ken vandermark

「STRAIGHT LINES」(ATAVISTIC ALP115CD)
KEN VANDERMARK’S JOE HARRIOTT PROJECT

 Vandermark5からアルトサックスを引いたようなピアノレスカルテット。曲は全部ジョー・ハリオットという黒人アルト奏者のもの。ハリオットはジャマイカ出身でイギリスで活躍した人で、「アブストラクト」とか「フリー・フォーム」というアルバムでフリージャズの先駆的な演奏をしたが、作曲にも秀でていた。このアルバムは、こまれでにフリージャズの先駆者たちへのデディケイトを重ねてきたヴァンダーマークがひとつのプロジェクトとしてハリオットの作曲にスポットライトを当てたものだが、ハリオットの曲は基本的にモンクを連想させ、その枠内でヴァンダーマークたちがソロを吹く。4ビートのうえにややフリーがかったソロを乗せるという、こういう設定でのヴァンダーマークは、非常に端正な演奏に聞こえる(メシャ・メンゲルベルグのアルバムでモンクの曲をやったのがあったが、ああいう感じ)。聴きどころは多いが、ヴァンダーマークにいつもの暴れぶりを期待する人には物足らないかも。

「DESIGN IN TIME」(DELMARK DE−516)
KEN VANDERMARK’S SOUND IN ACTION TRIO

 傑作である。ふたりのドラマーとヴァンダーマークのサックスという変則トリオで、自作4曲にくわえ、オーネット・コールマン、アイラー、ドン・チェリー、サン・ラ、セロニアス・モンクの曲を演奏している。だいたいがドン・モイエにしろスティーヴ・マッコールにしろ、シカゴ系のドラマーはもっちゃりしている(←偏見)のに、それがふたりというわけで、リズムは非常にもちゃっとした感じ。ツインドラムで大迫力というのとはちがって、ひとりでもよかったんじゃないのと言いたくなるような場面も多い。それに、ヴァンダーマーク自身が、ドラムとサックスのデュオ、みたいな形式の演奏から連想されるブローにつぐブローというのではなく、ほとんどベースがいるのと同じような、コード進行をきっちりおさえた、明確なフレーズを積み重ねるようなソロをしている。つまり、どうしてベースレスの編成にしたのかよくわからないような内容だ。昔は、ベースレスというと、コードの呪縛から自由になるとか、重く引きずる低音部をカットして飛翔するような演奏を志向していると考えられたが、ヴァンダーマークのこのアルバムはそういった意図ではなかろう。要するに、単にこういうサウンドが欲しかった、というだけではないのか。アイラーの曲が一番、普段のヴァンダーマークに近いというか強烈なテナーブローが聞けるが、ほかの曲、とくにクラリネットやソプラノを吹いた曲は、どれも内省的で、全体のサウンドに意を配った即興が行われている。何度聴いてもいい。

「NO SUCH THING」(BOXHOLDER BXH018)
KARAYORGIS・MCBRIDE・VANDERMARK

 毎夜のようにヴァンダーマークを聴いている私としては、あまり聴かない一枚。パンデリス・カラヨーギス(と読むのか)というピアニストと、スペースウェイズ・インクなどでおなじみのネイト・マクブライドのベース、そしてヴァンダーマークというトリオ編成。ヴァンダーマークの曲は基本的にはチューンの体をなしているが、あとはだいたいフリーインプロヴィゼイション。ピアノがあまり暴れないせいもあるのか、全体にもそもそした即興が続き、どうも聴いていてスカッとしない(べつにスカッとするのがいいとはいわないが)。ヴァンダーマークもクラリネット主体でごちょごちょ吹いており、そういう意味で、三人の絡み合いを聴くべきアルバムであることはわかっているのだが、ベースがなぜかラインを弾いていたりして、よくわからない(だいたい私がフリーインプロヴィゼイションなるものをよくわかっていないのだろうけど)。ときどきハッとするような聴くべき箇所があるのだが、それはたいがいヴァンダーマークによってもたらされる状況であるし、盛り上がる場面がたいがい予定調和的であるのもなんだかなあ。でも、今回、この稿を書くために久しぶりに3回続けて通して聴いたが、よくわからんなんやねんこれと言いつつも、3回ともちゃんと聴けたのだから、やっぱり私はヴァンダーマークが好きなのだろうなあ。

「SIMPATICO」(ATAVISTIC ALP107CD)
THE VANDERMARK5

 ヴァンダーマーク5の良さは、作曲と即興のバランスにあると思う。だから、アルバムの印象は、作曲のよしあしに左右されることが多い。このアルバムは佳曲が多いが、どれもちょっと地味なので、全体としても地味な感じである。しかし、バスクラ主体のどろどろした曲、おなじみの集団即興、ヴァンダーマークのテナーの咆哮、ネオ・ビバップ風の曲、トロンボーンのジェブ・ビショップがギターに持ち替えたぐしゃぐしゃの曲(あれだけ端正にボントロを吹くのにギターになると豹変)、トロンボーンをフィーチャーした、エリントンサウンド風の曲などなどいつものように見せ所、聴かせ所は満載。何度聞いても楽しい好盤。でも、いつも思うのは、ドラムがニルセンラヴだったらなあ……ということ。このドラムの人、いちばんジャズ寄りかも。アルトはデイヴ・レンフィス。この人は、きっちり吹く人で、音色に個性がないので、マーズ・ウィリアムスに比べると存在感が薄いが、それでもがんばっております。

「ACOUSTIC MACHINE」(ATAVISTIC ALP128CD)
THE VANDERMARK5

 ヴァンダーマーク5のアルバムとしては、かなり好きなほう。アルバムタイトル通り、アコースティックな楽器編成で、いつものようなややエグ目の曲を演奏するというコンセプトのアルバムと思う。だから、ジェブ・ビショップも例のノイズギターは弾かず、トロンボーンに徹している。曲の合間合間にHbfというショートショート的な短い演奏を挟むという形式になっていて、それがペースチェンジになり、各自のソロのよさもあって、聞き出すと最後まで聞いてしまう。しかし、アコースティックに徹するというしばりのためか、「エグ目のハードバップバンド」に聞こえないこともないが(ドラムのせいもある)、まあ、もともとヴァンダーマーク5ってそういうとこあるし。曲、アンサンブルと各人のソロを楽しむには最適だが、毒気が少し少ないという感じか。みんな、本当にうまいので、あれよあれよというまに聞いてしまうが、聞いていて「どひょー、すごいっ、うぎゃーっ」と叫ぶ……ということはない。アルトはデイヴ・レンフィス。しかし、考えてみれば、ヴァンダーマーク5って、ファーストエディションと編成同じである。一番のちがいは、ファーストエディションはドラムが芳垣さんだったこと。ヴァンダーマーク5のドラムが芳垣さんだったらなあ……。しかし、東西の雄がいずれも同じ編成のグループを率いていた(いる)ことは興味深い。

「TRANSATLANTIC BRIDGE」(OKKA OD12040)
TERRITORY BAND−1

 ヴァンダーマーク好きでは人後に落ちない自信のある私だが、この「テリトリーバンド」だけは今のところ、どうもぴんとこない。現在2枚のアルバムが出ており、これはその1枚目だが、残念ながら2枚ともいまひとつな感じである。ヴァンダーマークビッグバンド的な試みであり(ヴァンダーマーク5と重なっているメンバーが大半だが)、個々のソロも含め、それなりにおもしろくなりそうな瞬間もあるのだが、どうものりきれないのはなぜだろう。つまらんアルバム、ということはないが、これならヴァンダーマーク5とかDKVトリオとかスクールデイズとかのほうがいいんじゃないの? と思ってしまう。大編成にした意味がいまひとつわからんのである。そういう意味では、聴いていてはがゆいアルバム。冒頭のヴァンダーマークやジェブ・ビショップのソロなど、なかなか熱いし、2曲目の7分過ぎあたりと14分過ぎあたりでかなり長い時間無音になるあたりはスリリングといえばスリリングだが、とくに集団即興の部分がだれるのは人数が多いせいかもしれない。

「FURNITURE MUSIC」(OKKA OD12046)
KEN VANDERMARK

 即興によるサックスソロというのは、その演奏家自身が露骨に出てしまうから、バンドでやるとかきちんとした曲をやるとかいう場合はごまかせた未熟さがはっきり見えてしまう、ある意味、非常にこわーい演奏形態である。こんにちの管楽器のインプロヴァイザーにとって、ソロはどうしても避けて通れない道だが、なかにはその困難な道を主たる演奏形式として選択する人々もいる。阿部薫、カン・テーファン、エヴァン・パーカー……といったプレイヤーたちは、他人との共演よりも、ソロが演奏活動の中心である(エヴァン・パーカーはちょっとちがうか)。ソロというのは、いまさらあらたまって書くことではないが、「他人からの触発、刺激などを遮断し、そのかわりに自己を見つめ、そのなかからあふれるものを楽器を通じて表出する」ということだから、「自己を見つめてみたんですけど……なーんにもありませんでした。だから、何も吹けませーん」ということになってはおしまいなのである。自分が、どれだけ「吹きたいこと」を持っているか、引き出しが多いか……みたいなことが全部バレてしまうのだから。たいして吹きたいこともないのに、むりやり自分を昂揚させて、ぎゃーぎゃーぴーぴー吹けばいい、というソロは聴いていて一発でわかってしまうのである。というわけで、このアルバムであるが、ヴァンダーマーク初の完全ソロアルバム。タイトル通り、彼が自宅で演奏したものがおさめられている(一部、ライブ録音の音源もあり)。かなり期待して聴いたのだが、一曲目を聴いたとき、なんでエヴァン・パーカーの真似みたいなことしとんねん? と疑問を抱いた(ただし、ソプラノではなくクラリネットソロ)。しかし、これはエヴァン・パーカーに捧げた演奏だったのである。二曲目の暴発するバリサクソロはブロッツマンに捧げたもの、というように、一曲ずつ誰かへの献辞になっているのだ。レニー・トリスターノやジョン・ケイジ、ミシシッピ・フレッド・マクダエル、果てはジャクソン・ポロックやモンドリアン、ミケランジェロといった画家にまでそのトリビュート対象は広がっている。そして、たとえばポロックへの捧げものと思って聴くと、なんとなく標題音楽のように聞こえるから不思議である。ヴァンダーマークが、気負わず、適度に力を抜き、かといって弛緩することなく演奏した18曲がおさめられており、どこから聴いても無数の引き出しが開き、いろいろと違った顔が見えて、ヴァンダーマークのふところの深さを感じる一枚。

「TRIGONOMETRY」(OKKA OD12042)
DKV TRIO

 ヴァンダーマークの率いている多種のグループのなかで、一番好きなのはこのDKVトリオである。私の好みとして、・できるだけ小編成で ・管楽器が参加していて ・ドラムが強力で……という条件があるが、そのすべてを満たしているのだ。そのDKVトリオの諸作のなかでも1、2を争う傑作だと思う。2001年のアメリカ国内のツアーの様子をおさめた2枚組で、1枚目はニューヨークでのライブ、2枚目はカラマズーでのライブであり、1枚目と2枚目は選曲的に3曲重なっている。ひとつのアルバムとして考えると、かなり異例のことだとは思うが、聴いてみると、そうしたくなる気持ちはわかる。まるでちがった演奏だし、甲乙つけがたい。しかし、ほんとにいいバンドですよね。選曲的には、「アウェイク・ヌー」、「ザ・シング」、「ブラウン・ライス」、「エレファンタジー」などドン・チェリーの曲が多く、テナー、ベース、ドラムという編成からも、マッツ・ガスタフスンの「ザ・シング」バンドを連想せざるをえないが、これはこのふたりのテナー奏者の好みというかルーツが(国籍はちがっても)共通であることの証明だ。さて、このアルバムだが、とにかく熱い。1枚目1曲目の「アウェイク・ヌー」は20分を超える大作だが、途中ヴァンダーマークは同じリフを常識を越えた回数延々と吹き続ける。最初は何考えとんねんと思って聴いているが、だんだん狂気が感じられてき、それが「かっこええ!」と変化していく。この充足感がたった3人の奏者から生み出されていると思うと、やはりこのトリオは世界有数のレベルにあると思う。2枚目の白眉は1曲目のロリンズの「イーストブロードウェイ・ラン・ダウン」で、とにかくめちゃめちゃかっこええ。こういう選曲にも、ヴァンダーマークのセンスが光る。共演のケント・ケッセラー、ハミッド・ドレイクもめちゃすごくて、2枚を楽々聴きとおすことができる充実の2時間強。DKVトリオからどれか一枚となったら、これを強く推薦いたします。

「TWO DAYS IN DECEMBER」(WOBO12)
KEN VANDERMARK/RAYMOND STRID/STEN SANDELL/DAVID STACKENAS/KJELL NORDESON

 北欧の新進ミュージシャン(と思う)4人とヴァンダーマークがそれぞれデュオを行った力作2枚組。4人をヴァンダーマークに紹介したのは、今や北欧フリージャズのドンともいうべきマッツ・ガスタフスンらしい。ドラムはレイモンド・ストリッドという人。なかなかよいが、荒い感じ。ピアノはステン・サンデルという人。これも、同じような印象。ギターハデヴィッド・スタッケナス(と読むのか)という人。この人とのセットがいちばん個人的には気に入った。パーカッションはなんとかノルデソン(読めない)という人で、AALYトリオのドラマーでスクールデイズの2枚目(イン・アワ・タイムズ)でビブラフォンを叩いていた人。ここでも、いわゆるラテンパーカッションではなく、クラシックの教育を受けたと思われるパーカッション類を叩く。ちょっと手探りな感じがする。全体に、ヴァンダーマークは絶好調で、彼だけ聴いているぶんにはすごくいいのだが、なにしろデュオというのは、相互に50パーセントずつ出し合わねば成立しないわけで、トリオとかカルテット、クインテットあたりの編成ならば、中でひとりぐらい弱いメンバーが混じっていても、ほかのみんながおぎなうことができるが、デュオはそうはいかないから、ヴァンダーマークがいくらよくても、音楽としてはやや弱いものになってしまう。4人とも、きっとマッツ・ガスタフスンが日常的に共演している人たちではあろうが、なんとなく、ヴァンダーマークが北欧の若手に「教えてやってる」感じがつきまとう。まあ、こういうアルバムは何も考えずに無心で音を楽しめばいいのであって、デュオばかりで二枚組というのは、そういう意味ではなかなかお得である。でも、滅多に聴かないなあ。なぜかジャケット背は「トゥー・デイズ・イン・シカゴ」というタイトルになっているが、ストックホルムにおける録音。

「CROSSING DIVISION」(OKKA OD12037)
SCHOOL DAYS

 たぶんこれが初アルバムのこの「スクールデイズ」というグループは、ヴァンダーマークとトロンボーンのジェブ・ビショップがフロントで、リズムがガスタフスンの「ザ・シング」のレギュラーで弾いているベースのインゲブリット・ヘイカー・フレイテン(と読むのでないことはまちがいないが、全然読めない)とおなじみニルセンラヴというカルテット。つまり、シカゴ組二人とノルウェー組二人という組み合わせだが、ようするに、ヴァンダーマークがニルセンラヴとレギュラーバンドを組んだというのが眼目だと思われる。ガスタフスンの「ザ・シング」からリズムセクションはそのまま、フロントを入れ替えた、ということになるが、トロンボーンが入っているせいか、「ザ・シング」のように「ドン・チェリーの曲を媒介に、ガスタフスンとニルセンラヴが壮絶なタッグを組んだ」みたいな直情的な感じにはならず、ヴァンダーマーク5とDKVトリオのちょうど中間のような音楽性のものとなった。構成のしっかりした曲が多く、なかには新主流派のジャズグループだといっても通りそうなものもあり、それもまたよしなのだが、やはりこちらとしてはヴァンダーマークとニルセンラブが「デュアル・プレジャー」みたいにガンガンいくのを期待してしまう。めちゃめちゃいい曲が多いし(二曲目は、なんと北野武に捧げた曲)、構成もきっちりしていて破綻もなく、しかも、ヴァンダーマークもビショップも絶好調に吠えまくっているし、もちろんリズムの二人も最高で、全編聞き所満載のアルバムだが、うーん……ビショップのトロンボーンはすばらしくて、このアルバムの顔のひとつといってもいいぐらいなのだが、個人的な趣味でいうと、できればボントロ抜きのトリオで聴きたかったなあ。編成は小さければ小さいほうが、パワーがぎゅうっと凝縮して、ヴァンダーマークの過激さが生きるような気がする。過激であればいいというもんではないけれど……。とかいってたら、スクールデイズの二枚目は、おいおいなんとビブラフォンが加わってクインテットになってしまったじゃん。

「IN OUR TIMES」(OKKA OD12041)
SCHOOL DAYS

 スクールデイズのたぶん二枚目である。一枚目はシカゴ録音で、こっちはノルウェイでのライブ。このグループがシカゴ組と北欧組の合体バンドであることを物語っている。今回は、ヴィブラフォン奏者(AALYトリオのドラムでツー・デイズ・イン・ディッセンバーでパーカッション類を叩いていたひと)を加わったクインテットになっている。このバンドは、DKVトリオとヴァンダーマーク5の中間的な感じ、とは前作を聴いたときの印象だが、本作は、メンバーが増えた分、ヴァンダーマーク5により近くなっているように思う。しかし、このヴァイブの人の参加はあまり効果があがっているようには思えないなあ。AALYトリオでのドラムはかっこええのに、ヴァイブという楽器を選択したのがよくなょのか。人がソロをしているバックで、ヴァイブの音が常に鳴っているのだが、バッキングとしてはいまいちだし、時としてうるさいし、なくてもいいように思う。それに、ソロも、せっかくの無伴奏ソロやドラムとのデュオの場を与えられているのに、中途半端な感じに終始している。ヴァイブという楽器は、カール・ベルガーなんか聴いてもそう思うが、キラキラした音で鳴って、かっこいいことはかっこいいのだが、音量がそれほど変わらないし、ここぞという時に一発決める、いわゆる「ブロウ」がなく、ニルセンラヴやヴァンダーマークといった猛者たちのあいだに入ると、どうも聴きおとりする。彼らが、ぐわーっと昂揚したときに、それに応えるような演奏ができればいいのだが……。楽器の特性というのはそれぞれあるわけで、その楽器なりに工夫して、こういったフリーよりのジャズに対応できるように考えなければならない。そのあたりが、この人の参加に疑問を感じる点なのである。ほかの参加者はそれぞれみながんばっていて、とくにヴァンダーマークは前作を上回るような熱演であり、曲もアレンジもかっこよくて(とくに、ラストのドン・チェリーの「エレファンタジー」はDKVトリオのアルバムでも演ってたけど、めちゃかっちょええ)、リズムはニルセン・ラブになんとかフレイテンで言うことないし、ビショップはいつもどおりの豪快さ……というわけで、悪いわけはないのだけれど、なんとなく全体に新主流派的で、腹にずっしりくるような聴き応えはあるが、「どひゃーっ、すごいっ。うそーっ、信じらんなーい」という凄みはない。もっとめちゃめちゃにしたらいいのに、というのは、聴き手の勝手な感想である。

