mccoy tyner

「GUITARS」(HALF NOTE RECORDS HN4537)
MCCOY TYNER

 マッコイ・タイナーの最近の活動なんか、まーーーーーったく関心はなかったうえ、管楽器が入っておらず、ギターが入れ替わり立ち替わりゲストで入ると聞いて、まず私が買うようなアルバムではないと思っていたのだが、ついうっかり(?)購入。聴いてみて、ちょっと腰が抜けそうになった。すごいじゃないですか! マッコイもいいんだけど、ビル・フリーゼル、デレク・トラックス、マーク・リボー、ジョン・スコ、ベラ・フレックという5人それぞれのギターがそれぞれに個性を発揮していて聞きあきない(だれだ、このギターの人選をしたのは。聴きたくなる気持ちを煽りまくる人選だぞ)。曲も、一曲目に「インプロヴィゼイション」というタイトルの、マーク・リボーとの即興が入っているのだが、これがテンション高く、がっちりハートをつかまれる。そのあとは、「パッション・ダンス」「ミスターPC」「マイ・フェイヴァリット・シングス」「ブルース・オン・ザ・コーナー」などの超有名曲をどのような切り口で演っているかのベタな興味も手伝って、どんどん聴いてしまう。どのギターもいいんだけど、とくにベラ・フレックというバンジョーのひとがすごくてびっくりした。あと、ロン・カーターとディジョネットというリズムセクションもめちゃめちゃよくて、とくにディジョネットってまだまだすごいなあ、とあらためて感心した。ジャケットのマッコイの写真がかなり痩せていて、かつてのヤクザの親分みたいな貫禄こそなくて、お爺ちゃんみたいになってるが、演奏はぜんぜん大丈夫。ああ、ええ買いもんしたわ。久々にジャズを聴きました。なお、長時間収録したDVDがついているのだが、そちらはまだ見ていない。

「REAL MCCOY」(BLUE NOTE RECORDS CDP 7 46512 2)
MCCOY TYNER

 言わずとしれた傑作。マッコイがリーダーのカルテットだが、フロントにジョー・ヘンダーソン、ベースにロン・カーター、ドラムにエルヴィン・ジョーンズというモンスター四人が集まったとんでもない作品だ。もちろん当時のブルーノートではこんな顔合わせは珍しくなかったかもしれないが、本作は全曲マッコイのオリジナルで固めた意欲作で、そのコンポジションの良さもあってすごいアルバムになった。超有名曲である一曲目「パッション・ダンス」がこの作品のクオリティを象徴しているが、正直、全曲が白眉といえるようなアルバム。印象的なテーマのあとマッコイの白熱するソロ、ジョー・ヘンダーソンの繊細極まりない、変態的なフレーズをじっくり重ねていく過程でうねりまくるソロ、エルヴィンの爆発的ソロなど聴きどころ満載である。2曲目「コンテンプレイション」は本作中最長(9分ちょっと)の演奏。ゆったりした大河の流れのような重厚なノリのモーダルな曲で、こういう三拍子の曲調でのエルヴィンのドラミングはよだれが落ちるようなすばらしさである。マッコイが絶妙なタイミングで入れる左手のドシャーンというコードは身震いするほどのかっこよさがある。コルトレーンのモード期の音楽の展開としてこれ以上のものはなかなかないだろう。ジョー・ヘンダーソンの「独特」としか言いようがないソロ、マッコイ・タイナーの「間」をいかしたソロ、ロン・カーターの誠実でていねいなソロなど、これまた聴きどころばかりである。3曲目「フォー・バイ・ファイヴ」は33334という4拍子の部分と5拍子の部分が交互に現れるテーマがめちゃくちゃ印象的な曲だが、ジョー・ヘンダーソンの快調にのりまくるソロ以降は普通の4ビート。マッコイのソロもただただすばらしい。4曲目「サーチ・フォー・ピース」はかなりストレートにリリカルでストイックかつ美しいバラードで、これもまたコルトレーンの音楽のひとつのこだまだろう。テーマのあと、きらきらと真珠をこぼすようにはじまるピアノソロの甘さを抑えて冷徹な美に徹したような演奏はこの録音の時点でマッコイが到達したひとつの境地かもしれない。ジョー・ヘンダーソンのソロもかなりエグいフレーズを吹いているのだが、全体の印象としては「美しいバラード」になっているのがすごい。ジョー・ヘンダーソンといえば、セルマーのソロイストというマウスピース(たぶんけっこう狭い)を使っていて、音色はだいたい一定で、サブトーンとかでかい音とかグロウルといった音色(おんしょく)の変化はなく、ひたすらフレージングで勝負する……みたいな印象かもしれないが、こんな風にちゃんと音色の微妙な変化で音楽を作っていく場面もあるのだよねー。ラストのブルースもかなり癖の強い曲で、有名曲だと思うが、テーマのあとに出てくるピアノソロは左手でぶった切るようなコードを叩き込みながらのソロでマジかっこいい。そのあとのテナーソロもいわゆるブルースとかジャズブルース的な雰囲気は皆無なのに全体としてはまさしくブルースになっているところがめちゃくちゃかっこいい。マッコイのバッキングも最高。ジョー・ヘンダーソンというひとはいろいろなことに顔を出すわりに案外きっちりはまる居場所がなかったような印象があるのだが、この四人のコラボレーションは本当にはまりまくりで、凄いと思います。傑作!

