「FREE LANCING」(CBS INC.25AP2251)
JAMES BLOOD ULMER
ウルマーは一時ほんまに流行った。そのきっかけとなったのがこのアルバムで、当時私はたしか大学ジャズ研に入ってまもないころだったと思うが、先輩も同級生もみーんな本作を買っていた。そして、だれかの下宿で徹夜麻雀するときなど、これとあとサニー・アデ(これもなぜかすごく流行っていた)の「シンクロ・システム」あたりが夜通しかかっていたものである。今聞いてみても、本作はすばらしいと思う。いや、というより、今聴いたほうが本作の価値がよくわかる(これをはじめて聴いた当時は、こういうフリーファンク的なものはいまいちなじめなかった。ビートが一定というのが生理的にあかんかったのであろう。なんでこれがフリージャズやねん、と思っていた。デファンクトとかもそう思ったし。つまりジャンルにとらわれていた最悪の聴き手だったわけです)。オーネットの入った「テールズ・オブ・キャプテン・ブラック」が最高というひともいるだろうし、本作と前後する「アー・ユー・グラッド・トゥ・ビー・イン・アメリカ?」のほうがいい、というひともいるだろうし、ライヴ感あふれる(つーかライヴだし)「ノー・ウェイヴ」とかのほうがいい、という意見もあるだろうが、私はやっぱりこのアルバムがいちばんかっちょええと思う。久しぶりに聴いてみると、いやー、やっぱりあのころ死ぬほど聴いただけあって、どの曲もよく覚えている。こういった演奏は、元祖的にはソニー・シャーロックであり、ジミヘンなのだろうが、暴走するノイズギターをコントロールしてファンクの枠組みのなかに叩きつけてグルーヴさせ、くわえて過激な歌詞を乗せて、ブラックミュージックとして完成されたものにしあげたのはウルマーの功績だ。独特の粘っこいノリはブルースからの伝統も感じられるし、デヴィッド・マレイ、オリバー・レイク、オル・ダラという豪華絢爛なホーンセクションの生み出すうねりもすごいし、各自のソロもいい(とくにデヴィッド・マレイ)。バックコーラスも効果的だ。もちろんアミン・アリ、カルヴィ・ウェストンという超絶のリズムセクションあってのことであり、このリズムセクションは私にはたとえばオデオン・ポープのリズム隊のコーネル・ロチェスター、ジェラルド・ヴィーズリーを思わせたりする。さて、本作などのもたらしたブームにのって来日したウルマートリオを聴きにいったが、な、なんと、ベースがいない。かわりにヴァイオリンが加わっている。ウルマーの音楽にはぶちぶちしたエレベは不可欠であり、自由でファンキーなベースラインのうえにウルマーが好き勝手にギターをぶちかますのがかっこいいのだから、ベースレスでどないするねん、と思っていると、なんとウルマーは自分のギターの調弦を客のまえで変えて、低音弦をぐーっとゆるめてベース代わりにした。そして、それを弾きながらソロもしようというのだ。聴いてみると、やはりかなり無理があった。あー、アミン・アリがいればなあ、と思いながらライヴハウスをあとにした記憶がある。その後、ウルマーは試行錯誤をくりかえして、最近もブルースをテーマにしたアルバムを出したりいろいろ活動しているようだが、この「フリー・ランシング」こそ彼の頂点を記録したものだと思う。今後、もう一発、聴衆の頬をひっぱたくような演奏を聴かせてほしいものだ。
「IN TOUCH」(DIW RECORDS DIW−826)
PHALANX