「BARAKA」(OKKA OD12012)
DKV TRIO

DKVトリオのかなり初期のアルバム(「DKVトリオライブ!」というタイトルのアルバムがあるから、それが実質デビューだと思うが、未聴なの)。長尺の演奏が並び、なかでも表題曲の「バラカ」は36分の大作。長いだけに聴いていてさすがに中だるみする箇所もあるのだが(とくにスローになる箇所)、それは聴き手のテンションが持続しないからであって、演奏者の3人は、徹頭徹尾真摯な演奏に徹している。最近の彼らの演奏のように、フリージャズスタンダードをやったり、演奏にゆとりや遊び心があったりはしないが、とにかくまじめにまじめに重く押してくる。そのストレートさが、聴いていてしんどくなるときもあるが、ここは彼ら3人のやる気と真剣さを買うべきだろう。見せ場も多く、ドレイクとヴァンダーマークの激しいデュオになるところなど、思わず興奮する。問題はやはり即興のスロー系か。今なら楽勝にこなすのにね。こっちの体力があるときしか聴けない力作。

「DOUBLE OR NOTHING」(OKKA OD12035)
AALY TRIO/DKV TRIO

 AALYトリオにヴァンダーマークが客演したアルバムは何枚もあるが、これはそのAALYトリオに、ヴァンダーマークのDKVトリオが加わり、がっぷり4つに組んだ、いわば「ダブル・トリオ」とでもいうべきアルバム。オーネット・コールマンの「フリー・ジャズ」は「ダブル・カルテット」と称されたが、そのあたりをねらったのかもしれない。おなじみのアイラーの曲やドン・チェリーの曲もとりあげており、聴く前から期待ははねあがる。実際、聴いてみても、冒頭いきなりはじまり、延々とつづくドラマーふたりのバトル(なかなかすごいです)や、ガスタフスンとヴァンダーマークの暴力的な吹きあいなど、聴きどころも多いし、とても盛りあがる。2曲目頭のベースふたりのアルコ合戦がちょっとだれるが、そのあとの展開は手に汗握る。途中、ちらっとアイラーの「エンジェル」のテーマが出て、そこからまた吹きあいになり、最後、ドン・チェリーの「アウェイク・ヌー」のテーマとともに唐突に終わる。「エンジェル」や「アウェイク・ヌー」のテーマはほとんど演奏をとめたり、はじめたりするきっかけとしか扱われておらず、実質的にはほぼ全編、リズム主体のフリーインプロヴィゼイションである。すごくかっこいいし、エキサイティングなのだが(とくに、ツインドラムの過激なリズムにのって、肉声をまじえながら吹きまくるガスタフスンのソロには興奮しまくり)、ダブルトリオにした意味はあまり感じられない。単にツインドラム、ツインベースのバンドにフロントふたり、という感じなのである。もう少し、ゆっくりした曲をやったら、AALYトリオ対DKVトリオという様式がくっきりしたかもしれない。便宜上、ヴァンダーマークのところに入れたが、双頭リーダー作というべきであろう。

「SINGLE PIECE FLOW」(ATAVISTIC ALP47CD)
THE VANDERMARK5

 ヴァンダーマーク5のアルバムとしては最高傑作のひとつ、といっても過言ではないかもしれない(微妙な言い方)。とにかくめちゃめちゃかっこいい。全曲ヴァンダーマークの曲だが、曲と演奏とソロが一体となり、うまくバランスがとれている。ソロもヴァンダーマークをはじめ、マーズ・ウィリアムスもビショップもすごいし、このバンドのドラマーはいつもやや物足りないのだが、このアルバムに関しては迫力十分のバッキングを展開している。この盤など聴くと、やっぱりヴァンダーマーク5はマーズ・ウィリアムスがいたこの頃がベストかなあ……とついつい思ってしまうんだよなあ。今のデイヴ・レンフィスもいいアルトなのだが、マーズの昂揚に比べるとちょっとね。とにかく、しょっちゅう聴いてしまう超愛聴盤。聴き終えたら、また最初から聴きなおしたくなり、そのたびにあらたな発見がある。ヴァンダーマークをはじめて聴くという人にまずは自信をもってすすめたいアルバムである。まあ、未聴のかたは聴いてみておくんなさい。

「FREE JAZZ CLASSICS VOLS. 1 & 2」(ATAVISTIC ALP137CD)
THE VANDERMARK5

 ヴァンダーマーク5がフリージャズクラシックに挑んだライブ盤二枚組。以前は、ヴァンダーマーク5のアルバムのおまけについていたものが、単独で発売された。全13曲、手抜きなし。選曲も、誰もがやりそうな曲はさけ、マニアックかつおいしいところを選んでいる。オーネット・コールマン、ドルフィー、サン・ラ、ドン・チェリー、セシル・テイラー、ブラクストン、シェップ、カーラ・ブレイ、ジミー・ジュフリー、ジョー・マクフィー、フランク・ライト、レスター・ボウイ……と作曲者のラインナップを見てるだけで楽しいし、内容への期待がふくらむ。フランク・ライトの曲なんかやるやつ、ほかにおらんで。しかも、我々が知らないような、ええ曲を選ぶんだ、また。ヴァンダーマークはもちろんのこと、ほかのメンバーも気合い十分の演奏をしているので、2枚組ではあるが、通して聴き通せる。ただし、ひとつだけ気になるのは、これはヴァンダーマーク5というグループ自体の問題なのだが、もともとこのバンドはヴァンダーマークの曲を演奏するというコンセプトで、即興の部分はあくまでコンポジションの構成によりかかっている。だから、ヴァンダーマークがどんな曲を持ってくるかが大事であって、一枚のアルバムとして飽きのないものを作ろうとすると、曲のバラエティが問題になる。それも、テーマがあって、そのあとソロ回しがあって、リフがあって、またテーマ……という展開では、ソリストが決まっているだけに、どの曲も同じような印象を受けることになる。だから、ソロの中身までも変えてしまうような、そういう強烈なコンポジションを用意することが必要なのだ。しかし、この二枚組は他人の作品なので、そこまで注意がいきとどかなかったのか、だいたい曲の展開が似通っていて、充実した演奏ではあるが、やや飽きる。この人のこの曲をどう料理してるかな、という興味で聴きとおすことはできるが、残念ながらどの曲もおんなじような感じになってしまう。そこが唯一残念かも。でも、たいへんに意義のあるプロジェクトだと思う。あと、フリージャズに「クラシック」があるという点がそもそも問題かも……と思ったり。

「INTERNATIONAL FRONT」(OKKA OD12005)
STEELWOOL TRIO

 94年の録音。このグループでもう一枚吹き込みがあるかな。よくわからん。うーん、ヴァンダーマークで未聴のものはめちゃめちゃ多い。なんとかならんか。とにかく、DKVトリオやヴァンダーマーク5、その他のフリーインプロヴィゼイションなんかのエッセンスがぎゅっと詰まった、ヴァンダーマークの原点のような作品。作曲と即興の両方に重きを置いている点、全曲がヴァンダーマークのオリジナルである点、各自のソロ部分、デュオ部分、トリオ部分をまんべんなくフィーチャーしている点、どれが主奏楽器というわけでなく各種サックスと各種クラリネットを均等に使い分けている点……まさに、今、ヴァンダーマークがやろうとしているのはこのアルバムに収録された各曲のアイデアをふくらませ、発展させたものといえるのではないか。ヘビーな曲、短編小説のような曲の両方がうまく配置され、演奏はきわめて真摯であり、好盤である。これを録音した時点で、すでにヴァンダーマークは「カフェイン・カフェイン」、「スタンダーズ」、「ソリッド・アクション」、それにNRGアンサンブルの「コーリン・オール・マザーズ」という4枚のアルバムを録音しているらしく(どれも未聴)、若くしてたいしたやつなのである。どれも聴いてみたいのである。

「BLOW HORN」(OKKA OD12019)
FJF

 便宜上ヴァンダーマークのところに入れたが、これは、誰のリーダー作ということではなく、FJFというバンドらしい。アルバムタイトルもそっけないが、たしかに中身を聴いてみると、ふたりのホーン奏者がただひたすらブロウするという内容であって、看板にいつわりはない。まあとにかく、やかましいアルバムであることはまちがいない。日頃、サックスがぴーぴーぎゃーぎゃー叫びまくるやつばっかり聴いているこの私が、聴いていて、思わず「やかましいっ」と叫んでしまいたくなるほどなのだ。しかし、ヴァンダーマークとガスタフスンて、このころからつるんでいたんだなあ。95年の録音である。今となってはおなじみの顔合わせだが、これが(アルバム上の)初邂逅なのだろうか。個人的にはすごく好きだが、一般的評価はわからん。鳴りまくるサックスの響きが怒濤のごとく押し寄せる、ゴリゴリの、古いタイプのフリージャズ。しかも、超上質。ええなあ。同好の士には強く推薦。

「THIRTEEN COSMIC STANDARDS BY SUN RA & FUNKADELIC」(ATAVISTIC ALP120CD)
SPACEWAYS INCORPORATED

 これは傑作である。ヴァンダーマーク、マクブライド、ハミッド・ドレイクというトリオで、要するにDKVトリオからベースを換えただけのメンバーなのだが、受ける印象はまるでちがう。ベースが、半分、エレベを弾いているということもあるかもしれないし、リズムが基本的にファンクや8ビートだということもあるかもしれないが、一番大きな相違点は、これがコンセプトアルバムだという点である。なんと、サン・ラとファンカデリックの曲を一曲ずつ交互に演奏しているのだ。この着眼点がすごい。このアイデアを思いついた時点で、このアルバムは傑作となるべく運命づけられていたと思われる。とにかくかっこいい。ピアノもギターもいないので、音はスカスカだが、とにかく重い。重量級のリズムに載って、ヴァンダーマークがこれまた重く、ねちっこく吹きまくる。それに、選曲がよい。どれもかっこええ曲ばっかで、つるつるつるっと全曲聴いてしまう。ほとんど満点合格のアルバムなのだが、唯一、あえて欠点をいうとすると、1曲目にゆっくりしたバラード風の曲を持ってきた点であり、二曲目からはじめたら、このアルバムは満点(1曲目が悪いというわけではなく、順番を入れ替えろということ)。二曲目は、とにかく「がつーん!」と来るからね。1曲目のスローは、サン・ラが、「これから我々のミスティックワールドへあなたをいざないますよー」的にオープニングでよくやっていたようなタイプの曲なので、冒頭に持ってきた意図はわかるが、もうちょっと短ければよかったと思う。それ以外は、とにかく文句のつけどころのない、何度も何度も繰り返し聴ける傑作です。

「VERSION SOUL」(ATAVISTIC ALP132CD)
SPACEWAYS INC.

 スペースウェイズ・インクの(たぶん)2作目と思うが(1枚目は「インコーポレイテッド」だが本作は「インク」と略した表記になっている)、メンバーは一緒だし、演奏レベルも高いし、曲もなかなかいい……というわけで、同じような傑作になるはずなのに、なぜか感触はかなりちがう。もちろん、すごくいいアルバムではあるが、こっちは全曲、ヴァンダーマーク(一部マクブライド)のオリジナルで固められており、つまり、DKVトリオと印象が一緒なのだ。1枚目が傑作になったのは、サン・ラとファンカデリックの曲をピアノレストリオで交互に演奏する、というすばらしいアイデアのせいであって、二枚目も、そういった「何か」が欲しかった。このバンドの存在意義というか、ほかのヴァンダーマークのバンドとの差別化がとはかれていないと思うわけである。ところが……不思議なもので、このアルバムもよく聴くんですな。一枚目のほうがずっとすぐれているとは思うが、このアルバムも捨てがたく、大傑作ではないかもしれないが、愛聴盤の一枚ではあるのです。ロリンズでいうと、完璧な「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」よりも、その残りテイク集を聴くようなものか。全然ちがうか。

「FURNANCE」(WOBBY RAIL WOB013)
FREE FALL

 室内楽的前衛ジャズの先駆的存在ジミー・ジュフリーに捧げたアルバム。バンド名もジュフリーのアルバムからとられた。ドラムレスのトリオ編成で、ヴァンダーマークもクラリネットしか吹いていないというところからもわかるが、非常に静かで、いつものヴァンダーマークのような激しさはあまり表に出ないが、さすがにヴァンダーマークはクラリネットにも定評があるだけのことはあって、静かではあるが実はかなり過激なインタープレイや内に秘めた炎が楽しめる。フリージャズとか、DKVトリオその他でのヴァンダーマークからは想像できないような、しみじみとした作曲と即興の融合が心に迫る。

「RADIALE」(ATAVISTIC)
ZU & SPACEWAYS INC

 バリトンサックスのルーカ・T・メイ(と読むのか?)のピアノレストリオ「ズー」と、ヴァンダーマークのおなじみのピアノレストリオ「スペースウェイズ・インク」が合体した企画。最初の4曲は、ズーにヴァンダーマークが参加したカルテットで、残りの4曲は、ズーとスペースウェイズ・インクが合わさった2ドラム、2ベース、2サックスの6重奏団。ズーのほうのベースはえぐい音色のエレベをぶんぶんいわし、ドラムもかっこいい。ヴァンダーマークとの相性もばっちりだ。あとのほうの4曲のダブルトリオは、インストゥルメンタルファンクで、全部、マイナー系のリフ曲ばっか。度迫力のツインドラムを中心に、めっちゃかっこええが、ふたりのサックスの即興的バトルを聴く……というようなおもしろみは少ないので、それを期待するむきには物足らないかも。でも、かっこええでー。知っている範囲であえて、似た感触のバンドをあげると、たとえばツインドラムス、ツインベースだったころの生活向上委員会とか、オデオン・ポープのトリオとかかも。しかし、このブリブリ吹きまくるバリトンの人、全然知らないのです。世の中は広い。

「ATRAS」(OKKA OD12050)
TERRITORY BAND−2

 ヴァンダーマーク仕切るところの大編成バンド、テリトリーバンドの二作目。正直言って、1枚目よりずっとずっといい。なんでこの編成なの? という疑問はあいかわらずだが、そういうごちゃごちゃしたことを吹っ飛ばすほど、演奏そのものが熱い。ヴァンダーマークは各曲で入魂のブロウをするし、今回はメンバー的にも、アトミックのテナー奏者フレデリック・リュンクビストやチューバの人なども加わっているし、ライヴ・エレクトロニクスの人も入っていて、より凄くなっている。サックスソロは誰が誰かいまいちよくわからんのだが(テナーソロは音色で聞き分けるしかない)、どれもよいし、ジェブ・ビショップのボントロも炸裂している。問題はライブ・エレクトロニクスの人だが、最初は、なんやスピーカーの断線か! と思ったぐらいの耳障りな音だが、何度も聞き返しているうちに快感になってくるし、この人の存在が、ヴァンダーマークがらみのミュージシャンをいろいろ集めて、ちょっと譜面ありのセッションしてみました、というような雰囲気に、ひじょうに強烈なテンションをもたらしていることがわかる。曲もいいし、3作目が愉しみだ。ところで、ライナーノートはヴァンダーマークが書いているのだが、1枚目を出したときは、あまりに長い無音部分が二カ所あり、不良品だといって発売元のオッカ・ディスクに返品にきた人もいたらしい。私も、実は一瞬そう思ったけど、CDデッキのカウンターがちゃんと回っているので、こういう演奏か、と納得したのでした。

「AIRPORTS FOR LIGHT」(ATAVISTIC ALP140CD)
THE VANDERMARK5

 ヴァンダーマーク5とハル・ラッセル亡きあとのNRGアンサンブルのちがいは、ヴァンダーマーク5のほうが曲が変態的であり、抽象的な演奏が多く含まれているにもかかわらず、全体としてより構成や枠組みを感じさせるのに対して、NRGアンサンブルのほうが、曲も演奏も直情的、露骨、ストレートなのに、よりフリーな感覚を保っている、というあたりだろうか。しかし、何よりも大きなちがいは、ヴァンダーマーク5はヴァンダーマークの曲しかやらないバンドであるという点であろう(他者の曲をやる場合は、フリージャズクラシックスだったりロリンズ集であったりと、企画モノの時だけである)。どっちがよいかは好みの問題だが、ヴァンダーマーク5は、そういう意味で、聴き手がヴァンダーマークの曲を好むか好まないかが大きなポイントになる。私はもちろん好きなほうだが、たまに飽きるときもある。だから、曲の枠をぶちこわすようなソロがあるとそれだけでもう満足してしまうのだが、マーズ・ウィリアムズの去ったのちは、メンバー的になかなかそうもいかない。ところが、本作は、曲もなかなかかっちょええのだが、ソロが各自爆発していて聴き応えがある。とくに4曲目のローランド・カークに捧げた曲でのテナーソロは、これ、ヴァンダーマークかなあ? それともデイブ・レンフィスがテナーに持ち替えているのか? めちゃめちゃうまいし、かっこいい。ヴァンダーマークのほうがサックス奏者としての実力は上だと思うが、このソロがヴァンダーマークっぽくない理由は、まず音色がちょっとささくれだった感じなのと、ヴァンダーマークって長いフレーズのときはぶちぶち途切れたようなソロになりがちなのだが、これはそうじゃなく、すごく長いフレーズを一気に吹ききっているし、しかも、ヴァンダーマークらしからぬモードジャズ風というかコルトレーン的フレーズが随所に顔を出す。レンフィスの可能性大だ。しかし、レンフィスって、アルトのときはほんとあたりさわりのない音色で、個性が感じられないのだが、テナーに持ち替えるとこんなにいい音になるとも思えないし(そういう人もときどきいるけど)……。リーダーアルバム出して、自信がついたのだろうか。もし、レンフィスだとすると堂々たる演奏(ヴァンダーマークだとすると、ちょっとらしからぬソロ)。あと、ノリはどっちも前ノリなので、見分けがつかない。どっちにしてもすごくいいソロだ。ジェブ・ビショップは、ヘタすると、ほんとに「ちゃんとした、ごっついうまいジャズトロンボーン奏者」という感じの演奏になってしまうのだが、このアルバムでは、うまいだけじゃなくて、緩急こころえた、しかも先鋭的なすばらしいソロを各所で披露してくれるし、ネックだったドラムは新しい人になり、なかなかすごい演奏をする(ドラムの変化は大きいかもな)。最近のヴァンダーマーク5のなかでは、かなりいい線いってるアルバムである。

