長いので二つに分けました。
「JOURNAL」(ATAVISTIC ALP172CD)
BRIDGE 61
ヴァンダーマークに、おなじみのネイト・マクブライド、ティム・ディジーというメンツ。それにバスクラリネットのジェイソン・ステインが入ったカルテット。ジェイソン・ステインは「A CALCULUS OF LOSS」というアルバムを聞いたことがあるが、ヴァンダーマークとどうからむのか興味深くスタートボタンを押したが……のっけからヴァンダーマークのバリサクとティム・ディジーのドラムの激しいデュオが炸裂し、このままずっとフリーインプロヴィゼションがつづくのかと思っていると、すぐにかっちりしたアンサンブルがはじまり、バスクラが登場する。うーん、うまいよなあ、この展開。リフの入りかたのかっこよさ、緊張と緩和、リズムのあるパートとフリーのパート……いやもう言うことありません。どの曲もかっこよく、いやー、これは傑作ではないですか! 曲の長さもどれも10分前後と適切で、緊張感をもって聴くことができる。息をもつかせぬ72分! といったら言いすぎだろうか。本当はジャズ史に残る大傑作……というような言葉を安易に使ってしまいたいぐらいなのだが、さすがにそこまではねえ。だれのリーダーアルバムなのかよくわからなくて、いちばん最初に名前が書いてあるジェイソン・ステインにしておこうかと思ったが、やや影が薄い感もあり、また8曲中、ヴァンダーマークが4曲、ネイト・マクブライドが2曲、ティム・ディジーが2曲、コンポーズを担当しており(曲はどれもgood!)、ステインは0曲なので、一応ヴァンダーマークの項に入れておく。
「SEVEN」(SMALLTOWN SUPER JAZZ STSJ119CD)
KEN VANDERMARK PAAL NILSSEN−LOVE
ヴァンダーマークとニルセンラヴのデュオはこれまでに2作品あり、これは3作目だが、本作も期待に反しない出来ばえで、3曲(3曲目はめちゃ短いので実質2曲)ともすばらしい。咆哮するヴァンダーマークとフルパワーでドラムを鳴らすニルセンラヴのデュオは、フルテンションかつアクティヴな即興で、互いの出方を見たり、スローからはじめたりしない。つねにパワー全開で、たまたま無音やソフトな部分があったとしても、それは互いに全力でぶつかった結果たまたまそうなっただけで、気持ちとしては両者はずっと自分を100パーセント出していると思う。これはヴァンダーマークとニルセンラヴが(シカゴと北欧という離れた場所に住んでいるにかかわらず)お互いを知り尽くしているためであって、馴れ合いにならず、かといって相手を知るための時間を必要ともしない、ちょうどいい状態に今あるからだろう。とにかくふたりの全霊をこめたパワーに圧倒される。願わくは、次作もこれに匹敵するような状態をキープしていることを……。まったく対等のアルバムだと思うが、前2作はニルセンラヴの名が先にあったのでニルセンラヴの項に入れたが、本作はヴァンダーマークの名前が先にあるのでこちらに入れた。
「FOREGROUND MUSIC」(OKKA DISK OD12065)
KEN VANDERMARK PANDELIS KARAYORGIS
ヴァンダーマークとピアノのデュオ。ピアノのひとは「NO SUCH THING」に入ってるひとですね。あのアルバムはあまり記憶に残っていないが、今聴くとまたちがった印象かもしれんなあ。というのは、本作はけっして悪くなく、しみじみとした即興が心に沁みるが、まあ、そういった曲が多く、FREE FALLに似ていると言われればそうかもしれない。もう少し激しい曲が入っているともっとシャキッと最後まで聞けると思うのだが、たぶんこのピアノのひとの性質なのでしょう。FREE FALLのピアノはもっと暴れるので、実はこのデュオよりもずっとシャキッと聴けるのだが。一曲目から最後まで、一生懸命耳をそばだてて二回聴いたが、やはり途中でこちらの緊張感が切れてしまう(6〜7曲目あたりで)。激しい演奏もところどころあるのだが、どうもぴんとこないし、なかにはもちろんハッとするような良い瞬間もあるのだが、その瞬間をピアノがもう少し突き詰める、というか、こじ開ける、というか、そういう方向にもっていかないので、輝きがさらっと終わってしまい、演奏はつぎの部分へと流れていってしまう。私の耳が幼いということもあるだろうが、ビル・エヴァンスが苦手な私とは相性が悪いのだと思うことにした。いや、ヴァンダーマークはがんばってるし、正直、ヴァンダーマークを聴いたことのないジャズファンに一枚、と言われたら、このアルバム、じつは適切なのかもしれないな、と思ったりして。
「IDEAS」(NOT TWO RECORDS MW765−2)
KEN VANDERMARK FEAT.MARCIN OLES & BARTTOMIEJ OLES
(ヴァンダーマークに関しては)一曲目からめっちゃええやんかいさー!と叫びたくなるような快演で、4ビートに乗せてヴァンダーマークがテナーを吹きまくる。ヴァンダーマークって、こういう4ビート物はあまり得意でない(イマジネーションが途切れる)ような印象があったので、これは意外だが、この演奏を聴くかぎりではめちゃめちゃ調子がいい。ドラムもベースもさほど変わったことをしているわけではなく、ごくふつうの新主流派ジャズで、つまり、ヴァンダーマークのテナー一本だけでこの演奏をひっぱっているのだから、たいしたもんだ。ベースとドラムは、あの大作「アルケミア」のラストに入っていた地元ミュージシャンとのジャムセッションのときに共演したふたりだそうだが、全曲フリーインプロヴィゼイションという過酷な状況下としてはよくがんばっていると思う。だが、力量不足はいかんともしがたく、ベースはケスラーやマクブライド、フラーテンのようにはいかないし、ドラムもティム・ディジーやニルセンラヴのようにはいかない。ずーーーーっとリズムを刻んでいるだけだ(ようするに、自信をもって一音一音を吹いているヴァンダーマークに対して、彼らは「おそるおそる」演っている感じなのだ)。その分、ヴァンダーマークの凄さが浮かびあがってしまうのはしかたがない(たとえば9曲目のドラムとテナーのデュオなど実力全開のすごさ)。この図式ってどこかで……と思いかえしてみると、なるほどドルフィーの「ラスト・デイト」だ。ひとりだけ先に行ってるアメリカのミュージシャンと、まだまだそこまでは到達していないががんばっている欧州の若手……みたいな感じ。もちろん単純な比較はあかんのはわかっているが、どうしてもドルフィーを思いだしてしまうよなあ。結果として「ラスト・デイト」は名盤となり、ミーシャ・メンゲルベルグとハン・ベニンクはその後のヨーロッパフリーを牽引していくことになった。このふたりももしかしたらポーランドの前衛ジャズをひっぱっていく二大巨頭にならんともかぎらないではないか。──ねえ?
「DISTIL」(OKKA DISK OD12073)
ATOMIC SCHOOL DAYS
なーるほど、これはいいですね。私はあまりアトミックは好きではないし、スクールデイズもヴァンダーマークのバンドのなかではさほど上位に位置づけていないのだが、このふたつが合わさると、なるほどこういう音なのか(前作も聴いているわけだが、あらためてそう思ったということ)。しかし、よく考えてみると、ふたつのバンドを合体させたとはいうけれど、これってメンバー、たとえばテリトリーバンドとほとんど一緒やん。大きめの編成のヴァンダーマーク5といってもいいかも。あ、レンピスがいないのか。ジャムセッションとはいえない程度にアンサンブル部分もかなりしっかりと書かれているし、曲中のさまざまな展開(ストップモーションとかいろいろ)もなんだかんだと配されてはいるが、結局はオールスターセッションのようなものだ。それならそれで、ブロッツマンテンテットのように俺が俺がの世界になればそのパワーみなぎるソロのチェイスだけでも満ち足りるのだが、そこまで踏ん切るにはアレンジが逆に邪魔だし、テリトリーバンドのようにノイズを入れたりするほどの過激さはない。でも、アトミックの諸作やスクールデイズよりは、この合体バンドのほうが私は好きです。でも、前作「NUCLEAR ASSEMBLY HALL」のときも思ったのだが、このバンドの良さのほとんどは個人技で、ビショップ、リュンクビスト、ヴァンダーマーク、ノルデソンらのすばらしいソロを聴くことで満足しているだけで、じつは眼目であるところの重いアンサンブルやいろいろなしかけにはあまり耳がいっていないかもしれない。合体させる意味はあまり感じられないのも前作どおり。テリトリーバンドなどとはちがった「なにか」をしたかったのだろうが、その「なにか」がわからん。もちろん演奏自体はめっちゃいいんですよ。全体にジャズっぽいのも(アトミックのメンバーがいるからかもしれないが)、このグループの特色である。個人的にはすごく気に入った。二枚組だが3回聴いてもぜんぜん飽きなかった。でもなあ……やっぱりマグナス・ブルーはあかんと思う。唇をしっかり鍛え直したほうがいいのでは、と余計なお世話的に思ってしまう。演奏も荒いしなあ……。
「C.O.D.E」(CRACKED AN EGG RECORDS CRACK062008020)
VANDERMARK・NAGI・THOMAS・REISINGER
