入ったアレですが。

「TNT」(TELARC JAZZ CD−83529)
STEVE TURRE WITH JAMES CARTER,DEWEY REDMAN,& DAVID SANCHEZ

 スティーブ・トゥーレが3人のテナーサックス奏者をゲストに、3つのコンボを組み、それぞれの演奏を配置したアルバム。トゥーレの音楽的遍歴をそれぞれのテナー奏者に仮託したような、一種のトゥーレの自叙伝的な側面もある。その3人というのは、ジェイムズ・カーター、デューイ・レッドマン、デヴィッド・サンチェスで、まあざっくり言うと、カーターはローランド・カークやエリントンなどの古いブラックミュージックの伝統から革新へ向かう道のりを、デューイ・レッドマンはレスター・ボウイ、ファラオ・サンダース、エリック・ドルフィーなどのフリージャズを、そしてデヴィッド・サンチェスはウディ・ショウやコルトレーンなどのモードジャズとラテンの血を象徴しているといえる。こういう企画性のある作品はうまくいけばいいが、こけると大こけになるが、本作は見事にうまくいっている。もちろん3人のテナー奏者のせいもあるし、超豪華ですごい2組のリズムセクション(ひとつはマルグリュー・ミラー、ドスター・ウィリアムズ、ヴィクター・ルイス。もうひとつはステファン・スコット、ピーター・ワシントン、ルイス・ナッシュ)の力もあるだろうが、なんといってもリーダーのトゥーレの音楽的センス、メンバー選定センス、つまりは眼力のなせるわざだろう。3人のテナー奏者といっても、扱いは均等ではなく、8曲中、カーターが4曲、レッドマンが2曲、サンチェスが2曲である。つまり、カーターの割合が多いが、やっぱりカーターの多面性のせいだろう。トゥーレ曰く、ジェイムズはアルトを吹かせるとバードのようにもジョニー・ホッジスみたいにも吹くし、バリトンはハリー・カーネイみたいだし、ローランド・カークと多くの共通点を持っている、という意味のことを言ってる。ライナーのひとは、カーターのテナーはロックジョウみたいだと言っていて、たしかにカーターは器用にいろいろなスタイルをこなすが、それが「小器用」ではなく、本当の器用さで、表面的に真似るだけでなく、根本からそのスタイルを理解しているうえ、それらを混ぜ合わせて、ちゃんと自分の(かなりアクのつよい)スタイルを作り上げているし、なんといっても音色がいいので説得力が半端ないのだ。1曲目はそのカーターをフィーチュアしたミディアムでグルーヴする曲でタレンタインの曲だそうだ。2曲目はサンチェスをフィーチュアしたラテン曲でサンチェスのコルトレーン的なフレージングがリズムにぴったりはまっていてめちゃかっこいい。3曲目はレッドマンをフィーチュアした「サボイでストンプ」で、デューイ・レッドマンが吹くと急に雰囲気がだるーい感じになって、すごくいい(テーマを吹くだけでそんな空気になる)。レッドマンのソロはめちゃめちゃふつうで逆に驚く。4曲目はトゥーレをフィーチュアしたバラードで、トロンボーンの美しさを限界まで引き出したような演奏だが、テーマのところにちょこっとだけ出てくるカーターの、ぬめぬめと漆黒にぬめりつくようなテナーがあまりに素晴らしくて声も出ない。バスター・ウィリアムスのベースソロもミラーのピアノソロもすばらしい。5曲目はカーターのブロウテナーを前面に押し出した、レイ・チャールズの「ハレルヤ・アイ・ラヴ・ハー・ソウ」。こういうのをやらせるとほんとに上手い。現代的じゃないとか暑苦しいとか大げさだといった印象を受けるひとがいるかもしれないが、私はめちゃくちゃ好きです。カーターのテナーは、テナーサックスという楽器のカッコよさを最高に表現していることはだれでも認めるだろう。6曲目はドルフィーに捧げられた曲で、これもカーターがフィーチュアされる。曲調はたしかに「ファイブスポット」に入っていてもおかしくないような感じだが、はたしてソロはどうか。