「SIX FOR ROLLINS」(ATAVISTIC)
THE VANDERMARK5

「エアポーツ・フォー・ライト」のおまけCDだが、たぶん「フリー・ジャズ・クラシックス」のようにそのうち単独発売されるだろうから、わけて取り上げておく。題名からもわかるとおり、ロリンズ曲集である。ヴァンダーマークはこれまでにも「イースト・ブロードウェイ・ランダウン」などをアルバムで取り上げているが、ここまでまとまってロリンズ集を出すというのは、よほど好きなんだろうな。取り上げている曲もほかに「ブリッジ」、「自由組曲」(最近、テナーの人(ブランフォードとかデヴィッド・ウェアとか)が、この曲をこぞって取り上げるようになったが、何かわけでもあるのでしょうか。このごろとても気になるの)、「ストロード・ロード」、「アルフィー」などなど、なかなかいい選曲。各人のソロもすごくいい。それに、全曲ロリンズの曲ではあるが、アレンジのせいで、どれもヴァンダーマークサウンドになっているのは立派。しかし、ひとつ気になったのは、フリージャクラシックスのときもそう思ったのだが、テーマ〜ソロ回し〜テーマというジャズの語法の範囲内で演奏が行われていて、ときにはフリーにしたり、リフをつけたりといった変化はあるが、そういうことも含めて、予定調和の範囲という気がする。ヴァンダーマークの曲は佳曲が多いのだから、あとは安心してそれをぶっ壊すような演奏をしてくれることを望みたい。これでは、ちょっと前衛的なハードパップ、という感じだからなあ。

「ENGLISH SUITES」(WOBBY RAIL WOB009)
PAUL LITTON KEN VANDERMARK

 これは、ヴァンダーマークファン必聴の二枚組である。一枚目はスタジオ録音、二枚目はライブだが、よくぞ二枚組にしてくれた、と制作者と握手をしにいきたいほど、二枚ともまるっきりちがった演奏がぎっしり詰まっている。ヴァンダーマークも、相手が年上でフリーミュージックに大きな即席を残しているポール・リットンということで演奏を仕切ろうとかいろいろよけいなことを考えずにブロウに専念しているし、リットンは根っからのインプロヴァイズドの人なので、ハミッド・ドレイクのようにグルーヴで行こう、とか、ポール・ニルセンラヴのようにビートと手数で行こう、とかいったアプローチではなく、変幻自在場当たり的な即興リズムでヴァンダーマーク迎え撃つ。それがよい。なんとも、心が遊ぶひとときである。どうなるかさっぱりわからない不安定な状態でふたりの演奏者は各種リード楽器と各種パーカッションをとっかえひっかえ、そのときそのときにもっともぴったりしていると自分が思う音をさがしてぶつけあう。その結果、何度も何度も何度も、ほんとに偶然に、最高の瞬間がおとずれ、それをこのアルバムはちゃんと記録しているのである。ヴァンダーマークのブロウは、ほかのどんなドラマーを相手にしたときよりも過激で、自由自在で、ぶっとんでいる。いわゆる「テナーサックス〜ドラム」という形式のものとしては、極上のできばえである。テナー〜ドラムのふたりだけで二枚組かあ? と恐れをなすことなく、手にとってもらいたいです。なお、対等のアルバムだと思うが、とりあえずヴァンダーマークの項に入れた。

「REAL TIME」(ATAVISTIC ALP118CD)
STEAM

 ヴァンダーマークとしてはけっこう初期のアルバム。サックスにピアノトリオという、いかにもふつうのジャズカルテット的な編成だ。このアルバムにおけるヴァンダーマークの演奏に、彼の本音があるように思う。リズムを崩さず、そのうえを過激な音色で吹きまくり、吹き倒す。一曲目に顕著だが、その快感というのは、モードジャズに似てモードジャズにあらず。アコースティックなワンホーンカルテットの編成でも、いわゆる主流派ジャズのようにはまるで聞こえないのは、ヴァンダーマークの、「枠のなかでひたすら逸脱を目指す」、といったソロのスタイルのためだとおもう。二曲目のバスクラの曲は、やはりドルフィーの影響を深く感じるものだ。曲も、いかにもヴァンダーマーク的なものばかり(ジム・ベイカーの曲もいくつかある)で、非常に密度の濃い、初期ヴァンダーマークのエッセンスが詰まったようなアルバムである。ドラムは、最近までヴァンダーマーク5のドラマーだったティム・マルヴェナ(と読むのか?)、ベースは相変わらずのケッスラーで、今となっては「またこいつらか」的メンバーの、初々しい、熱い演奏が聴ける。聴き終えて感じるのは、やっぱりヴァンダーマークって「フリー・ジャズ」の人なんだなあ、ということ。決して、即興の人ではない、といまさらながらにそう思うし、そんなヴァンダーマークが私は好きなのだ。なお、これはスティームというバンド名義のアルバムで、ジム・ベイカーの名前が最初に書いてあるが、自作曲の多さや内容などから、ヴァンダーマークの項に入れておく。

「BURN THE INCLINE」(ATAVISTIC ALP121CD)
THE VANDERMARK5

 ヴァンダーマーク5の弱点は、アルトのデイヴ・レンフィスとドラムのティム・マルベーナである。とくに、アルトのデイヴ・レンフィス。彼は、前任者のマーズ・ウィリアムズがあまりに凄腕のソロイストだったため、それとの比較でいうと、まるでモノ足らない。まず、音が素直すぎて、魅力がない。こういう音のアルトってたくさんいるし、それなりにみんな健闘しているのだが、音で勝負できないのがつらい。管楽器なんだからなあ。だからサックスはむずかしい。ソロのなかみも、まあまあがんばっているとはいえるが、ヴァンダーマークやジョブ・ビショップにくらべると、「つなぎ」みたいにしか聞こえないし、「こらあ、もっと吹け。自分をさらけだせ」と怒鳴りつけたくなることがしばしばである。たとえば、このアルバムでもそうだが、5拍子のファンクの曲で、かっこいいテーマが終わって、さあ、今からいくぞーっというときに、ソロのひとりめとしてアルトソロがはじまると、それまでのポテンシャルがぐぐぐーっと落ちていく。きちんと吹いてるだけでは、このバンドではだめなんだよ。こういうとき、マーズ・ウィリアムスだったら、二番手のソリストをしゃかりきにさせるようなすごいソロを吹いたのになあ……と、比較してはならんことはわかっていても、ついついないものねだりをしてしまう。ドラムは、めっちゃうまいのだが、4ビートはいいけど、ロックっぽい曲やファンクになると、ちょっとおとなしい感じがいつもある。というような問題を抱えつつも、このアルバムはよくできている。曲はいいし、ジョブ・ビショップやヴァンダーマーク、ケント・ケッスラーたちはいつもながらすごくいいし、曲によってはレンフィスの伸びやかな音色がはまっているものもある。マーズ・ウィリアムズがいたころの爆発的な演奏ではないのだが、じゅうぶんに楽しめるものばかりではある。最近のヴァンダーマーク5はドラマーがチェンジし、また、デイヴ・レンフィスもリーダーアルバムを出すなどして進境いちじるしいので、もうひと化けしてくれるかもなあ、と思っている。

「LIVE IN WELS & CHICAGO,1998」(OKKA OD12030)
DKV TRIO

 このアルバムを絶賛しないでなにを絶賛しようか。とにかく、もう、言葉では言い尽くすことができないほどの傑作である。おなじく2枚組の「トライゴンメトリー」もすごかったが、このアルバムも、めちゃめちゃすごい。たった3人でつくりあげているとは信じがたい、荒れ狂うフリージャズ、パワーミュージックの嵐である。なんといっても、すさまじい集中力である。ヴァンダーマークは、ずーーーーーーっと吹いている。おおっ、すごい、と思った瞬間がピークではなく、そこからさらにどんどん盛り上がっていってしまうというこの手練れ3人のすごさよ。1枚目は、ドン・チェリーの「コンプリート・コミュニオン」を丸ごととりあげたり、二枚目は30分近い曲が入っていたりと、そのあたりのセンスにも脱帽だが、内容を聞くと、そんなことどーでもええわいという気持ちになる。やっぱりヴァンダーマークは、こういったセッティングが合う。ヴァンダーマーク5は、「ヴァンダーマークの作曲を演奏するバンド」だが、DKVトリオは「なんも考えずに、ひたすら自由に吹きまくり、弾きまくり、叩きまくるバンド」である。ああ、この音の奔流に身をまかせていると、あっというまに天国の高みまで押し上げられてしまい、「ああ、すごいすごいすごい」を連発するだけになってしまう。ヴァンダーマークを聴くなら、まずこれから、と絶対的におすすめしたい驚異の二枚組である。

「TARGET OR FRAGS」(ATAVISTIC ALP106CD)
THE VANDERMARK5

 ヴァンダーマーク5のアルバムのなかでは,これが一番好き。なんつーたかて、マーズ・ウィリアムズが参加している点が大きい。後任のデイヴ・レンフィスの100倍はすごい。だってさー、テーマを吹くだけでも、マーズの音は存在感があるし、そのせいで、すごくリッチなハーモニーに聞こえるのだ。小編成のグループでは、そういう点も重要だ。曲も、バラエティ豊かではあるが、どれもこれもよく、ファンク系、ドルフィー的ぐねぐねライン系、変態バラード系、フリージャズ系……と、佳曲がそろっている。そして、ソロの点ではもちろん申し分なく、ボスであるヴァンダーマークの手の中にいるレンフィスに比べ、マーズはヴァンダーマークに勝とうという姿勢があり、ヴァンダーマークもそれを受けて立ち、そのせいで演奏のポテンシャルがどんどんあがる。そうなのだ。このころのヴァンダーマーク5は、ハル・ラッセル亡きあとのNRGアンサンブルと似ている。マーズとヴァンダーマークがガンガン吹きあいをして、高めあっていく……というサウンド。今のヴァンダーマーク5に欠けているのはそういう要素ではないのか。このアルバムにはよい曲、よいソロ……だけではなく、それにくわえて「衝撃」がある。今のヴァンダーマーク5が、「ヴァンダーマークの曲をやるバンド」になってしまっており、たとえフリージャズの名曲をとりあげても、「ちょっととんがった新主流派のバンド」ぐらいにしか聞こえないときがあるのにくらべ、このアルバムでのヴァンダーマーク5は、どんな曲をやろうと、堂々と「フリージャズをやってます」といえる。名盤だと思います。

「NUCLEAR ASSEMBLY HALL」(OKKA OD12049)
ATOMIC/SCHOOL DAYS

 今をときめくノルウェーの新主流派〜フリージャズバンド、アトミックと、シカゴ〜オスロ混合グループであるヴァンダーマーク率いるスクールデイズが合体した大型コンボ。といっても、両バンドはリズムセクションが共通なので、管楽器奏者がジョイントしたという程度。スリーリズム+ヴィブラホンに、4管。ちょっと大きめのジャズメッセンジャーズぐらいの規模。で、実際の音はどうかというと、予想の範囲内である。新主流派的ジャズコンボサウンドに、ときおりフリージャズ的ソロが載る、という感じか。ファンクとかロック的な部分はほぼゼロで、あくまで「ジャズ」の範疇の音。しかし、熱い。ニルセンラヴとフラーテンを中心にしたリズムセクションはすばらしいし、テナーのふたりはこれでもかとお互いをぶつけあうし(ふたりともクラやバリサクに持ち替えたときもすばらしい)、ジョブ・ビショップのソロは常にハイレベルだし、ピアノソロはいつも耳をそばだてさせられる出来だし、ヴァイヴの人もこのアルバムではなかなかの演奏をしている。曲はどれもいいし、聴き応え十分である。二枚組だが、だれたところはなく、一気に聴きとおせる。でもなあ……あいかわらずアトミックのトランペットのひとはあかんなあ。一生懸命吹いているのだが、なにしろ音がパスパスだ。これでは、どんなにアグレッシヴなことをやっても、聴き手の胸に届かないよ。その点をのぞけば、だいたいにおいて満足した。でも……テリトリーバンドとどうちがうの? という音だし、テリトリーバンドのときも感じたのだが、こういう小ビッグバンド的編成にする意味がよくわからん。それと、AALYトリオとDKVトリオの合体のときも思ったのだが、あまり「合体」している感じがなく、たまたま両バンドのメンバーがそろっているというだけの別のバンド、というぐらいにしか感じられないのです。アトミックとスクールデイズの合体、と歌った意味は何? なお、どこの項に入れるのか迷ったが、一応、たぶん仕掛け人と思われるヴァンダーマークの項に便宜的に入れた。

「GAMBIT」(CLEAN FEED CF19CD)
TRIPLEPLAY

 ベースにネイト・マクブライド、ドラムにカート・ニュートンというこのピアノレストリオは、あいもかわらぬメンツのようであるが、実はその結成は古く、このアルバムがセカンドである(ファーストアルバムはかなり入手困難な限定版らしい)。今年もまた、多彩な活動の目立つヴァンダーマークであるが、このアルバムはそのなかでももっともストレートでエネルギッシュなプレイが楽しめる。こんなにいきいきとしたヴァンダーマークは久しぶりかもな。最近は、大編成や企画ものが続いていたから。やっぱりヴァンダーマークはトリオやデュオあたりがいいですな。曲もよいし、ベースもドラムも獅子奮迅の活躍。ヴァンダーマークも、テナーをがんがん吹きまくるし、クラリネットもいい味を出している。コーディネーターとしてではなく、即興演奏家としての基本的な実力を見せつけた一枚。

「UNDERGROUND」(OKKA OD12051)
FME(FREE MUSIC ENSEMBLE)

 ヴァンダーマーク、ネイト・マクブライド(スペースウェイズ・インクのベースのひと)、ニルセンラヴという3人によるトリオ。FMEというのはフリー・ミュージック・アンサンブルの略だそうで、しょうもない名前をつけたもんだ。しかし、名は体をあらわさず。中身はもう超一級品である。ヴァンダーマークのバリサクからはじまり、とにかく3人が対等の立場でがっぷり6つ(?)に組み、秘術を尽くす。結局、ジャズにおけるちまちましたやりとりがインタープレイだと思っていると大間違いであって、こーゆー大音量で徹底的に自分を出し尽くしながらのインタープレイというのもあるわけだ。それでこそ、3人が対等であり、ピラミッドということになる。このアルバムを聴きながら、思い出すのはSIGHTSのこと。あのグループも、3人が楽器の限界を超えるような音量でぶつかりあい、そこから生じるインタープレイがかえって繊細さを感じさせたものだ。なんか
聴いていて似ているような気がするのは、やはりどちらもドラムがいいからだろうな。今、ニルセンラヴと芳垣安洋とハミッド・ドレイクはフリージャズ(だけにとどまらないが)の世界の3大巨星である。このアルバムも、ほかのピアノレストリオとの大きなちがいは、ニルセンラヴの参加だろう。ヴァンダーマークが、何の変哲もないリフやら吹きのばしやらを吹いているうしろでも、びっくりするような斬新なドラミングで応じる。そうしてものすごい音楽が即興的にできあがっていく。魔法みたいなものである。じつは1枚目は未入手なのだが、すごいトリオなので、ぜひ聴いてみたいと思っている。

「ELEMENTS OF STYLE」(ATAVISTIC ALP150CD)
THE VANDERMARK5

 最近の(つまり、マーズ・ウィリアムズがデイヴ・レンフィスに替わって以来ということ)ヴァンダーマーク5の作品ではいちばんいいと思う。この作品でもネックになっているのはデイヴ・レンフィスのアルトで、そこそこうまいのだが個性がなく、音にも魅力がなく、ソロの構成の思い切りにも欠けるタイプで、どうしても前任者のマーズと比べてしまう。なにしろ、マーズ・ウィリアムズはフレーズは超個性的で、音も凄いし(テナーもアルトもね)、ぐじゃぐじゃのフリーでもファンクでもモーダルなソロでもなんでもこなすし、とにかくヴァンダーマーク5というより、ヴァンダーマーク〜ウィリアムズ5といってもいいような感じだった。それに比べるとどうしても聴きおとりするのはしかたがない。しかし、本作は、主役のヴァンダーマークが久しぶりにがんばっている。最近の作品は、作曲とアレンジをしたら、あとはみんなに任せた的なところもあったが、今回は、どの曲でも頭の血管がぶち切れるようなソロを吹きまくっていて、これこれ、ヴァンダーマークはやっぱりこれだよといわしめるだけの活躍を示している。そうなると(デイブ・レンフィスはあいかわらずいまひとつだが)ジェブ・ビショップ、ケント・ケスラーはいつもどおり最高の演奏をしているし、なんといっても、ヴァンダーマーク5のもうひとつの弱点(?)だったドラマーが、前作からティム・デイズィーに替わっており、このひとがめちゃめちゃいいのだ。そういうわけで、本作は久々の傑作となった。のぞむらくは、アルトサックス奏者のチェンジを……ないかなあ……。

