gebhard ullmann

「BASEMENT RESEARCH LIVE IN MUNSTER」(NOT TWO RECORDS MW773−2)
BASEMENT RESEARCH

 これはええわー。ゲバルト・ウルマンといえば、私にとっては「アウト・トゥ・ランチ」のひと。あのアルバムは最高で、大学を卒業してすぐに聞き、すっかりこのテナー奏者にはまって、いろいろ聞いたけど、あのアルバムがやっぱりいちばんええなあ、と思っていた。今回、これまた私の好きなニューヨークのトニー・マラビーとの2テナーカルテットということで(ベースはドルー・グレス、ドラムはフィル・ヘインズ)、期待はめちゃめちゃふくらんだが、一方では、こういう場合にスカいくこともあるので、まあ、できるだけ平常心で聞こうとしたが、結局、一曲目からどきどきわくわくの私好みの展開で、あっというまの1時間。どちらも、さほど「イケイケ」なテナーマンではないにもかかわらず、ライヴということもあって、ボルテージを越えるほど吹きまくる場面もあり、手に汗握る。いやはや、このふたり、強力すぎる。個性的ではあるが、じつによくブレンドしあい、即興ならでは、同楽器ならではのじつに危なっかしい美を作りだしていく。聴きながら、俺やったらこう吹くな、とか、うわっ、こう来たか、という瞬間のオンパレードで、まるで自分が吹いているみたいな感覚で楽しめた。傑作といわせていただきましょう! どうやら「ベースメント・リサーチ」という名前のグループのようだが、ゲバルト・ウルマンがプロデュースに名前を連ねているし、ブッキングもっているようなので、彼の項目に入れた。しかし、最近はこういう風にヨーロッパ・アメリカ混合の恒常バンドってすごく多くなったなあ。世界は狭い。

「NEW BASEMENT RESEARCH」(SOUL NOTE 121491−2)
GEBHARD ULLMANN

 めちゃめちゃかっこええ! ゲバルト・ウルマンを最初に聴いたのは、「アウト・トゥ・ランチ」という明らかにドルフィーを意識したアルバムだったが、あれはもう20年も前のことなのだった。それ以来ずっとファンなのだが、この人はいろんなプロジェクトを並行して行っており、クラリネットだけのトリオとか、いろんなことをしている。ある意味、ヴァンダーマークが今やってるようなことを先取りしていた観もある。しかし、私はその全部をフォローできないので、ときどき思い出したようにちょこっちょこっとアルバムを聴いてきたが、なかにはやや観念的なものやサックスを吹いていないものもあり、なるほど幅の広い、引き出しの多いひとなのだなあ、と思っていた。しかし、私の頭にはどうしても最初に聴いた「アウト・トゥ・ランチ」のあのゴリゴリしたコルトレーンをもっと過激にしたようなモーダル〜フリーのイメージがあった。ちょっとまえに「ベースメントリサーチ」というバンド名で、トニー・マラビーとの2テナーのやつが出て、それがあまりによかったので、また久々にウルマン熱が復活していたのだが、調べてみると、このベースメント・リサーチというのは、普段はドイツ在住のウルマンのニューヨークプロジェクトみたいなもので、エラリー・エスケリンとやったり、ホーンのメンバーは流動的である。今回は「ニュー・ベースメント・リサーチ」として、これまでは2テナーが基本だったのを、イギリスのアルト、ソプラノ吹きジュリアン・アルゲイエス(と読むのか?)とアメリカのボントロ、スティーヴ・スウェルという、今が旬のふたりをくわえた3管でのバンドとなった。これは、正直言って、めちゃめちゃ期待しましたよ。しかし、その期待以上の音だったので大満足。コンポジションも、ドルフィー的なテーマのものをはじめバラエティ豊かだが、そこにゲバルト・ウルマンの豪快かつ先鋭的なソロが爆発。スティーヴ・スウェルのソロもアイデアがはっきりしていて、パワフルですばらしいが、なんといってもジュリアン・アルゲイエスのソプラノが凄まじい。空間を黄金の糸で埋め尽くすような、きらきらと輝くフレージングは圧倒的である。そして、リズムセクションも最高で、とくにドラムのジェラルド・クリーヴァーというひとはすごい。当分、ヘヴィローテーションで聴き続けたいアルバム。

「POETRY IN MOTION」(CLEAN FEED CF118CD)
CONFERENCE CALL

 私の好きなテナー〜クラリネットのゲバルト・ウルマンがいくつか並行して進めているプロジェクトのひとつ「カンファレンス・コール」の五枚目のアルバムにして、久々のスタジオ録音(一枚目はスタジオだったが、あとはずっとライヴだったらしい)。ヴァンダーマークもそうだが、複数のバンドというかプロジェクトを並行して活動しているミュージシャンというのは気が長いように思う。かなりまえに一作出したっきりのバンドの二作目が5年や10年たってひょっこり出たりするからだ。まだやってたんかい! とツッコミたくなるが、それだけどのグループも真剣にやっていることの証拠であって、新しいバンドを作っては壊し作っては壊しという飽き性の人よりマシだろう。おかげで我々は、そのバンドの変貌ぶり、あるいは変わりなさぶりを楽しむことができるのだ。さて、本作だが、やっぱりこういうのはいいなあ。モーダルな自由さというか、70年代ジャズがもっていた精神をもっとフリーにしたような演奏は、私のもっとも好むところだ。ゲバルト・ウルマンはあいかわらずしっかりした基礎を感じさせる太い、どすのきいた音でめちゃくちゃやってくれるし、ピアノのマイケル・ジェフリー・スティーヴンスもすばらしい(デイヴ・ダグラスとやっているひとだ)。さまざまな曲調の曲が入っているが、どれにも共通しているのは「いかにも○○風」みたいな演奏がないことで、コルトレーン的にばりばり吹けるウルマンだが、そういうフレーズをほとんど隠してしまい、もっと自由に自分のオリジナリティを押し出そとしているようだ。とにかくこういう前進意欲にあふれたミュージシャンを応援したくなるのは人情で、これからもがんがん行ってほしいものだ。

「DON’T TOUCH MY MUSIC」(NOT TWO RECORDS MW803−2)
GEBHARD ULLMANN

もう、言葉に言い表せないほどめちゃめちゃよかった。かっこよすぎる。ぜったいにいいとは確信していたが、聴いてみると、こちらの期待をうわまわる出来ばえで、いやあもうめちゃめちゃ興奮した。ゲバルト・ウルマンのテナーとバスクラに、ジュリアン・アーゲレス(と読むのか?)のソプラノとバリトン(今回アルトは吹いていない)、スティーヴ・スウェルのボントロという3管に、ジョン・ハーバートのベース、ジェラルド・クリーヴァーのドラムという、鉄壁の布陣での作品。これはたしか「ニュー・ベースメント・リサーチ」というアルバムと同一メンバーであり、ベースメント・リサーチなるグループの作品だと思うが、本作はウルマンの50歳の誕生日を祝う企画らしい。ライヴだが、ライヴの興奮と熱狂だけでなく、じつに完璧なアンサンブルと激しくも隅々まで気持ちの行き届いたソロの応酬があり、ジャズとしてたいへんな高みにあると思う。私がゲバルト・ウルマンのファンだからということもあるが、とにかく最近のジャズアルバムのなかでは心から「参りました」と思った一枚。体験したことのないひとは幸いです。

