stanley turrentine

「CHERRY」(CTI RECORDS LAX3193)
STANLEY TURRENTINE

タレンタインは、来日時のジャムセッションのときに私のテナーを借りて吹いた、という一点でもって、忘れられないテナーマンだが、そのときも、私のテナーから「あの音」が出ていてかなり驚き、感動した。そのタレンタインの作品は、私はけっこう苦手なやつもあって、そういうなかで好きなアルバムは、もう死ぬほど好きなんです。そして、このアルバムがそのなかでももっとも好きな作品。というか、私のタレンタイン嫌いをあっさりと180度ひっくり返してくれた、まさにいくらお礼を言ってもいい足りないようなアルバムなのだ。大学のころ、タレンタインのアルトのような線の細いテナーが苦手で、どうしてこんな吹きかたのやつが「ボステナー」なんて言われてるんだ? と苦々しく思っておったのですが、本作を聴いてあまりのかっこよさにひっくりかえったのだ。よくも悪くも個性的な吹きかたをするタレンタインだが、その個性がこういう風にうまくいかされると、それは名作になる可能性大である。タレンタインの個性は、まず、さっきも書いたが、高音でのフレージングが多い。高音が細くて妙なしゃくりあげかたをする。ブルーノートを使いまくる。そして、こぶしの廻しかたというかトリルがめちゃめちゃ速いのが非常に特徴的である。そういった個性がいちばん生きるのは、やはりこってりした臭いジャズ、そしてちょっとR&B風味、というあたりであって、もろの4ビートジャズでもなく、一時期多かったフュージョンっぽい演奏でもなく、本作のような適度なクサめのイナタいリズムセクションと出会ったときに彼の本領がいちばんいい形で発揮されるのだと思う。さて、本作はなんといっても1曲目の「スピードボール」がとにかく筆舌につくしがたいほどめちゃめちゃかっこいい。コーネル・デュプリーのカッティングもかっこいいのだが、(ちょっと予想外の人選であるところの)ミルト・ジャクソンのビブラホンがアンサンブルにソロにとハマリまくりなのだ。サビつきブルースだが、このアルバムでの演奏があまりによくて、リー・モーガンのオリジナルバージョンをはじめ、中村誠一さんの古いアルバムとかいろいろ聴いたが、(テーマ部分も含めて)本作での演奏にまさるものはない。タレンタイン生涯最高の演奏、といったらたぶん叱られるだろうが、そう言いたくなるような気分。コピーですか? もちろんしましたよ。そして、2曲目以降もミディアムのファンキーな曲あり、(B面にいって)ジャズロックあり、バラードあり、こってりしたジャズあり……とひとつのフルコースのようになっている作りもすばらしい。フルコースといってもB級グルメだが、B級といってもほとんどA級に近いB級で、たんに値段が安すぎるだけ、という感じである。死ぬまで聴き続けたいアルバム。傑作。

「THAT’S WHERE IT’S AT」(BLUE NOTE B2−84096)
STANLEY TURRENTINE

 タレンタイン(最近はタレンティンと呼ぶのか)は、ボステナーといわれたり、オルガンと共演したりしてるので豪快なブローテナーというイメージがあるが、実際は線の細い音で、高音中心のソロをするひとなので、そういうギャップもあって、個人的にはけっこう苦手なのである。たしかに高音部のコブシ回しなどは相当個性的でワンアンドオンリーの偉大なミュージシャンだとは思うが、やっぱりアモンズとかコブとかヒューストン・パーソンなんかのほうがしっくりくる。しかし、私のなかでのタレンタインの3大傑作というのがあって、つまり「私の好きなタレンタイン」ということだが、それが、CTIの「チェリー」とファンタジーの「ウエスト・サイド・ハイウェイ」、そして本作なのであーります(まあ「ウエスト・サイド……」は1曲目のサビつき「ウォーキン」だけが好きなのですが)。とにかくこの「ザッツ・ウェア・イッツ・アット」がどれぐらい好きかというと、一時は毎日聴かないと落ち着かず、半年ぐらい、憑かれたように聴き続けたのです。だからコピーしたわけでもないのにフレーズもかなり歌えます。ときどきふっとフレーズが口をついて出てきて、これなんや……と考えて、あっ、タレンタインのあれか、と思うぐらい身に染みついている(ただし、吹こうとするとかなりむずかしい。というのも、軽々吹いているように聞こえるけど、相当高い音域だからなー)。ほかのアルバムと本作とどこがちがうのだろう。まあ、曲もいいんだけど、タレンタインとピアノのレス・マッキャンの相性が最高なのでありましょう(レス・マッキャンの「イン・ニューヨーク」でも一緒にやってる)。レス・マッキャンのピアノが入ると、変な表現だが、リズムセクションにブルース系のギタリストが入ってるような雰囲気になる。それぐらい渋くてファンキーな空気感であたりを埋め尽くしてしまう天才である。とにかくこのアルバムは、全曲聴き所満載だし、テナーをやってるひとはいろいろ勉強にもなるし、ええとこばっか。聞くところによると、あのマイケル・ブレッカーも愛聴していたアルバムらしい(なんとなくわかる)。ジャケットも超かっこいいし、言うこと無しだが、このアルバムの唯一の問題点は、私がタイトルをいつまでも覚えられないことであって、これだけ聴きまくっているのにいまだに「ザッツなんとか……」としかわからん。ひとにこのアルバムの良さをしゃべりたいのだが、いつもタイトルが思い出せないので、ブルーノートにタレンタインがサングラスかけてる青いジャケットのアルバムがあって、それがもう死ぬほどかっこいいんです、一時は毎日聴いてました、と言っても、それ、なんてアルバムです?ときかれて、えーと……それがわからんのや、と答えたら、説得力ガタガタですからなー。