オーストリアのミュージシャンがヴァンダーマークをゲストに迎えて演奏したプロジェクトなのだろうと思う。ヴァンダーマークの名前がいちばん先に書いてあるが、マックス・ナグル(と読むのか?)というアルト奏者(どこかで聴いた覚えがあると家を探すとハットアートのリーダー作があった。でも未聴。調べてみるとすごく多作のひとらしい)のリーダー作ではないかと思ったが、そのひとのホームページにはこのアルバムは載っていなかった。録音、編集、ミックスダウン、マスタリング……をドラムのウォルフガング・レイジンガー(と読むのか?)が担当しているので、もしかしたらこのひとのリーダー作かもしれないが、よくわからない。まあ、4人対等のプロジェクトなのだろう。副題が「プレイ・ザ・ミュージック・オブ・オーネット・コールマン・アンド・エリック・ドルフィー」となっているように、8曲中、ドルフィーの曲が5曲、オーネットの曲が4曲(計算があわないが、一曲がドルフィーとオーネットの曲のメドレーになっているからである)という、まさにきちんとした狙いがあり、それを実現させるためにメンバーを集めたコンセプトアルバムなのである(タイトルの「コード」というのは、オーネットとドルフィーのイニシャルなのだった)。そして、ヴァンダーマークはテナー、クラリネット、バスクラで参加しており、なるほど、ということはマックス・ナグルというひとがオーネット役でヴァンダーマークはドルフィー役なのだな、と思うかもしれないが(そういう役割をもしかすると期待されていたのかもしれないが)、なかなかそうならないところがおもしろかった。曲は、ドルフィーやオーネットのファンならおなじみのものが多いが、アレンジ(4人が何曲かずつそれぞれ担当している)がひとひねりしてある。ただ、オーネットはともかくとして、(私が考える)ドルフィーの演奏の特色というのはつねにメガトン級の切迫感というかテンションがみなぎっている点にあり、このアルト奏者のリラックスした吹きかたとは対極のような気がする。そういうあたり、このアルバムはオーネットとドルフィーの曲ばっかり演奏しているが、なぜかドルフィーっぽくなく、またオーネットっぽくないような印象である。でも、おもしろかったですよ。どこにいれたらいいのかわからないので、とりあえず最初に名前のでているヴァンダーマークのところにいれておく。
「COLLECTED FICTION」(OKKADISK OD12075)
KEN VANDERMARK WITH KENT KESSLER INGEBRIGT HAKER FLATEN NATE MCBRIDE
AND WILBERT DE JOODE
ヴァンダーマークが4人のベース奏者とのデュオを行った二枚組。非常に意欲的な作品だとは思うが、二枚組をベースとのデュオだけで構成するのはちょっとしんどい。一曲が長いのも問題で、たしかにかっこいい、テンションの高い場面もたくさんあるのだが、やはりどうしてもダレるし、それを救うほかの共演者はいないわけだから、一曲のなかにピリッとしたところと弛緩したところが共存することになり、それが一曲だけならいいのだが、二枚組全編がそれなので、聴きとおすのは少しだけ努力を要する。私に二回通してきいてみて、ヘバッた。こちらの緊張を維持するのが疲れるのだ。「フリー・フォール」にも通じるところがある演奏だが、「フリー・フォール」が非常に高いテンションと美しさを継続しているのに対し、こちらは手探りの部分もある。個々のベース奏者のちがいを聴き取ったり、ヴァンダーマークのそれぞれに対するアプローチを比べたりするのは楽しいのだが。それと、意欲作であることはまちがいない。
「RESONANCE ENSEMBLE」(NOT TWO RECORDS MW800−1)
KEN VANDERMARK
いやー、よかったです。「テリトリー・バンド」や「ヴァンダーマーク5」とサウンド的にはあまり変わらないかもしれないが、個々のソロが、とくにヴァンダーマークのソロが爆発していて爽快である。デイヴ・レンピスもテナーを吹いているし、ユリイ・ヤレムチャク(と読むのか)というテナー吹きも参加しているので、どれがだれのソロかはわかりにくいが、全体として聴く場合、そんなことはどうでもよくなる。熱いアンサンブルと熱いソロの融合。これ以上、なにを求めることがありましょうか。ウクライナでのライヴらしいが、めっちゃええ。意外な拾い物、といったら叱られるかもしれないが、アトミックでの演奏はあんなに気に入らないマグナス・ブルーのトランペットが、ここではなかなかイマジネイションを発揮した、おもしろい演奏をしていて、すっかり見直した。
「35MM」(OKKA DISK OD12078)
THE FRAME QUARTET
ヴァンダーマークのアルバムだが、メンバーを見ると、だいたい出てくる音の予想がつく感じである。「ザ・フレイム・カルテット」というグループ名だが、実際には全部ヴァンダーマークの作曲で(例によって、一曲目はブロッツマン、ベニンク、フレッド・ファン・ホーフに、二曲目はエンリコ・マルコーネに、三曲目はマース・カニンガムに、四曲目はジミー・ライオンズに、五曲目はスティーブ・レイシーに捧げられている)、彼のリーダーバンドだということは明らかだが、ほかにもたくさんある彼のリーダーバンドとの差別化はどこにあるのだろう、そんな興味で聴いてみた。演奏はすばらしい。ヴァンダーマークはテナーとバスクラに徹している。ドラムはティム・デイジー、チェロはフレッド・ロンバーホルムで、なんだ、ヴァンダーマーク5じゃないか、という意見もあるだろうが、ベースはケスラーではなく、ネイト・マクブライドである。でも、マクブライドもヴァンダーマークとはしょっちゅう一緒に演奏しているわけで、この4人の顔合わせは、正直言ってまるで「順列組み合わせ」の世界であって、新鮮味はないなあ……と思っていると、ふと気づいた。一曲目は「コンダクテッド・バイ・デイジー」とある。つまり、ティム・デイジーによってコンダクションされている、というわけだ。よく見ると、二曲目はヴァンダーマーク、三曲目はなんの表記もないが、四曲目はロンバーホルム、五曲目はマクブライドによってコンダクションされている旨の表記がある。つまり、ここにおさめられている演奏は、単なる譜面に基づく演奏ではなくて、コンダクションによってなんらかの指示やガイドラインが与えられている、ということなのか。しかし、聴いたかぎりではそういった場面は見あたらない。というか、こちらが気づかないような形での指示、ということか。それがどういう意味があるのかよくわからん。コブラやブッチ・モリスのようにコンダクション的なものを即興的な作曲における譜面のかわり(?)として用いるやりかたは、そのおもしろさが聴いているものにははっきりわかるが、このヴァンダーマークのフレイム・カルテットにおけるコンダクションの意味はなんなのか。聴きながらそんなことを考えてしまいました。
「RESONANCE」(NOT TWO RECORDS MW830−2)
KEN VANDERMARK
アメリカ、北欧ごちゃまぜの10人のメンバーがポーランドに集結しての6日間のライヴの模様をそっくりそのまま収録した10枚組。ヴァンダーマークは以前にもこのレーベルで、ポーランドでの自己のクインテットの10枚組をリリースしているが、今回はもっと大胆不敵な試み。各セットは、2名〜9名までの順列組み合わせによるそれぞれちがった顔合わせで構成され、最終日だけは全員(10名)によるフリージャズビッグバンドという趣向。こんなことをやってのけてしまうヴァンダーマークの豪腕にはほとほと感服。こいつはえらい!
なにしろ10枚組なので、聴きとおすのはたいへんだったが、なかなかふだんは味わえない体験であった。このボックス、聴くひとは少ないだろうから、各CDの演奏の模様を実況中継(?)してみました。
CD−1
月曜日1stセット(デイヴ・レンピス、ティム・デイジー、マーク・トカー、ユリー・ヤレムチャク(と読むのか?))
いきなり軽快なリズムのうえをレンピスとユリーのサックスが爆走する。おお、めっちゃええやん。こういうの大好き。この10枚組を聴きとおすパワーがもらえる感じ。ひたすら吹きまくる2サックス、そして、(たぶん)ユリーのたっぷりしたソプラノソロ、そしてレンピスのフリーと変態バップを行き来するようなアルトソロになり、そのバックでユリーが二本ぐわえのバッキング。そのあとティム・デイジーの、間を活かしたフリースタイルのソロを経て、そのまま(たぶん)二曲目に突入(つまり、つながっているのだが、便宜的に曲を切ってあるだけ)。ドラムソロにかぶってくるホーン陣(たぶんふたりともテナーに持ち替えている)、そして全員によるフリーアンサンブル。ひしひしと波が押し寄せてくるような演奏で、ここがめちゃめちゃかっこいい。それからテナーがブロウしまくるが切迫感のあるいい演奏である。デイジーのインテンポのドラムソロを挟み(ここでCDのうえでは3曲目になるが実際にはずっと一続きの演奏である)サックスデュオからユリーのクラリネット〜ドラム〜ベースの幽玄なトリオになり、リード楽器同士の細かいフレーズのぶつけあいからモーダルな曲へとつながっていく。目まぐるしい展開が飽きさせない。なるほど、じゅうぶん期待できますなあ、このボックスは。
月曜日2ndセット(ユリー、ケン・ヴァンダーマーク、レンピス、ミコタ・トルザスカ(と読むとは思えんな。たぶんちがってる))
4人のサックス奏者によるサキソホンカルテット(バスクラ含む)。ヴァンダーマークがバリサクなので、彼がベースを担当しているとワールドサキソホンカルテット的な感じに聞こえる部分もあるが、基本的にはごちゃごちゃのフリーインプロヴィゼイション。これがまた極上のおもしろさ!
あー、ええなあ。繭をほどくような繊細さから爆裂大音響まで……極楽ですよ。こうなるともう、どれがだれの音とか判別する必要はない。ただひたすらサックスの音に溺れていればいい。まあ、これはサックス好きな私の感想なので……。とにかく、ツボを知り尽くした4人による、どちらかというとリラックスした感じの演奏である。
CD−2
月曜日3rdセット(マイケル・ツェラング、マグナス・ブルー、ペル・アケ・ホルムランデル(と読むのか?)、スティーヴ・スウェル)
3本の金管とドラムひとりというセッティング。ドラムとスウェルのボントロがいい味を出している。一曲目はデキシー風の軽快な感じの演奏。二曲目は、ややアブストラクトだが、よりフリーっぽい感じ。でも、軽快。この4人のキーワードは「軽快」か?