「SPILALS THE BERLIN CONCERT」(482 MUSIC 482−1028)
CONFERENCE CALL

 かっこええ! もうめちゃめちゃかっこええ。ゲバルト・ウルマンは近年は3管バンドでの表現が多いが、こういうストレートアヘッドなワンホーンもしみじみええなあ。もうかっこよすぎて死ぬわ。このハゲのおっさんは、ほんま、信じられないほどの狂気と信じられないほどのテクニックを内包していて、そのストック量はおそろしい限りである。いやー、しかし、これがライヴかあ。このときのライヴ会場にいた客は、演奏を聴いて死んだんじゃないかな。俺なら死ぬな。こんな凄まじい演奏、なかなかないもんな。コンファレンス・コールというバンド名義になっているが、まあ、ゲバルト・ウルマンのリーダーシップのもとにあるバンドだと思う。テナーもバスクラもソプラノも最高。表現力ありすぎるやろ。いやらしくて、力強くて、モダンで、アナーキーで……これ以上なにを求めるというのか。とにかくこのひとが世界最高峰のサックス奏者であり音楽家であることはまちがいない……とここ20年ぐらい思ってるんだけどね。何度聴きかえしても、ものすごい迫力と圧倒的なブロウの陰に隠れて、とてつもな細かい箇所まで神経が行き届いていることに驚くしかない。この演奏のすべてを味わい尽くすには、何百回も聴き返さねばならないだろう。それほどの情報量が詰まっている。それが、即興でしかもライヴなんだからなあ。怪物ですよ、この禿げのおっさんは、マジで。

「PER・DEE・DOO」(NABEL 4640)
GEBHARD ULLMANN

 あのゲバルト・ウルマンがスタンダードを演るとこうなる、という一種の「実験」だが、ピアノトリオをバックに、ウルマンはテナー中心にブロウする。太くて、しっかりした音で、しかもきちんとフレーズを吹くので、めちゃめちゃうまく聞こえる。もちろん、ウルマンのことだから、ただのスタンダード集ではなく、アレンジもひとひねりもふたひねりもしてあるし、選曲も一筋縄ではいかないし、ソロもときおり暴走してフリーキーな展開になることもあるが、やはり全体としては「スタンダードの解釈」の範囲にとどまっている。ベニー・グッドマンの「セヴン・カム・イレヴン」にはじまり、「パーディド」とか「セント・トーマス」とか「サテン・ドール」といったおなじみの曲がウルマンによってぐちゃぐちゃに解体され、木っ端微塵に叩きつけられるのかと思っていたら、なるほど、そこまではいかなかったなあ、という印象。でも、うまいよなあ、このひと。こういう演奏でも、ふつうのジャズファンは「フリージャズだ」というかもしれないが、個人的には、すごくよくできた普通のジャズアルバムという感じだ。もちろん、ある意味変化球なので、ウルマンをはじめて聴くというひとにはおすすめしません。マイルスの曲、モンクの曲、カーラ・ブレイの曲なども入っているが、じつはラストの「ジョージア・オン・マイ・マンンド」あたりが本作に寄せるウルマンの姿勢を読み解く鍵かも。

「OUT TO LUNCH」(NAVEL NBL8623)
OUT TO LUNCH

本作は、私がはじめてゲバルト・ウルマンの演奏に接した記念すべき(?)レコード。たぶん、会社につとめはじめたころ、なんとなくバンド名にひかれて買ったんだよね。アルバムタイトルもバンド名も「アウト・トゥ・ランチ」。これはドルフィーっぽい、すごい演奏が収められているのではないか、と期待しないほうがおかしい。しかし、実際はドルフィーというよりは、コルトレーンマナーの、非常にアグレッシヴでモーダルかつやる気まんまんの(当時としては)先鋭的なジャズで、私はガツーンとやられた感じでした。このアルバムを聴いて以来、ずっとウルマンのファンなのである。本作はおそらく、ウルマンのキャリアとしてはかなり初期に該当すると思う。裏ジャケに写っている写真も、今のようなハゲではなく、長髪でめちゃ若い。今から考えると、なんの予備知識もなく、よくあのときこのアルバムを買ったよなあ。A−1はウルマン作曲のちょっと「グッドバイ・ポークパイ・ハット」っぽいマイナーグルーヴの曲。ウルマンのテナーが雰囲気を醸し、ギターのアンドリアス・ウィラーズがいい味のソロをする。短い演奏だが、オープニングとしては十分で、ミステリアスな空気ができあがったところで2曲目はドラムのフリーなイントロから、ギターが入ってデュオになる。テーマなしの純粋な即興かもしれないなあと思っていると、デュオのパートが終わったところでアブストラクトなテーマが現れる。そして、ウルマンのテナーソロ。めちゃめちゃかっこいい。この演奏でのウルマンのソロにしびれて、私はこのひとのファンになったのだ。3曲目はモーダルなバラード。ここでもウルマンの咆哮が胸にしみる。B面に行くと、ウルマンを食ってしまうぐらいギターのウィラーズが大活躍。ウルマンはソプラノで、味わい深いソロを展開。ウルマン初期の意欲作であり、その後展開していくすべてがここにある、といっても過言ではない作品。ウルマンのファンなら聴いてみても損はない。私はもうめちゃめちゃ好きですけどね。なお、スペシャルサンクスのところにデイヴ・リーブマンの名前があります。

「WHAT ABOUT…?」(NOT TWO RECORDS MW829−2)
CONFERENCE CALL

 ゲバルト・ウルマンのさまざまな取り組みのなかでも、もっともオーソドックスな編成のものがこのコンファレンス・コールだが、テナーのワンホーンカルテットというものすごく普通の編成で、どうしてこんな普通でない演奏を繰り広げるのか。そこがこのおっさんの一筋縄ではいかないところである。二枚組ライヴというのもすごいが(それをリリースするノットトゥーレコードもすごい)、荒くない、いや、逆にこれだけ隅々にまで神経の行き届いた緻密な演奏をライヴの場でなしえるこの4人の技術、音楽性の高さにしびれまくる。4ビートからフリーまでのあいだを大きな振幅で飛び越えていく彼らの縦横無尽なプレイは、繊細にして過激。格調はめちゃめちゃ高いが、グルーヴもパワーもある。現代ジャズの最良の形のひとつだと思います。2枚通して聴くとへとへとになるが、それは充実しまくった音楽鑑賞の時間なのである。情報量が多すぎて、いちいち書いているひまがないぐらい。それにしてもテナーもバスクラもええけど、ウルマンのソプラノ、かっこええなあ……(ため息)。

