shoji ukaji

「VISION」(KID AILACK ART HALL KID−0001)
SHOJI UKAJI

 傑作である。大傑作である。彼は、キッド・アイラック・ホールで長い年月、「SOUND OF VISION」と題した月例ライブを行ってきており、このアルバムはその152回目を録音したものだそうだが、以前にも同コンサートのライブ盤である「SOUND OF VISION」(豊住さんとのデュオ)というレコードを出している。すごくいいアルバムだったが、これはあれをはるかにうわまわるたいへんな名盤である。宇梶昌二といえば、沖至グループ、豊住さんとのデュオ、ニュージャズシンジケートその他で知られたバリトン奏者で、高木元輝、坂田明と並ぶ練習の虫だったそうだが、そこでつちかわれたとおぼしきサックスプレイヤーとしての基礎的な実力がいかんなく発揮されている。サックスソロというのは、奏者の基礎的な実力が炉国に出てしまう、ある意味、こわい演奏形態だ。だからこそ挑戦のしがいもあるのだが、未熟な奏者は、音楽性云々以前に、楽器が鳴っていないとかそういった根本的なところでダメに聞こえてしまう。その点、宇梶はすばらしい。適度な残響の響くなか、深いリアルトーンや火山の噴火を思わせる爆発的なハーモニクス以外にも、リードのきしみ、パタパタなるキーの音、タンポの開閉する音、唾液の音、息の音……などが克明に録音されており、臨場感もすごい。曲調も多様で、彼の音楽家としてのふところの深さを示す。私は深海魚が好きで、海を見ていると、この海面の遙か下に生きているやつらがいるんだなあ、何考えとるんかなあ……とマクロファリンクスやペリカンアンコウに思いをはせるのだが、このアルバムのバリトンソロを聴いていると、なぜかしら「深海魚」という言葉が浮かんでくる。深い深い暗闇のそこで、はっきりした自己主張をもって噴出している音からの連想だろうか。この録音時で、キッド・アイラック・ホールは閉館することになったそうで、そういう意味でも一期一会の鬼気迫る迫力がある。サックスソロ史上に残る傑作としてひろく推薦したい。ほんとですよ。