「A CHIP OF THE OLD BLOCK」(BLUE NOTE RECORDS BLP−4150/84150)
STANLEY TURRENTINE

 シャーリー・スコットのオルガンとブルー・ミッチェル(アール・ボスティック楽団での同僚だそうである)のトランペットが入ったクインテットによるアルバムだが、5曲中3曲がカウント・ベイシーに関連している(レナード・フェザーの英文ライナーはベイシー押しだが、タレンタインにはあんまりベイシートリビュートな気持ちはなかったのでは、という気もする。フェザーは「シャーリー・スコットはロックジョウ・デイヴィスのトリオで、「カウント・ベイシーズ」に出演していたという接点がある、とも書いているが……)。1曲目はまさに「ワン・オクロック・ジャンプ」だが、2管編成なのになぜかテーマはタレンタインがひとりで、それもセッション風の雑な吹き方で演奏。そのあと、ミッチェルのソロ3コーラスほど。それに続くタレンタインのソロは見事としか言いようがない。ノリノリで、歌いまくる。ブルースのお手本のようなソロで、コピーしたくなる。途中でミッチェルのシンプルなリフがつくあたりはベイシーっぽいなと思って聴いていると、続くスコットのオルガンソロの途中で2管によるかなりベイシーっぽいリフがつく。正直、このスコットのオルガンソロは「え……?」という感じではあるのだが、そこからタレンタインが再度ソロをはじめて持ち直す。そこにミッチェルが「ワン・オクロック……」のリフを吹き始め、そこからはビシッと決まったアレンジがあるらしく、ビッグバンドサウンドの再現になっている。最初からそうすればいいのに不思議である。2曲目は「ミッドナイト・スペシャル」という曲だが、タレンタインも入っているブルーノートの同名アルバムの曲とは関係ない。スローナンバーで、ライナーは「E♭のブルース」とし言い切っているが、デューク・ピアソンのアレンジが施されているらしく、ところどころコード進行が改変されている(7、8小節目は全部。ソロを引き継ぐときの冒頭部分も)。しかし、タレンタインの歌心とブルース魂にはなんの代わりもなく、独特のコブシをまわしつつ、ひたすら歌いまくっている。シャーリー・スコットのソロも、2管のリフがつくあたりからはかなりコードが変わっていて、ブルースにはまるで聞こえない。そして、ミッチェルの吹くリフを背景にタレンタインのソロに戻るのだが、最後の部分だけ聞くと、なんだかこってりしたブルースを聴いた気持ちになる。ピアソンマジックでしょうか。B面に参りましょう。1曲目は、ベイシーファンなら知っている「ブルーズ・イン・ホス・フラット」で、シャッフルに近い跳ねるノリの軽快なリズム。ブルー・ミッチェルが先発。続くタレンタインのソロは落ち着き払った最高のものでひたすら感心。シャーリー・スコットのソロのあと、2管のアンサンブルになる。2曲目はバラードでめちゃくちゃいい曲。有名なスタンダードだが、すごく耳になじんでいるバージョンがあるように思うが、だれのバージョンなのかわからん。ここでのタレンタインのものも見事。アレンジはデューク・ピアソンらしい。ラストの「チェリー・ポイント」はニール・ヘフティの曲で、ベイシーでの演奏がおなじみ。いくつものアルバムで取り上げている。最初のタレンタインのソロを聴いているときは、ただのブルースの素材として取り上げてるのかなあ、と思っていたが(すばらしいソロではあるが)、シャーリー・スコットの「ご機嫌」「ノリノリ」とは反対の、たいへん重く、黒いソロのあと、ブルー・ミッチェルの吹くリフに乗って吹きまくるタレンタインを聴いていると、ベイシーオーケストラの雄姿が目のまえに浮かぶから不思議なものである。