「ESSENCIA FEATURING CARLOS BICA」(DEUTSCHE MEDIA PRODUCTIONS BTLCHR71212)
GEBHARD ULLMANN

このアルバムは中古で500円で買ったのだが、なんでこんな傑作を売るかなあ。めちゃめちゃええやん。ゲバルト・ウルマンはときに過激でときにトリッキーでときに伝統回帰だが、本作はピアノのジェンス・トーマス、ベースのカルロス・ビカとの変則トリオで、きわめて個性的で繊細な音楽を作りあげている。一種の組曲のような感じ。一曲目はバスクラが活躍するインプロヴィゼイション(?)が続いたあと、荘厳な教会音楽のようなテーマが現れる。2曲目は、これは即興なのか? とにかく静かな、ぴーんと張りつめたような緊張感と神聖ともいうべき透明感が持続する。3曲目はその名も「ゴスペル」で、テナーサックスが力強くブロウするが、全体の雰囲気はなるほど、黒々としてどことなくファンキーで人懐こい、ゴスペルの空気があるといえばある(ないといえばない)。そのあと、淡々とした明るい、素朴な演奏へと展開していく。4曲目は「ハイク」で、たぶん俳句のことだと思うが、これも即興だろう。べつに575のリズムだったりするわけではない。「ハイク」という言葉から彼らが連想するイメージが、こういったものなのだろう。たしかにきわめて短い、俳句的な演奏。5曲目は不気味なベースラインに導かれる曲で、不安感のなかに端正で静かな狂気が宿る。6曲目はウルマンが主体の演奏。アグレッシヴな展開だが、きわめて抑制された表現でもある。7曲目はピアノとベースのデュオ。だが、通常、ジャズファンが考えるようなデュオではなく、きわめてクラシカル。インタープレイとかとはまたちがった世界。8曲目は「ウォーキング・ポエム・bQ」という意味深なタイトルの曲だが、これも即興だろう。ピアノが活躍するが、ウルマンのバスクラは、ずっとサポートに徹している。9曲目はウルマンのソプラノソロが先導するイントロダクションのあと、ベースが入ってくる。たぶんコンポジションだと思うが、もう、めちゃめちゃかっこいいです。10曲目は即興だと思うが、これも荘厳な、筆舌につくしがたい音絵巻。凛としてノイズ、寂として炎、ごつごつとして流麗。ベースのアルコの人間くささがたまらん。11曲目はベースの弓弾きに加えて、わけのわからないヴォイス、そしてクレジットにはない金管楽器……という編成でスタートし、ウルマンがバスクラで暴走する即興。すばらしい。ドラムみたいな音はだれがなにを使ってだしているのか(たぶんピアノのひと)。いやー、最高です。最後の曲は、。ベースの重厚だが透き通るようなアルコソロではじまり、そこからジャズバラード風の演奏になる。「シンプル・メロディー」というタイトルが示唆するように、これまでの空気をがらりと変えるような展開。ここでのウルマンはテナーで、しみじみと歌いあげながらもハーモニクスを織りまぜたりして、じつは一筋縄ではいかぬすごい演奏。ほんとにうまいなあ、このひとは。表現力はすさまじいものがある。もう一度最後にくり返すが、なんでこんな傑作を売るかなあ。毎日でも聴きたいと思わせる作品です。出会えて感謝。

「BASEMENT RESEARCH」(SOUL NOTE 121271−2)
GEBHARD ULLMANN

 ウルマン(ウルトラマンじゃないですよ。なお、GEBHARDはゲブハルトと読むらしい)のバンド「ベースメント・リサーチ」の一枚目のアルバム。ライヴ盤はトニー・マラビーとの2管だったが、「ニュー・ベースメント・リサーチ」はアルト〜トロンボーンとの3管だった。そういうものの、これが原点なのだろう。ピアノレス、2テナーというたった4人なのに、オーケストラ並のハーモニー、ドラマチックな展開、かっこいい即興の限りを尽くす演奏。エラリー・エスケリンとの2テナーも相性ばっちりで、すばらしいとしか言いようがない。コンポジション、アレンジも最高。ほんと、私のツボです。2テナーといっても、ウルマンはバスクラやソプラノを駆使するので、音楽的な広がりもあり、いわゆる「2テナー」という言葉から想起されるような内容ではない。少なくとも10人編成ぐらいのサウンドだし、そこをぶち破り、突き抜けて咆哮するウルマンとエスケリンのブロウが凄まじい。このふたりはほんと、ええ音してるよなあ。とくにウルマンの(たぶん)ラーセンのラバーが鳴りまくっている音は私の好みです。ソプラノもバスクラもめちゃくちゃ上手い(9曲目はウルマンのバスクラワンホーンのトリオ)。こんなに凄い、骨太の、しかも大味じゃない、テクニックも抜群で、フリーキーな暴走もできるテナーが、日本ではあまり知られていないというのはどーゆーこっちゃねん。10曲全部ウルマンのコンポジションというのも信じられんなあ。曲ごとのバラエティも半端じゃない(7曲目とか9曲目はドルフィーっぽい)。フリーな部分もあるのだが、基本的にはリズムがきちんとあって、ジャズの範疇に納まる演奏だが,とにかく過激で過剰で熱い。ベースもドラムもいいなー。20年前のアルバムだが、中ジャケのウルマンの写真が凛々しくてかっこいい。この若者がのちにスキンヘッドのおっさんになろうとはだれが予想しただろう(大きなお世話)。個々の曲については触れないが、いきなりバスクラの絶妙のバンプではじまる一曲目から、ラストのバスクラとアルコベースのバラード的なデュエットにガラスが割れるような音のパーカッションが加わるという10曲目まで、一気呵成に聴いてしまう。ウルマンのアルバムはいつもそうだが、本作も「テナーサックス」というものの大いなる魅力に満ちている。そうです、テナーはかっこいいんです。テナー好き、テナー吹きはぜったい聴くべきです。大推薦。傑作。こういうグレイトな逸材を、藤井郷子さんが最新作で起用しているが、さーすがわかってらっしゃるよなあ(ウルマンの「ビッグ・バンド・プロジェクト」というアルバムに藤井さんがピアノで入っているが、まえに入手しようと思ったらあまりに高くてあきらめたのだった。というわけで、入手不可能ではないがまだ聴けておりません)。

「TRANSLUCENT TONES」(LEO RECORDS CDLR339)
CLARINET TRIO TWO

 ゲブハルト・ウルマンのクラリネットトリオは3枚出ているはずで(もしかしたらもっと出ているのかもしれないが)、これは2枚目。クラリネットだけのグループというのは即興演奏の方面では珍しくないかもしれないが、ここまで曲ごとにバラエティを持たせ、綿密なコンポジション、アレンジと即興を縦横無尽に組みあわせたものは少ないのではないか。3人とも超絶技巧の持ち主で、譜面にも強く、しかもインプロヴィゼイションで鬼でもあるので、とてつもない場面がつぎつぎと現れては消えていき、あれよあれよというまに最後まで聴いてしまう。それは3人による、鳥の声が森の上空から降ってくるような即興であったり、激しいフリーキーなブロウであったり、ジャズ的なフレージングによる熱いソロを聴かせる場面であったり、複雑なアレンジを吹き切る一糸乱れぬ見事なアンサンブルであったり(クラシカルな木管3重奏っぽいものも、ひとりがベースラインを担当するジャズ的なものなどいろいろ)、とにかくどこまでが作曲でどこからが即興なのかという境目がなく、譜面だと思ったらもう即興だ……と思ったらキメだ……と目まぐるしい移り変わりをただ呆然と聴くばかり。だれかが合図とか出してるのかなあ。ウルマンの作曲力・アレンジ力はいつもすごいなあと思うが、本作ではリズムセクションのいない管楽器トリオなので、それがよけいにクローズアップされる。いやー、これはすばらしい。やっぱりクラリネットってええなあ。バスクラ欲しいなあ。そのまえに今あるクラリネットを修理するほうが先か。――というわけで傑作でした。