マグナス・ブルーのラッパは、いろいろとがんばって演奏をリードしようとしているみたいだが、途中から息もれの音がスカスカ聞こえて、やっぱり「?」マークが頭に点灯する。3曲目は全体にビートのない、フリーインプロヴィゼイション。
火曜日1stセット(ペル、ヴァンダーマーク、トカー、スウェル)
ドラムレスで、ベースに、サックス、ボントロ、チューバという変態的編成。いきなりのフリーインプロヴィゼイションではじまるが、この部分がすでに絶妙なのだ。ヴァンダーマークはバリサクでさすがに「こころえてまっせ」的なツボにはまるプレイを冒頭から展開するし、スウェルのボントロもすばらしいが、チューバが熱気をあおるような音でセッションを引き締めているのもかっこいい。でも、途中、5分ぐらいしたあたりで聴かれるトランペットっぽい音はだれなのか。ブルーとは思えないのだが、だれかが持ち替えで吹いているのかなあ。ボントロにミュートをかけた音のようにも聞こえるが、チューバの持ち替えかなあ。スウェルの無伴奏ソロになるところもいいし、バリサクとボントロが熱気のかたまりのような音塊をぶつけあう、ラストのプリミティヴな展開もかっこいい。このセットは大成功だと思う。つぎの曲も基本はフリーインプロヴィゼイション。途中からヴァンダーマークのバリサクが変拍子のリフをしつこく吹きはじめ(たぶん即興リフ)、それにスウェルがうまく合わせて速いテンポで展開していくところは手に汗握る聴きものである。
CD−3
火曜日2ndセット(ツェラング、トルザスカ、トカー、ユリー)
1曲目、2サックスにベース、ドラムという「フリージャズ」王道セット。ぶっ速い4ビートでぐちゃぐちゃっとした音塊のあと、まずはユリーの野太いテナーによるソロ、そしてトルザスカの芯のあるアルトソロ。どちらも腕を感じさせる。バッキングがついたりして、なるほどいかにも往年のパワーミュージック的なフリージャズで、私の好みとしてはど真ん中である。そのあとユリーのフラッタータンギングのソロからドラムとのデュオに。かっこいいなあ。そこにアルトがかぶって、冒頭の展開に戻る……というのも、まさしく昔のフリージャズっぽい。二曲目は静かな吹き伸ばしから入るが、そのあとは間をいかした集団即興からアルトソロ。このアルトのひとは、そうとうな腕前であることがだんだんとわかってきた。そこへユリーのテナーがからんできて、一曲目と同じような直球ど真ん中のフリージャズに……。ふたりとも音色がよくて、楽器が鳴っているので、聴いていて心地よい。パワフルなうえ、ぐじゃぐじゃに吹いているようで、非常に考え抜いたフレージングであるのもすばらしい。そこから、一種のパターンというかお決まりの展開として、ドラムとベースのデュオになるが、これがなかなか心を遊ばせてくれる感じの即興的からみあいである。サックスのパーカッシブなフレーズも混ぜ合わさって、ふたたび混沌とした集団即興の海へ。テナーとアルトの激しいぶつかりあいと、それを煽るベースとドラム。だんだん熱くなる四人。ときに静かにときにやかましく、その往復を繰り返しながら収束に向かうが、「終わるのかな?」と思ったあたりで、サックスふたりが両方ともクラリネットに持ち替えて(ひとりはバスクラ)ゆるやかなデュオをはじめる。それが次第に白熱していく過程がいいのだ。ここからラストまでが、この二十五分におよぶ演奏の最大の聞き物となる。いやー、このふたりはたいしたものですねー。
火曜日3rdセット(ティム、レンピス、ブルー、ツェラング)
2ドラムスにサックス、ラッパというセット。こういうの、わくわくしますね。ドラムの軽いデュオに2管アンサンブルにより、テーマ(即興?)が奏でられる。マグナス・ブルーが先発で、つづくレンピスのテナーソロの途中でデキシー風(?)になり、そこにラッパが参加して、マーチングみたいになるあたりがなかなかおもしろい。レンピスも腕をあげたよなあ……って上から目線ですんまへん。でも、そういうリズムだけで行く演奏なので、破綻もないかわりに大きな波は来ない。ブルーのラッパはあいかわらずパスパス息もれしているし、とにかく2ドラムのおもしろさがいかされてないなあ……と思っていると、ブルーの無伴奏ソロが終わったあたりからドラムが祭のようなリズムを叩きはじめ(CDでは曲を切ってあるが、実際にはつながっている)、にわかにおもしろくなりだす。そこに2管(レンピスはアルト)がまたしても乗っかってきて、同じような展開になるのだが、今度は熱を帯びたドラムとのインタープレイもあり、やや白熱するが、なんとなく「うまくまとめました」感のある収束に向かってしまう。つぎの曲は、ドラムとレンピスのアルトによる即興デュオではじまり、ブルーとドラムのデュオでブルーがゴスペル的というか、メロディアスなラインを朗々(でもないのだが)と吹くあたりはおもしろいが、そのままこれも収束してしまう。なんでもまとめに入ればよいというものではないので、もうすこし奔放な展開も聴いてみたいものだ。最後の曲はこれも反応しあうタイプの即興から入り、展開していくが、レンピスがリードする即興はなかなかかっこいいし、盛りあがるし、聞きどころもある。さすが、と思う瞬間も多いのだが、ふと振り返ると、結局どれも同じような演奏である。2ドラムに2管、という編成だとしかたないのかもしれないが、いや、そんなことはない、もっとありきたりの展開をぶち破るようななにかをぶちかますことができたのではないか、と思ったりもする。やはり、ヴァンダーマークがいないセットは、そういった逸脱とか自由とか挑戦とか、そういったものがやや希薄で、フリージャズとしてのお定まりの展開になってしまうのは、即興というもののむずかしさを感じさせる。それにしてもこの3枚目のCDはヴァンダーマークは一度も出て来なかったなあ。
CD−4
水曜日1stセット(ティム、トルザスカ、トカー、スウェル)
これまたヴァンダーマーク不在のセット。サックスにボントロ、ベース、ドラムという、ごく普通のセッティング。最初は手さぐりな感じのインプロヴィゼイションから。そのあと速い4ビートになり、それにトルザスカのアルトがまるでテナーのような野太い音でモーダル〜フリー系の熱いソロ、ほぼ同時にスウェルもボントロでからみつくようなソロ。このあたりはめちゃかっこいい。それがプツンと終わって、ベースの無伴奏ソロになり、ドラムが軽く入ってデュオになる。このへんもフリージャズのお定まりのパターン。そこに2管がふたたび参加して、今度はアルトのワンホーントリオになり、トルザスカがひじょうにすばらしいソロを烈火のごとく吹きまくる。ちょっとヴァンダーマークに似てるかもなあ。スウェルがソロを引き継ぎ、そのあと混沌とした展開。ここも聴きもの。ここからCD上は2曲目。ドラムの通奏低音をバックにボントロのミュートソロから、全員によるだらっとした即興、そしてじわじわじわじわと時間をかけてもりあがっていき、5分をすぎたあたりからようやく全体が一丸となった昂揚に至る。しかし、その昂揚は短く、またまた小技の応酬のような即興になって終演。3曲目もまたまた小技の応酬的インプロヴィゼイションからはじまる。この4人の顔合わせはどうしてもこの方向に行くなあ。5分すぎたあたりからにわかにギャーと言い出すが、すぐに終わる。うーん、このセットはもう少しバラエティがあってもよかったかもな。
水曜日2ndセット(ブルー、ペル、ユリー)
これもヴァンダーマーク不在。CD二枚にわたってヴァンダーマークが出て来ない。このセットは、トランペット、チューバ、そしてテナーという3管だけの顔合わせ。どうせならテナーのかわりにボントロにして、金管3人だけにすれば、とも思ったが、月曜日の3セット目でその3人にドラムというのをやったからか?
チューバの低音が、さすがに耳をそばだてさせる。チューバの場合、音が低いので、なにをやっていても、「だれかを支える」という感じになりがちだが、それもまたインプロヴィゼイションの方法のひとつ。ここでのチューバは、地味なようで、じつは即興的に全体を仕切っている。こういうの、かっこいいですなあ。このセットでは低音と高音がうまくかみあって、じつに繊細かつ力強い演奏になっていて見事。2曲目ではラッパとテナーの2管だけで、オリエンタルなペンタトニックなソロを二重螺旋のようにからませていくが、なかなかすばらしいです(とくにテナー)。そこに嵐のようにチューバが乱入してくるあたりのかっこよさは筆舌に尽くしがたいでっせ、ほんまにー。そこからの展開はまさに怒濤で、ある種、この手の即興の典型かもしれないが、かっこいいのだからしかたがない。あいかわらずブルーのラッパはパスパス息もれしていて、いまいちピンとこないが、それをおぎなってあまりあるテナーのブロウ。そして、ラッパとテナーの息はぴったりあっているのだ。この曲もおもろかった。3曲目は3管のメロディアスな即興からはじまる演奏で、ここだけ聴いても「うまいよねー」と思う(ユリーはソプラノサックス)。ただし、ブルーは途中からほとんど息のほうが多いようなプレイになり、こいつ、大丈夫か?
とは思うけど。この小品で2ndセットは幕を閉じる。
CD−5
水曜日3rdセット(ツェラング、レンピス、トカー、スウェル、ヴァンダーマーク)
やっとヴァンダーマーク登場。アルト、テナー、ボントロの3管にベース、ドラムという王道の編成だが、冒頭のコレクティヴインプロヴィゼイションの部分から、すでに熱気むんむん。これはやはりヴァンダーマークの存在感が大きいのだろう。そのあとのレンピスのアルトソロも、後ろでヴァンダーマークがギャーギャーとリフであおるので緊張感が持続するし、スウェルのソロもアブストラクトだが躍動しているし、そのあとに登場するヴァンダーマークの無伴奏ソロは「出たーっ!」という感じですばらしい。そのまま「決め」を挟んで集団即興になだれ込んでも昂揚はそのままで、そこから速い4ビートにのせてヴァンダーマークがひとり抜け出すあたりも、あー、めちゃめちゃかっこいい。こういう具合に目まぐるしく展開がかわり、あちこちに仕掛けがあり、しかもそれぞれの場面において、予定調和をうわまわるソロ上のチャレンジがあり……といったあたりが、ヴァンダーマークの真骨頂だろう。ベースとドラムのデュオも、細部にまで注意が払われている。そのあとのレンピスのアルト、ベース、ドラムのトリオの部分も、めちゃめちゃいい。まあ、モードジャズとフリーを合わせたような感じかなあ。ヴァンダーマークの即興的バックリフが過激で、それにあおられてレンピスも吹きまくるという感じ。そのあいだもスウェルはずっと自分のソロのように吹いていて、ついには混沌とした3管のインプロヴィゼイションになるが、このあたりも手に汗握る。やはりヴァンダーマークが入ると全然ちがうなあ。つづくスウェルのソロも、バックで2サックスが吹き伸ばしやスタッカートのリフ(たぶん書いてない。後ろで口頭で打ち合わせて、パッとやったものだろう)をつけて、うわあ、いかにも「ジャズ」って感じー。静謐なアート・アンサンブル的集団即興がはじまり、このまま終わるのかなあ、と思っていたら、手を抜かないヴァンダーマークはそのあとも一盛り上がりさせるのだ。二曲目は、ドラムのマレット風のソロから、たぶん譜面があるテーマがはじまり、なんとなく「キャラバン」的な感じでスタート。まずはスウェルのトロンボーンソロ。途中でベースとのゆったりしたデュオになり、そこへレンピスのイマジネイティヴなソロがからんでくるあたりはめっちゃいい感じだし、そこからつづくファンクっぽいリズムに載せての3管の延々とつづくブロウは、まあ、ようするにヴァンダーマーク5っぽいといえばそうなのだが、やはりかっこいいと言わざるをえない。3曲目はドラムが軽快なリズムを提示し、誤解を承知で言うとニューオリンズっぽいというか、明るい、はねるようなリズムに載せて、ヴァンダーマークの笑ってしまうようなソロ、それを受けての3管のコレクティヴな即興がつづき(これもニューオリンズっぽいといえば、ぽい)、バシッと終わる。
木曜日1stセット(デイジー、ユリー、トカー、スウェル)