ベースが大きくソロスペースを与えられるが、そのあとテンポが倍になってトゥーレのソロ。こういう曲だと、ウディ・ショウと共演していたときのようなハードなプレイをみせる。私にとってはそういうトゥーレがいちばん好き。つまり70年代ジャズっちゅうやつですか。カーターはドルフィーというより、コード分解を押し進めてフリーに突入するようなハードボイルドなブロウを展開し、めちゃかっこいい。7曲目はエルヴィンに捧げられた曲で、いかにもジャズマシーンでやりそうなモーダルな感じの曲。サンチェスのソロは短いが、ひじょうにかっこいい。つづくピアノソロもええ感じ。トゥーレの熱演のあとに出てくるナッシュのドラムソロはもちろんエルヴィンには似ていないが、そりゃそうでしょうね。最後は、その名も「デューイズ・ダンス」という、デューイ・レッドマンに捧げられた曲で、もちろんデューイがフィーチュアされる。ピアノの印象的なイントロからはじまるこの曲は、もうめちゃめちゃええ曲で、この手の曲調が好きな私としては、心臓をつかまれるような感じ。トゥーレ(凄まじい、圧倒的なソロ。トロンボーンの表現力の広さ・深さに驚きます)もデューイ(しみじみとした、ていねいな演奏で、心に染みる)もはまりまくりで、個人的には本作のベスト演奏。ねちっこいピアノソロも感動しました(アケタさんや板橋さんを連想。と言う風にテナーについて書いてみたが、リーダーのトゥーレは全曲においてぶっちぎりで素晴らしいので、いちいち触れることすらめんどくさいぐらいの快演につぐ快演である。うますぎて、逆に物足りないぐらい(この「うますぎて」はテクニックのことではなく、音楽的なさまざまなことを含む)。しかも、ええ曲書くなあ、このひと。トゥーレのアルバムはさまざまなコンセプトのものが出ているが、本作はそのなかでも(テナーがフィーチュアされているということで)もっとも私の琴線に触れる内容なのであります。傑作。ただ、ジャケットがなあ……。

「WOODY’S DELIGHT」(HIGH NOTE RECORDS HCD7228)
STEVE TURRE

 タイトルからして、かつてのボス、ウディ・ショウの曲を取り上げたアルバムかと思いきや、全曲(1曲を除いて)トゥーレのオリジナル。全9曲を、2曲ずつ(チョコレート・アルメンテロスというひとだけ1曲)相方のトランペットを替えての演奏。つまり、トランペット奏者であるウディ・ショウへの思いを、5人のトランペット奏者とともに形にした作品……というところか。正直言って、金管ミュージックであって、私にはあまりぴんとこなかったが、トランペットのひとが聴けばめちゃくちゃ面白いのではないかと思った(そういう感じが伝わってくるのです)。トゥーレのソロは、どの曲もすばらしくて、安定しまくりで、ちょっとレベルが違うような高みに達しているが、安定しすぎてちょっと破綻やワイルドさがあってもなあ、と思ったりしてしまうが、これもまた、トロンボーン吹きに言わせると、なにを言うとんねん、この凄さがわからんか、めちゃくちゃ凄いで! ということに成るかもしれない(というか、たぶんそうだと思う)。私も、サックスに関してはそんなことを思うことが多いからね。特筆すべきはウォレス・ルーニーがめちゃ良かったことで、かなり以前、生で何度か観たルーニーは全然いいと思わなかった。すぐバテるし、ライブの後半は音が出ないのだ。でも、このアルバムを聞いて、いやー、めっちゃええやんと思いました。

「RHYTHM WITHIN」(ANTILLES 314 527 159−2)
STEVE TURRE