「HAT AND SHOES」(BETWEEN THE LINES BTLCHR71238)
GEBHARD ULLMANN BASEMENT RESEARCH

 ときどき思い出したように新譜が出るベースメント・リサーチだが、今回はジャケットが超秀逸。遊び心のある、楽しい、そしてかっこいいジャケットだが、内容もまた、シリアスかつ遊び心を感じるいつものウルマンミュージック。ウルマン、スティーヴ・スウェル、ジュリアン・アーギュレスという三管は最強。全員、激烈なフリーからモーダルなもの、バップ、ロック的なもの、歌いまくりの演奏、バラードまでなんでもできるし、譜面もばっちりなので、めちゃくちゃ難しい曲やアレンジなども完璧に合わせるうえ、ソロの熱さはただごとではないぐらいヒートアップする。もう言う事なし。ちょっとガトス・ミーティングを連想したりして。しかも、ウルマンがまたええ曲書くベースとドラムの即興で開幕する一曲目。分厚いアンサンブルがはじまると、心ウキウキ。アーギュレスは本作ではバリサクオンリー。2曲目は激しいリフではじまる曲。アーギュレスのバリトンソロが炸裂。そのリフだけの曲かと思っていると、何種類かのリフが用意されていて、なるほど、かなり凝った仕掛けになっている。3曲目はスウェルの美しいトロンボーン無伴奏ソロではじまる曲。途中でプランジャーをつけて、フリーな雰囲気のバラードになる。そこにアンサンブルがするすると侵入してくるあたりは絶妙。スウェルのショウケースのような曲。4曲目はひとつの音列の持つ意味をしだいに変化させていく(と書いたが、なんのこっちゃ自分でもわからんな)ようなアレンジですばらしい。ソロはアーギュレスのバリトンがひたすら咆哮したあと、突然教則本的なフレーズを吹いたりしてめちゃ面白いです。後半のソロは朗々とした歌い上げ。いやー、こいつ気ぃ狂ってるよ。すばらしい。こういうなんでもあり、かつ、技術的音楽的に優れたバリトンを聞くと、吉田隆一さんを連想するよね。5曲目は「ファイヴ」という曲名だから5拍子の曲かと思ってたらそうではない。最初変拍子(7拍子?)でウルマンのフリーキーなテナーソロが炸裂、そのあとゆったりしとした3拍子になり、ウルマンとアーギュレスが交互に吹き合う。そしてまた変拍子っぽい早いテーマがあって、また3拍子……とかなり複雑な構成。ちょっと一時のヴァンダーマークがヴァンダーマーク5でやってた曲とかを思い出す。スウェルのトロンボーンとドラムのブラッシュとのデュオコーナー→ロッキンな7拍子へ……という展開などもあり、濃密すぎる。もしかすると、5つのパートに別れているという意味なのか? 6曲目はアーギュレスの長いバリトン無伴奏ソロ(カデンツァっぽい、お手本のようなすてきな演奏)で開幕し、そのままワンホーンのバラードへ突入。そこにロングトーンのリフが入るが、結局バリトンのみフィーチュア(エンディングはなぜかドラムのブラッシュソロで、そのまま終わっていく)というアーギュレスのショウケース。ラストの6曲目はウルマンとスウェルのフリーなデュオ(?)で開幕。ここ、めちゃくちゃかっこいいっす。パルスのようなフリーなリズムに乗った激しいテーマに続いてバリサクソロ。そのうちにきちんとしたビート感が出てきて、それに乗ってひたすらブロウしまくるアーギュレス、かっこいい! 全体に主役であるはずのウルマンのソロが少ないような気もする。一番多くソロをしているのはアーギュレスだと思う。しかし、全6曲ともウルマンの作・編曲だし、このバンド(ベースメント・リサーチ)はウルマンの作曲とアレンジによる表現を聞かせるというコンセプトなのかもしれない(まえそんなことなかったけど、今はそういう気持ちに変わってきたのかも)。でも、とにかくそれがすごく面白いしかっこいいのだから言うことなし。来日切に希望します。なお、ウルマンは自作を大切にするひとのようで、たとえば本作3曲目の「フルーティスト・ウィズ・ハット・アンド・シューズ」はたぶん「KREUZBERG PARK EAST」というアルバムにも入っていた(そちらは「シュー」と単数形だが)曲だし、「ドント・タッチ・マイ・ミュージック」も同名の二枚組がある。何度もアレンジしなおしているというのは、自作にかなり愛着があるのだろうな。

「SEVEN」(NOT TWO RECORDS MW905−2)
CONFERENCE CALL LIVE@FIREHOUSE 12

 カンファレンス・コールのライヴ2枚組。演奏は2008年だが、マスタリングされて発売されたのは2013年。ゲブハルト・ウルマンのワンホーンによるこのバンドのアルバムは本作を除くとこれまでに6枚出ているらしいが、そのうち半分の3枚しか聴いていない。これはいかん! ということもないが、まあそのうちに聴きたいものです。で、本作は2枚組ライヴということもあり、この現代ジャズグループの決定打的というか集大成的というかそんなところもあるのかな、と思って聴いてみたが、いつもと同じです。つまり、めちゃくちゃすばらしい。曲よしアレンジよしソロよしインタープレイよし。そしてカルテットなのでとにかくウルマンの熱いテナーをたっぷり聴けるのがうれしい。ほんと、このひとはオリジナルだと思う。フレーズからなにから、とびきりの個性を感じる(たとえば一枚目5曲目のソロとか。普通ではこんなこと吹かないっちゅうフレーズ連発)が、それだけじゃなくて、この「音」! 太くてうねるような、とぐろを巻くような感じでときに濁らせたりするあたり、私の好みにズドーン! とくるテナーの音なのだ。そして、フリーキーになったり、きちんとフレーズを重ねたり、テクニックを見せつけたり……となんでもできるが、本作では古いフリージャズ的なぐじゃぐじゃのフレーズを互いに叩きつけ合うような熱風のように熱い場面が多く、しかもそういうときでも全員のリズムがいいから、ノリノリだし、聴いてて楽しくってしかたがない。それと、ソプラノもいいよなあ。ウルマンがクラリネット〜バスクラの超名手だというのは「クラリネットトリオ」でもわかるわけだが、ソプラノがめちゃくちゃ上手い! 1枚目の3曲目、4曲目のソプラノの音色のすばらしさ、楽器コントロール、アーティキュレイション、特殊奏法……すべてほれぼれする。
 一枚目の1曲目はテナーによる熱い演奏。2曲目はバスクラでのフリーな演奏。3曲目はソプラノによるフリーからのモーダルな演奏。4曲目はソプラノによるバラードからのミディアムテンポ(かなり考え抜かれた譜面だと思う。エンディングも見事)。5曲目はテナーによるモーダルなかっこいい曲(テナーソロはほぼフリー。ピアノとアルコのパートはリズムもフリーで超かっこいい。ドラムソロも最高)で一枚目の白眉的演奏。二枚目の1曲目はテナーによるハードなバラード風からのラテン系モードジャズ→フリーっぽい展開の自由な演奏。2曲目は、バスクラによる不思議な曲調の(このバンドにしては)短い演奏(ワルツという曲名なのに5拍子)。3曲目は無音に近い静寂ではじまるドラムのフリーな演奏が4分近く続いたあと、これもフリーっぽいテーマになり、フリーっぽいピアノトリオになる。ウルマンはソプラノでこれも揺蕩うような自由な演奏で熱い。4曲目はテナーによる牧歌的な曲かと思ったらピアノソロに入ると中期コルトレーン的なハードなモードジャズになりウルマンもバスクラにチェンジ。ラストの5曲目はテナーによるムーディーなバラード風かと思いきやかなりエグいフリーフォームになり、混沌としたなかでテーマが奏でられる。重厚な二枚組のラストにふさわしい演奏で、静かに、重々しく幕を閉じる。
 全編、ドラムとピアノが、ソロといいバッキングといい最高なのである。ドラムは上手過ぎるうえにイマジネーションのかたまりのようで、しかも手数が多く、叩きまくる。ピアノは個性もすごいが、その思い切ったアグレッシヴな絡みはもう筆舌に尽くしがたいぐらい美味しいときがある。もちろんこれらの猛者たちを軽々とサポートするベースもすごいわけで(一枚目3曲目のランニングソロ!)、つまり4人とも凄すぎるスーパーバンドなのだ。とにかく音楽性とテクニックを土台にした、熱過ぎるぐらい熱い演奏。コルトレーンカルテットに似ていると思うが、なにが似ているのかというとその「しんどさ」である。これだけ重くシリアスにハードにジャズを演奏するというのはなかなかむずかしい。なぜなら現代のミュージシャンはジャズを重くも軽くも自在に演奏できる術を知っているからで、それはもちろんいいことだが、この4人の奏でる音楽の重みは、たぶん勝手にこうなってしまうんだろうな的なずっしりとしたもので、聴くほうもよほどの覚悟と気合いがないとおつきあいできない。しかし、それはたいへん楽しい時間なのだ(しんどいけどね)。傑作としか言いようがない傑作。