「FREE KINGS」(ATAVISTIC)
THE VANDERMARK5

 またしても、ヴァンダーマーク5のアルバムには初回プレス限定でおまけがついていて、今回はなんとローランド・カーク集。これまで、二枚のフリージャズクラシックス、そして前回のロリンズ集と聴いてきて、正直なところ、いまひとつヴァンダーマークのやりたいことが見えてこなかった。つまり、曲を素材として扱っているだけで精神性までコピーしていないので、、ロリンズ集といっても、ロリンズが豪快にワンホーンでぶちかましていたものを、3管編成にアレンジすることで曲としてのパワーが落ちてしまったりしていたわけだ。それが、今回のカーク集では、もともと3本いっぺんに吹くカークだからか、その曲を3管にアレンジしても、カークらしさが際だつし、なにより、ヴァンダーマークはいつにもましてブリブリに吹きまくっており、それを聴くだけでも快感だ。特筆すべきはジェブ・ビショップのボントロで、いつもこのひとはすばらしい演奏をするが、カークの曲という素材にははまりまくりで、ときにデューク・エリントン的な古いスタイルをかましたり、ときにアル・グレイ的なブルース臭をたっぷり見せたり、ときにビーバップ、そしてフリー……と変幻自在。そのどれもがしっかりしたテクニックと音楽性に裏打ちされているので、底が浅くない。スティーヴ・トゥーレをもっとフリー寄りにしたようなスタイルというべきか。そういえばトゥーレもカークと因縁浅からぬミュージシャンであった……。そして、もうひとり、ドラムのティム・デイズィー。かっこええでー。このドラマーを得て、ヴァンダーマーク5は変貌した。ラストの曲のもりあげなど、聴いていて思わず興奮のあまり絶叫したくなるほど。客の熱狂も伝わってくる(ライブなんです)。というわけで、これまでのフリージャズ・クラシック4枚のなかで、最高のできばえとなった。願わくば次作もこのぐらいの(あるいはもっといい)出来映えでありますように。

「STANDARDS」(QUINNAH RECORDS Q08)
FOUR IMPROVISING TRIOS(CHICAGO)WITH KEN VANDERMARK

 このアルバム、ずーっと探していたのだが、やっと中古屋で見つけた。タイトルから、てっきりヴァンダーマークがスタンダードナンバーを演奏しているのだろうと思っていたら、まったくちがっていて、全編、フリーミュージックの嵐。4組のトリオがフィーチュアされているのだが、参加ミュージシャンはみな個性豊かで、ハミッド・ドレイク、ケント・ケスラー、マーズ・ウィリアムズ、スティーヴ・ハント、マイケル・ツェラング……といった、その後のヴァンダーマークの演奏活動のコアになっていくミュージシャンばかりである。ヴァンダーマークのアルバムとしては、非常に早い時点の録音であり、この当時のシカゴのフリーミュージックシーンを切り取った歴史的価値も大と思われる。しかし、なんといってもこのアルバムの肝は、ヴァンダーマーク自身のやる気で、最初っから最後まで、徹頭徹尾、ひたすら吹きまくる。聴きながら、なんども「ぎーっ」と顔をしかめてしまうほどのブロウが連続する。このあと、ヴァンダーマークは、今も継続しているような、毛色のちがうさまざまなグループを並行しての活動を展開していくわけだが、それらのエッセンスが全部このアルバムに詰まっている感じなのである。このアルバムで彼が示したいろいろな方向性が、ひとつひとつ独立した音楽性のグループへと発展していったのだろうと思う。逆に言うと、このアルバムにはそういったさまざまな音楽が、色分けされることなく、ぎゅっと凝縮されており、若き日のヴァンダーマークの、燃え上がるような「やる気」とあいまって、非常に感動的な作品に仕上がっている。

「MAP THEORY」((OKKA OD12060)
TERRITORY BAND−3

 テリトリーバンド……このバンドはやっぱりよくわからん。1枚目、2枚目と聞いてきて、なんやねんこれ、ヴァンダーマーク5の拡張版か? 何がやりたいねん、と疑問符をあたまにつけていた私だが、3枚目が二枚組で、しかもポール・リットンとポール・ニルセンラヴのツインドラムに、アトミックのフレドリック・リュンクビストなどが加わった意欲的なアルバム。そうかー、ヴァンダーマークはこのバンド、本気だったのかー、と思い、こっちも気合いをいれて聴いてみたが……うーん、まえの2作とそれほど変わらない印象である。ヴァンダーマークの曲を、大きな編成でやる、という趣向だが、途中のフリーの部分がなんだかだれる。大編成といっても、ブロッツマンテンテットのように、怪物的テナーのスタープレイヤーのソロまわしを楽しむというわけにもいかず、ヴァンダーマーク5のように小回りもきかず、アトミック〜スクールデイズの合同演奏とどうちがうの……みたいな中途半端な印象である。もちろん、さすがのメンバーを集めているので、聞き所はけっこうあり、部分部分は楽しいのだが、それが長く続かないし、一丸となったグワーッという盛り上がりに欠けるのだ。あー、もったいないっ、と思う瞬間多数。結局、ヴァンダーマークはこのバンドで何をやりたいんだろう……という疑問符はこの二枚組を聴き終えても私の頭に点灯したままだった。二枚目は、バリトンががんばったりして、1枚目よりもおもしろいと思うが、ライブエレクトロニクスのひとも中途半端だしなあ……。全体的に一番がんばっているのは、やはりジェブ・ビショップで、随所でいいソロをして演奏をひきしめている。デイヴ・レンフィスも、意外によくて、ドルフィーを思わせる硬質なトーンで吹きまくっている。というわけで聞き所がないわけではないが、全体としては、まずはヴァンダーマークの小編成を聴いたうえで、手を伸ばすべきアルバムと思う。ただ、ライナーをヴァンダーマーク自身が書いていて(これもいつものこと)、亡くなったペーター・コバルトのことに最初に触れてあり、また、癌から復帰したニルセンラヴのことも最後のあたりに長く書いてあり、そのあたりはなかなか感動的でした。やっぱりヴァンダーマークは小編成……かな?