ファランクスというのは、じつはジョージ・アダムスにとってもウルマーにとっても、その代表作になりうるようなすごいバンドだったのではないかと思う。アダムスにとっての最高の相棒はドン・ピューレンだと思われているし、ウルマーは(たぶん)マレイだと思われているような気がするが、じつはこのアダムス〜ウルマーという組み合わせにおいて、最高の演奏が行われていたように思う。それぐらいここでのアダムスもウルマーもめちゃくちゃすごい、すごすぎるプレイを行っている。たとえばジョージ・アダムスといえば、ブルースに根差したかなりあざとい、くどい、くさい、シンプルかつエネルギッシュな演奏を身上としているように思われているかもしれないが、ここでの演奏は超知的でクールでしかもめちゃくちゃかっこいい。とくにソプラノでは、ちょっと従来のアダムスのイメージとはかけはなれたような鋭いフレーズを延々吹きまくり、ウルマーも「間」をいかした変態的なフレーズを積み重ねていく。とくにウルマーのソロは、「トリッキー」の一言で片づけられてしまいそうだが、じつは超繊細で、アイデアに満ち溢れている。そして大胆だ。もう美味しくてよだれが出まくる演奏だ。そして、アダムスのフルートは、おそらくだれもがカークの影響を指摘するだろうが、そういう表面的なものではなく、このディープでブラックでリリカルな表現に耽溺してほしい!と叫びたくなるほどすばらしい。案外、といったら叱られるかもしれないが、ラシッド・アリのドラムがすごくよくて、これは驚いた。リーダー作ではあんなに大味でパワードラミングなのに、ここではパワーはあるがシャープなドラムを聞かせてくれる。もちろんシローンのベースもいい。というわけで、このメンバーのうち半数が死去しているとは思えないぐらい想像的でパワーに満ちた演奏である。なんというか「やる気」をすごく感じるんだよなー。大傑作として大推薦します。
「ORIGINAL PHALANX」(DIW RECORDS 32DIW801CD)
ORIGINAL PHALANX
フェイランクスって何枚出ているのかなあ、と調べてみると、ジョージ・アダムス〜ジェイムズ・ブラッド・ウルマー・カルテットとして出ているのを含めると、あとDIWから2枚、メールスミュージックから1枚、そしてアメリカンリベレイションミュージックというところから出ている「フェイランクス・ライヴ」というのがあってどうやらこれはウルマーのライヴの物販とウェブ(今は閉鎖?)で売っていた限定盤らしい。ほかにもあるかもしれないが、まあざっと5枚とすると、このうち、アミン・アリのエレベとカルヴィン・ウェストンのドラムのものが3枚で、オリジナルな形、つまり、シローンのベースとラシッド・アリのドラムというのはDIWの2枚だけである。そのうちの1枚が本作で、今となってはもう再現不可能な顔ぶれだ。もともどフェイランクスはウルマー、アダムス、シローンの3人が固定であとは準レギュラー扱いなのだそうだが、このアルバムはウルマーが主導する感じでハードでうねうねしたインプロヴィゼイションが展開していく。アダムスも、アダムス・ピューレンバンドその他のときよりもこのグループのときがいちばん開放されているような、いきいきとした演奏をしているように思う(だからフェイランクスが好きなのだ)。とくに4曲目なんか、アダムスは会心の演奏ではないかと思う。ほかのグループではかならずといっていいほどこだわっているブルース的なものや、露骨すぎるほどの具体的なフレージングは徹底的に削除され、力強い音色による重量級のフレーズで勝負している曲が多い(6曲目、7曲目あたりはそうでもないけど)。このバンドでのアダムスとウルマーはまるで双子のようだ。そして、そこはかとなく漂う、このロフト感! これがいいのだ。真剣に聴かないとダレるが、ちゃんと向き合って聴けばこれほど面白いものもない、というのがロフトジャズですので、そこんとこよろしく。(ラシッド・アリ以外の)メンバー全員が曲を持ち寄ったとあるが、その曲がどれも、非常にドロッとした、ねっとりとしたブラックジャズのテイストのある、へヴィなもので、聴いているほうは気を抜けない。最後まで真っ向から聴くとへとへとになるが、これまたしつこいようだが、ロフトジャズというのはそういうもんなので、これでいいのだ! なお、CDはLPより1曲多く(ジョージ・アダムスの「ア・スマイル」というバラードで、この曲だけ、非常に泣けるメロディを強調した「あのアダムス」的な名曲なのだが、なぜカットされたのかわからないぐらいのええ曲ですよん)、「プレイグラウンド」という曲もカットのない完全バージョンで収められているらしい。帯の「ブラック・ジャズの逆襲」というコピーには笑ってしまったが、非常に中身の濃い傑作だと思います。