「KREUZBERG PARK EAST」(SOUL NOTE 121371−2)
GEBHARD ULLMANN

 97年のアルバムなので、けっこう古いか。ゲブハルト・ウルマン名義だが、初期のベースメント・リサーチとメンバー的にはまったく一緒(もうひとりのテナーがエラリー・エスケリン、ベースがドリュー・グレス、ドラムがフィリップ・ヘインズ)なので、つまり本作の録音がうまくいったので、恒常バンドにして、名前をベースメント・リサーチと名付けた……ということじゃないのかなあ、と思っていたら、どうやらちがうらしい。一枚目の「ベースメント・リサーチ」は95年で、本作は97年だからこっちのほうが新しいのだ。どーゆーこっちゃ? しかもレーベルも一緒だ。まあ、そんな詮索はさておき、内容はもちろんすばらしいです。左チャンネルがウルマン、右がエスケリンと思う。このふたりの絡みは(とくにテナー好きにとっては)こたえられない魅力である。しも、リズムのふたりも最高なので、4人が一体となったその躍動感といったらたまらんのです。1曲目はテナー2本。半音でぶつけるような不協和音を効果的に使った、不気味なミディアムテンポのテーマ。テナーとテナーが探り探りのような感じでからんだりほぐれたりを繰り返す。2曲目はウルマンはバスクラ。小刻みなテーマと、ビートのない吹き伸ばしによるテーマが交互に現れる奇妙で楽しい曲。そのあとは混沌としたフリーな展開になるが、ベースソロのバックでバスクラはブルースを吹いている。もしかしたら最初からブルースなのか(これが表題曲)。3曲目は4分近い長いベースのアルコソロではじまり、ものすごい間のある、かなりむずかしいテーマをバスクラとベースが奏でる超緊張感のある曲。ドラムソロで終幕する変わった構成。4曲目は、テナー2本のショウケースのような曲で、ふたりがドラムのブラッシュをバックにからんでからんで絡んだあとにテーマがはじまるという趣向。こういう複雑な曲のアレンジ、ウルマンは好きやなあ。めちゃくちゃ難曲です。テーマのあとはベースソロ。そして、ドラムの躍動的なブラッシュとフリーな感じのベースをバックにエスケリンのソロ。そしてまた、2テナーが絡みに絡む。5曲目はかなりフリーな感じではじまり(ウルマンのバスクラとベース)、そこに打楽器が加わる。エスケリンは加わっているのかどうかよくわからん。6曲目は、2テナーで高低さのあるドルフィーのソロみたいなテーマの曲。なんでまたこんなむずかしい曲を書くかなあ。テーマが終わるとブレイクになって、エスケリンの無伴奏ソロ。フリーっぽいが、一応ビートは意識している……ような気がする。このソロは凄い。テナーのあらゆる技巧が盛り込まれているうえ、低音をボスボスいわせたり高音でスクリームしたりと音域的な快感もある。そのあとゆったりとしたテンポになって、また跳躍しまくりのテーマに戻り、今度はウルマンとベースによるデュオ。ここではハーモニクスその他の特殊奏法がいろいろぶちこまれ、なんでもいいから思いついたことはどしどし試そう……みたいな感じ。ドラムソロから別のリフに入って、それが次第にテンポアップしていき、そのまま終了。7曲目はソプラノとテナーによる無伴奏のフリーなからみではじまる。ここも、どこまで譜面があるのかよくわからないが、息ぴったりである。そこからドーンとインテンポになって、またまた変てこなテーマが始まるのだが、ドラムとのデュオ(?)からベースも入っての過激なウルマンのソプラノブロウがとにかくかっこいい。たびたびストップモーションになってテーマリフが入るが、そういう趣向らしい。そのあとベースとのデュオからドラムも入ってのかなりフリー寄りのエスケリンのテナーソロ。そしてテーマ。ラストの8曲目は、ゆったりしたぐにゃぐにゃのテーマからテナー2本がぐにゃぐにゃの絡みを延々と展開する。とまあ、ウルマン好き、テナー好き、エスケリン好きのひとにはたまらん一枚だと思う。むせかえるような濃密な演奏でした。傑作。

「NEWS? NO NEWS!」(JAZZWERKSTATT 068)
THE ULLMANN SWELL 4

 ウルマンのベースメント・リサーチでも一緒にやってるゲブハルト・ウルマンとスティーヴ・スウェルの双頭バンド。ベースがヒリアード・グリーン(パワフルかつしなやか)でドラムがバリー・アルトシュル(躍動的でめっちゃいい)という豪華なメンバー。ウルマンはテナーとバスクラ。あいかわらず変態的な曲を書き、アレンジし、力いっぱい吹きまくっている。完全即興の曲以外は、ウルマンが4曲、スウェルが4曲書いているが、とにかく4人とも超絶技巧の持ち主ですごい音楽性でしかも変態、という点が共通項としてあるので、どの曲もただただひたすらかっこよくて、変態で、そして「濃い」。やろうと思えばスウィングジャズでもバップでもモードでもなんでも楽勝でできるこのフロントなのに、本作ではかなりフリー寄りの演奏を展開する。ぎゅーっと詰まった、高密度の音楽なので、ぼんやりと聞くわけにはいかない。ヒリアード・グリーンを除くと白人なのだが、非常にブラックジャズというか、どろりとした熱い感触の曲・アレンジ・ソロ・リズム・その他モロモロ……なのである。まさに重量級のヘヴィサウンズである。ウルマンとスウェルは「豪快かつ繊細」という言葉がぴったりで、八方破れのめちゃくちゃなソロも得意だし、一転して細やかなフレージングをすごい技術力で積み上げていくことも得意だが(9曲目なんかもう興奮のるつぼです)、「音がいい」という点でも共通していて、楽器が鳴りまくっているうえ、太くて、個性的ですばらしい「ジャズっぽい」音なのだ。4人の超濃密なインタープレイを聴いていると、ここまで聴きあい反応しあっていたら、普通のジャズもフリージャズもインプロヴィゼイションも関係ないなあと思う。全部一緒だ。というわけで、ジャズシーンでもっともストレートアヘッドなコルトレーン的なブラックジャズ〜フリージャズを担っているのはウルマンたちなのではないかとさえ思う。こういう、黒々とした雰囲気たっぷりの演奏は、やろうとしてなかなかできるものではない。初期の「アウト・トゥ・ランチ」のころから比べると、ウルマンも(いい意味で)どんどん崩れてきたというか、凄くなってきたなあ。これまでウルマンの入っているアルバムで失望したことは一度もない。もう、とことん惚れ込んでいるわけだが、生で一度も見たことがないというのも悲しいことであります(イーヴォ・ペレルマンも同様)。このメンバーでは、「デザート・ソングス・アンド・アザー・ランドスケイプ」というアルバムも出ているらしいので聴いてみたい(そっちのほうがだいぶ古いらしい)。なお、かなり長文のライナーノートをウイリアム・パーカーが書いている。