「ALCHEMIA」(NOT TWO 750−2)
VANDERMARK5 THE COMPLETE RECORDINGS AT ALCHEMIA,KRAKOW,POLAND,MARCH 15−19,2004

 ヴァンダーマーク5のポーランドの「アルケミア」というライブハウスでの5日間の演奏をコンプリートに収録した12枚組。何を考えとんねんヴァンダーマーク。こんなものを出すほうも出すほうだが、買うほうも買うほう。とりあえずがんばって聴いてみた。レコ評という場では異例だが、各曲がヴァンダーマーク5のどのアルバムに入っているのか、と、ソロオーダー(あくまで私が耳で聴いてのことなので、まちがっている可能性大)などを書いておく(ちゃんと聴き通したという証拠にね)。
VOLUME1
1.「テレフォン」……「エクサイス・イン・サプライズ」に入ってる曲。テーマのあと、速い4ビートに乗ったレンピスのアルトソロ。非常に快調である。これで音に個性かもっとあって、あと、もう少し八方破れな迫力があればなあ。でも、このソロはすごく秀逸。速いテンポでのアーティキュレイションもばっちりで、サックス奏者としての基本的な実力を感じる。そのあと、変なうめき声のようなビショップの無伴奏ソロに続き、ふたたび速い4ビートに戻ってヴァンダーマークのテナーソロ。ドラムのスネアとのインタープレイがいい。
2.「アザー・カッツ」……「エアポート・フォー・ライツ」に入ってる曲。ファンクリズムだが、DKVトリオなどにくらべるとヴァンダーマーク5はファンクがファンクっぽくならなかったが、ティム・デイジーにドラムが変わってからよくなったと思う。冒頭はトロンボーンソロ。続いてヴァンダーマーク(と思う)のテナーソロ。濁った音色で、力でねじ伏せようとして、ねじ伏せ切れませんでした、という感じ。そのあと一転してベースの無伴奏ソロ。これはいい感じ。そこにふたたびファンクリズムが入ってきて、ヴァンダーマークがバリトンで低音のリフを吹きだし、セカンドテーマに続いて、レンピス(と思う)のテナーソロ。そのあと、管楽器入り乱れて盛り上がる。
3.「ステアケース」……「エアポート・フォー・ライツ」に入ってる曲。管楽器だけの無伴奏イントロにつづき、パーカッションとベースのオスティナートが入ってくるバラード風の曲。まず、長いアルトソロ、そしてトロンボーンソロ、最後にベースソロ。どのソロもゆったりとした、地を這うような感じ。
4.「ストラタ」……「エクサイス・イン・サプライズ」に入ってる曲。レンピスのアルトが先行し、ドラムとともにフリーキーな感じで暴れる。そのバックでヴァンダーマークがクラリネットを吹く……という展開のあと、全員による変態的なテーマとコレクティヴ・インプロヴィゼイション。そのなかでトロンボーンが全面に出てきてもりあがったかと思うといきなりびしっと終わり、ドラムの長いフリーフォームなソロになる。ヴァンダーマーク5では、ふだんドラムソロがあまりないので非常に珍しい展開だと思うが、たいへんまっとうなジャズドラムである。そのあと、突然、とう感じでヴァンダーマークの八方破れ的なテナーの豪快なソロ。これはかっこええっ。
5.「フリー・キング・スーツ」……「フリー・キングス」に入ってるカーク曲3曲のメドレー。一曲目「ミーティング・オン・テルミニズ・コーナー」は、管楽器だけでかわいらしくテーマを奏でたあと、間の多いコレクティヴ・インプロヴィゼイションが続く。そこから一転して、例の「スリー・フォー・フェスティバル」に。ジェブ・ビショップの豪快なトロンボーンソロ。ここだけ聴いてたら、スライド・ハンプトン4かスティーヴ・トゥーレ4とまちがうぐらいまっとうな4ビートジャズ。続いてレンピスがテナーに持ち替えてのソロ(だと思う)。めちゃめちゃうまい。それから「ア・ハンドフル・オブ・ファイヴ」になだれこみ、どんつくどんつくというお祭り風リズムにのってヴァンダーマークのテナーソロ。これはいつもの調子で楽しい。
VOLUME2
1.「アウトサイド・チケット」……「エクサイス・イン・サプライズ」に入ってる曲。ゆったりしたテーマに続いて4ビートにのったビショップの正統派的トロンボーンソロ。そして、ヴァンダーマーク(だと思う)のテナーソロ(途中でリズムが変わるのは仕掛けらしい)。ひじょうにすばらしいヴァンダーマークの本領発揮的プレイ。続いて、レンピス(だと思う)のテナーソロ。いかにもラーセンのメタルって感じの音してますなあ。誰かに似ているが、はっきりとはわからない。そんな感じのソロで、後ろへいくほどフリーキーになる。荒っぽいがなかなかかっこいい。ただし、いつも思うのはヴァンダーマークもレンピスも、リズムへの乗り方がなんとも跳ねる感じで、そのあたりはビショップがいちばんジャズ的なノリがわかっている風。
2.「マネー・ダウン」……「エアポート・フォー・ライツ」に入ってる曲。テーマのあと、ベースのアルコ(これが終始、変な雰囲気をかもしだしている)とドラムの早い4ビートに乗ってレンピス(と思う)のテナーが暴れ回るソロ。うますぎてびっくり。え?ほんまにレンピスか? もしかしたらヴァンダーマークかもしれません。自信なし。でも、いいソロであることにまちがいなし。リフが入ったあと、ビショップのかっちょええボントロソロ。これもめちゃうまい。ほんとに、ヴァンダーマーク5は「名手」の集合体である。フリーインプロヴァイズド的なおもしろさを求めるとどうかとは思うが、各人の技量でちゃんと聴かせるのは立派。
3.「カメラ」……初演。ゆっくりしたテンポで5人のからみあいがあるテーマが続いたあと、ベースのアルコソロになる。そして、クラリネットやアルトがからんできて、全員でのコレクティヴ・インプロヴィゼイションになる。ヴァンダーマークのクラリネットが全体をリードしている感じ。そこからビショップのボントロが抜け出すようにソロをはじめ、ほかの2管が妙なリフをつけていく。ドラムはひとりで暴れている。これってなんや? みたいな展開だが、おもしろいことはおもしろい。マレットを使っているみたいなドラムソロになり、ボントロきっかけで、リード楽器二本(テナーとアルトだと思う)の無伴奏パートになる。なんやこれマークはずっと頭に点灯したままだが、実はここからが楽しい。もっともっとやってくれ、というあたりでバックが入ってきて、レンピスのジミー・ライオンズを想起させるようなアルトソロになる。なにかにつけ前任者のマーズと比べられるレンピスだが、こういうソロを聴くと、がんばっとるなあと思う。いいぞレンピス。暴れるドラムをバックにテーマに戻っておわり。
4.「ルーレット」……「バーン・ザ・インクライン」に入ってる曲。七拍子を基本にしたジャズロック風の曲(途中でリズムがかわるけど)。最初はビショップのソロ。トロンボーンがこういう感じに吹くのを聞いてると、往年の「ファースト・エディション」思い出す。続いてヴァンダーマークのダーティートーンでのソロ。リフと交互に現れる。くちゅくちゅっとしたベースのアルコソロに続いてレンピスのアルトソロがフィーチュアされてエンディング。
5.「クルツ・カンポ」……「エアポーツ・フォー・ライト」に入ってる曲。速い四ビートと変なリフが交錯する曲。レンピスのアルトとトロンボーンが延々、「一緒」にリズムに乗ったソロをする。ふたりとも勝手にやってるようなところもあるし、お互いにインタープレイになっているところもある。急にフリーリズムになり、ボントロだけが残ってソロをしているうちに、、突然、セカンドテーマが現れ、ヴァンダーマークのテナーソロになる。濁った音のえぐいソロで、ひじょうにかっこいい。
6.「ザ・ブラック・アンド・クレイジー・ブルース」……アンコールは「フリー・キングス」に入ってるカークの曲。ゆるいマーチ風のブルースナンバーで、テーマのところ、ヴァンダーマークはクラリネットを吹いている。そのあと、ビショップがブルージーな、いい感じのソロを展開し、そのあと、ヴァンダーマーク(だと思うんだけど、もしかしたらレンピスかもな)がテナーに持ち替えてホンカー的なソロをする。正直言って、アンコールということで緊張がさがったのか、かなり大雑把なソロである。そのあとふたたびクラリネット、アルト、ボントロでのテーマ。
VOLUME3
1.「コンフルエンス」……「エアポーツ・フォー・ライト」に入ってる曲。いきなりの変拍子風(実はつじつまはあってるみたいだ)のテーマ提示のあと、ほとんどフリーリズムに近いぶっぱやい4ビートに乗ってのコレクティヴインプロビゼイション。ヴァンダーマークはバリトンをぶっぱなしている。混沌とした迫力あるサウンドに続いて、ばしっとリフが入り、早めの4ビートでヴァンダーマークのバリトンソロ。途中からドラムとのデュオになり、ヴァンダーマークの本領発揮のえぐい展開。かっちょいーっ。バリトン消えて、ドラムソロからテーマに戻る。
2.「フリー・キングス」に入ってるカークの「リップ・リグ・アンド・パニック」組曲。1曲目は「フロム・ベシェ・バイアス・アンド・ファッツ」。ヴァンダーマークがクラリネット、レンピスがテナーに持ち替えてのテーマ。ビショップのまっとうなソロがフィーチュアされ、バックリフもついて、まさに「ちゃんとしたジャズ」。ビショップがいかにも職人芸風にソロパートを吹き終えたあと、ケント・ケスラーのアルコのぐちゃぐちゃのソロになるあたりも、このバンドの変態なところ。そのあと、ベースの重厚な弓引きにのって、ヴァンダーマークがバリトンでぐちゃぐちゃいいはじめ、私の好きな展開になる。ベースがピチカートになり、ドラムが入り、「ピアノレスのバリトントリオ」的な感じになって、ヴァンダーマーク5ではあまりこういうフリーな部分がないので、もっとやれと思っていると、すぐに終わり、ばしっと次の曲のテーマに入る。惜しいが、かっこいい。曲は「リップ・リグ・アンド・パニック」。レンピスのテナーソロからはじまるが、なかなか豪快でいいソロである。このひと、うまくなったよなあ。続いてドラムソロ。うーん、ヴァンダーマーク5のスタジオ録音ではドラムソロはほとんどないけど、ライヴだとこんなにしょっちゅうフィーチュアされるのだ。ドラムソロから一転して、3曲目のテーマに入る。曲は「ノー・トニック・プレス」。ヴァンダーマークのテナーソロ。快調にぶっ飛ばす感じ。これまた途中からドラムとのチェイスになる。ヴァンダーマークはよほどこの展開が好きなのだろうが、私も好きだ。いきいきしてるもんなあ。そのあと、2曲目のテーマに戻っておわり。この組曲は聴き応え十分でした。
3.「カメラ」……初日も演奏されたバラード風の曲。展開は初日とだいたい同じだが、初演のかたさがとれて、ソロも好きなようにやってる感じでいい。ケスラーの無伴奏のアルコソロなんか、暴走してるもんな。ビショップのボントロも、ふつうに吹くときは松本治的というか、ほんときっちりしたいいソロをするのだが、こういう展開だとイマジネーションあふれる前衛トロンボーン奏者に変身する。行け行け、ビショップ! そのあと、テナーとアルトの無伴奏のからみになって、これも前日より爆発していておもろい。ぎょわぎょわいわしたあと、ぴたっとテーマに戻るあたりはさすが。アルトソロになって、レンピスががんばる。たしかにうまくなった。聴いてて楽しいもんな。聴き応えある一曲。
4.「ボス・サイズ」……「エアポーツ・フォー・ライト」に入ってる曲。ミディアムテンポの4ビートにのっての、ドラムはブラシで、3管アレンジのいかにもジャズっぽいテーマ。ジャズテットを聴いてるような気になるほどだ。ソロ先発はヴァンダーマークのテナー。ずっとサブトーンで、軽い吹き方だが、すごくいい。途中、ブラシのドラムとのデュオに(またしても)なるが、ここでヴァンダーマークの「うまさ」が発揮される。リフとともにベースが入ってくるあたりも、ほんと、ジャズなのだ。続いてビショップもその雰囲気を受け継いだプランジャーミュートを使ったソロ。リフが入って、がんがんもりあがるあたりもジャズ! そして、ケスラーの、ごくフツーのベースソロが続く。ベースソロのバックで、ドラムが小気味よいおかずを入れるあたりもジャズ! ヴァンダーマーク5って、やっぱりジャズなんだなあと思わせる曲(いいことかわかるいことかは知らんけど)。
5.「ノック・ユアセルフ・アウト」……「エレメンツ・オブ・スタイル」に入ってる曲。ヴァンダーマークのバリトンの低音リフにのってはじまるジャズロック風の曲。テーマのあと、(なぜか)リズムがかわって早い4ビートになり、レンピスがテナーで暴れるようなフリーなソロになる。そのあと、またジャズロック風に戻り、ビショップのグルーヴするソロ。お約束だとはわかっていても、もりあがる。こういう曲ができるのもヴァンダーマーク5の強み。
VOLUME4
1.「ザ・クーラー」……「バーン・ジ・インクライン」に入ってる曲。テーマに続いて、ビショップのモーダルな感じのソロ。変なリフ。ああ、このあたりの展開、まさしくこのバンドならでは。そして、ヴァンダーマークのテナーソロ。音も濁らせず、すごくストレートな吹き方だが、ぐずぐずぐずぐずしたソロだなあ。良くも悪くも、4ビートでのヴァンダーマークのソロはこんな感じ。好きか嫌いかは好みの問題。だが、いつも枠組みのなかで「何か新しいことをしよう」という気持ちは伝わってくる。そこがいいよね。一転して、レンピスのテナーソロ。こっちはうまいんだよね。ヴァンダーマークとの対比はすごくついていて、そのあたりがこのバンドのおいしいところ。ぐずぐずなヴァンダーマークとめちゃうまいレンピス。どっちもいい。けど、レンピスのこういうクックする4ビートのソロって、音も硬質だし、フレーズも……ドルフィーを連想させずにはおかない。
2.「ザット・ワズ・ナウ」……これも初演。変態的なテーマの曲。よくこんな曲書くなあ。テーマの提示のあと、ドラムとレンピスのアルトのデュオになり、すごくいい感じ。林栄一に似てる? そうですよね。たしかに。ドラムが消えて無伴奏ソロになるあたりも似てるかも。でも、とにかくすごい熱演です。以前はともかく、今のヴァンダーマーク5の魅力のひとつがレンピスのソロにあることはまちがいない。そのあと、ベース主体のフリーな展開になり、いきなり変なリフからドラムソロになる。リフと無音の交錯。なんだかよくわからん! こういうあたりもこのバンドのおもしろさなんだけど……どこまで客に伝わっているのか。一転してドラムとフリーキーなボントロのデュオになる。かっこいいんだけど、そのまえからの流れといったものはまるでないに等しいかも。そこから、ヴァンダーマークのバリトンの無伴奏ソロと管楽器のリフのやりとり……みたいなわけのわからん展開があって、ここは圧巻である。しかし、まえからの続き具合はなあ……。まあ、「組曲」みたいなもんか。結局、ぐちゃぐちゃのフリーなコレクティヴインプロヴィゼイションからテーマに戻っておしまい。
3.「シックス・オブ・ワン」……「エレメンツ・オブ・スタイル」に入ってる曲。管楽器の吹きのばしではじまるゆったりした展開からベースのピチカートのソロになる。延々としたベースソロのあと、ドラムソロになる(こういうあたり、いかにもこのバンド的だ)。それからバックが入ってきて、ワンコード風のボントロソロになるが、バリトンがリフをずっと吹いていて、70年代モードジャズ的な感じ。アルトも入って、どんどんリフで盛り上げていくが、ボントロもそれに応えて吹きまくる。このあたり、かっこいいよね。そのあとヴァンダーマークがバリトンで和音階風のソロを延々と展開し、そのレンピスが無伴奏でアルトのハーモニクスを多用した、エヴァン・パーカー風のソロをして消え、今度はボントロとバリトンがからみ、個々の無伴奏ソロになり(ヴァンダーマークはクラリネットに持ち替えてる)……このへんまだ練られていない展開という気がするが、ライヴの場としては盛り上がっただろう。ウッドベースが入ってきて、クラリネットとのデュオになり、ボントロのフリーなソロになる。展開がめまぐるしくて、わけがわからん。こういうのもちゃんと決まってるんだろうな。リフのあと、レンピスのテナーソロ。フリーキーに暴れる……とまあこんな感じだが、一曲としてはいかがなものだろうか。あまりにいろんな要素が詰め込まれていて、頭で解析しながらではついていけない。
4.またしても「フリー・キングス」に入ってるカークのメドレー。一曲目は「シルヴァライゼイション」。ファンキージャズ風のテーマに続いて、レンピスのテナーソロ。徹頭徹尾、軽い感じのちゃんとしたソロで押し通す。次はビショップのソロ。これもちゃんとしている。それから二曲目「ヴォランティアード・フレイヴァリー」のテーマをヴァンダーマークがサブトーンを駆使したテナーで吹き、そこにほかの管がかぶさってきて、そのリフをバックにヴァンダーマークがダーティートーンを使った絶叫型のソロに転じる。かっこええ。ヴァンダーマークは、カークの音楽というものを本当にわかっていると思う。テナーでさんざん盛り上げてエンディング。コレハ盛り上がるよなあ……。
5.「ゼア・イズ・ザ・ボム」……二日目のアンコール曲で、「フリー・ジャズ・クラシックス」に入ってるドン・チェリーの曲。早いベースのランニングからはじまる。ぐじゃぐじゃっとしたあと、ぶっ早い4ビートのテーマ(レンピスのアルト、ヴァンダーマークのバリサクを吹いている)があって、先発ソロはビショップ。まっとうなフレーズがだんだん崩れてきて激しいブローになり、ダブルタンギングなどを駆使した豪放なソロになっていく。一転、フリーリズムになってレンピスのアルトソロになる。こういう感じだと、レンピスは音色の個性のなさが説得力のなさにつながる。ほかのことはもう完璧だと思うので、あとは音色を磨くことではないか。レンピスのパートはずっとフリーで、そこからまた早い4ビートに戻ってヴァンダーマークがテナーで登場……という展開。
VOLUME5
1.「ザット・ワズ・ナウ」……二日目に初演した変態的なテーマの曲。テーマのあとのレンピス・アルトとドラムのデュオは、前日よりいいかも。レンピスの無伴奏ソロになってからも、好調で、インテンポでバックが入ってきてからも、まとまりがある。やはり、二回目となると、曲の構成などが身体でわかってくるからだろう。ヴァンダーマークがバリサクで「ガガッ」とリフを吹いた瞬間に「演奏が終わり」と思ったのか拍手が入るが、そこからリフとドラムのかけあいみたいな変な展開のあと、早いビートに乗ってビショップの過激なソロ(ベースは鳴っているが、ほとんどドラムとボントロのデュオに近い)。そして、ヴァンダーマークのバリサクの無伴奏ソロとサックスリフのかけあい(?)という展開も、前夜と同じなのだが、なぜかすごくまとまりを感じる。そこから全員でぐちゃぐちゃのコレクティヴインプロヴィゼイションになり、テーマ。変な曲だよまったく。でも、このセットの1曲目として、「つかみはじゅうぶん」というやつか。
2.「セヴン・プラス・イレヴン」……「エアポーツ・フォー・ライト」に入ってる曲。ヴァンダーマークはクラリネット、レンピスはアルト、ビショップはミュートトロンボーンによるコミカルな感じのテーマに続いて、ヴァンダーマークがクラでドラムとのかわいらしいデュオ。そのあとリフが入って、ビショップがプランジャーで呻くようなソロ。私の好みです。なるほど、リフと、無伴奏ソロ(あるいはドラムとのデュオ)を交互にやろうという、室内楽的趣向とでもいえばいいネタか? ビショップのつぎはケスラーのアルコがフィーチュアされる。このソロもいい。最後はレンピスのアルト対ドラム。こういうセッティングだとやはり、音色の個性のなさが気になるものの、レンピスもがんばっておるではないか。あたたかく見守ろう。とか言っているうちに終わってしまう。やはり室内楽的(というか「フリー・フォール」的?)な曲かも。
3.「ザ・ブリッジ」……「シックス・フォー・ロリンズ」」に入ってるロリンズの有名曲だが、あまりとりあげる人はない。テーマのあと、早い4ビートに乗ってレンピスがぶっ飛ばしていく。こういうセッティングだと、すごくうまい。そのうち、リズムがだんだん遅くなっていき、クックするようなテンポになり、最後にはのろのろになり……そしてまたスピードがあがっていく。ドラムとソリストの息がよほどぴったりあっていないとできない演奏。やはりこいつらはただものではない。最後はめちゃめちゃ早いテンポにまであがったところでテーマリフが入り、ボントロにソロを渡す。展開はやはり同じで、テンポが遅くなっていき、ふたたびアップしていく。またしてもテーマのあと、今度はヴァンダーマークかと思いきや、そこで終了。こらあっ、ヴァンダーマーク、吹かんかいっ。
4.「ジレーン」……「エレメンツ・オブ・スタイル」に入ってる、ゆったりとした葬送のマーチのような雰囲気ではじまる曲。アレンジもよく、佳曲だと思う。ヴァンダーマークがサブトーンを駆使した、雰囲気ばつぐんのバリトンソロ。うまいなあ。つづくケスラーの、もうあかん、わたしは死にます……みたいなだらしない感じのアルコソロもいい。そのあとの、空間を作るようなフリーリズムのドラムとレンピスのアルトのデュオは、雅楽のような雰囲気をかもしだす。ラストのアンサンブルもかっこいい。終わったあとの客の反応も、この演奏のよさを示している。
5.「オート・トポグラフィ」……「アコースティック・マシーン」に入ってる曲。このバンドではおなじみの、ドラムがドカン!と冒頭に来てのテーマ、というパターンではじまる。そして、それに続くヴァンダーマークの無伴奏テナーソロはやりたい放題ですばらしい。これぞヴァンダーマークというべきむちゃくちゃなフリーソロ。そのあと、インテンポになって、ビショップのソロ。この部分、よくわからないが、アフロっぽいリズムのようだが、半ばフリーといっていい。そこへアルトでレンピスがからんできて、フリーリズムのコレクティヴインプロヴィゼイションになり、ビショップが消えて、レンピスのソロになる。レンピスは最初っからぐじゃぐじゃのフリーソロで、熱演である。終わった瞬間、誰かがキャーッと叫ぶ。そのあと、ドラムとベースのデュオ(といってもベースはずっとオスティナートなので、ドラムソロというべきか)。このドラムソロはめちゃうまく、ティム・デイジーが卓越したジャズドラマーであることを証明する。そこへ、ヴァンダーマークが「ぎゃおおおっ」と乱入のように飛び込んできて、熱気は最高潮。いいぞいいぞもっとやれっ。リフが入って、終わるのかと思っていると、ヴァンダーマークはまだ吹く。吹きまくる。いけいけいけっ。やり倒すだけやり倒してエンディング。いやー、この曲はすごい。総じて、初日、二日目より、フリーで過激な展開が多かったように思える3日目第一セットであった。私が客なら、このセットに行きたかったところである。
VOLUME6
1.「ザ・フリーダム・スーツ・パート2」……「シックス・フォー・ロリンズ」に入ってるロリンズの「自由組曲」の第二部である。モーダルな感じでかっこいい。ソロのはじまる部分のリフみたいな箇所もひとひねりしてある。先発ソロは(たぶん)レンピスがテナーに持ち替えての演奏。濁った音色でなかなかいいソロ。そのあと、リフをバックにしたドラムソロにつづいて、ヴァンダーマークのクラリネットソロ(今回のビータにはバスクラを持ってきていないみたいで、それが残念といえば残念)、ビショップのボントロソロと続く。手堅く、レベルの高い演奏で、終わったときにどこかのねえちゃんが叫び声をあげる。
2.「テレフォン」……初日のファーストセットの1曲目でもやった曲。ドラムによるフリーリズムの長いイントロに続いて、早い4ビートのテーマがあらわれる(この展開は初日とはちがっている)。先発はレンピスのアルトソロ。よくクックする、いいソロである。つづいてヴァンダーマークの無伴奏の、エヴァン・パーカー風のテナーソロになり、そこからインテンポになって、速い4ビートに乗せてのソロになる。そのあと、ブレイクを多用したビショップのソロ。オープンとプランジャーミュートの音が交錯し、ダブルタンギングなどを使いまくったすごいソロで、終わったら拍手がどっと来るほど。
3.「イニシァルズ」……「エアポーツ・フォー・ライト」に入ってる曲。モンク風の、間の多いユーモラスなイントロ〜テーマに続いて、ビショップのプランジャーミュートを使ったソロからコレクティヴ・インプロヴィゼイションになり、そこからレンピスのアルトがひとり残るような感じで続く。ハーモニクスを使った、イマジネイティヴなソロである。そのあとテーマに戻って終わり。ヴァンダーマークは終始バリサクを吹いている。
4.「カメラ」……初日、二日目ともやった曲。三管の幽玄な感じのテーマから、ケスラーの無伴奏のアルコソロになる。全員での、まったりした、低音中心の地を這うようなコレクティヴ・プロヴィゼイション(ヴァンダーマークはクラリネット)が、次第しだいに盛り上がっていく。フリージャズとしては、すごく古めかしい展開だと思うが、盛り上がることは盛り上がる。そこから四ビートになってビショップのソロ。リズムが消えて、二管のフリーなソロ、そしてリフのあと、リズムセクションが入って、レンピスのアルトソロ。ドラムとベースにあおられて、吹きまくるレンピス。最後は、めちゃめちゃかっこいいドラムソロがあって、テーマ。この曲は今回のライブでは何度もとりあげられているが、やるたびに少しずつ構成が変わっている点がおもしろい。
5.「アザー・カッツ」……初日もやったファンクリズムの曲。先発はヴァンダーマークのファンキーなテナーソロ。初日1ステ目よりもいいソロだと思う。もりあがったところでリフが入り、ビショップの重量感あふれる豪快なソロ。これは圧倒的な演奏。一転してケスラーのアルコソロになり、フリーミュージックの世界に突入。これはヴァンダーマーク5ではありがちな展開だが、こういうことが楽勝でできるあたりがこのバンドのいいところ。またファンクに戻り、レンピスがテナーでソロをする。これがどんどん盛り上がっていき、大拍手のうちに終わる。
6.「ザ・ブラック・アンド・クレイジー・ブルース」……アンコール一曲目は、またしてもカークのブルース(初日もやった)だが、まえのときとは構成がちがう。まず、ビショプのゲイリー・バレンテばりの堂々たるソロ。これはめっちゃええ。続いて、ヴァンダーマークのホンカー風のソロ。前回の演奏時よりはるかによいのはアンコールでリラックスしているためかもしれないが、オーバーブローしているにもかかわらずイマジナティヴな、めっちゃいいソロ。そのあとケスラーのソロを経て、テーマ。客がすごくいい反応をしていて、ポーランドの客は「わかってる」という感じである。
7.「ノック・ユアセルフ・アウト」……アンコール二曲目は、二日目にもやった、バリサクががんばる変態的リフの曲で、ファンクっぽいかっこいい曲なのに、テーマが終わったら暴走風にフリーに突入。ずっとリフが鳴りひびくなかで、レンピスのテナーソロがフリーキーな感じで抜けてでる。これはかっこいい。ジャズロック風に戻り、ビショップのめちゃすばらしいソロを経て、テーマ。あー、これでやっと半分だ。
VOLUME7
1.「マネー・ダウン」……初日もやった、変拍子っぽい、一度聴いたら忘れられないメロディーラインをもった曲だが、実は3拍フレーズなので、ちゃんとつじつまはあっている。先発はレンピスのテナーによるフリーキーなソロ。かなりもりあがる。テーマを挟んで、今度はヴァンダーマークがテナーでごりごり吹きまくり、テーマに戻って大拍手。このふたり、バトルとかはしないね。
2.「ジ・インフレイテッド・ティアー」……「フリー・キングス」に入ってるカークの曲。管の吹き伸ばしによる、印象的かつ変態的名テーマのあと、無音の部分を挟んで、ビショップのボントロをフィーチュアした美しいジャズバラードがいきなりはじまって、めんくらう。なんやねんこの構成。そして、テーマが終わったかとおもったら、レンピスがアルトでぎょえーっと過激なソロをはじめ、またまためんくらう。そのあと、ふたたび吹き伸ばしの変なテーマにもどったかと思うと、ビショップが朗々とバラードのソロを歌いあげはじめる。
3.「ウェネバー・ジューン・バッグス・ゴー」……「フリー・ジャズ・クラシックス」に入ってるアーチー・シェップの曲。いきなり、ベースとドラムをしたがえたヴァンダーマークのバリサクソロで幕を開ける。延々と過激に吹き倒したあとにテーマが入るという構成。ミディアムテンポでバウンスするリズムの、モンク的な曲。ビショップが先発ソロ。リフであおられて吹きまくる。そのあとレンピスのテナーソロ。これもよい。
4.「カメラ」……この曲、これで4回目である。三管の延々としたバラード風のアンサンブルが続き、やっと終わったかと思ったら、ケスラーのフリーフォームのアルコソロ。そこにヴァンダーマークのクラなどがかぶってきて、コレクティヴ・インプロヴィゼイション。インテンポになってから、レンピスのアルトソロ。かなり過激にがんばる、いいソロだ。そこにヴァンダーマークがクラでちょっかいを出したりする展開。リズムが消え、リード楽器(アルトとテナー?)のフリーバトル。そのあとマレットでのドラムソロ。そこにリフ(?)が入り、四ビートでビショップのソロ。なーんだかよくわかんない展開(この曲は毎度のことだ)のまま、終わる。
5.「クルツ・カンポ」……初日にも演奏。三管のモンク風の軽快な曲調から、ビショップとかレンピス(アルト)のからむようなソロ。互いにあおりたてるような、高度なインタープレイですごくもりあがるがそこからビショップが抜け出るようにひとりになる。セカンドテーマ(大げさ)が入り、五拍子でのヴァンダーマークのテナーソロになる。これはまさに本領発揮というべきぎょええええっという感じのソロでかっこいい。
VOLUME8
1.「ピース・オブ・ザ・パスト」……初演。ミディアムファーストのマイナーの4ビートで、レンピスのテナーとビショップのボントロが、かけあいのような感じで幕をあける(アドリブだと思うが)。そのあとビショップが残って、ボントロソロになる。バックでの、ドラムの「ドコスコトン!」というおかずが印象的だ。三管によるテーマの提示があって、アップテンポになり、レンピスのテナーソロ。がんばってはいるが、いまいち不完全燃焼かもしれない。殻を突き破ろうとして突き破れませんでした的な演奏か。セカンドテーマを挟んで、ヴァンダーマークのテナーとドラムの8バースバトル風のデュオになる。これが延々続く。ドラムのシャープなうまさが光る。そこにベースの速いランニングが入って、ヴァンダーマークのソロがあって終わり。
2.「ザット・ワズ・ナウ」……二日目、三日目にもやった曲。変拍子的なテーマからヴァンダーマークのゴリゴリのバリサクソロ。セカンドテーマに入って、レンピスのフリーキーなアルトソロ。バリサクがバックで、ずっと低音の単純なリフを吹いてあおりまくっており、レンピスもかなりがんばっている。ティム・デイジーのすさまじいドラムのバッキングにも注目。一転して、ビショップのフリーリズムでのミュートソロ。途中でオープンになったりするから、プランジャーをひっつけたり離したりしているのだろう。そこへヴァンダーマークとレンピスがからんできて、無伴奏のフリー三管アンサンブルになってから、テーマに入って終わり。
3.「ロング・ターム・フール」……「エアポーツ・フォー・ライト」に入ってる曲。バラード風のテーマをレンピスがテナーで歌い上げる(バックで二管のアンサンブルあり)。ベースのワンコードにのって、レンピスがそのままテナーソロをする。こういうゆったりとしたテンポのワンコードのときには、奏者のイマジネイションが問われるわけだが、いまいち不発。そのあと、ビショップ、ヴァンダーマーク(クラリネット)も同様のシチュエイションでソロをし、最後はクラリネット主導のアンサンブルで終わり。
4.「ストラタ」……初日にも演奏。レンピスのアルトとビショップのボントロの二管で、4ビートに乗って一緒にデュエット風に吹く冒頭部。ドラムが強烈にプッシュしまくるバッキングにも注目。そこからドラムソロになるが、イマジネイションあふれる、フリーないいソロだ。一転して超アップテンポの4ビートになり、ヴァンダーマークの気が狂ってるとしか思えない阿鼻叫喚のスクリーミングソロ(バッキングで、ビショップがわけのわからんことをしているのにも注目)。このソロは12枚組通してもっともヴァンダーマークが爆発した瞬間であろう。かっこいい!
5.「シヴィライゼイション〜ヴォランティアド・スレイヴァリー」……二日目にもやったカークのメドレー。ゆっくりまったりした4ビートに乗ってまずはレンピスのテナーソロ。なかなかええソロじゃ。ビショップが、そのまったり感を引き継いだソロ。これもよいソロだ。ドラムのリズムが変わり、二曲目に突入。かっこいい。ヴァンダーマークがテナーでひとりでテーマを吹き、2コーラス目から3管ユニゾンになり、ドカーン! と3人が三様のソロを同時にかます(やはり、ヴァンダーマークが一番突出している感じなのは、多くの修羅場をくぐってきたせいか)。そのエネルギーのまま、ラストへなだれこむ。
6.「ザ・ブリッジ」……三日目にもやったロリンズの曲がアンコール曲。速い4ビートでのレンピスソロがだんだん遅くなっていき、止まるかと思われた瞬間、ふたたびテンポがあがっていく。これはよほどドラマーとソロイストが呼吸がぴったりでないとできないことだが、レンピスは完璧についていってる。やはり、うまい。続くヴァンダーマークのテナーソロは、あいかわらずごつごつした巌のような手応えのフレーズを吹きまくる。テンポの変化には、うまさではなく気合いでぶつかる感じ。これもよし。最後はビショップがアップテンポ時に技術の限りを尽くした超バカウマフレーズを吹きまくり、そのまま「バサッ」と終わる。終わった瞬間、ヴァンダーマークがマイクで「ソニー・ロリンズ・サンキュー・ヴェリー・マッチ」と言うのだが、これは「ソニー・ロリンズの曲でした。ありがとう」という意味なのか、ソニー・ロリンズにありがとうを言ったのか、よくわからない。
VOLUME9
1.「コンキスタドール・パート2」……「フリージャズ・クラシックス」に入っている、いわずとしれたセシル・テイラーの曲。ヴァンダーマークのクラリネットとレンピスのアルトで、アフロっぽいリズムに乗ってテーマが奏でられたあと、レンピスの激しいアルトソロ。続いてビショップのボントロソロ。ドラムがあおりまくって、かっこいいことこのうえなし。一転して、ヴァンダーマークのクラリネットとケスラーのベースのデュエット。一曲のあいだにフリージャズのいろいろな局面を堪能できる名演だと思う。終わったとき、ヴァンダーマークが、「ハッピー・バースデイ、ミスター・テイラー」とアナウンスする。
2.「ノック・ユアセルフ・アウト」……二日目、三日目にも演奏。バリサクが印象的な変拍子ファンクっぽいテーマのあと、まずレンピスのテナーソロ。かなりいいところまでのぼりつめる感じ。そこからフリーになってからリフが入り、ビショップの堂々たる存在感のソロ。ソロとリフがかけあいのように展開する。これはさすがだ。うまさとえぐさがちょうどいいブレンド。どんどん盛り上がったところで、バリサクがサーキュラーで一音をずっーと吹き伸ばす。ハリー・カーネイみたいだ。うしろでドラムがカテカテカテカテカテ……とスネアの縁をスティックでパルス風に刻んでいる。そのあとテーマ。
3.「ピース・オブ・ザ・パスト」……四日目にもやった曲。ミディアムファーストの4ビートにのって、まずビショップがアドリブソロをするオープニング。そのあとテーマが提示され、速い4ビートにかわってレンピスのテナーソロ。3番手はヴァンダーマークのテナーとドラムの激しいデュオ。延々やったあとベースが入って、テーマ。
4.「カメラ」……またこの曲だ。これで5回目。毎日やってる。よほど気に入ってるのだろうな。ベースと3管の美しくも変態的なアンサンブルで幕を開ける。幽玄なテーマのあと、ケスラーのささやくようなアルコソロ。ビショップやヴァンダーマーク(クラリネット)のソロを経て、コレクティヴ・インプロヴィゼイションに。その間もずっと幽玄さを保ち、また、バラード的な内容なのにだれずにテンションを維持している。これは何度も繰り返し演奏したからであろう。デイジーのドラムソロを経て、テーマへ。
5.「クルツ・カンポ」……初日と四日目にも演奏。突拍子もないような無伴奏のテーマのあと、めっちゃ早い4ビート、そしてそのリズムに同じテーマが乗る。ビショップとレンピス(アルト)の同時吹奏(これももうおなじみだ)練れてきたのか、すごくいい感じ。フリーリズムになって、レンピスひとり残ってアルトソロ。ドラムとアルトの会話。だんだん盛り上がっていき、ベースも入って絶叫型のソロへ。この曲、レンピスのソロに関しては、このバージョンが最高だと思う。デイジーの壮絶なバッキングもすばらしい。最高潮に達したところでセカンドテーマ。うう、かっこいい。そのテーマのポテンシャルをそのままに、ヴァンダーマークの絶叫的テナーソロ。こういうソロを聴いていると、自分が吹いているような気分になる。デイジーもバックで大暴れ。
VOLUME10
1.「ザット・ワズ・ナウ」……二日目、三日目、四日目にもやった曲。この曲も登場回数多し。ビショップのリフに乗ってレンピスとヴァンダーマークがモンク的な不協和音のテーマを奏で、8ビートでのレンピスのアルトソロになる。このソロ自体もなんとなくモンクを、あるいはドルフィーを思わせるフレージング。リズム消えて、レンピスの無伴奏ソロになり、ここからはブロッツマン風の崩れた感じの演奏。ハーモニクスを多用しているのでエヴァン・パーカー的でもある(こうやって誰々風、誰々風……という紹介文ってよくないですよね)。しかし、なかなかいいソロで聞き応えあり。セカンドテーマ的リフ入り、同時にリズム入って、それに乗ってアルトソロまだまだ続く。レンピス大活躍の曲である。ガガッという印象的なフレーズで止まり、ドラムソロ→ガガッ→ベースソロ→ガガッ……とベースとドラムが交互にソロをしていくという変てこなパートがあり、全員入ってビショップのソロ主体の演奏になる。これはいいソロだ。それから、ヴァンダーマークのバリサクによる過激な無伴奏ソロに近い感じのソロになり、そこに2管がからんでくるものの、基本的にはひとりで吹いている。ビショップとレンピスは吹き伸ばしのリフを吹き、それに乗って、ますます過剰に吹きまくるヴァンダーマーク。ドラムレスのコレクティヴインプロヴィゼイションから、ドッカーン! とドラム入り、ロックリズムになって、変なテーマでおわり。まあ、一種の組曲ですが、作曲者(つまりヴァンダーマーク)の意図はなかなかつかみづらい。
2.「ジレーン」……三日目にもやった曲。3管アンサンブルによる叙情的なイントロから、バリサク主導でマイナーな旋律のテーマが演奏され、そのままバリサクのゆったりとしたテンポのソロになる。次に、いかにもケスラー的なフリーのアルコソロ(ドラムはバックでシンバルをチンチン……と刻むだけ)を経て、ビショップのフリーリズムなのに朗々としたソロ、そしてテーマ。
3.「テレフォン」……初日、三日目にもやった曲。早い4ビートのテーマから、レンピスアルトソロ。リズムに乗った、テクニカルなソロで、やはりうまい。一転して、ビショップのプランジャーミュートによる無伴奏ソロが延々と続き、またまた一転して、早い4ビートに戻り、ヴァンダーマークの激しいテナーソロ。この構成はお見事のひとこと。ストップタイムをバックに、テナーの激情的なソロが続く。このあたりも聞き物だ。もりあがったところでテーマ。
4.ヴァンダーマークのスピーチ。客は熱狂している。
5.「シックス・オブ・ワン」……二日目にもやった曲。変拍子風だが、いくおう拍数のあった変なテーマから、バリサクが重いリフを刻むまえでビショップのうねるような豪快なソロ。そして、デイジーのドラムソロを経て、デイジーのシンバルに乗って、ヴァンダーマークのインテンポのバリサクソロ。続いて、レンピスのアルトのエヴァン・パーカー風フリーインプロヴィゼイション、そして、ビショップのフリーインプロヴィゼイション、このふたつが交互に繰り返される。バックは、無伴奏だったり、ドラムだけだったり、ベースが入ったりとまちまちだが、ドラムが入っているときのデイジーのブラッシュワークにも注目(すごいぞ)。セカンドテーマがあって、ヴァンダーマークがテナーに持ちかえて絶叫また絶叫のソロ。なんどかテーマが入るがヴァンダーマークはどんどん暴走する。むちゃくちゃになって阿鼻叫喚の演奏のままテーマに入って終わり。一種の組曲だと思うが、20分以上もわけのわからん構成が続く、変わった曲である。
6.「アザー・カッツ」……初日と三日目にもやった曲。熱狂的なアンコール要求に応えて、3+3+2のジャズロック風テーマのあと、ヴァンダーマークのテナーソロ。テーマを挟んで、ビショップのソロ。またテーマに戻って、一転、ケスラーのアルコソロ。ここでヴァンダーマークはバリサクに持ち替えて、ジャズロック風のセカンドテーマのあと、レンピスのテナーソロ。フリーリズム風になり、コレクティヴインプロヴィゼイションが延々と続き、セカンドテーマに戻っておわり。
7.「ザ・ブラック・アンド・ザ・クレイジー・ブルース」……初日、三日目にもやったカークのブルース。ヴァンダーマークはクラリネットで、ビショップとともにマーチ風イントロ、そして、ニューオリンズ風テーマ。最初はビショップソロ、ヴァンダーマークの濁った音のソロ、ケスラーのソロを経て、テーマに戻る。最後にヴァンダーマークが作曲者、ローランド・カークの名前を告げる。
VOLUME11
ここからはポーランドのメンバーふたり(ベースとドラム)も加わった一種のセッションなので簡単に。6曲中、テーマのないフリーのジャムセッションが3曲入っているが、じつはこれがめちゃおもろい。一曲目など、早いテンポで吹きまくるビショップが堪能できるし、3曲目のレンピスの輝かしいソロとそのバッキングもすごい。こういう自由な場面を、スタジオ録音でも随所に入れてほしいと思うのだが。あと、ロリンズの「イーストブロードウェイ・ラン・ダウン」とドン・チェリーの「エレファンタジー」のメドレーは、どちらもヴァンダーマークがよくとりあげるフリージャズのスタンダード。ポーランド勢もよくがんばっている。「テーマ・フォー・アルケミア」というのは、この5日間のライブが行われた店に捧げたもので、ものすごくふつうの曲。最後の「ベムシャ・スウィング」はモンクの曲。めっちゃふつう。レンピスのソロが光るが、ごくあたりまえのアプローチで、ほんまのジャムセッションという感じ。
VOLUME12
一曲目はオーネット・コールマンの「ラウンド・トリップ」でレンピスのテナーソロがすごい。でも、フリーというよりも、ごくふつうにうまいモーダルなテナーマンという感じ。最後のほう、フリーキーな感じになるが、そのあたりはソロ二番手のヴァンダーマークのほうがさすがにうまい。こうなるともうテーマがなんだったかなど関係なしに吹き倒し、暴れ倒す。むちゃくちゃでござりまするがな、という感じ。聴いていて、かなり興奮する、23分にも及ぶ手応えのある演奏。こういう「斬り合い」において、ヴァンダーマークのすごみがもっとも発揮されると思う。2曲目、3曲目はテーマなしのフリーセッション。2曲目ではケスラーの魅力が大爆発。このひとは本当に変態だ。3曲目では、ビショップの汲めどもつきぬイマジネーションとテクニックが全開。ほんとにすごいトロンボーン奏者である。「トーゴー」はオールド・アンド・ニュー・ドリームスとかでやってるエド・ブラックウェルの曲(どこかの民謡をベースにしているらしい)。レギュラーであるティム・デイジーとケント・ケスラーだけをバックにしたピアノレストリオ編成でのヴァンダーマークは、DKVトリオ的な自由奔放なアプローチで吹きまくり、いやいやいやいや、この12枚組通して、実はもっともヴァンダーマーク的ではないかというようなすばらしいソロをしています。時間は短いけど、ええ演奏じゃ。この12枚組最後の演奏は、オーネット・コールマンの「ロンリー・ウーマン」である。ここではヴァンダーマークもビショップも抜けて、レンピスのワンホーントリオで演奏が行われる。