 スティーヴ・トゥーレに凡作はない。すべてのリーダー作が丁寧に、情熱を込めて作られているし、どれも秀逸でかぶりのないアイデアのもとに制作されている。1995年に発表された本作はそんなトゥーレのリーダー作のなかでも、とくに大作である。延べ15人の綺羅星のごときメンバーが集結し、トゥーレのリーダーシップのもと、個性をぶちまけまくっている。トゥーレにとっても大事な作品とみえて、ものすごく懇切丁寧な一曲ずつの本人による解説がついている。なにしろすごいトロンボーンセクションだと思っていたら、彼らはほとんど全曲でほら貝クワイア(と書いてある)を吹いているのだ。なんちゅうアルバムだ! しかも、パーカッション軍団がリズムを固め、ジョン・ファディスやスタントン・デイヴィスをはじめとする金管軍団が高音部を固めている。そして、基本的にはピアノレスだが、ハービー・ハンコックが3曲花を添えている。しかし、もっとも注目すべきは(わたし的には、ということだが)ファラオ・サンダースの参加だろう。ファラオの参加は二曲だけだが、ここでどんなブロウを展開しているのかがファラオファンにとっての興味である。本作の重要なコンセプトは、おそらく「ほら貝」と「アフリカ」である。というわけで、聴くまえからもはや期待しかないアルバムだったが、私はこのアルバムが出たと同時に買ったので、そんな風に胸を躍らせたのは今から20年もまえだ。しかし、いまだにこのアルバムを聴くときは、かなり胸が躍る。ほんのちょっと前に出たような気がしていたが、よく考えるとあれから20年も聴き続けているのだ。では聴いてみましょう。1曲目はいきなりほら貝のアンサンブルからはじまり、ハンコックのピアノがゴンゴン炸裂する冒頭部からわくわくする。最初のほら貝ソロはたぶんトゥーレ。アルバム1曲目の先発ソロがほら貝というあたりがさすがだと思う。金管アンサンブルとほら貝アンサンブルが見事に調和している。つづく重厚でかっこいいトロンボーンソロもトゥーレだ。ヒュー・マサケラとフェラ・クティとJBホーンズにインスパイアされたと書いてある。ハンコックのピアノが随所を引き締めている。そして、ジョン・ファディスのソロはいつものハイノートをバリバリに決めまくってはいるが、それと同時にかなりスピリチュアルジャズ的なもので、めちゃくちゃ凄い。そのあとほら貝のアンサンブルがなんともいえないアフリカっぽいええ感じを醸し出し、ホーンのリフとパーカッションの対峙があったあと、ついに登場、われらがファラオ・サンダース。落ち着いた中音域でいかにもモードジャズ的なソロを展開。最初はドロドロと熱いフレーズを積み重ねていくが、次第にフリークトーンやクラスターに移行し、ホーンのリフとともに盛り上がる(十分かっこいいのだが、めちゃくちゃにはならない。もっと吹いてくれっ、とも言いたいが、この曲に関してはこれでOKという気もする。とにかくすばらしい)。そしてハンコックが、弾いている表情さえ思い浮かべられるような美味しいソロを弾きまくり、ほら貝アンサンブルがかぶる。ほとんど間然するところのない、完璧な構成の曲。2曲目はユーゼフ・ラティーフの曲。さまざまなアフリカンパーカッションが鳴り響くなか、ほら貝によりテーマが演奏され、そこにホーンがバッキングをする。つづいて、トロンボーン2本による重厚なテーマ、そこにトランペットが加わって……という展開。このテーマ部分を聞いているだけでも、とにかくめちゃくちゃかっこいい。先発ソロはスタントン・デイヴィスで、続くのがトゥーレ。どちらもアフリカっぽく、また、ジャズっぽくもある。そのあとキマティ・ディニズル(と発音するのか?)によるワン・ストリングという楽器(正しい名前はあるのだろうがそう表記されている。たぶん、ひょうたんに弦を一本張って、スティックで叩くようなやつだと思う)のええ感じのソロがある。スタントン・デイヴィスのプランジャーソロが咆哮し、パーカッションが余韻を残して消えていく。このキマティというひとはロリンズのアルバムにも入っているパーカッション奏者だと思う。