ドラム、ベースにテナー、ボントロの2管というジャズバンドっぽい編成だが、いきなり集団即興ではじまり(ユリーはクラリネット)、そういった編成に関する固定観念を壊そうとするかのようだ。スウェルは、自分のリーダー作ではいろいろな試みをしているが、こういった「切り合い」のようなセッションはかなり勉強(?)になるだろう。ヴァンダーマークによって課せられた試練……というのはおおげさか。つづくユリーのソプラノソロがめちゃいい。これだけ吹けるひとはなかなかいませんよ。そのあと、お定まりの「ぱふっ」「ぺけっ」「ぼこっ」……的な集団即興になるあたりで、いわゆる「フリージャズの定石」にはまってしまう感じがあるのだが、そこを突き抜けるのはやはりユリーのソプラノ。いやー、このひとはええわ。さすがにヴァンダーマークが目をつけただけあって、逸材ですわ。それからユリーがテナーに持ち替えて、2管のまるでウディ・ショウ・クインテットかビリー・ハーパー・グループみたいな新主流派ジャズになる。これも、そう決まっていたわけではなく、流れでそうなったのだろうが、すぐさまそういう流れに応えてブリブリ吹きまくれるあたりが逸材の証拠である。スウェルがくわわって、火山の爆発的な盛り上がりを示したあと、自分のソロになる。これはかなり破天荒というか八方破れなソロで、やればできるじゃん、といった感じ。そのあと、ドラムソロになるが、これもいい。よくわからない2管のデュオになって、ぎゃあーーーっと吹いて終わるが、ここもなんだか好きだ。次の曲は、集団即興ではじまり、ユリーがハーモニクスでギャーッと吹くあたりもかっこいい。そのあとは4人がビートに載せての演奏になるが、テンションを適度に保っての熱のこもった即興で、楽しかったです。
CD−6
木曜日2ndセット(ツェラング、トルザスカ、レンピス、ペル、ブルー、ヴァンダーマーク)
ベースはいないが、チューバがいて、ドラムがいる。チューバをいれて5管編成という、これまでではいちばん大所帯。このセットはたぶんおもしろいだろうと予想できたが、まさにそのとおりで、めちゃおもしろい。とにかく冒頭からもういきなりキテます。(たぶん)循環呼吸を駆使したハーモニクスがぶつかりあい、一種異様な空間をつくりだす。来た来た来たっ。これを待っていたのだよ。ヴァンダーマークがいるせいか、ダレることもなく、コレクティヴインプロヴィゼイションは一本の糸のように終局に向かい、ツェラングのロールとともにビシッと終わる。ペルのチューバが不気味に地を這うなかから、各管楽器が微細な音で、植物が発芽していくようにじりじりと小刻みな即興を重ねていく。このあたりもたいへんスリリングである。ツェラングがズンドコビートを刻みはじめ、ブルーのラッパがリードする即興アンサンブルに順次バリサクやテナー、そしてトランペットが加わり、しだいしだいに盛り上がっていく。ついには爆発的な頂点を迎える。これは、あたりまえの展開かもしれないが、なかなかこううまく劇的にはいきません。一旦静まったあと、またべつの展開がはじまるが、こうなるとこのサックスはだれ、とかいうのはあまり意味をなさない。全体として味わうべきでしょう。ただし、マグナス・ブルーの無伴奏ソロは正直よれよれだとは思ったが、それを挟んで、またしてもどんどん演奏は上向きになっていき、ゴジラ対メカゴジラの対決のような全員ブロウしまくりの超やかましいクライマックスを迎える。こういった展開は往々にして大味になりがちだが、このメンバーはどうやら今回、逆に地味になっていく傾向にあるので、こういう具合にギャーギャーいくのは大歓迎。そして、じつにかっこいいし、味わい深い。これまでの11セット中の白眉といえよう。そこからブルーがリードする、ずんずんずん……というリズムのマイナーマーチみたいな演奏になるのだが、やっぱりブルーはもうバテているのか、いまいち吹ききれていない。そして、微妙な余韻とともに22分近い演奏は終わる。これはすばらしかった。2曲目は低音部を中心とした、非常に微細な音での即興ではじまり、ここもなかなかいい。そこから、逆に高音部の管楽器たちによるピーヒョロピーヒョロピーピーギャーギャー……という鋭い、鳥の鳴き声のような即興になり、ここもかっこいい。そのあと、バリサクがゴリゴリとベース部分を吹きまくり、それにあおられるように全員が怒濤の絶叫系集団即興へとなだれこみ、ここのポテンシャルはなかなかのものである。いや、こういうのが結局好きなんですよ。リズムのうえに乗っかる形の展開だが、その内容はどんどんと変化していき、一カ所にとどまらない。こういうところもこいつらさすがだと思わせる。いやはや、このメンバーでの2曲は存分に堪能できた。
木曜日3rdセット(ツェラング、デイジー)
これまででいちばん編成の大きなセットのあとは、いちばん少人数のセット。つまり、ドラムデュオ。当然、このデュオは予想されたが、5日間にわたる3セットずつのライヴを見に来るにあたって、このセットを選んだ聴衆はなかなか大胆だと思うが、聴いてみると、なるほどええやん!
と思わず口にしてしまうほど、予想よりもずっとおもしろい演奏だった。やはりこのふたりはテクニックがあるよなあ。技術だけで聴かせる即興ももちろんつまらんが、やはり1セットまるまるをドラムデュオだけでやってしまおうとするには、根性とかノリ一発ではしんどい。ちゃんと技術力がともなっていないと、ダレるし、飽きる。このふたりは、さすがに聴かせる。イマジネーションが豊富で、技も豊富。そして、ふたりが完璧にかみあっている。この「かみあっている」というのは微妙で、「合っている」というのとはちがう。単におんなじことをやるだけではもちろんダメであります。相手をリードしたり、されたり、ときには大胆に場面をどんどん変えていったり、予想もつかない展開に出て驚かせたり……といったことを音楽の場面として即興的にふたりで行い、ちょっとしたずれなども見逃さず、そこをぐいっと広げて、なにかを投入していく、そういった作業がちゃんとできるふたり……ということなのだ。2曲目、3曲目はやや小道具を使ったようなこじんまりとした即興だが、それはそれでやはりおもしろいのだった。
CD−7
金曜日1stセット(トルザスカ、デイジー、トカー、レンピス、ブルー)
ドラム、ベースに3管というセット。1曲目冒頭のトルザスカのバスクラはなかなか雰囲気がある。レンピスのアルトもかっこいい。ブルーのソロになると、途端に古いハードバップ調になるのはどうかと思うが、ブルーはソロイストというよりも、場面を転換したり、即興リフで演奏に刺激を与えたり、といった役割を担っているような気もする。全体にハードバップっぽいかも。2曲目も同趣向で、チリチリしたパーカッションのイントロから、管楽器たちがそこに加わっていき、ぐちゃぐちゃっとなるが、たいして盛り上がらない。しかも、そこに到達するまでに5分以上かかっていて、うーん、ちょっとダレる。そのあとティム・デイジーのブラシソロになるが、つぎにはじまるマグナス・ブルーのラッパの無伴奏ソロはまたしてもよれよれなのだ。なんやねん、こいつは!
つづくトルザスカ(と思う)のアルトソロはおずおずした感じではじまるが、さすがに途中からぶっとい音色で盛り上げてくれる。レンピスは、またちがったアプローチでドラムとのデュオを行い、ここもおもしろい。そのあとすぼまっていくように終わるが、このセットはいまひとつ物足りなかった。
金曜日2ndセット(ヴァンダーマーク、トルザスカ、ユリー、ペル、スウェル)
管楽器軍団のなかから、まえのセットで活躍(?)したレンピスとブルーを除いた5人による演奏。思わせぶりにはじまる時点ですでにわくわくするし、そのあとの展開も繊細かつ大胆な、管楽器だけの集団即興の見本のようだ。地を這うペルのチューバを支えにして、みながそれぞれに自分を出していく過程は、SONOREもかくやというかっこよさである。やっぱりヴァンダーマークが入るとちがうのー。ハーモニクスを駆使した咆哮のようなソロも、よく聴くと、場面や時間軸を考え抜いて音を出していることがわかる。ええなあ、このあたり。個人的にはめちゃめちゃ好きな感じの演奏。クラリネットのパタパタ音がええ味出してます。低音から高音まで、管楽器を振り分けたところが成功の鍵かもしれない。チューバの響きから、ぴーぴーいうクラリネットまで、全音域にわたって重層的に、即興が積み重なっていくさまは、深海から海面までを一望しているようだ。2曲目、3曲目は小品ながらコクのある演奏で満足かつ満腹。
CD−8
金曜日3rdセット(ツェラングを除く全員)
スモールグループと表記されているが、実際には10人のメンバー中9人による大編成。でも、あくまで即興なのである。こういう大編成の集団即興はぐちゃぐちゃになる危険があるが、さすがにそのあたりは心得ているひとたちで、うまくことが運ぶ。いやー、冒頭の展開、かっこいいっす。先発のテナーソロは(たぶん)ヴァンダーマーク。4ビートに乗った演奏は、例によって、ぐねぐねとのたくるような感じ。リフがつくとがぜん全体が盛り上がる。つづくソプラノソロは(たぶん)ユリー。これもいいソロだが、リフがつくと爆発的に盛りあがるのもおもしろい。そのあと、全体がストップして、マグナス・ブルーのラッパの無伴奏ソロになるが、これはもひとつかなあ。なんだか大雑把なラッパソロのあとは、濁った音色での(たぶん)トルザスカのアルトソロ。これはすばらしいですねーっ。このひとは聴衆を興奮させるすべを熟知している。バックリフが毎回変わるのもいいですねー。スウェルも対抗して(?)濁った音で迫力のあるブロウを展開。これもめちゃめちゃいい。こういう展開をさせたらヴァンダーマークは天下一品ですなー。ブロッツマンのシカゴテンテットを思わせる、大迫力のブロウとリフ。こういう単純明解な感じがいいんです。パワーが、変に歪まずにストレートに伝わるからね。最後までどんどん盛り上がり、これは聴衆は大喜びでしょう。2曲目は集団即興のあと、スウェルのボントロと(たぶん)ヴァンダーマークのテナーによる演奏が続き、それからぐじゃぐじゃの集団即興。ここもすごくかっこいいです。そのあと、ヴァンダーマークの本領発揮のめちゃめちゃかっこいいテナー〜ドラムデュオ。ここが聞き物である。それから全員による、ぐちゃぐちゃめちゃくちゃのコレクティヴインプロヴィゼイション。やかましいにもほどがある、というやつです。ここは全員、死ぬ気で吹いてる感じ。どんどん演奏が加速し、10分をすぎるあたりから、ほんとにとんでもないテンションでカタルシスに突入。ここがこのセットの白眉かなあ。でも、全員による単純なリフをバックにして、ブルーはラッパで朗々とアンサンブルをリードする役割をおっているのだが、これがいまひとつコケる。惜しいなあ。(たぶん)ヴァンダーマークのダーティートーンによるソロになり、ぎゃあぎゃあいって盛り上げたあと、バシッと終わる。うーん、かっこいい。3曲目は2本のアルトがリードする「躍動感のある即興バラード」とでもいうべき演奏ではじまり、しだいにテナーが主旋律を吹くアンサンブルになって終わる。静謐にはじまって静謐に終わるというのはなかなかできないことだし、9人という大所帯でこういう演奏ができるというのもたいしたものだと思う。
CD−9
土曜日1stセット(全員)
二曲演奏されているが、ちゃんと曲名があるので、この「ファイナルコンサート」は全員に譜面を渡しての演奏だということがわかる。2ドラムが激しいロールをどんどん盛り上げていくところから演奏がはじまる。あいかわらずの、というか、おなじみの変拍子に乗せたドルフィー的なアンサンブルの曲。これこれ、これでっせ。だが……先発ソロのマグナス・ブルーがぴりっとしない。というか、正直よれよれに聞こえるのだがなあ……。このボックス全体を通して、マグナス・ブルーの悪口を言ってきたみたいに思われるかもしれないが、うーん……ほんまにこのひとの演奏についてはよくわからんのです。しかも、アトミックをものすごく持ち上げるような音楽評論家がいるので、よけいにわからなくなる。ほんまにちゃんと聴いとるんかい。つづくのは(たぶん)ヴァンダーマークの痛快なブロウ。これはめちゃめちゃかっこいい。こういう演奏も評論家には「疾走感だけの演奏」とか言われてしまうのだろうな。リフをバックに吹きまくる(たぶん)ヴァンダーマークはすがすがしくも豪腕である(冒頭のヴァンプのときはバリサクを吹いていたが、テナーに持ち替えてのソロだと思う。力任せの集団即興のあと、ベースとドラムがランニングをはじめ、スウェルがストレートアヘッドなブロウを開始、それにサックス(だれだ?)がからむ、という展開。さまざまな場面から場面へめまぐるしく移り変わり、激しいソロの応酬があり、それをリフが支え……というあたりはまさにヴァンダーマークの面目躍如。そして結局は即興が即興を呼び、パワーをどんどんあげていき、ついに伊福部昭的なド派手でおおげさなアンサンブルに持ち込んでいくあたりは、いつもの展開ではあるが、行け行けもっと行けーっと叫んでしまう。二曲目はテナーのワンホーンでバラード風にはじまり、そこから短いフレーズの応酬になる。これまでのスモールコンボの展開だと、そこで「音遊び」みたいになってパワーダウンしていく可能性もあったが、さすがにヴァンダーマーク、そこからぐじゃぐじゃのフリーになったあとリフをかまして爆発させる。変態的アンサンブルのあと、豪快でくねくねしたテナーソロ。吠えろ吠えろ!