さて、この12枚組を聴き終えて思ったことを列記しておく。
・ヴァンダーマークがこのツアーにバスクラを持ってきていないのは実に残念だ。
・レンピスが進境著しい。彼のサックスはこのバンドのネックだと思っていたが、いまやヴァンダーマークをおびやかしている。あとは「音色の個性」でしょう。
・ティム・デイジーのドラムはほんとうにすごい。ニルセンラヴにくらべても遜色ないと思う。がんばれ、ティム・デイジー。
・同じ曲を何度もやっているので、聞き比べて違いがわかるおもしろさがある。新曲が、しだいに形になっていくおもしろさとかも。
・ポーランドの客はじつによくわかっている。

「UTILITY HITTER」(QUINNAH Q09)
KEN VANDERMARK BARRAGE DOUBLE TRIO

 ずーっと探していて、もういいや聴かなくても、と半ばふてくされていたら、忘れていたころに入手できた。さっそく聴いてみると、いやー、すごいですわ。フロントはヴァンダーマークとマーズ・ウィリアムズ。ベースはケント・ケスラーとネイル・マクブライド。ドラムはハミッド・ドレイクとカート・ニュートン。このうち、マーズ、ケスラー、ドレイクがシカゴトリオ、ヴァンダーマーク、マクブライド、ニュートンがボストントリオということになっている。ヴァンダーマークはこういった「ダブルトリオ」的な試みが好きなようだが(AALYトリオとDKVトリオのダブルトリオとか、アトミックとスクールデイズの合同バンドとか……)、本盤はまさにがっぷり4つ。一曲目は、ヴァンダーマークとマーズがテナーでバトルをしまくる、血湧き肉躍る興奮の一曲。まるで、ジョニー・グリフィン〜ロックジョウ・デイヴィスのタフ・テナーズみたいな重量級バトル。実はこの曲、ヴァンダーマークのオリジナルで、グリフィンとロックジョウに捧げられているのだ。ある本によると、ヴァンダーマークとマーズは本当に見分けがつかないぐらい似ているというが、こうしてバトルを聴くと、明らかにちがいがわかる。エッジのたった、ロックのホーンセクション的な固い音をしているのがマーズで、もう少しもっちゃりしたトーンがヴァンダーマークだ。フレーズも非常に個性があるので、今の私なら、まず聞き間違えることはないと思う(けど、まあ、わからんわな)。ヴァンダーマークの作曲と、フリーインプロヴィゼイションの曲を交互に配置し、シカゴトリオだけの曲(つまりヴァンダーマークが参加していない)とか、ベースデュオ、ドラムデュオ、テナーサックスデュオなどもあり、一枚聴きとおすに飽きさせない構成になっている点も注目。曲もよく、ヴァンダーマーク5にマーズがいたころのサウンドに近い。しかも、ドラムとベースがふたりずつで、パワーを送ってくれるのだから、ボルテージあがりまくり。傑作と呼んでさしつかえないアルバムです。

「DEEP TELLING」(OKKA DISK OD12027)
JOE MORRIS WITH DKV TRIO

 ヴァンダーマークがギタリストと組む、といったらこのジョー・モリスだ。オーネット・コールマンの「ジャズ来るべきもの」的なアプローチを発展させたような、シリアスで地味なタイプのフリージャズ。単音でパキパキ弾くのがほとんどで、ギターというのはエフェクターを使ったり、さまざまな音を出せるのになあ……と思ってしまうのはまちがいなのか。ジム・ホールやジョー・パスがフリージャズをやってる感じ、といったら近いか。めちゃめちゃテクニックはあるが、インパクトがない。高柳さん、内橋さんといった、ギターの可能性をフルに使ったタイプのギタリストを聴いているともの足らなくおもえるのは事実。しかし、たしかにタイトルどおり、深い会話がかわされているように思える。つまり、聴けば聴くほどそのよさがわかる、スルメのようなフリージャズ。そして、もうひとりの主役であるヴァンダーマークは絶好調。いつもと同じというか、いつもよりテンション高いブロウを繰り広げる。たとえば一曲めのモールス信号みたいなソロとか、無調バラード(?)でのベン・ウエブスター的なサブトーンでのプレイとか、アイラーみたいな絶叫プレイとか、とにかく全編すばらしい。ヴァンダーマークがそういうブロウをしているとき、ジョー・モリスは単音でバックで淡々と弾いている。この対比がおもろい。というか、彼のそういったクールな対応が、たしかにヴァンダーマークの最良の演奏を引きだしているようだ。DKVトリオの他二名もあいかわらずすばらしいし、これは深いよ……でもDKVトリオだけのほうがよかったかも……あわわわ、それは禁句です。ほんと、マジで深いです。