「LIVE AT THE PUTPOST PERFORMANCE SPACE」(482 MUSIC 482−1045)
CONFERENCE CALL

 言ってみれば、ゲバハルト・ウルマンのワンホーンカルテットなのだが、このバンドはいつ聴いてもそういう言葉が当てはまらない。ときに集団即興をするチームであり、ときにキメキメの変拍子をやりまくるモダンジャズバンドであり、ときに個人技の凄い一国一城の主たち……なので、ワンホーンカルテットというジャズ的用語(?)から連想されるものとは私の印象は違う。一曲目はフリーなイントロから、ウルマンはソプラノで変態的なかっこいいテーマ。そのあとは一気呵成。いやーウルマンはクラリネットもめちゃうまいけど、ソプラノもすばらしいです。もう、この四人のからみは、ソロとバッキングという状態を越えて、からんでからんでからみまくり、しかも、それが下向きのインタープレイではなく、でかい音で激しいリズムを伴ったアクロバティックなものなので、ただただ感服するばかり。しかし、こんな曲よく書くよなー。すばらしい。2曲目はバラード的でフリーな感じのピアノのイントロからバスクラが黒い絵の具をチューブからしぼりだし、幻想的な絵画を描いていくようなプレイをはじめる。そのあとベースがこれまた自由度の高いソロを展開し、またウルマンがノイジーな音を交えたソロ→集団即興になるが、全体的にフリーなバラードのような感じの濃い演奏。なめるように聴きたい。3曲目は、浮遊感のあるマイナーの曲で、これも濃いなあ。ウルマンはテナーで、へしゃげたような音を出す。ベースが大きくフィーチュアされる。4曲目は、ソプラノによるちょっとユーモラスなテーマを持つ曲だが、それが次第に崩れていき、これまた濃厚なフリーインプロヴィゼイションになっていく。一筋縄ではいかない演奏ばかりである。5曲目は不穏な雰囲気のフリーな即興がイントロのようになり、そこから雰囲気はキープしたままインテンポになる。テナーのフリーキーでモーダルなソロがめちゃかっこいい。躍動的で大づかみに豪快にグルーヴするドラム、暴走するテナー、煽りまくるピアノ、どっしりしたベース……なにもかもが爆発していて、本作の白眉だと思う。これこそカンファレンス・コールの真骨頂。テナーも、じつにええ音してますなー。

「THE CHICAGO PLAN」(CLEAN FEED RECORDSCF396CD)
STEVE SWELL/GEBHARD ULMANN/FRED LONBERG−HOLMS/MICHAEL ZERANG

 ドイツのゲブハルト・ウルマンとニューヨークのスティーヴ・スウェルのふたりが、シカゴに行って、フレッド・ロンバーグホルムとマイケル・ゼラン(と読むらしい。これまでツェラングと書いていたので訂正)のふたりと録音した……ということらしい。そういえばエヴァン・パーカーにも「シカゴ・ソロ」というのがあったし、ウルス・ライムグルーバーにも同じく「シカゴ・ソロ」があった.ブロッツマンも長いあいだシカゴテンテットをやってたし、そうそう、ラック・ホートカンプもケスラーとこのゼランとやってたっけ。皆、シカゴに行ってなにかしたがるなあ。やはりシカゴという土地は、今のインプロヴァイザーたちをひきつける魅力があるのだろう。しかし、どうせウルマンがシカゴで録音するなら、ヴァンダーマークとかマーズ・ウィリアムズとかとも共演してほしかったような気もする。ウルマンとヴァンダーマークの対決とか見たかった(聴きたかった)。で、そんなことよりも肝心の中身だが、これがもう、うっとりするぐらいいいアルバムなので、広くおすすめしたい。1曲目は11拍子(?)のヴァンプみたいなので景気よくはじまって、そこにべつのテーマが乗る。シカゴを訪れて、そこの連中と即興ガチンコやって一丁上がり的なやり方ではなく、しっかりしたアレンジの曲を用意するあたりがいかにもウルマンとスウェルって感じです(6曲中、4曲がウルマン、2曲がスウェルの曲)。テーマのあと、リズムが消えて、ウルマンとスウェルのふたりだけでビートを保ったままの即興。そこにチェロとドラムが加わっていき、今度は管楽器が消えてチェロ主体のゆるーい、のんしゃらんな雰囲気の即興になる。やがてふたたびウルマンとスウェルによるテーマがバッキングのような感じで現れ、管楽器2本だけのテーマがしめくくる。かっこいい。粋だ。2曲目は、ドラムのパーカッション的な自由な即興ではじまり、延々5分近くそれが続く。そして、一旦終了したあと、ドラムがドンドコドンドコ……と露骨なリズムを叩きはじめ、テーマがはじまる。そのあと、混沌とした集団即興から、ウルマンのごりごりしたテナーのブロウとロンバーグホルムのノイジーなチェロのぶつかり合いになる。ここはめちゃくちゃかっこいい。そのあとロンバーグホルムのエロクトロニクスノイズのパートになり、ひとりで延々とグジャグジャ、ギリギリ……と弾きたおしたあとテーマ。そして、全部が消えて、スウェルだけのソロになる……と思いのほか、それはじつはアンサンブルの一部だったことが判明し、そのうえにチェロのリフ、サックスのリフ、ドラムのリフなどがつぎつぎと乗っていき、べつのテーマが出現する。そこからスウェル中心の怒濤の集団即興に雪崩れ込むのだが、ここはかなりパワフルで聴きごたえあり。スウェルの重量級のトロンボーンの魅力全開だ。そしてチェロとドラムのデュオになったあと、唐突にスウェルとウルマンのリフが入って、集団即興になってエンディング。ぐちゃぐちゃになっているようで、ちゃんと最後の最後までアレンジがほどこされている。19分近い大曲だった。3曲目はチェロとトロンボーンによる美しいロングトーンが幻想的に奏でられて演奏が始まる。ドラムが静かに入ってきて、チェロとの幽玄なデュオになる。そこに管楽器も加わり、集団即興によるバラード状態に。スウェルが主役になり、チェロはゆったりとした弓弾きで、ドラムはマレットで、ウルマンはバスクラリネットでスウェルを支える。4曲目はモンク的というかドルフィー的というか、そういう曲。ドラムも含めた全員のユニゾンで複雑なテーマが奏でられたあと、ドラムがリズムを刻みはじめ、そこにもう一度テーマが演奏されて、なるほどこういうことか……と種明かしされる。そのあと早いテンポになり、ウルマンが激烈なブローを展開。ドスのきいた低音とハイノートを駆使しまくった個性的なフレージングはウルマンならでは。チェロは自分のソロであるかのように弾きまくり、そのからみも凄い。ドラムもウルマンとめちゃくちゃ合っている。ウルマンのソロが終ると同時にチェロも消え、速いテンポのドラムとスウェルのデュオになるが、ここもものすごくかっこいい。スウェルはテクニックと音楽性のすべてを披露するような圧倒的なプレイ。そこにバスクラとチェロが入ってきて集団即興になり、ビートがなくなってフリーになり、最後にチェロだけが残る。そして、また最初のように全員でのユニゾンによるテーマでエンディング(むずかしい曲やわ)。5曲目はトロンボーンとテナーとチェロのアンサンブルによる曲をバックにしてマイケル・ゼランのドラムが自由に叩きまくる。そのあとリズムがフリーになり、間の多い集団即興のパートになる。そこからドラムがリズムを叩きはじめ、だんだんと全体にやかましくなっていく。そして、5拍子(?)のテーマが現れ、突然終わる。最後の6曲目は、ゆるーい即興ではじまり、一旦無音になってのタメがあったあと、ゆったりとした、かなり変態的なテーマを全員で合わせる。ドラムをバックにしたチェロのソロになる。そこにバスクラとトロンボーンのリフが入る。自由にみえるが実はかなりしっかりしたアンサンブルパートのある曲で、いろいろ決めがあるのだが、ぼーっと聴いているだけではわからないようになっている。つづいて同じようにドラムをバックにしたトロンボーンのソロになり、またリフ(今度はチェロとバスクラ)が入る。そういう趣向なのだ。もちろんそのあとはドラムをバックにしたバスクラソロになるのかな……と思っていると、それはないのだった。というわけで、ウルマンが爆発的に吹きまくる曲は少ないが、まったく満足いたしました。まあ、シカゴサウンドといより完全にウルマン〜スウェルのサウンドですけど。プロデュースはウルマンとスウェルなのだが、ウルマンが4曲とコンポジション数も多いので、便宜上、ウルマンの項に入れた。