スウェルのボントロソロも肉体的な筋肉質のものでかっこいい。チューバが印象的な集団即興になり、ドラムのデュオになる。そこからかなり本気の集団即興になったあと、ちょっとよれぎみのテーマが登場して、その余韻のようにチューバが鳴りひびき、長い演奏が終わる。かっこええ!
CD−10
土曜日2ndセット(全員)
とうとう10枚組最後のCDである。正直言って、この9枚目と10枚目は1枚のCDに収めようとおもえばじゅうぶん入ったぐらいの尺なのだが、あくまで10枚にこだわったのか。1曲目はかっこいいテーマから濁った音色のテナーと豪快なボントロのソロ。これは文句なし。そのあと静謐な部分になり、チューバ(?)のソロからクラリネット2本によるデュオ。これもかっこいい。そこにチューバが低音を響かせながら入ってくるあたりはぞくぞくする。そこから別のリフがはじまり、ヴァンダーマークの力強いテナーソロが炸裂。ほかの管楽器も入ってきてぐちゃぐちゃになってから、チューバがラインを吹きはじめ、テーマになって一曲目終了。二曲目は、重厚な怪獣映画的マイナーキーのテーマからマグナス・ブルーの先発ソロ。うーん、もっとがんばらんかい。だんだんテンポが速くなり、第二テーマが出てくるあたりはかっこいい。リフが変わり、スウェルのボントロソロ。これはスウェルとしてはかなり向こう見ずというか力任せのソロでじつに手応えがある。そのあとアルトソロになるが、これがすごくいい。たぶんレンピスだろうと思うのだが確証はない。根拠は、音色。トルザスカはもうちょっと太い音だと思うし、フレージングもレンピスっぽい。そこにもうひとりのアルトが絡む。こちらは音を濁らせているので、やっぱりたぶんトルザスカだろう。ここはめちゃめちゃ盛りあがるが、そのまま突っ走らないのがこのひとたちで、突然、ぐっと抑えた雰囲気になる。ベースのアルコがゆるゆると暗い空気感を醸しだし、そこにゆっくりゆっくりいろんな楽器が参加していくあたりは見事。17分ごろに突如、不協和音のぐだぐだなリフが鳴り響き、黒ミサのような禍々しさ。これはすごいなあ、と思っていると、その頂点でヴァンダーマークが過激なテナーソロ。ブロウしまくりの絶叫型の演奏で、ドラムとのデュオになり、ピーピーギャーギャーいいたおしたあと、テーマのリフを全員でばっちり決めて、長い長い10枚組は幕を閉じる。
こうして全部聴き通してみると、え? と思ったセットも正直言ってけっこうあったが、ヴァンダーマークが参加しているセットはおおむね緊張感があり音楽的成果があったと思われる。そういったあたりも含めてのドキュメントなので、10枚組としてそのすべてをCD化したこのレーベルには大拍手を送りたい。音楽としても即興ドキュメントとしてもおもしろかった。もちろん、このなかから出来のいい音源だけをとりあげて2枚組ぐらいに収めてしまうのも可能だろうが、その現場にいあわせた聴衆にしてもそのほとんどはこうやって全ての日の全てのセットを体感することは不可能なので、この「順列組み合わせ」的イベントの価値を世界中に知らせるには、すべてのセットを、出来不出来関係なく収録するということが不可欠だったわけだ。えらいよなー、ノット・トゥー。そしてヴァンダーマークも。
「ANNULAR GIFT」(NOT TWO RECORDS MW825−2)
VANDERMARK5
めっちゃええ! 一曲目の二十分もある演奏が、とにかくあまりにかっこよくて、内容が濃くてすばらしいので、あとがかすんでしまうほどだが、これがライヴとはなあ。さすがです、ヴァンダーマーク5。このグループは、マーズ・ウィリアムズが在籍していたころにつぐ、第二の絶頂期を迎えたのだあっ、と拳を突き出して絶叫したくなるほどの出来だ。二曲目以降もそれぞれに見せ場があり、ライヴということもあってヴァンダーマークは吠え、レンピスもしっかりした音色で、独自のドルフィー的なフレーズを堂々と吹きまくる。すでにはっきりとこれがわしの音楽やという確固たるものをつかんでいるのがわかる。このグループの現在の起爆剤になっているのはチェロのロンバーグホルムで、どんな瞬間も常にバンドに過激な刺激を与えつづけている。ヴァンダーマークのソロは、どれもよくて、一時期の、コンポジションをメンバーがなんとかこなすのをイライラ見守っているような感じはない(あくまで私の受け取りかたですが)。どの曲も躍動感にあふれ、コンポジションと即興がうまく溶け合い、さまざまな音楽的チャレンジも多く見受けられ、言うことありません。めちゃめちゃ気に入りました。
「LAST TRAIN TO THE STATION」(KILOGRAM RECORDS 5 907577 284183)
REED TRIO
何気なく聴いたら、これは傑作だった。ヴァンダーマークとMIKOLAJ TRZASKA、WACLAW ZIMPELというポーランドのリード楽器奏者ふたり(このレコード紹介はふだんは全部カタカナ表記にしているが、さすがにもうなんと発音するのか想像すらつかないので)の計3人によるトリオだが、曲ごとに楽器をとっかえひっかえしている。ヴァンダーマークはテナー、バリトン、クラリネット、バスクラの4種、MIKOLAJはアルト、バリトン、バスクラの3種、WACLAWはクラリネット、バスクラ、タロガトの3種を使いわけているし、曲によってはデュオ、そして各々のソロと、形態もバラエティに飛んでいるのでリズムセクションがなくてもまったく聞き飽きない。ヴァンダーマークはもちろんだが、ポーランドのふたりがめちゃめちゃすごくて、それは楽器の習熟とかのレベルをこえて、即興演奏家として相当高いレベルにある。とくにMIKOLAJ TRZASKAのアルトソロには興奮した。べつに対したむずかしいことをしているわけではないのだが、すばらしい表現で、すごく影響された(ような気がする)。いやー、これは参りましたなー。買ってよかった。でも、これももちろんのことだと言いたいが、国内でもこれに匹敵する、いや、これを上回る即興系のサックスアンサンブルはたくさんあり、たとえば広瀬淳二、近藤直司、吉田隆一のトリオとか、松本健一のSXQとか、先日ユーストリームで聴いた坂田明〜吉田隆一デュオとか……どれもすごいのだ。こういったひとたちのすごい演奏が、ヨーロッパやシカゴの連中と同じぐらいの気楽な感じでCDをどんどん出していってくれることを切に望む。それが世界に問う、ということだし、はっきりいって、みんなすごいのだから。
「STRADE D’ACQUA/ROADS OF WATER」(MULTIKULTI PROJECT MPS001)
SOUND TRACK COMPOSED BY KEN VANDERMARK
映画のためにヴァンダーマークが書いた曲をメンバーを集めて演奏した、いわゆるサウンドトラックらしいが、ふつーにジャズとして楽しめる。7人編成だが、その顔ぶれは豪華でヴァンダーマーク人脈。ジェブ・ビショップ、ティム・デイジー、フレッド・ロンバーグホーム、ネイト・マクブライド、ジェフ・パーカー、ジェイミー・ブランチだから悪い演奏のはずがない。すばらしいソロの応酬としっかりしたコンポジション。最近新譜が出ていないが、ヴァンダーマークのテリトリー・バンド的な感じもある。サントラというレッテルに尻込みせず、聴いてほしいアルバム。
「A NEW MARGIN」(CLEANFEED RECORDS CF235CD)
SIDE A
ヴァンダーマークの新バンド。サックス、ピアノ、ドラムというトリオで、ベースがいない編成。しかし、山下トリオのようなどしゃめしゃではなく、ピアノがベース的な役割もする、けっこうしっかり構築された音楽(かなりフリーな曲もあるが、ワイルドな大暴れというのはなく、ぐっとコントロールがきいている)。ちょっとプログレというか、キース・ティペットなども連想されるような、狙いのはっきりした曲が並ぶ。1曲目、ドラムとピアノによるリフに、ヴァンダーマークが一音をぶぉーっと吹き伸ばして入ってくる感覚はめっちゃかっこいい。なお、ジャケットにはヴァンダーマークはテナー〜クラリネットと表記されているが、テナーは吹いていない。全部バリサクです。テナーでもアルトでもバリサクでもなんでも一緒じゃん。サックスはサックスでしょ、というひとよ。それは……ちがう。ライナーとかジャケットの情報とかは、どうでもいいことは記載しなくていいから、こういうことだけはきちんとしてほしいであります。2曲目もバリサク。3曲目はクラリネット。4曲目はバリサクで、演奏としてはいちばん山下トリオっぽいかも。pとdsのデュオのパートがとくにそう感じる。そのあとのヴァンダーマークのバリサクの無伴奏ソロがかっこよすぎる。5曲目はクラのバラードで、この曲のヴァンダーマークのクラリネットの演奏のセンスのよさは、ジャズというのはフレーズを順番につむいでいって、起承転結でもりあげればいいというもんじゃないんだなあ、というごくごくあたりまえのことを再認識させてくれる。かっこいーっ! 6曲目はバリサク。7曲目はクラリネットでちょっと室内楽風プログレな感じだがドラムが暴れる。8曲目は4曲目と並んでフリーな演奏。テーマはちゃんとしているのだが、途中からどしゃめしゃになる。9曲目はクラリネット。10曲目はバリサクの不気味な吹き伸ばしからはじまる不穏な印象の曲。という風に、変則トリオ編成だが、10曲それぞれにバラエティがあり、コワモテの曲も優しい曲もむずかしい曲もテク披露の曲も気持ち優先の曲もあって、飽きません。
「PAST PRESENT」(NOT TWO MW900−2)
DKV TRIO
最近リリースがなく、活動休止かと思っていたDKVトリオだが、ここへ来て、なんと7枚組のボックスが出た。というか出てしまった。2009年から2011年にかけてのライヴを収録した6枚と、2008年の「プレイズ・ドン・チェリー」という企画ものライヴ1枚の計7枚である。6枚のほうは全部即興である。当初はドン・チェリーの曲やオリジナルをやっていたこのトリオがしだいに曲を捨てて即興へと移っていく過程がわかるが(ブロッツマンテンテットも結局そういう展開になったが、両者がメンバーが重なっており、だいたい同時期であるのは興味深い)、正直、聴いた印象としては、チューンをやってたころと即興になっていったころとはさほどの変化はない。もともとチューンをやっていたときも、曲もちょっとしたきっかけに過ぎず、基本的には即興だったのだ。しかし、いわゆるフリー・プロヴィゼイションではなく、ジャズのリズム、というかアフロアメリカンなビートに主軸を置いた、土の匂いのする音楽であることは、ずっと変わらない。なにしろ純粋な即興ではなく、一応その場でテーマ的なものをそのつど提示するわけで、ヴァンダーマークがいくらがんばっても、だいたい同じような感じになってしまう危険をはらむ。そこであとのふたりの引きだしの多さが重要になる。それにしても、ケスラーとドレイク(とくに後者)の引きだしの多さには舌をまく……とかなんとかつまらんことを書いてないで内容を書こう。