「EXPANSION SLANG」(BOXHOLDER BXH006)
TRIPLEPLAY

 やっぱり、ヴァンダーマークはこういうセッティングがいいよなあ。一曲めのテナーでの12分におよぶパワフルなブロウを聴いていると、ヴァンダーマーク5でのメンバーに気をつかってソロをまわしている姿が嘘のようで、こういった「とにかく俺はめちゃくちゃ吹きまくるから、おまえらもガンガン行けや」みたいなトリオ作だと、ヴァンダーマークのいちばんいいところが出る……と思う。3曲めでフィーチュアされるクラリネット、4曲めのバスクラも秀逸。ドラムのカート・ニュートンは、昔(というほどでもないが)、ヴァンダーマークがシカゴにいくまえに、ボストンで共演していたドラマーで、「UTILITY HITTER」などのアルバムで叩いているひとだが、なかなかいい。このアルバムでもほとんどぶっつけ本番らしいが、おなじみのマクブライドのベースとともに、いいプレイをしている(もちろん、ハミッド・ドレイクやニルセンラヴにくらべると物足りない部分もあるのだが)。でも、ドン・チェリーに触発されたというこのアルバム、「ガンビット」よりも録音が古い、ということは、限定盤ででていたというこのグループの第一作の再発なのか。英語力がないのでよくわからん。とにかくシンプルでたいへん気に入りました。

「GATE」(ATAVISTIC ALP160CD)
SOUND IN ACTION TRIO

 前作はデルマークから発表された、ヴァンダーマークの「サウンド・イン・アクション・トリオ」。ツインドラムに1ホーンという特異な編成。もっとも前作からドラムが片方変わっている。前作は、ヴァンダーマークの自作曲にくわえて、オーネット・コールマン、サン・ラ、アイラー、ドン・チェリー、モンク……といったいわゆるフリージャズクラシックを演奏していたが、今回も趣向は同じ。ヴァンダーマークの自作曲にくわえて、ドルフィー、サン・ラ、エド・ブラックウェル、コルトレーン、アイラー、ハービー・ニコルズらの作品を取り上げている。本当にヴァンダーマークは、先達へのトリビュートが好きなのだなあ。ドラムが二人で、コード楽器がいない、ということから、彼のリズムへのこだわりがもっとも生な形ででたバンドといえるだろう。そのせいか、今回のヴァンダーマークの自作曲はハン・ベニンク、エルヴィン・ジョーンズ、ポール・ロヴンス、トニー・ウィリアムス、ポール・リットン……といったドラマーたちに捧げられている。じつは、以前は気がつかなかったのだが、前作もじつは、彼の自作曲は、ロバート・ベリー(メンバーのひとりでもある)、ビリー・ヒギンズ、エド・ブラックウェル、マックス・ローチ……といったドラマーたちに捧げられていたのだった。知らんかったなあ。で、肝心の演奏だが、じつにかっこいいし、すばらしい。全11曲と、一曲あたりの所要時間は、いつものヴァンダーマークとしては短いが、全部聴きとおしてみると、全部で70分の長い一曲……という風に見ることもできる。それぐらい、全体を通してひとつの統一感があり、ある意味、ドラマーに捧げた組曲という風に考えることもできる。テナーもクラリネットもバリトンも、どれもいい。しかし、聴き通してみて、はたと考え込んでしまった。そして、小声で言うのは、
「このアルバムって……ドラマーひとりでよかったんとちゃう?」
 ということなのだ。ほとんどの瞬間は、ひとりのドラマーでもじゅうぶん表現できるようなリズムであって、ふたりを起用した意味がいまいちよくわからんのだ。すごく好きなアルバムなのだが、ドラムとのデュオでよかったのでは……というようなことは言ってはならんのだろうな。と、ここで前作の私のレビューを読むと、やはり「ひとりでもよかったんちゃう?」と書いてある。やっぱりなあ。

「MONTAGE」(OKKA OD12071)
FREE MUSIC ENSEMBLE

 FMEとDKVトリオは、おなじヴァンダーマークのピアノレストリオでも、かなりちがう。後者が、ハミッド・ドレイクのブラックネスあふれる柔軟でふところ深く、かつパワフルなドラムが中心としたら、このFMEはニルセンラヴの変幻自在でビンビンのシャープな反応が聞き所のドラムが中心である。もちろんニルセンラヴもパワーでは互角で、私はこのふたりに芳垣さんをくわえた3人が、2007年現在の世界3大ドラマーだと思っている。とにかく、ヴァンダーマークはどちらでも同じ演奏をするのだが、ドラマー(とベーシスト)のちがいによってサウンドはちがったものになっている(どこがどうちがうかといわれると困るけど、DKVトリオのほうが、よりフリージャズ的で、FMEのほうがインプロヴァイズドミュージック的な感じをうける)。でも、どちらもヴァンダーマークの曲(DKVトリオは、ドン・チェリーの曲とかもやるけど)をかっちり演奏するバンドにはちがいなく、似た部分のほうが多いのだが、いずれにせよ二組ともすげーメンツのすげーバンドではある。で、このアルバムだが、二枚組のライヴで、一枚目と二枚目は順番こそちがうが、まったく同じ曲目が収録されている。そういう意味では、あの12枚組のポーランドのライヴに近い。また、印象としてはDKVトリオの二枚組ライヴに近い。ほとんどが有名な映画監督に捧げられており、北野武や黒澤明に捧げられた曲もある。とにかく内容はすばらしく(バリトンを多用している感じ)、ストレートアヘッドなタイプのヴァンダーマークの演奏としては、最近のものではぴかいちだろう。組曲風のノンストップな演奏で、この3人の手にかかると曲が生き物のように分裂・増殖していくのがわかる。全力で推薦します。

「BROKEN MUSIC」(ATAVISTIC ALP183CD)
FIRE ROOM

 ヴァンダーマークとポール・ニルセンラヴのコンビに、エレクトロニクスのラッセ・マーホーグ(と読むのではないだろうなあ。わからん)を加えたトリオ。一曲目冒頭を聴いたときは、どんな過激でえぐい演奏ばかりか、と思ったが、とにかくめちゃめちゃ過激でかっこいい。しかし、ずっとこの調子なのかと思って聴き進めていくとそうでもなく、ヴァンダーマーク自身はつねにアコースティックな立場をキープしているし、2曲目以降はノイズの嵐のような部分もさほど多くなく、その分、かえって、ヴァンダーマークのサックスが濃厚に浮かび上がる。3曲目のバリトンとドラムの応酬など、まさに「セヴン」というかなんというか……すばらしい。しかし、そういった部分が本作の本命ではなく、4曲目にでてくるノイズの連打による大爆発は、たしかに「じゃかましやいっ!」と絶叫したくなるほどうるさくて快感。アコースティックな部分とノイジーな電子音の嵐が交互にでてきて、同時にからんでいくところも決してうまく融合していない、ときには相手を邪魔しているように聞こえることも含めて、ライヴ感あふれる過激なコンセプトだと思う。聴き終えてからの実感としては、ヴァンダーマークにはせっかくだからもっと暴れまくってほしかった。マツ・グスタフスンの「ディスカホリック・アナニアス・トリオ」と似た狙いの演奏だが、ディスカホリック……のほうがもう少しクールかも。このラッセ……というひとはだれやねん? と思ったが、なるほど「パワーハウス・サウンド」やテリトリーバンドに参加してる、あのノイズのひとなのか。やっと名前と演奏が一致した。3人対等のグループだと思うが、便宜上、ヴァンダーマークの項に入れた。

「THE POINT IN A LINE」(SMALLTOWN SUPER JAZZ STSJ142CD)
FREE FALL

 ヴァンダーマークがピアノとベースを相棒にして、クラリネットをフィーチュアしたプロジェクトの第三作。うーん、なるほど。前二作も悪くはなかったが、私はこの3作目がいちばん好きかもしれない。最初は、ジミー・ジュフリーの音楽に傾倒した、ヴァンダーマークの「室内楽的フリー」みたいなプロジェクトだったが、この3作目では、いきなり過激なリズムに乗せて、ヴァンダーマークがクラリネットを吹きまくる。前作よりも力強さ、奔放さが増し、そしてクラリネットならではの木管の響きが、サックスでの荒っぽいブロウとはまたちがった細やかな狂気を醸し出している。美味しいなあ。昔なら、やっぱりサックスがぎょえええって吠えてくれないと物足らんなあ、と思っていただろうが、私も大人になったというか練れてきたというか……とにかく物足りなさはまったくなく、もっと聴いていたいと思ったほどであるが、それはやはりベースがフラーテンでピアノが○○というメンバーの良さ、そしてリーダーであるヴァンダーマークの着眼と表現力ということになるのだろうが、それにしても3作目でここまで到達するとは、やはりグループというのは一作で終わらせず、しつこく長いこと続けるべし、なのだなあと思った。

「COLLIDE(FOR FRED ANDERSON,BRUNO JOHNSON,AND MICHAEL ORLOVE)」(OKKA DISK OD12090)
TERRITORY BAND−6 WITH FRED ANDERSON

 ヴァンダーマークの活動のなかでは、ヴァンダーマーク5以上に興味のなかったこのグループだが、前作である5作目がめっちゃ良かったので、この作品もまあまあ、そこそこ期待していた。聴き終えての印象としては、期待は裏切られなかった。でも、おおっ、すげーっ、めちゃめちゃええやん……とまでいかなかったのは、やはりソリストに力のばらきがあり、ソロによってはときには途中でダレてしまい、全体のポテンシャルがそのときにぐーっと下がってしまうからではないか。もう、ラッパとかチューバにはアンサンブルに徹してもらって、ソロを回さないでいいんじゃないの? とさえ思う(あるいはもっと短くするとか)。逆に、ソリストとして特筆すべきは、なんとデイヴ・レンピスで、ほかにアルトを吹いているひとがいないので、これはまちがいなくレンピスなのだろうな……とにかく爆発した良いソロをしていてびっくりした。いつも、考えすぎたり、パワー不足だったりするのに、がんばっとるなあと感心。敬遠していたハーカー・フラーテンのクインテットも聴いてみようかな、という気にさせられた。作曲については、なかなか佳曲が多いが、これまた、めちゃめちゃええやん、とまではいかないが、ヴァンダーマーク5でもありがちなように、ヴァンダーマークはときとしてアレンジでバンドを縛ってしまうほどの束縛をずくことがあるので、この程度のラフな縛りのほうがいいのかもしれない。リズムセクションはこれ以上言うことのない最高のメンバーなので、リズムやグルーヴ面は文句ありません。ニルセンラヴとポール・リットンなんてちょっとありえないですよ。ベースとチューバで補強された低音部もすばらしい。そして、あのでたらめ、無茶苦茶、過激エレクトロニクスのラッセ・マーホーグがノイズをちりばめて暴走し、バンドに喝を入れる。そして、なによりも御大フレッド・アンダーソンが最高の太い音で、自由にブロウしまくる場面がいちばんかっこいい。若者から年寄りまで、生音からノイズまでをぶちこんだテリトリーバンドの到達点として評価したい。前作のほうが好みだが、本作も1作目〜3作目あたりまでのように、聴いてみて、うーんちょっとしんどいなあ、なにがやりたいんだろうなあ、ヴァンダーマーク5とどうちがうねん……みたいな印象はまったくなかった。今のテリトリーバンドなら、ぜひ生で聴いてみたい。

「CUTS」(OKKA DISK OD12061)
FME

 こういうのを聴くと、やっぱりヴァンダーマークはトリオやなあ! と叫んでしまいたくなる。FMEとかDKVトリオとかTRIPLE PLAYとかSPACEWAYS INC.とか、ヴァンダーマーク率いるピアノレストリオには外れがない。考えてみれば、サウンド・イン・アクション・トリオ(2ドラムにサックス)やフリー・フォール(ピアノ、ベース、クラリネット)もトリオなのだが、ピアノレストリオというのはロリンズやコルトレーン、オーネット・コールマン……以来の伝統的編成であり、サックスがリーダーの場合、いちばん自由で、かつ一番腕が試されるセッティングであろう。そういう編成を好んでいるヴァンダーマークはやはり自分の演奏技術や耳によほど自信があるのだろう。いきなりバリサクではじまる本作は、どこを切っても金太郎飴のように三人によるグネグネと絡み合うサウンドが飛び出してきて心地よい。ヴァンダーマークも、じつに自由に、好きなように吹いている。こういった、その場その場でいろいろとおもしろいことを考えながら、試しながら吹く、弾く、試す……という音楽は、ぜったいに古くならないと思う。ヴァンダーマークにとっては、非常に「標準的」で「典型的」なアルバムだとは思うが、そのグレードはめちゃめちゃ高い。ヴァンダーマークをどれか一枚、と言われたときに、そのときの気分によって、この作品を挙げたとしてもまったくおかしくはない。それぐらい優れた内容だ。

「4 CORNERS」(CLEAN FEED CF076CD)
4 CORNERS

 4 CORNERSというのがアルバムタイトルなのかバンド名なのかよくわからないが、とにかくヴァンダーマーク、マグナス・ブー、アダム・レイン、ニルセンラヴの4人によるグループのポルトガルでのライヴらしい。このマグナス・ブーというラッパのひとが私にはどうも、まったくいいと思えないのです。だから、みんなが絶賛するアトミックも評価できない、というか、ラッパソロを聴くのがつらいのである。こんな、音のぱすぱすなトランペット、なんでみんなええと思えるんかなあ……。わからん。私の耳がアホなのか……。このアルバムも、とにかく曲はいい。アダム・レインの曲とヴァンダーマークの曲が半々ぐらいだが、そのどちらも作曲としてはすばらしいと思う。でも、一曲目いきなり冒頭のラッパソロでがっくりした。そのあとに出てくるヴァンダーマークのソロはすばらしく、もちろんリズムセクションは最高なので、演奏もめちゃめちゃいいのだが、ラッパだけがなあ……。そういう感じがこのアルバム全編をとおしてつきまとうのである。トリオでも十分だったかも……いや、そこまで言うとあまりにマグナス・ブーに申しわけないか。とはいえ、バンドとしての4人のポテンシャルは凄くて、ラストの曲にいたるまで、一丸となった演奏が続き、圧倒的なパフォーマンスであることはまちがいない。終わったときの会場の大拍手と歓声も、心からのものであると思うし、私も「おおっ、すごい」と素直に思った。それはマグナスのラッパも含めてのことであり、彼も真摯に、全身全霊をこめてプレイしていることはよくわかるし、だからこその感動なのだが……でもなあ……まあ、これは好みの問題なのかもしれないのであまり深入りはしないようにしよう。ダメだと思っていたプレイヤーの評価があるときコロッと変わることもたまにあるから。

「OSLO/CHICAGO:BREAKS」(ATAVISTIC ALP177CD)
POWERHOUSE SOUND

 全曲ヴァンダーマークの作曲だが、それをオスロのバンドとシカゴのバンドで同じ曲を演奏してみようという、なんだかよくわからない企画。どちらも、ヴァンダーマークとベースのネイト・マクブライド(エレベ)の2人は共通しており、オスロ側はそれにエレクトロニクスのラッセ・マーホーグともうひとりのベースとしてハーカー・フラーテン、ドラムのニルセンラヴが、シカゴはギターのジェフ・パーカーとドラムのジョン・ハーンドンがそれぞれ加わっている。なにしろ同じ曲を(ほぼ)同じメンバーで演奏するわけだし、メインのソロイストはヴァンダーマークなのだから、だいたい似たような内容になるのでは……と思うかもしれないが、これがなかなかそうならないところがヴァンダーマークの目のつけどころである。全編、ジャズファンクというか、過激なリズムのものばかりで、ヴァンダーマークの作曲センスも正直言ってヴァンダーマーク5よりも光っているように思う。オスロ側の一曲目の変拍子(10+13みたいな変態リズムだが、それをドラムとツインベースが見事にグルーヴさせ、うねらせている)からとりこになってしまう。ヴァンダーマークのサックスが吠え、マーホーグのエレクトロニクスがノイズの嵐を吹きまくらせる。これで興奮しないやつはおらんやろ! というぐらい凄まじい演奏である。このエレクトロニクスとツインベースがオスロ側の飛び道具だとすると、それに比べると、シカゴサイドは編成だけをみると、普通のピアノレス、ギター入りカルテットなので、いつものヴァンダーマークのサウンドなんだろうな、これはオスロ側の勝ちかな……と思って聴いてみるとさにあらず。じつは「オールド・ディクショナリー」という曲はシカゴサイドにしか入っていないのだが、これがめっちゃかっこいいうえ、ほかの曲もオスロとはまるでちがった側面を見せてくれる。ジェフ・パーカー万歳。うーん、たいしたやっちゃ、ヴァンダーマーク! 最近のヴァンダーマークは、なにがやりたいのかいまいちわからんようなアルバムや、過去の延長にあるような作品、無駄に大編成な作品……なども散見され(それらも、ちゃんと聴かせてしまうところがヴァンダーマークのすごいところではあるが)、マンネリとか乱作気味とかマツに負けてるとかいった言葉が喉のところまであがってきていたのだが、ああ、それを口にしないでよかった。やっぱりヴァンダーマークは凄い。珍しくテナー一本に絞ったのも良かったのかも。これは傑作です。しかし、内ジャケットの写真をみると、全員がボーズというのもえげつないグループである。