3曲目はスタンダードで、エリントン〜ベイシーにも参加した大御所ブリット・ウッドマンをゲストに迎えての演奏。ほら貝のアンサンブルが、まったく際物ではなく、そういわれてみないとわからないほど洒脱で、美しく使われていて驚く。トゥーレのプランジャーによるテーマが見事で、ウッドマンの音色とブレンドしていて最高である。ウッドマンのミュートなしのソロはあまりにすばらしく、歌心もテクニックもなにもかも完璧で、唸るしかない。そのあとに登場するトゥーレのプランジャーソロも表現力抜群。そして、ふたりの掛け合いとエンディングに至るその後の展開も言うことなし。この曲の完成度は群を抜いている。脱帽。4曲目はタイトルチューンで、文字通りパーカッションによるカラフルなリズムが印象的な曲。ベースが3拍子のパターンをずっと弾いていて、そこにゆったりとしたホーンによる吹き伸ばしが乗っかっているので(ハンコックがそれにからみまくる)、そういうモードの曲かと思っていると、急にビッグバンド的なテーマが現れる。先発ソロはファラオ・サンダースで柔らかな音色でモーダルなソロをする。こういうのはファラオは得意中の得意なのでとてもいい感じだが、ギャーッとは一度もいわず、ギミック的な技も出さず、しみじみとソロを終える。続くのはトゥーレで、これもファラオ同様、ストレートな演奏。どちらも快演である。そして、ハンコックだが、とても明確なアイデアによるシンプルなソロ。トゥーレのアレンジがばっちり決まっていて、ラストのブレイクはファラオが担当し、少しだけギャーッといったかと思うと、それをほら貝が引き継ぐのだが、このほら貝はまるてシンセサイザーのように幻想的である。5曲目は各種パーカッションとともにほら貝のクワイアが効果的に使われており、荘厳なオーケストレイションをバックにファディスのトランペットが朗々と鳴り響く。6曲目はほら貝アンサンブルによる「オール・ブルース」だが、これってトゥーレの以前のリーダー作にも入ってなかったっけ。たぶん愛奏曲なのだろう。イントロはほら貝アンサンブルによるかなり不気味で気持ちいいハーモニー。ほら貝によるソロのあと、ジョン・ファディスのトランペットソロ、ロビン・ユーバンクスの馬鹿テクなソロ、そしてハンコックがおそらく何百回と弾いたであろうこの曲において、鍵盤と戯れるようなソロを披露。そして、最後を締めくくるのは、トゥーレのほら貝による、人間がしゃべっているようなとても印象的なソロ。そこからほら貝がリードしてテーマに入る。パーカッションが全編大活躍している。7曲目は、トロンボーンは出てこず、ほら貝のみ、という大胆な曲。ベースもおらず、あとはパーカッション3人という編成だが、聴いた感じはまったくそういう「変」なところがない。ベースラインもほら貝が吹いているのでフツーに聴けるのが驚異である。トゥーレのほら貝ソロのあとは、ひたすらティンバレスなどのラテンパーカッションがフィーチュアされるが、あとでライナーで編成を見て仰天する、ということになる。ただただ楽しいだけの演奏を、こんな異常な編成でやってしまうトゥーレはすごい。8曲目は7曲目とは逆にほら貝を封印、トロンボーンのみによる「ボディ・アンド・ソウル」で、テーマの前半をトゥーレの超絶に美しいプランジャーソロで、後半をスタントン・デイヴィスがフリューゲルで、そしてラストの部分をダグラス・パーヴィアンスがバストロンボーンの低音で歌い上げる。ソロはまず、ジャマール・ヘインズがオープンで吹き、つづいてスタントン・デイヴィス、そしてトゥーレがハーマン・ミュートで歌う。ベースソロのあとふたたびスタントン・デイヴィスがソロを吹き、途中からダグラス・パーヴィアンスのバストロがテーマを吹き、最後はカデンツァで締めくくる……というかなり複雑な構成になっているが、聴いている分にはものすごく自然に流れていくように聞こえるトゥーレのアレンジの妙だろう。