1枚目は2009年CHICAGOの演奏で、ヴァンダーマークはテナーではじめる。冒頭からかなりかっ飛ばす。この演奏には彼が即興のときによく使うやりかたが示されていて、つまり、「フレーズが短い」。それをリズムに載せて繰り返したり、少しずつ変化させたり、畳みかけたりしていくことによってドラマをつむぎあげていく。フレーズが短い分、共演者ふたりとのインタープレイ的なものも濃密かつ頻繁になる。そして、こういうやり方だと、ヴァンダーマークもひとりのリズム楽器のような立場になるので、とくにリズム担当の相方の技量が重要になってくる。コンポジションを使わないことによって、テーマ的なものの提示も短くなり、そこから引き出されていく演奏も短いパッセージの積み上げになる。という風に私は理解しておりますが、どんなもんでしょうね。ベースのアルコソロ、ドレイクの静かなパーカッションソロと続いて、ヴァンダーマークが戻り、音量を抑えた演奏からしだいに熱く激烈な演奏へと変わっていく。トロンボーンなどではそういうやり方はあるが、木管でここまでリズムを強調した吹き方をするというのも珍しいと思う。ベースが4ビートのランニングをはじめて、また場面が変わる。ケント・ケスラーの指弾きベースソロをあとのふたりが小さく伴奏する部分を挟んで、一旦終止感が出る(たぶん、ここまでで一曲)。つぎは、ドレイクがアフロっぽいリズムを奏でるところからはじまる。表現力のあるパーカッションソロに弓弾きベースが加わり、長いデュオになる。そのあとテナーが入ってきて、また場面が変わる。ファンキーなベースラインに乗ってヴァンダーマークがブロウする。ここでまた一旦終了(これが2曲目)。つぎはヴァンダーマークが小刻みに震えるようなイントロからスパニッシュというか中近東というかエキゾチック(?)なバラードっぽいテーマを歌い上げたあと、ベースが速いパターンを出し、そのテーマの雰囲気を持続させたまま、まあ、いわゆる「オレ!」的な曲調になっていく。この展開は彼らの得意とするところだろうな。それが崩れていき、ドラムとベースのデュオになる。リズムがどんどん変化し、ヴァンダーマークがリフを出して、それに引き続く形でソロをはじめる。リズムは結局サンバみたいになっていく。このあたりのヴァンダーマークのブロウはフリーキーかつドスがきいていて、いやー、すごいっす。ソロ終わりで、客から「いやーっ!」と掛け声。わかるわかる。このバンド、聴いてる分にはおもろいけど、やるのはたいへんだろうな。一瞬も気を抜けない。でも、楽しくゆとりももって演奏している雰囲気も伝わってくる。ドラムソロになり、ベースがアルコで入ってきて、またべつの場面に。ヴァンダーマークがオーバートーンを使ったリズミックなソロをしていくのかな、と思ったら、ベースが4ビートのランニングをはじめ、ありゃ、こんな風になるのかという予想外の展開。すごいよね、こういう裏切りと協調。ドラムが消えてリズムがなくなり、ベースとテナーのデュオに。間をおいたゆっくりゆっくりの演奏。途中でドラムも入ってくるが、これはコンポジションなのか?(テナーとベースの動きがシンクロしている)。ぐっと引き締まった、渋い空気を失うことなくキープし、めちゃめちゃ美味しい感じで、72分の即興ライヴは幕を閉じる。というわけでヴァンダーマークは全編テナーで通した(と思う)。
2枚目は2010年のシカゴでの演奏。リズムはあるがビートがないタイプの自由な雰囲気のオープニング。これもいかにもこのトリオらしい伸び伸びしたシリアスな即興。どう転がっていくのかなと思っていると、ヴァンダーマークがテナーで短いフレーズを積み重ねていくうちにだんだんリズムが強調されていき、インテンポの演奏になるが、途中でドレイクが気が狂ったような「なにがしたいねん」的強烈なバッキングをはじめ、それに対応してヴァンダーマークがフリーキーになり、また戻る……といったあたりは笑ってしまう。しかしハミッド・ドレイクは凄いよね。達人だ。ヴァンダーマークのソロが終わると、ケスラーがアルコで痙攣したようなソロを展開。ずっとインテンポだが、最後にはリズムがなくなり、無伴奏のフリーのソロになってケスラーの本領爆発。そこにヴァンダーマークがからんでいき、なぜか(?)ケスラーの指弾きのソロ〜ドレイクとのデュオになる。ヴァンダーマークがちょっとちょっかい出したのはなんだったんだ。ケスラーが同じ音を繰り返してビートを弾きはじめ、ふたたびヴァンダーマークが登場してあらたな展開になる。テナーの力強い咆哮が先導するトリオ一丸の猛攻撃へと突入する。このあたりは聴きながら拳をかためて、そのへんを殴りまくるところ(そんな聴き方してるの私だけですか?)。それが崩れて、ドレイクがシャッフル(?)みたいなパターンを叩いたあたりからややファンキーな曲調になる。でも、それもこれもどんどん変化していくのだ。リズムはハチロクみたいなアフロみたいな感じになり、それとヴァンダーマークの短いリフとの衝突から、テナーが引っ込み、ケスラーのベースパターンに乗ったドラムのフリーなソロになる。ベースが消え、ドレイクのロングソロ。今にも消えそうなシンプルなリズムに乗って、ヴァンダーマークがいろんなことを試していく。ケスラーのアルコがだんだん大きくなっていき、インテンポでひとつの音楽が形になっていく。ベースがパターンを弾きはじめて8ビートのような曲調になり、ヴァンダーマークのテナーが短い即興リフを積み上げながら、「ピアノレストリオでのジャズロック」みたいな(スペースウェイズインクのサンラ曲集を連想した)展開になる。延々とそれが続き、シンプルにエンディング。
3枚目も同じ年(2010年)の年末、シカゴでの演奏。ヴァンプというのかバリサクの低音リフが8ビートっぽい3拍子の変なリズムに乗ってヴァンダーマークのバリサクが鈍く炸裂する。基本的にはヴァンダーマークもリフをリズミカルに積み上げていくやりかたなので、リズム楽器が3つあるようにも聞こえる。そのままの展開を続けて、けっこうあっさりと1曲目終わる。2曲目はマイナーバラード風のイントロから、突然激しいフリー「ジャズ」になる。非常に「DKVトリオらしい」演奏であり、本盤中の白眉といっていい。どんつくどんつくというリズム、マイナーの曲調に乗って、ヴァンダーマークが太く、ダーティートーンもまじえた音色で、短いリフを重ねながら高まっていく。そうそう、これがDKVトリオなのだ。どんどん場面を変えていくのではなく、ひとつのところに落ち着いて、そこからなにが出てくるのか、3人でとにかく徹底的に掘ってみる、というタイプの即興だ。2曲目(実際は1曲目と切れ目はない)の6分を過ぎたあたりからテナーソロがぴしゃりと終わるあたりまでの昂揚はほんとにすばらしい。そこからケスラーのベースのピチカートソロになり、そこにテナーが入ってきて、4ビートの重いリズムのジャズっぽい演奏に。こういうタイプの演奏で、フレーズの多様性を示しながら緊張感を保つのはなかなかむずかしい。音を濁らせ、低音をまじえながら挑戦するヴァンダーマークだが、昔からそうだったように、なかなかたいへんそうであります。しかし、とくにドレイクのドラミングに助けながら、長丁場を乗りきり、そこからドラムソロ。そしてテーマ風にヴァンダーマークが登場(ちがうと思うけどこれはコンポジションなのか?)。ここもやはり、ダーティートーンで短いフレーズを積み重ねていくヴァンダーマークにあとの二人が寄り添う。3人のリズム楽器による演奏。サイツっぽくも聞こえる。この3枚目の演奏はだいたいが古いタイプの、がっつり系フリージャズで聴き応えがあるな。かっこいいです。ここで一旦曲が終わった感じになり、つぎはバラード風にはじまり、ベースの無伴奏ソロに。ケスラーがフリージャズ(あえてそういう言葉を使う)のベーシストして傑出した存在だとわかる。ヴァンダーマークのテナーが「しずしず……」という感じで入ってきて、ちゃんとコード進行を感じさせるバラードになる。おそらくこのボックスを最初から聴いてきて、3枚目のここにいたって、ようやくのバラードである(スローな雰囲気の曲はあったけど)。しかし、途中からリズムが4倍テンぐらいになり、結局はスローのまま押し切ることはできないのだった(これもありがちだ)。そんなぎりぎりのタイミングで、ベースの無伴奏ソロになり、ああ、なんとかバラードとして終われたなあ、という終止感になる。ここでまた一旦終わって、つぎはベースのアルコによるかなり長めのフリーソロからはじまる。そのあとヴァンダーマークがバリサクの優しい音でゆったりパターンを吹きはじめ、ベースはかぶせるようにアルコソロを続ける。ベースが指弾きになり、曲っぽい感じがスタート。このあたりの阿吽の呼吸は何度聴いても絶妙。長いあいだやってる関係ならでは。そういうこってりねっとりした演奏が延々続き、このあたりはリズムのグルーヴと3者の粘っこいインタープレイを味わう部分でありましょう。一気にのぼりつめず、時間をかけてふつふつと熱くなっていき、14分ぐらいでサックスがいなくなって別の展開へ。ベースとパーカッションのデュオのあと、テナーが入って4ビートになる。どろどろした演奏のあとなので、すごく軽快に感じる。ヴァンダーマークがくねくねした長いフレーズを吹いていき、いろいろなことを試しながらロングソロ。そのあと急にはねるボサ的リズムのテーマ風の部分(コンポジションか?)になり、ヴァンダーマークがひとつのフレーズを取り憑かれたように繰り返してエンディング。