「IN THE NAME OF……」(DISK UNION DIW/COLUMBIA CK−67101)
MUSIC REVELATION ENSEMBLE
このアルバム、めちゃ好きなんです。ミュージック・レヴェレイション・アンサンブルのアルバムはたぶん7枚ぐらい出ていると思うが、最初はウルマー〜マレイのバンドなのかと思っていた。ベースはジャマラディーン・タクーマかアミン・アリで、ドラムはシャノン・ジャクソンかコーネル・ロチェスターとどちらも流動的だったからだが、最後のほうはマレイすら入っておらず、本作のようにアーサー・ブライス、ハミエット・ブルーイット、サム・リヴァース(!)が入れ替わり立ち代わり入ったり、ファラオ・サンダースが加わったりしているわけで、そうなると「ウルマーのバンド」ということでいいのか? で、本作だが、冒頭、おどろおどろしい雰囲気のコードが鳴らされ、剃刀のように鋭いギターのフレーズが炸裂し、重いドラムとアミン・アリのチョッパーが暗い空気をよけいにずぶずぶと暗くしていくなか、この録音時に70を超えていたサム・リヴァースのソプラノがそんな暗鬱な靄を切り裂くように鳴り響くこのかっこよさをなんと表現したらよいのか。めちゃめちゃええやん! 2曲目は一転して明るく適度にファンキーなオープニングだなあとおもったら、一筋縄ではいかないテーマがはじまる。ブライスのアルトソロは絶頂期から考えるとすでにけっこうへろへろだが狙いは定めてる感じ。ウルマーの武骨なギターは、つんのめったり、ひっかかったりするのを力づくで引き剥がしてガンガン前進していく。やはりすごい。そしてまた、なんだかわからんテーマが登場。変態やねえ。3曲目は速く激しいリズムとチョッパーベースのうえにバリトンサックスとギターが吹き伸ばし的なテーマを奏でる、これもおどろおどろしい曲。ブルーイットのバリトンが狂乱のソロをぶちまける(ブルーイットの参加はこの曲のみ)。ウルマーのソロは、ドルフィーとはちがった意味で「異世界の歌心」に基づいて演奏されているように思える。すばらしい。どうしてこのエグい曲「夜明け」というタイトルがついているのかは不思議。4曲目は一種のバラードのような感じだが、ドラムはドカドカ叩くし、ベースはチョッパーをぶちまけるし、ギターは例のごとくで、どこがバラードやねん! と怒るひともいるかもしれない。しかし、サム・リヴァースのフルートが終始幻想的な雰囲気を醸し出しており、やはりバラードだと思うのです。フルートとギターの斬りこみの妙が異常なハイテンションを感じさせる名演だと思う。5曲目はサム・リヴァースのテナーがすばらしい。思索的で、かつ野太くブロウしている。個性の塊のような演奏。つづくギターソロは、なんというか、カサブタを剥がしていくような嫌ーな痛みを感じる。そういうのが嫌いだというひともいると思うが、案外みんなこんなん好きちゃうん? 私はめちゃくちゃ好きです。かっこいい! 6曲目は、オーネット・コールマンの曲を想起させるような雰囲気。しかし、テーマが終ると、全員による集団即興になり(この曲は、だれのソロとかいうより全編そうなのです)、ここでのアーサー・ブライスはなかなか凄みのある演奏ですばらしい。ラストの7曲目は1曲目に戻ったような重たい変態ジャズファンク。ブライスも熱いし、ウルマーもドロドロだ。全曲すばらしいが、個人的にはサックスはサム・リヴァースだけにしてもよかったような気もする。それぐらいリヴァースの演奏が突出してすごい。もちろんウルマーも。傑作。
「ELEC.JAZZ」(DIW RECORDS DIW−839)
MUSIC REVELATION ENSEMBLE