「LIVE IN MOSCOW」(LEO RECORDS CDLR761)
THE CLARINET TRIO PLUS ALEXEY KRUGLOV

 いやー、めちゃくちゃ凄かった。ゲブハルト・ウルマンのクラリネットトリオは何作か聴いたが、本作はいつものトリオにアルトサックスのアレクセイ・クルグロフが(曲によって)加わっているので、厳密には「クラリネット」トリオとはいえないかもしれない。でも、とにかくものすごくかっこいいのである。1曲目は幽玄で、日本的と言ってもおかしくないような冒頭部から、それが一糸乱れぬ柔らかでスピーディーなアンサンブルに雪崩れ込んでいき、そこからビシッとリフを決めて、どうなるのかな……というところで終わる。かっこいい。2曲目は、それぞれがフレーズをフリーバラード的に吹きあっていくところから、譜面をばっちり合わせていくのだが、この快感はなんだろう。少なくともフリージャズや即興系の面白さとはちがう。でも、かっこいいのだ。そのあとそれがいわゆるフリージャズとか文脈で語れるような展開になってはいくのだが、かっこよさは変わらない。3曲目はブルースなのだが、あまりにゆったり、そろそろしすぎていて、ブルースだかなんだかわからない演奏で、汽笛のようなロングトーンも、しずしずと展開するドラマも、エリントンのフリー化ということをついつい考えてしまう。とにかくめちゃくちゃすばらしい。4曲目はスリリングなテーマアンサンブルの曲で、これもまたしびれるぐらいかっこいいのである。3人のクラリネット奏者が譜面を踏まえたうえで、即興でこちょこちょやる……ということに変わりはないのだが、すべてに筋が通っている、というか、無調になろうが、ノーリズムになろうが、どこかでなにかがひとつだけでも危うく保たれていて、聞いている分には、即興とかそういうことは関係なく、しっかりしたアンサンブルを聞いている感覚なのだ。そのあたりの危うさ、新鮮さ、エロさ……などの醸し出すスリルが、超絶技巧のこの3人の演奏を最高に高めていることは間違いない。あー、すげー! かっこいい! というところで、アルトサックスのクルグロフ登場だが、5曲目は全員による即興で、これがまたすばらしい。よくある「バッ」「ぴー」「プッ」「ヘゲヘゲヘゲ……」「ぶおーっ」……みたいなアホな即物的な皮膚感覚のやり取りではなく、それぞれが自分のポジションを熟知していて、しかも自分の個性を前面に出してきて、そのうえでゆったりとグルーヴし、高みにのぼっていく……という、即興としてはもっともうれしい状態の演奏。ぜったいおもろいと思うけどなあ……。6曲目は、アンサンブルによる美しい曲。7曲目は全員の変態的なロングトーンでくちゅくちゅいいながら進行していくアホな曲。作曲者があるので、なにかベースになっているものがあるのだろう。マウスピースだけ(?)の演奏がオーケストラのように昇華していくさまは圧巻。ラストの8曲目は4管のしっかりしたアンサンブルの曲で本作中もっとも長い14分を超える演奏。いろいろとドラマチックな展開があって飽きることがない。クラリネットトリオのアルバムのなかでもめっちゃいい。まさしく傑作です。

「PRISM」(NOT TWO RECORDS MW1004−2)
CONFERENCE CALL

 ゲブハルト・ウルマン率いるカルテット「カンファレンス・コール」のなんと10枚目のアルバムだそうである。あいかわらずの硬派で、ジャズに根差したヘヴィ級の即興が並ぶ。コンポジションはあるものの、自由な音楽である。リズムがかなりしっかりと構築されているので、ひとりがそのリズムをキープしていれば、あとの3人は好き勝手に演奏しても音楽は崩れない。そういう危うい快感がずっとつきまとっているが、なにしろ超ベテランばかりなので、「わしらなにやっても大丈夫だもんね」という自信が伝わってきて、こちらも安心して聴くことができる。といって、予定調和とかチャレンジのない音楽ではなく、まったく逆で、つねにスリリングで、過去を打ち消すような大胆な冒険の瞬間ばかりである。強く、深くドライヴする、ジャズの語法に乗っ取ったリズムと、ずっと浮遊しているようなマイケル・ジェフリー・スティーヴンスのピアノ、そして、「歌」を拒否しているようなフレーズを吹き続けているのに、ぐいぐいと心に入りこんでくるウルマンのテナーとバスクラ。私がウルマンを聴き始めたころ(「アウト・トゥ・ランチ」が最初だった。なにも知らず、タイトルとテナーがリーダーというだけでレコードを購入したのだ。たぶん大学を出てすぐのころだったと思う)は、もっとゴリゴリのモードジャズというかコルトレーン的な演奏をしていたウルマン(今もその片鱗は残っているが)だが、今でははるかに自由自在な音楽になっている。4者の緊密なコラボレーションは自然発生的で、かつ大胆で、なんの縛りもストレスもなく聞こえるが、しかし、めちゃくちゃかっこいい。使い古された表現だが、タペストリーのように織りつづられたこの音楽を聴いていると、じわじわと心地よくなっていく。フリージャズ的な激しく、絶叫また絶叫のクライマックスのような瞬間はなく、しっかり抑制された、しかし、その底にどろどろとした熱いマグマのように煮えたぎるものを秘めた演奏である。1曲目はアレンジも含めて超かっこいい。ラストも決まっている。2曲目はタイトル曲で、ウルマンのサブトーンで奏でられる美しく幻想的なテーマがすばらしい。ピアノとのからみがなんとも美しく、ジョー・フォンダのゆったりしたノリのベースソロもフィーチュアされる。いかにも「モダンジャズ!」という感じの曲。3曲目は超アップテンポのベース〜ドラムのオープニングからウルマンのバスクラが炸裂する。そして、ピアノとユニゾンのヘンテコなテーマ。わけがわからないけど面白いのだ。フリーな感じになったあと、途中からサンバ風のリズムになり、第二のテーマ(というかこっちが本当のテーマのようですね)が登場する、という展開(ウルマンはテナー)。リズムは途中4ビートになったりもするが、ここでのウルマンは自由奔放でまさにウルマン節としか言いようがない豪快なブロウで圧倒的。ピアノのバッキングもすばらしい。4曲目はフリーな即興(ウルマンはバスクラ)ではじまる。全体にリズムは揺蕩うような感じのフリーなバラード(?)。5曲目は本作中もっとも「いわゆるジャズ」っぽい枠組みの曲で、ブルージーなピアノのイントロに、おっ、これはかなりまっとうなブルーズ的な演奏なのかな、と思っていると、ウルマンのテナーはかなり「あさって」のところから唐突に降ってくる。本作中一番ストレートに白熱する演奏かもしれない。6曲目は7拍子の曲で、バスクラによる物悲しいメロディのナンバーかと思っていたら一筋縄ではいかないのだった。いやー、かっこええ曲やなあ(ジョー・フォンダの曲)。物悲しいどころかどんどんヘヴィな展開になっていく。すはらしい。ラストの7曲目は、これもフリーな感じのシリアスなバラードで、聴いていて思わず居住まいをただす……というと大げさだが、そういう雰囲気の演奏。いやー、全7曲、聴きとおすとへろへろになります。しかし、何度聴いても4人によるすべての情報を味わいつくしたとは言えず、またはじめから聞き返してします……そんな感じのアルバム。さすがウルマン! わしが見込んだとおりやでっ……てえらそうに言うな! すんまへん。というわけで、思ったとおり傑作でした。