4枚目は、3枚目と同じ場所での翌日の演奏。短い8分音符を並べるリズミカルなイントロから一転爆発、そしてまたハイハットの小刻みなリズムとテナーの8分音符というテーマ風の部分。その後も基本的にはこのパターンがベースになって演奏が進行するが、ヴァンダーマークがかなりぶっ飛ばしており、ドレイクがそれを煽りまくるのでめちゃめちゃかっこいい。(このバンドとしては)比較的短い演奏ながら中身は濃く、全体に異常なテンション。かーっ、たまらん!これぞDKVトリオ。2曲目は牧歌的なテナーのイントロから8分の5のような8分の6のような、ちょっと適当な感じのテーマ(?)がはじまり、リアルトーンでのドラムとのデュオになる。こまでは全てドラムと二人だけだが、しだいに激しくなる。しかし、牧歌的な雰囲気もどこかで続いている。また8分の5のようなハチロクのようなテーマが現れ、唐突にベースが入ってテナーが絶叫しはじめてパワーミュージックっぽくなる。別のテーマリフをテナーが出して、それにほかのふたりが合わせる展開から、アフロっぽいリズムでのトリオ演奏。ヴァンダーマークは濁った音で激しく吹きまくる。膨大なエネルギー量を感じる演奏で、咆哮とインタープレイのかぎりをつくす。4ビートになり、そのあとまたリズムが変わって、ドゥンドゥンタタタタという8ビートのファンキー(?)な展開に(ここもかなり長いです)。テナーは「リズムを吹く」ような感じで、バンド全体のダイナミクスの変化による表現もなかなかすごい。ベースのピチカートソロになるが、ケスラーはフラーテンのような豪快で荒っぽい表現をあまりしないけど、やはりタダモノではないなあと思う(ここもたっぷりある)。バリサクがそっと入ってきて、しばらく静かな感じの演奏が続き、しだいにミディアムテンポのすごくちゃんとした(?)ジャズっぽくなる。ヒガシマルうどんスープのCM曲のような曲調になり、「決めるところはきっちり決めました」的に渋く見事に着地。
5枚目は2011年のミルウォーキーでのライヴ。1曲目冒頭から痙攣するようなアルコとパルスのようなリズムにのってヴァンダーマークが咆哮する。古いタイプのフリージャズで、まさにパワーミュージック。めっちゃかっこええ!この曲はずっと、そういう展開に終止し、聴いているこちらも手に汗握る感じで聞き惚れます。ヴァンダーマークは引きだしがめちゃ多いひとだが、やはりこういう表現にいちばんひかれるかなあ。極上のパワーミュージック。途中から4ビートになり、そういうあたりも古いタイプのフリージャズっぽい。長目のドラムソロから、ゆったりしているがパワフルな、スピリチュアルな(という言葉は使いにくいけど)雰囲気の演奏がはじまる。ベースのずっしりしたソロになり、これはめちゃめちゃいい感じ。テナーがサブトーンでそっと入ってきて、ドレイクがブラシでひたひたとつけ、うーん、スピリチュアル!(という言葉は……あ、もういいですか)そして、ほんのちょっとしたリフだけで次第に昂揚していき、溶岩のように熱くどろどろした演奏になる。いや、もう、このあたりがDKVトリオの真骨頂でしょう。ええなあええなあ。ヴァンダーマークの、音色の微妙な変化による表現にも注目。2曲目は、バリサクの低音部の破裂的フレーズで幕を開ける。ゆったりしたフリーテンポの演奏から、ベースのソロになり、ふたたびヴァンダーマークの低音を強調したバリサクソロになる。このパートはかなり長くて、こういう長尺の即興をちゃんと盛り上げていく3人の手並みはすばらしいです。ドラムソロを挟んで、また場面が変わり、ヴァンダーマークがテナーに持ち替えて登場。このテーマっぽい部分も即興なのかな(ちゃんとした曲っぽい)。ドラムのリズムが変化していき、4ビートになってから途中でテンポも速くなる。この曲(?)はドラムのリズムパターンがころころ変わるのが特徴で、それを聴いているだけでもおもしろい。終盤にいくにつれてどんどん盛り上がっていくが、332,332のリズムに乗ってヴァンダーマークが絶叫する。いやー、ドレイクすごい。むちゃくちゃになって、すーっと収束していくが、そのあとケスラーの無伴奏アルコソロになり、そこにヴァンダーマークがクラリネットで参加し(クラリネットは本ボックスはじめてか?)、デュオによるインプロヴィゼイションになる。そのあとクラリネットが幽玄なフレーズを吹きはじめ、幻想的なトリオ演奏になる。このあたり、相当聴かせます。テナーにチェンジしてから変幻自在のトリオ演奏になり、3人が延々と吹きまくり、弾きまくり、叩きまくる。そして、いつものように「そっ」と終わります。
6枚目は同じく2011年の12月シカゴでの演奏。ドレイクの、チューニングや音色のの変化を駆使した絶妙なドラムソロ(けっこう長い)ではじまる。そこへアルコとヴァンダーマークのクラリネットの高音部による、ロングトーンが入ってきて、なにかがはじまる予感。だんだんとクラがダーティートーンになり、激しい即興に。ベースのピチカートソロになり、ヴァンダーマークがバリサクの低音でからんできて、トリオによるフリージャズっぽいインプロヴィゼイションに。どんどん過激さを増していき、一定のテンポになってからも激しさを重ねていき、しまいにはアフロっぽいリズムでのドラムとバリサクのデュオ(ベースも弾いているが、ほぼデュオといっていい)になり、異常な盛り上がり。ベースが存在感を増してトリオになるが、要するにひとつのリフにこだわった演奏なのだ。そのリフをテーマ風に吹いて終わる。2曲目はテナーが冒頭から快調にぶっ飛ばすトリオ。アップテンポの4ビートに乗って、吹きまくる。ドレイクも凄いことをやっているので、よく聴きましょう。ヴァンダーマークはどんどんエキサイトしていき、その頂点でふっと消える。テンポは維持したままドラムありのベースソロになり、ドラムが消えてベースのフリーテンポの重厚なソロになる。ヴァンダーマークのテナーがサブトーンでゆるりと入ってきて、アブストラクトなバラード風の展開に。そのあとバリサクになり、激しいトリオパートに。聴き応え十分の演奏が延々と続いたあと、ヴァンダーマークの絶叫の果てにドラムソロになる。すごくオーソドックスかつパワフルなソロであります。そこにヴァンダーマークのテナーがかぶさってくると、観客の歓声が。祝祭的な激しいデュオになり、ここがいいんです。6枚目の白眉といっていい演奏。ふたりが秘術を尽くしてぶつかりあう極上のデュオ。インテンポになってベースが入ってきてもテナーはひたすら吹きまくり、ドラムは煽りまくる。ひえーっ、かっこええ! このライヴの現場にいたら、「ぎゃーっ」と叫んでいただろう熱演につぐ熱演。ちょっとダイナミクスの変化があって、テーマっぽいリフが現れ、バシッとエンディング。3曲目はクラリネットの激しい無伴奏インプロヴィゼイションから、アルコベースが加わっての即興デュオ。パーカッシヴなクラリネット、ドレイクの素手によるパーカッションなどによって激しく美味しく細やかなトリオ即興。そのあと、ベースが弦を弓で叩きながら弾くようなパートのあと、テナーとパーカッションが入ってきて、べつの展開に。ベースが指引きのフリーテンポソロをはじめて、70年代モードジャズっぽい雰囲気が漂いだし、インテンポになってテナーとドラムが登場。ますますモードジャズ的になる。白熱した演奏は、最後は執拗にリフを繰り返しはじめる。古いとか新しいとか関係ない、ええもんはええ、と力強く宣言しているようだ。ヴァンダーマークは吹き方の操作でパーカッシヴな効果を上げながらエンディングに。
ボーナスディスクの7枚目だけが企画もので、2008年のドン・チェリーの曲ばかりを演奏するライヴの音源。このグループは「TRIGONOMETRY」「LIVE IN WELS & CHICAGO,1998」などでもドン・チェリーナンバーをがっつり取り上げていたので、トリオという形態がドン・チェリーの曲にぴったり合っているということなのか。いきなり「ブラウン・ライス」ではじまる。途中4ビートになったり、またパターンに戻ったり、倍テンポになったり、3人の呼吸はぴったり。ベースとドラムのデュオになり、そこからテナーが入って、ドラムソロになってそのまま2曲目に突入。最初ちょっと走る(適正テンポに修正?)が、そのまま昂揚感をもって突っ走り、ビートが消えて、3曲目のテーマをテナーが朗々とバラード的に吹く。このあたりの展開も見事。そのあとフリーになり、ヴァンダーマークが吠え、そして無伴奏ソロになる。ベースのソロに引き継がれ、テナーが高音部でささやくようにテーマを吹き始める。ああ、めっちゃええなあ。いつものDKVトリオの「とにかくひたすらやり倒す」という長尺の即興ではなく、コンポジションを消化するという枠のせいか、比較的短く、小気味よい演奏になってい聴きやすい。ただし、死ぬまでやり尽くしました、というような徹底的な感じはない。ここで一旦終わって、3人による激しいフリーインプロヴィゼイションになる。テナーが割れた低音をリズミカルに吹きまくるパートからインテンポになり、ヴァンダーマークが咆哮する。かっこいい!そこからテーマがでて、なぜかチャタヌガチューチューの引用などもしながら3者一体の怒濤の進撃。ベースとドラムのデュオになり、テナーが加わってスウィング感満載の演奏から、おなじみの「ザ・シング」のテーマに突入!ベースがアルコでノイジーなソロをはじめるが、ここはものすごくいい雰囲気のチェンジ・オブ_ペースです。そこにテナーが入ってきてドレイクが絶妙のブラッシュワークをみせベースが高音部のピチカートを繰り返して「リメンブランス」になる。すばらしい。この部分はリズムはないが、そこからテナーがビートを出していき、ヴァンダーマークがよく演奏している「エレファンタジー」になる。この曲なんか、ほんとにドン・チェリーらしいというか、ほんのちょっとしたリフの組み合わせなのだが、いつまでも心に残るという、もっとも望ましい形の名曲だと思う。とにかく3人でひたすらシンプルなリフに没入しているだけでもカッコイイのだ。ドラムソロになり、バシッと終わる。そして、またテーマのリフになり、「ミュージック・ナウ」という最後の曲になる(でもラストは「エレファンタジー」のリフだが?)。とにかくどの曲も短いのだが、ひとつのメドレーのようなものなので、聴き応えは十分だし、楽しい。ドン・チェリーの偉大さを痛感。ヴァンダーマークたちは、(もちろん心のなかでのトリビュートはあるだろうが)素材として使っているだけで、演奏形態から内容からまるでドンのオリジナルバージョンとはちがうわけだが、それでもこの3人を包み込み、自由さを100パー残しつつもドン・チェリー色に染めてしまうドンはすごい。最後はアンコールで「リメンバランス」をもう一度。こういうフリーなバラードでしめくくられるコンサートって、よろしゅおまんなあ。このトリオの美学の極み。
いやー、7枚聴くと疲れるなあ(1枚を4回ずつ聴いたので計28枚分ということか。道理で時間がかかったはずだ)。でも、フルマラソンを完走したときのような心地よい疲労感だ(マラソンなんかしたことないけど)。最後の7枚目のドン・チェリー集が、すごくいい気分転換(?)になり、楽しく聴けました。来年2013年ももヴァンダーマークがんばれ!