正直なところ、デヴィッド・マレイにあまり関心がないので、ウルマーがらみだとフェランクスの諸作のほうがずっと好きなのだが、ハミエット・ブルーイット、サム・リヴァース、アーサー・ブライスの入ったアルバムがことのほか気に入ったので、本作も久々に引っ張り出して聴いてみた。本作では、ドラムがコーネル・ロチェスターでベースはアミン・アリ。アミン・アリのチョッパーはいつ聴いてもファンキーでかっこいいよねー。ドラムもドファンクでヘヴィかつ柔軟だし、もちろんウルマーのぎくしゃくした、いびつな音使いの、しかもめちゃくちゃかっこいいギターもすばらしい(ぺんぺんした硬い音はTボーン・ウォーカーみたいだ)。あとはマレイががんばってくれれば大傑作になるところなのだが、どうもいまひとつピリッとしないなあ。マレイは好調不調の波があり、しかもそのことを自分で意識していないと思われる。ものすごいブロウをするのも、大味で雑なブロウをするのも、たまたまそうなった……という感じで、そのあたりが天才的なのかもしれないが、聴いているほうにとってはけっこうつらい。マレイの実力をもってすれば、もっとドスのきいた、腰の入った演奏がいくらでも可能だと思うのだが、なぜかこういうわざと外したようなフレージングで真っ向勝負しないのである。テナー奏者としての力量はすばらしく、高音の伸びや低音の迫力なども本作でも十分聞き取れるのだが、いかんせん表面を撫でたような感じに聞こえるのはなぜだろうか。曲もよくて、全曲ウルマーのオリジナルらしいが、ウルマーの作曲能力の非凡さもわかる。あー、あとはマレイやねんけどなー。もしかすると、ここでのマレイをものすごく気に入るひともいるかもしれないし、私の馬鹿耳のせいなのかもしれないとは思うが……。さっきも書いたが、ウルマー〜アリ〜ロチェスターはすばらしいし、かっこいい瞬間も多々あるので、聴く意味は十分にあるアルバムだとは思います。
「BABY TALK」(TROST RECORDS/THE THING RECORDS TTR006CD)
JAMES BLOOD ULMER WITH THE THING
私が学生のころ、「フリー・ランシング」」「アー・ユー・グラッド・トゥ・ビー・イン・アメリカ」「テールズ・オブ・キャプテン・ブラック」などで我々の度肝を抜いたウルマーだが、最近はブルースっぽい、というか、ブルースを素材として扱うというより、本当にブルースギタリストみたいなアルバムを出したりして、うーん、こんな風になってしまったのか、と思っていたら、いやいやいやいや、そんなことはないのだった。本作はザ・シングとの共演でウルマーが新しい姿を見せてくれた一枚である。「フリー・ランシング」のころのようにギターのギャアンというコード一発でこちらをのけぞらせるような演奏ではないが、過激なメロディ、ハーモニー、リズムは健在で、彼のいう「どんなときもハーモロディック的に弾くんだ」という言葉を裏付けるような弾き方である。(それがどういうものであるかはわからないが)独自の理論に忠実な、しっかりと地に足のついたプレイであり、彼の弾く音ひとつひとつが共演者へのていねいな反応になっていて、それによってマッツたちも刺激されすばらしい演奏をしている。結果オーライである。全体として、非常にバランスのとれた、しかもアヴァンギャルドな音楽になっていて、心地よすぎる。レギュラーバンドのように4人がしっくりと会話しまくっていて、楽しい楽しい。録音もよくて、4人がなにをやっているのかはっきりわかる。マッツもバリトンだけでなくテナーを吹きまくってくれているし、ニルセンラヴも当然ながらめちゃくちゃ凄い。フラーテンも刺激的なラインを繰りだしまくっている。そういう彼らの激しい演奏に対してウルマーがにやにやしながら応えているさまが浮かんでくる。基本的には全部ウルマーの曲だが、それをベースにした即興と考えていいのではないか。再演というか、このユニットの継続を希望したい。そして来日もしてほしい。そんな風に思わせてくれるアルバムでした。傑作。