「GULFH OF BERLIN」(ESP−DISK)
GULFH OF BERLIN

 いやー、ほれぼれするような内容でありました。GULFH OF BERLINとしか書いていないので、バンド名だかアルバムタイトルだかわからないのだが、ゲブハルト・ウルマンのリーダーシップのもとに吹き込まれたアルバムなのだろうと思う。2018年のスタジオ録音だが、テナーのフロントに、チェロ(コントラバスも弾く)、ドラムというメンバーだが、そこにスーザホンのときはベースっぽく、トロンボーンのときはフロントっぽいGERHARD GSCHJLOSSL(さすがに発音がわからない)が参加し、ライヴ・サウンド・プロセシングという肩書でマイケル・ヘイヴスが加わっている。おそらくマイケル・ヘイヴスはミュージシャンの出した音をライヴ的にその場で加工する感じだろうか。聞いていても、なんの違和感もない。ただただ心地よい音の連鎖。いつもながら頭をつるつるに剃ったウルマンは相変わらずテナーとバスクラをしっかりした音色で熱く吹く。私がはじめてウルマンの「アウト・トゥ・ランチ」をタイトルにひかれて購入したのはまだ学生のころだったのか……とにかくだれもウルマンのことを知らない状況だったが、めちゃくちゃはまったのを覚えている。あのときウルマンはまだ24歳ぐらいだったのだ。今や65歳だが、粘っこく、マグマのようなブロウは変わらない。1曲目はスーザホンとチェロのベースライン(?)の絡み合いがかっこいい。そのうえに乗るウルマンの煮えたぎるブロウ。2曲目はコレレティヴ・インプロヴィゼイションによるシリアスな短い演奏。3曲目はちょっとチェンバーミュージック的な感じもあるが、弦楽器の弓から火を発しそうな熱いソロから、ドラムが大々的にフィーチュアされ、ベースがガンガンパターンをぶちかますなど、どんどん展開が変わっていく。ウルマンたち管楽器の出番はないが、けっこうこの3曲目が好きであります。4曲目はGERHARD GSCHJLOSSのめちゃくちゃ上手いトロンボーンがフィーチュアされる。このひとは名手やわー。その音をマイケル・ヘイヴスが瞬間的に加工するという、基本的に無伴奏ソロのようなデュオのような演奏。すばらしい。5曲目はチェロのピチカートではじまる集団即興で、絶妙の距離感である。マイケル・ヘイヴスによる音の加工のセンスがめちゃかっこいい。6曲目、これも即興なのだろうがベースのランニングが4ビートなのでものすごくジャズっぽい。バスクラとトロンボーンとウッドベースによる即興。ときどきマイケル・ヘイヴスが悪さ(?)をしている。7曲目も即興だが、最初のところをちょこっと聞くだけで、何べん聴いてもかっこいいのである。8曲目は超ストレートアヘッド。インターステラー・スペース的なドラムとテナーの剛腕デュオに多少の加工(これがまたかっこいいのだ)が加わったものだが、やっぱりこういうのが聴いていて燃えますね。ウルマンのテナーの音の力強さと深みにも注目。9曲目もアルコベースを中心に、パワフルにぶっ速いリズムが爆発する壮絶な演奏。全員の演奏が堪能できて、これはすごいです。ラストの10曲目は本作でもっとも長尺(といっても7分だが)の演奏で、集中力の途切れない即興でした。あー、こういうのはいつまでも聴いていたいものであります。とくにウルマンは一度も生で見たことがないので、いつか見たいと思っているのだが、このコロナの状況、そして俺の年齢から考えて、無理なのかもしれないな、とか思っている今日この頃です。いやいや、あきらめないぞ。ESPからの発売。傑作!ウルマン! わしが見込んだとおりやでっ……てえらそうに言うな! すんまへん。というわけで、思ったとおり傑作でした。

「FINAL ANSWER」(SOUL NOTE 121391−2)
CONFERENCE CALL

 ゲブハルト・ウルマン率いるコンファーレンス・コールの2002年作。シンプルなカルテットだが、メンバーピアノがマイケル・スティーヴンス、ベースがジョー・フォンダ、ドラムがマット・ウィルソンと超重量級。だが、本作でウルマンはテナーを封印(?)し、ソプラノサックスとバスクラリネットしか吹いていない。クラリネットプロジェクトなどはべつとして、ウルマンの魅力のかなりの部分がテナーにあると思っている私にとっては、うーん、これはどうなのかな、と思いながら聴いてみたが……いやー、まったくの杞憂でした。ソプラノもバスクラも魅力的ではあるがコントロールするのはなかなかむずかしいと思うが、ウルマンはさすがに完璧に吹きこなしている。テナーがない分、それらの楽器の魅力が前面に出ていて、ウルマンのテナーのファン(つまり私だ)も十分納得の一枚だと思う。それにしてもこのカルテットはスーパーバンドやなあ。どの曲のどの部分を切り取っても四人の濃厚でオリジナリティあふれる表現が噴出する。全員に共通するのは「骨太」で「繊細」なこの感じ。かなり微妙なところをつつくような演奏なのだが、それをものすごいパッションを込めて演奏している。以下、簡単に。1曲目は複雑なコンポジションをかなりのアップテンポで。ウルマンのソプラノが冴えわたる。2曲目はバスクラの魅力たっぷり。ベースソロもすばらしい。3曲目はタイトルに従えばポルカ。4曲目は非常にストレートな4ビートジャズ。5曲目はトーマス・チェイピンに捧げられたフォンダの曲でバラード。ウルマンのソプラノでのサブトーン、ビブラートなどの技法がすばらしい。途中からチャントのようなコーラス(?)やヴォイスが入る演劇的な側面もある演奏。6曲目はソプラノによる細かい動きのある複雑な曲。集団即興の要素も多分にある。さらりとやっているがたいへんな技術力と表現力を感じる。さすが手練れたちだと思う。7曲目もソプラノでの変拍子のリフ曲。途中から4ビートになり、そこからピアノをフィーチュアしたバラードになり、ソプラノをフィーチュアしたフリーなインプロヴィゼイションになり……という風にどんどん場面が転換していく緊張感のある演奏。最後はソプラノソロのバックでピアノがテーマのリフを入れて盛り上がったあと4ビートになり、だんだんテンポが遅くなっていく。10分弱のなかに大河ドラマのような展開が詰め込まれている充実した演奏。8曲目はジョン・スティーヴンスによるマーク・ホワイトケイジに捧げた曲でウルマンはバスクラを吹いている。リズムやテンポの制約がゆるいアブストラクトなバラード。ラスト9曲目はタイトル曲で、短い演奏。リズミカルで楽しい。メンバーによるボーカル(?)がフィーチュアされる。なんじゃこれは! という感じで終わっていく。すばらしい。ああ、俺はやっぱりこのバンドが好きだ! と再確認しました。傑作。