「ELEMENTS OF STYLE・・・EXERCISE IN SURPRISE」(ATAVISTIC ALP150CD)
THE VANDERMARK FIVE

 一曲目、ジャズっぽい編曲の曲でスタートし、デイヴ・レンピスのソロ。うーん、なかなかよい。ヴァンダーマークの丸っこい音のソロもかっこいいが、なんといってもビショップのボントロが爆発している。彼は本作では全編に渡ってバリバリ暴れていて、この次のアルバムを最後にこのバンドを抜けたのはほんとに残念。二曲目はめっちゃかっこいい変拍子系ゴリゴリの曲だが、どこかで聴いたテーマだ……と思っていたら、あの大作ライヴ「アルケミア」で取り上げていた曲なのだった。いやー、こういう曲をやらせるとヴァンダーマーク5の本領発揮です。3曲目はインプロヴィゼイションの応酬。4曲目は古いフリージャズっぽい、超アップテンポに変態テーマ、あとはリズムに乗ったぐじゃぐじゃのソロ回し……という曲で、たしかこれも「アルケミア」で聴いたことがある。レンピスはがんばっているが、やっぱり音色というかソノリティが邪魔をして感動を呼ぶというところまではいかない。そのあと、ズバッと切れて、静かなハーモニクスによる即興パートになる。そしてまた超アップテンポでのヴァンダーマークのソロ、そしてブレイクの連打……という趣向。ドラムを中心とした5人のメンバーの気持ちがぴったり合っていないとできないアクロバットである。5曲目は静かなパーカッションだけをバックにひとりずつゆるやかなソロを披露する曲。6曲目は、ドラムとのデュオ(正確にはデュオだけではないが)の合間にテーマが挟まる形式(どこかで聴いた曲なので、たぶんこれも「アルケミア」か?)。個人技が大きくクローズアップされる演奏で、やはりジェブ・ビショップがなかなかのソロを披露。しかし、彼のソロはジャズの形式から大きく逸脱することはない。ヴァンダーマークはいつも思うことだが、なんだか苦しそうな吹きかたをする。スコーン!と抜けてしまうような演奏を彼はしない。そこが魅力でもあるのだが……。7曲目は20分を越える大作。ボントロのソロはたしかに実力を感じさせる、悠揚せまらぬ味わい深いもの。そのあとのリズムだけを頼りに吹きまくるヴァンダーマークのバリサクソロはなんだか痛々しい(そこが魅力なのだが)。テナーソロになると俄然いきいきしてくるように思えるのは私だけの印象だろうか。え? バリサクソロはレンピス? うーん、ちがうと思う。アンサンブルではあきらかにアルトとバリサクの2管なのである。でも、とにかくなかなかガッツのある演奏だとは思うが、いつものことながらもう少しライヴ感というか、奔放さがあってもいいかなあとは思うのである。

「THE COLOR OF MEMORY」(ATAVISTIC ALP166CD)
THE VANDERMARK 5

 二枚組。一枚目の一曲目(「アルケミア」で演ってる曲)はドラムとベースをバックにデイヴ・レンピスが吹きまくるが、途中でバックが消えて、無伴奏のソロになり、かなりがんばっている。そのあとのサックス2本のハーモニクスのパートになると俄然いきいきしてくる。二曲目はなんとレイ・チャールズ、エルヴィン、スティーヴ・レイシーに捧げた曲で、4ビートの落ち着いたナンバーをヴァンダーマークがバスクラで吹きぬけていく。ヴァンダーマークのバスクラはじつにうまい。ボントロとバスクラのからみなど、じつに「ええ感じ」であるが、なぜこの曲が(ほかのふたりはともかく)レイ・チャールズに捧げられているのかは不明。3曲目は、思わせぶりなフリーのイントロから、パーカッションとベースのスローなからみをバックに管楽器がソロをつらねていく、というヴァンダーマーク5ではよくある展開の曲だが、緊張感を保つのはなかなかむずかしい。4曲目はアート・ペッパーに捧げられた古いドルフィー風(つまりバップのパロディのような)リフ曲。レンピスのアルトもなんだかドルフィーっぽく聴こえる。つづいてヴァンダーマークが切迫感のあるソロをする。これはとてもかっこいい。そのあとビショップのハードバップ風の安定感のあるドスのきいたソロになるが、これも聴き応えあり。ただ、こういう展開を「なんのために」やっているのかよくわからないのが、ヴァンダーマークの編曲の特徴といえるかもしれない。5曲目はゆったりとしたグルーヴの曲で、ビショップのトロンボーンがまるでスライド・ハンプトンのようなソロをする。ヴァンダーマークもいつもよりおとなしい感じのジャズっぽいソロ。そのあとケント・ケスラーのベースソロになって消え入るように終わる。うーん……なにがやりたいのか。二枚目の一曲目はアトミックのトランペット奏者マグナス・ブルーに捧げた曲。二曲目は「アルケミア」でさんざん聴いた曲で、幽玄の世界を漂うような演奏。正直いって、ヴァンダーマーク5にはこの手のスローナンバーがかなり多い。緊張感をもって聴き通すのはたいへんだが、よく聴いてみると、いろいろとアグレッシヴな見せ場もあり、場面転換も多く、なるほどなあと感心する。3曲目も「アルケミア」で演っていた曲。4ビートにのってボントロのアドリブで幕をあけ、テンポアップ。最初のテナーソロはレンピスか? つぎのテナーはヴァンダーマークだと思うが(めちゃめちゃかっこいい)。

「A DISCOUNT LINE」(ATAVISTIC ALP173CD)
THE VANDERMARK 5

 ああ、ついにジェブ・ビショップが抜けてチェロのフレッド・ロンバーグホームになってしまった。3管編成から2管になったわけだが、それがどういう影響というか変化をアンサンブルやソロにもたらすか興味深い。そのうえ驚いたことに、ヴァンダーマークはテナーを吹いていない。ほかのアルバムではそういったこともあったが、ヴァンダーマーク5でははじめてである。なにを考えとんねん、こいつは! マツ・グスタフスンもバリサクしか吹かなくなってきているし、どういうこっちゃ。などとぼやきつつ、さっそく聴いてみると、一曲目のレンピスのアルトソロがめっちゃいいではないか。そうそう、こういうソロをいつもしてほしいのである。アルトソロのあと、ベースとチェロによる地を這うような変態ストリングスデュオがはじまり、ここもかっこいい! もしかするとチェロを加えたのは正解かもしれないなあ、と思っていると、ヴァンダーマークのこれまた爆発敵なソロ。え? これってテナーじゃないの? ラストの偏執狂的リフもよい。とにかく往年のヴァンダーマーク〜ウィリアムスコンビを彷彿とするイキのいい演奏で幕をあけたので、二曲目以降に期待がふくらむ。二曲目は4ビートの、いかにもヴァンダーマークらしい跳躍の多いテーマを持つ曲。第二テーマもかっこよくて、なるほどヴァンダーマークは編曲の才能はたしかにある。いきなりのチェロのソロも素敵で、レンピスのアルトもいい。うーん、ここへきてレンピスは本格的にうまくなってきたような気がする。ラストのアホみたいなリフになだれ込んで終わるパターンは一曲目といっしょ。こういうところでヴァンダーマーク5のパワーが無駄に発揮されてすばらしい。3曲目はマレットのアフロリズムに乗ってはじまる変態的リフの曲。ようこんな曲書くなあ。アンサンブルそのものが消えていき、完全な無音になったあと、掛け合いっぽいインプロヴィゼイション。なんだなんだ、なにがやりたいのだ。レンピスのテナーソロも悪くない。4曲目はフィリップ・ウィルソンに捧げた曲で、最初に出てくるチェロのソロはかっこいいし、レンピスのアルトもぶりぶり吹きまくっていて快調である。五曲目はまたしてもドルフィー的なテーマの曲だが、ソロに入るとけっこうガチンコの即興が激しくぶつかりあう展開で楽しい。こういう状況でいつもチェロが活躍している。ヴァンダーマークがバリサクでぎゅーっと押しつぶすようなソロをしている。六曲目はトリッキーでお茶目なテーマをもった曲。こういう曲が書けるのがヴァンダーマークの強み。七曲目は……この冒頭の過激なソロ、これはてっきりヴァンダーマークのテナーだと思っていたが、ライナーによるとヴァンダーマークはテナーは吹いていないはずなので、じゃあこれってレンピス? だとしたらレンピスくん、きみはテナーを主奏楽器にしたほうがいいよ。めっちゃええやん。アルトよりずっといい。え? ヴァンダーマークのバリサクか? いや……ちがうと思うけどなあ。もっぺん聴いて、よく確認しよう。そのあとチェロをバックに吹いているのは、たしかにヴァンダーマークのバリサクである。でも、そのあたりではレンピスはアルトを吹いているようで、つまりはよくわからん。八曲目はゆったりとしたミディアムの4ビートで、ヴァンダーマークはバスクラで歌いあげる(どうしてもドルフィーを連想してしまう)。そのあと、不気味なリフをバックにチェロが狂乱の演奏(かっこいい!)。つづいてレンピスのアルトソロは、やはり線が細いとは思うけど、なかなかがんばっている。というわけで、このアルバム、ヴァンダーマーク5の久しぶりの傑作ではないだろうか(ロンバーグホームの貢献大! ビショップが抜けて、モダンジャズ的な要素がなくなったのも、結果として吉につながったのかも)。

「BEAT READER」(ATAVISTIC ALP184CD)
THE VANDERMARK 5

 このアルバムでも、ヴァンダーマークはバリサクとクラリネット類しか吹いていない。テナーを吹け、テナーを! といいつつきいてみると、一曲目は、速い4ビートに乗せたヴァンダーマークのバスクラがいい味をだし、レンピスのアルトがチャルメラのような異国趣味を感じさせる熱いソロをして、そのバックでチェロがはじけ、おお、本作もおもしろそうですねえ……といやが上にも期待が高まる。二曲目も冒頭のレンピスのアルトソロがめっちゃいい。はじけている。よくぞここまで成長した、と私は涙がとまらなかった(嘘)。ロンバーグホームがエレクトリックノイズを多用しているのも効果的だ。最近のヴァンダーマーク5に欠けていたのは、このライヴ感というか熱気、狂気なのである。もっとやれ! 3曲目はゆったりしたマイナーの歌ものっぽい感じかと思ってたら、なかはノイズのオンパレード。4曲目はぐちゃっとしたインプロヴィゼイションが、一転速い4ビートになり、ヴァンダーマークのクラリネットがフィーチュアされる(ヴァンダーマークはクラもめっちゃうまい)。チェロとのからみになるあたりも好み。5曲目はマックス・ローチに捧げられた曲で、こういうテンポがかわるような曲を軽々と叩きこなすティム・デイジーはうまいなあ、と感心する。ヴァンダーマークのバリサクは正攻法。ものすごく速いテンポに乗って吹きまくるレンピスのテクニックにも感心する。めっちゃ盛り上げたあと、ロンバーグホームのノイズの嵐になる。6曲目は亡くなったポール・ラザフォードに捧げられた曲で、いろいろな局面がある、ある意味ヴァンダーマークらしい組曲(?)。7曲目は全体にゆったりしたインプロヴィゼイションが流れていくが、レンピスのアルトがいい味を出す。8曲目は、写真家の森山大道に捧げられた曲で、レンピスのテナーがめっちゃかっこいい。やっぱりレンピスはテナーのほうがいいんじゃないのかなあ……大きなお世話かもしれないが。こういうモーダルなソロのバックでもチェロがノイズをふりまき、緊張をあおる。つづくバリサクソロは真っ向勝負のヴァンダーマーク。チェロのソロもすばらしい。次作が楽しみだ。

「AMSTERDAM FUNK」(SMALLTOWN SUPERJAZZ STSJ095CD)
FREE FALL

 このグループの2作目。ドラムは入っていないし、ヴァンダーマークもクラリネットしか吹いていないのだが、聞いているうちにそういうことを忘れてしまうような熱演。もちろんヴァンダーマークがクラリネットのバーチュオーゾであるのもさることながら、やはりピアノとベースの寄与が大きい(とくにピアノ)。ゆったりとした曲から激しい絶叫系フリー、コンポジションとフリーインプロヴァイズの曲などが絶妙に配置されていて、聞き飽きない。曲間に「フレームワーク」という短い、一分未満から長くて三分ぐらいの即興がはさんである構成もにくい。サンクス・トゥのところに、バスクラを貸してくれてありがとう、みたいなことが書いてあるが、ツアーやレコーディングにはちゃんと持っていくようにね、ヴァンダーマークさん。

「COMPANY SWITCH」(OKKA DISK OD12070)
TERRITORY BAND−4

 二枚組大作。一曲目、いきなりのノイズ攻撃で、CDに傷があるのかとあわてたのは内緒。ずーーーっと鳴っているぐじゃぐじゃのノイズとアコースティックなソロやリフが妙にマッチして盛り上がる。なるほど、テリトリー・バンドはヴァンダーマークのプロジェクトのなかではいちばんぴんとこなかったが(アトミック+スクールデイズとかヴァンダーマーク5+ゲストと同じだから)、本作は一曲目からなんだか気に入った。やっとこのバンドが落ち着きどころというかヴァンダーマークのプロジェクトのなかでのポジションを見つけたような気がした。曲もアレンジもいい(全体に映画音楽っぽいかも。そういえば二枚目ラストの曲はスタンリー・キューブリックに捧げられている)。メンバーも馴れ合いがなく、譜面でアレンジされた部分とその場その場での即興的アレンジの大胆さがちょうどバランスがとれている感じである。ヴァンダーマーク5はメンバーが一生懸命譜面を追っているような雰囲気があり、このテリトリーバンドの最初のころもそんな印象があったが、本作ではメンバーが自由にのびのびやっていて、しかもアレンジで引き締めるべき部分はひきしめているような「ええ感じ」に仕上がっていると思う。ブロッツマンのシカゴテンテットなんかはもっと単純で、粗暴で、そこからプリミティヴなパワーが噴出してくるわけだが、テリトリーバンドはそういった「フリージャズ的ソロ回し」のバンドではなく、即興とアンサンブルの配合、ソロイストの適正配置、ダレかけたときにグワッと入ってきてひきしめるノイズ、ガツン!と来るリフ、リスナーの裏をかくような展開(失敗することもある)などなど……たぶんヴァンダーマークの頭のなかではいろんな思惑や計算が渦巻いているのだろう。それを6割ぐらいの完成度で表に出しているのが、彼のさまざまなプロジェクトであって、このバンドはまさにそのひとつ。もちろん単純にソロ回しを楽しむこともできて、はっきり言って、みんな「ごっつ上手い」のである。二枚組で6曲、と一曲の演奏時間が長いのでさすがにダレるし、もっと過激さがあってもいいような気もするし、これだけのメンバーを集めているのだから、もうひとつうえの高みを目指すような目的意識みたいなものがあってもいいように思うが、十分楽しめたし、これまではあまり感じなかった、ふつふつと煮えたぎる芸術的爆発の予兆(なんのこっちゃ)みたいなものを感じたので、なんとなく次作あたりでもう一段うえに上がってくれるような気がしてならない。期待できます。

「NEW HORSE FOR THE WHITE HOUSE」(OKKA DISKOD12080)
TERRITORY BAND−5

 なんと3枚組。しかも一枚はライヴ。しかも、二枚組のケースにむりやり3枚を押し込んである。しかも、ヴァンダーマークの曲以外の他人の曲(ミンガスの「アンタイトルド・フィクション」)を演っている。「しかも」ずくめのアルバムである。3枚組を聴きとおすのはしんどいなあ、と思ったが(なにしろ20分を越える曲が目白押し)、前作が期待以上によかったので、がんばって聞いてみると……うひゃあ、これはいい。一曲目からもう息をもつかせぬめまぐるしい展開とすばらしいソロの応酬で、前作をはるかにうわまわるポテンシャルとパワーが怒濤のように押し寄せる。これ、傑作とちゃうの? 二曲目のミンガスナンバーでもその期待は裏切られることはなかった。各人のいきいきしたソロ、予想できないフリーな展開など血わき肉おどる瞬間が多数。レンピスのドルフィーを思わせるフリー系バップソロやリュンクビストのイマジネーション溢れるテナーソロなど聞きどころ満載。途中、ややダレぎみになる箇所もあるのはヴァンダーマークのいつものパターンなのでこれも愛嬌だが、そういった部分はこれまでより少ないし、すぐに新しい展開やすばらしいソロ、ノイズの衝撃……などがそれをかき消して、もっと良い音楽的状態をつくりだしてくれるので、不満は残らない(このあたりのやりかたはヴァンダーマークはすでに名人芸の域に達していると思うよ)。なにより、そういったダレの部分を殺してしまっては、つぎの即興的な爆発がやってこない、ということをヴァンダーマークはよく知っているのだろう。3曲目もいきなりのビショプのほとんどワンノートの狂乱のソロがめちゃめちゃかっこいい! そのあと訪れるベース一本の静寂とそこに静かに加わっていくレンピスのしみじみとした自由なソロ(こういうソロでも、聴き手を納得させるようになったなあ)、しだいにべつの奏者が加わっていき、徐々に盛り上がる。ああ、こういう場面こそフリージャズを聴く醍醐味(と思うこと自体、完全にヴァンダーマークの仕掛けに乗せられている状態。正直言って、フリーなパートも含めて予定調和に聴こえる部分も多いが、だからダメということにはならない)。4曲目は映画音楽的なはじまりから、非常にジャズっぽい展開になる。13分を過ぎたあたりで一旦終わって無音になるのだが、ありゃ? と思っていると、15分ぐらいからエレクトロニクスの音がかすかに聴こえてきて、うーん、まだ曲はつづいていたのか、とわかる。この展開の意味はよくわからんといえばよくわからん。ここから本当にノイズオンリーの世界になり、どないなるねんこのあと……と本気で心配しかけたら、ドラムソロからふたたび狂喜乱舞のコレクティヴインプロヴィゼイションがはじまり、大盛り上がりのうちにエンディング。やるなあ。さて、こうなると楽しみなのは3枚目のドナウエッシンゲンで録音したというライヴである。スタジオ録音の4曲をライブでもまったく同じ順番で演奏しているので、聴き比べる楽しみがある。でも、これはヴァンダーマークのいつもの手だが(同じ曲は演奏時間はスタジオもライヴもほとんど変わらないので、二枚組にできたんじゃないの、と思ってしまう。たとえばスタジオで15分かかる曲はライヴでも24分かかる。編曲の譜面はかなり束縛性が高いのかもしれないな……)。聞いてみると、きっとスタジオがこれならライヴはもっと……と期待していたほどの異常な盛り上がりこそないものの(つまり、スタジオバージョンが非常にすぐれていて、ライヴ感も強いということだと思う)、じつにすばらしい場面の連続で、たとえば一曲目のヴァンダーマークのバリサクとドラムのデュオのあと、ビショップのボントロが出てくるところとか、二曲目のトランペットとソプラノのしつこいからみのあとバリサクが出てくるところ、3曲目のまるで驟雨のなかでブロウしているような力強いボントロソロ、4曲目の無音(スタジオと同じ趣向だが、スタジオのほうがずっと長い。客が拍手とかしかねないからか?)になったあとのフリーインプロヴィゼイションからリュンクビストの激烈なテナーソロ(だと思うよ。もしかしたらレンピスが持ち替えてる? どちらにしろもうめちゃめちゃかっこいい!)になる部分など聞きどころ満載。あー、楽しい。フリージャズを先入観で聴かないひとはほんとに損をしてるなあと思う今日このごろ。