ラストの9曲目は、パーカッションを前面に出したアフリカン・テイストの3拍子ではじまり、この部分はめちゃくちゃ気持ちいい。最初のイントロ的アンサンブルのあと、ほら貝とトランペットのデュオとアンサンブルのコール・アンド・レスポンスみたいなパートがあってテーマに入る。まずはスティーヴのほら貝によるソロのあと、テュッティによるブルーステーマ(第2テーマ?)の提示があって、フランク・レイシーの暴れん坊のようなブルースソロが飛び出してくる。豪快な音、豪快なフレーズ……まるでテキサステナーのトロンボーン版だな、と思って聴いていたが、ライナーを読むと「テキサストロンボーン」と書いてあった。そして、スタントン・デイヴィスがプランジャーを目一杯駆使して、トランペットをわめかせる。見事。そして、トゥーレのほら貝ソロ。かわいらしい音だが、聴いているうちに、ほら貝であることを忘れてしまうような流麗なソロだ。最後はテーマのあと全員で吹きまくってエンディング。
これだけ凄いメンバーをそろえているのにぐちゃぐちゃにならないというのは、やはりスティーヴ・トゥーレの並外れたリーダーシップが発揮されているからだろう。編曲や演奏技術、ソロイストとしての力はもちろんのこと、人選からアレンジからなにからなにまでトゥーレ色に染め上げられ、そのうえ他のミュージシャンにはない視点(このアルバムの場合はほら貝の大活躍とほら貝をシリアスに見つめているところか)も持ち合わせている稀有なひとだと思う。天才トゥーレの大作であります。傑作!

「SPIRITS UP ABOVE」(SQUATTY ROO SR−0273)
VIBRATION SOCIETY

 カークが晩年(?)組んでいたバンド「ヴァイブレーション・ソサエティ」の名を踏襲したグループで、リーダーは誰なのかな。案外ヒルトン・ルイスかもしれない。今聞いているのはスタッシュレコードのやつを出しなおしたCDで、スカッティー・ルーというなんだかよくわからないレーベルのもの。ジャケットもちがう。3曲にボーカルが入り、めちゃ楽しい。いわゆるスピリチュアルジャズ的な雰囲気もある。しかし、フロントのビル・ハードマン、ジュニア・クック……といった猛者たちがもう「ええ年」なので、カークが生前、たったひとりで持っていたあの凄さというかパワーを三人そろってもなかなか再現しえない(というか、トゥーレ以外のフロントはそもそもカーク的な部分をあまり持ち合わせていないのでは?)。でも、一丸となってカークの音楽を伝えようという意気は感じられるし、ジュニア・クックもビル・ハードマンもさすがに鍛えぬいた「ジャズマン」という感じで、まだまだ衰えておらず、コッテリしたあのころのジャズを表現できていて感動的である。クックの深い音色、ハードマンの張り切ったフレージングなども十分楽しめる。選曲はもちろんカークの超有名曲ばかり。スティーヴ・トゥーレとヒルトン・ルイスは絶好調で圧倒的である。しかもコーラスのクオリティは絶大……というわけで、普通にハードバップのアルバムと思えばめちゃくちゃいい感じだが、やはり「カークの音楽」としてはやや物足りない。だが、考えようによっては、あれだけアクの強いローランド・カークの曲をテーマにしてきちんとハードバップが成立するというのは、カークの曲が案外普遍性を持っているということの証拠ではないか。つまり、カークというえげつないまでに個性的なプレイヤーが演奏していたから、曲自体も個性的で一癖も二癖もある、と思われていたが、じつはスタンダードになりうる「普通に良い曲」が多いのでは……とかわけのわからんことを考えたりした。気になるのはうちにあるCDはかなりノイズが強く、もしかしたらスタッシュのLP起こしなのかも……ということだが。とにかく内容はすばらしいと思います。だれがリーダーかわからないので一番先に名前の出ているトゥーレの項に入れておきます。