「FORCES OF NATURE LIVE AT SLUGS’(BLUE NOTE RECORDS 00602465975147)
MCCOY TYNER JOE HENDERSON

 1966年のライヴなので「リアル・マッコイ」の1年前なのだ。本作が出ると聴いて、これはすごいのではないか、とディスクユニオンの予約ページでちょこっと試聴したのだが、なんだか荒っぽい演奏に思えて、しかも高かったので購入を見送った。しかし、いざ発売されるとなんだか気になって結局買ってしまった。買って正解。というか、これを聴かなかったら生涯後悔したであろう凄まじい音源だった。ジョー・ヘンダーソンに関しては、マイケル・ブレッカーの伝記を読んで、ブレッカーに対してヘンダーソンがどういうことをしたかを知り、ひとごとながら「さぞつらかっただろうな。困っただろうな」と思っていたこともあって、なかなか最近は平静な気持ちで聴けないのだが、本作の想像を絶するようなアグレッシヴさとほとばしるアイデアとテクニックが合致した演奏を聴くと、(ヘンダーソンがそう言うのもちょっとだけわかる……)と思ってしまうのだった。当時のスタジオ録音からはなかなか見えてこないヘンダーソンのもの凄さ、天才ぶりがこのアルバムにはくっきりはっきり、しかもいい音でとらえられている。私は、ブルーノートやマイルストーンのヘンダーソンは音楽的にはすごいものもあると思うがパッケージングされた演奏であり、ライヴ(インジャパンとかライトハウスとか)でそのゴリゴリぶりが味わえるが、ほとんどは「ちゃんとした」ものばかりだったと思う。いちばん個人的に好きなのは「テトラゴン」だが、これもロリンズでいえば「サキソフォン・コロッサス」のようなものである。しかし、本作で聴けるヘンダーソンは、一曲目の超アップテンポのブルースを聴けばわかるが、ひたすら吹きまくって吹き止めない。アイデアがどんどん湧いてくる感じで、しかもコーラスごとに新しいアイデアを試そうとしている。それをこなすだけのテクニックがある。本人が吹きながら高揚しまくっているのもわかる。ディジョネットのドラムが全編凄まじく、ヘンダーソンと、あるいはマッコイと、完全に一対一でバトルを繰り広げているかのようだ。しかも、どちらも一歩も引かない。マッコイも凄いよねー。ヘンダーソンとほぼ同じようなポテンシャル、クオリティで個性をぶちかます。背筋が寒くなる。そして、それをなんとかつなぎとめているのがヘンリー・グライムズというのもまた泣ける(このひとの数奇な人生についてはもはや言葉もないが、一度だけ生で聴けてよかった。そして、本作では圧倒的な演奏を繰り広げていてすばらしい)。ジョー・ヘンダーソンというひとは基本的にはフリークトーンとかは使わず(クラスターみたいな感じの吹き方はするが)、フレーズでその昂揚感を表すタイプなので、ここでもひたすらその熱い想いをフレージングに込めている。とにかくディジョネットがこの「爆発」のすべての鍵である。1966年の化け物たちの宴。全曲すごいから、ちょっと高いよねとか言ってるひともぜひ聴いてみてほしいです。ジャズ喫茶が近くにあって、そこが本作を仕入れている(たぶんどこでも仕入れると思う)なら、大音量でぜひ聴いてほしい。ジャズに新しいも古いもない。演奏者のそのときそのときの熱い想いがガチッとはまったときの凄さ、というのを思い知ったような気がします。傑作! マッコイとジョー・ヘンダーソンの双頭リーダー作的な扱いになっているが、便宜上、先に名前の出ているマッコイの項に入れた。