「THE HORSE JUMPS AND THE SHIP IS GONE」(NOT TWO MW850−2)
THE VANDERMARK 5 SPECIAL EDITION
ヴァンダーマーク5の二枚組で、シカゴのライヴを収めたもの。いつものメンバーに、マグナス・ブルーのトランペットとハバード・ウィークのピアノが加わった7人編成による「スペシャル・エディション」ということらしい。それにしても、ヴァンダーマークはあれほどこだわっていた「自作曲をだれかに捧げる」というのをやめたのかなーと思っていたら、このアルバムはかつてのヴァンダーマークの曲の再演ものなのである。なーるほど。ヴァンダーマーク5は、ヴァンダーマークの作編曲の曲だけをやる、というコンセプトのバンドなので、メンバーチェンジを幾たびか経た状態での再演は意味がある。2009年のシカゴでのライヴ盤だが、なぜ今頃レビューを書いているかというと、一度、かなり長いレビューを書いたのに、それがなぜかアップされないままどこかに行ってしまったからで、もう一回書くという根性がなかったからである。さて、1枚目の1曲目は、不穏な伊福部昭的なテーマのあと速いリズムに乗ってマグナス・ブルーのトランペットソロ。うーん、このひとはあいかわらず私にはわからん。ピアノソロのあとティム・デイジーのかっこよすぎるドラムソロ。そして、3拍子のリフに乗って、デイブ・レンピスの突き抜けるようなアルトがソロをする。めちゃめちゃかっこええ! デイブ・レンピスすごいわ。そこに全員が加わって狂騒的な展開に。あー、これは凄い。ヴァンダーマーク5としては聴いていて久々に興奮のるつぼと化すような演奏で、この2枚組のクオリティが予見される。最後にテーマ(ラドンっぽい)に戻ってくるが、いや、皆さん、このアルバムは期待できまっせ。2曲目は管楽器のアンサンブルによるイントロから3拍子でスウィングするテーマに突入。ピアノの変幻自在のバッキングに乗って、ロンバーホルムのチェロが優雅に狂気を発していく。ピアノソロは1曲目に続き、非常にフリーキーで結成当初からずっとピアノのいなかったこのバンドに見事に溶け込んでいる。そして、デイブ・レンピスのバリトンソロが炸裂し、チェロとのデュオになる。これもすばらしい。要所要所を締めるリフが演奏を盛り上げる。その後、バリトンの凄まじい咆哮とベース、ドラムのトリオになるが、いやー、レンピスはバリトンもええなあ。ヴァンダーマークも安心していろいろ任せられると思う。3曲目はマグナス・ブルーの曲で、クラシカルなチェロのソロのあと、バリトンを中心とした低音アンサンブルがあって、そこに高音部がかぶさっていくという、なかなかかっこいいテーマ。チェロとピアノ、ドラムによる即興トリオが活躍し、そこにバリトンが現れて、ふたたびテーマ、そして、バリトンソロをフィーチュアしたバンドサウンド。マイナーグルーヴの、とても真っ当なかっちょいいジャズ。テーマを挟んでベースソロ。またアンサンブルを挟んで、ヴァンダーマークのテナーソロ。これも7拍子のままで激しくグルーヴするフリージャズで、なかなか燃える。4曲目は、スウィングする4ビートに乗ってレンピスのドルフィ的なアルトソロがフィーチュアされるが、音色が優しいのでパッと聴いただけではドルフィーっぽくなく、非常に軽快で延々とつづく。すごい表現力だと思う。つづいてブルーのトランペットソロ。押し潰したような音色での、へしゃげたようなソロ。そのあとのノイズは、たぶんロンバーホルムだろう。テーマを経て、クラリネット〜チェロ〜ピアノ〜ドラムなどが主体の集団即興へと発展。ここもアイデア満載でなかなかおもしろい展開。1枚目最後の曲は、ヴァンダーマークのクラリネットとケスラーのベースによる即興二重奏で幕を開け、ドラムとベースの激しいデュオになる。完全にリズムはフリーなのだが、そこにほかの楽器がアンサンブルをを奏で、そこから一転して、インテンポのロッキンなテーマが登場する(これって、ヴァンダーマークの常套手段ですよね。でも、かっこいい見せ方なのだ。ビートに乗って、チェロとテナーの激しいソロが荒れ狂い、ああ、やっぱりこれですなあ、という感想とともに1枚目は幕を閉じる。二枚目への期待が膨らむなあ。2枚目1曲目は、不穏なサウンド。マグナス・ブルーのトランペットはなにが言いたいんだかわからん、こちょこちょしたソロ。そのあと急転直下4ビートになり、ピアノトリオに。バックリフなどを入れつつ、ガンガン弾きまくる。かっこええ。そこにバリサクとテナーが乱入し、大暴れにつぐ大暴れ。そのあと、サックスが低音での破裂的な音でパーカッシブな効果を出し、それが静かになっていったと思ったら、別のファンキーなテーマがはじまり、またしてもレンピスのバリサクのヘヴィな吹きまくり。あー、レンピスすばらしいっす。初期ヴァンダーマーク5のレビューで私が書いた悪口は全部消しておきますので、あ、いや、めんどくさいので置いておきますが、今のレンピスは最高であります。2曲目は右チャンネルからノイズ、左チャンネルからそんなこと知るかいとばかりに4ビートにのったトランペットソロ。こういう発想はヴァンダーマークっぽいが、相互に触発し合うことなく、バラバラに進行していくのです。おもろいといえばおもろい。つづくピアノソロは短いがものすごくイマジネイティヴなソロでめちゃめちゃかっこいい。このひとはええなー。そして満を持しての登場……的なヴァンダーマークの圧倒的迫力のテナーソロ。ピアノの連打とリフにあおられて吹きまくります。これこれ、これでんがな。ドラムとテナーの荒ぶるデュオになり、そこにチェロの狂乱弾きがかぶって、あー、至福。といったところでドラムが8ビートになり、なんだかよくわからないまま吹き伸ばしがあって終了。3曲目は、暗い森のなかのような不気味な雰囲気ではじまる。一種のバラードか? 木に竹を接ぐように、一見関係なさそうないろんな場面が展開していくので(これもヴァンダーマークの曲の特徴)、ぼーっと聴いているとえらいことになります。静かなドラムソロになり、それをバックにトランペットがスパニッシュ(?)なフレーズを朗々と吹こうとしたり(吹けてない)、すごくおもしろい。最後にはしつこいリフを延々と全員でやりつづけ、それがいつのまにか強大なエネルギーとうねりを持って盛り上がり、突然終わる……というこれもヴァンダーマークの常套手段。4曲目はこれもかっこいい曲ですねー。ピアノソロが利いてる。このひと、もうレギュラーにしちゃえばいいのに(と勝手なことを言う私)。途中、この2枚組では一番ぐちゃぐちゃの集団即興パートがあり、マグナス・ブルーが金切り声のような高音を連発していて耳に残る。5曲目はぶっ速い4ビートに乗って、レンピスのアルトとブルーのトランペットが同時に吹きまくる(ちゃんとしたフレーズを)。このふたりの、ジャズミュージシャンとしての根本的な実力がはっきりわかる、ものすごい演奏。そのあとテーマを経て、レンピスが残って吹きまくる(これはフリーキーなソロ)。そして、またビシッと4ビートになって、今度はブルーにバトンタッチするが、ここは正直、さっきのソロで力を全部使い果たしたような、バテ気味の演奏。ここでまた(ヴァンダーマークの王道として)ファンクリズムのリフが挿入されて雰囲気も変わる。ヴァンダーマーク渾身のテナーソロがさすがの貫禄を示す。そして、唐突なノイズのみのソロ(ロンバーホームでしょうね)が、(たぶん)リスナーをのけぞらせる(こういうところ、ヴァンダーマークはうまいなあと思う)。そのあとまたしても突然、アコースティックなチェロ、ミュートトランペット、おもちゃみたいなパーカッションなどのほのぼのしたお遊戯的インプロパートになり、全員が参入。それがかなり続いてから、ドラムがマレットでリズムを出し、そこに皆が集まってくるような形でフレーズを乗せていき、なんとなくひとつの流れになる(このあたり、絶妙でかっこいい)。そしてテーマ。2枚組だが、ソリストのバラエティが豊富なのでけっこうすぐに聴けます。
「FOX FIRE」(MAYA RECORDINGS MCD0901)
KEN VANDERMARK−BARRY GUY−MARK SANDERS
バリー・ガイが入っているということはかなりシリアスでヘヴィな即興にちがいない、しかも2枚組かあ……と聴くのをためらっているあなた。ぜひ、ただちに聴くように。じつは、かくいう私もそうでした。いいのはわかってるんだけど、でも、ほら、いつものあれでしょ? ああいう感じ。もう、わかってるから。──というようなことを思っているひとは、悔い改めてさっそく聴かねばならん。細かい内容紹介は無意味なので省くが、とにかくこの3人のものすごい気合いが一曲目の冒頭からびしびしと伝わってくる、超最良インプロヴィゼイションライヴ二枚組なのだ。美味しい場面連発で、二枚組なんてあっというまっすよ。スピード感といい、強烈なリズム感といい、兇悪なブロウといい、3人とも圧倒的だ。よほどこの日、全員乗りまくっていたのか? 集中力もすごいわ。バリー・ガイもベースを叩きつけるような、弦をぶち切るような、そんなパッションをぶつけているし、ヴァンダーマークはテナーもクラリネットも吹けば吹くほどイマジネーションが湧き上がってくる感じ。マーク・サンダースもバカテクなうえにレスポンスのスピードが速くてめっちゃ気持ちいい。あー、この2枚組、ヴァンダーマークの代表作のひとつといってもいいんじゃないか、ぐらいに気に入った。現代ジャズを担う狂気のベテランたちによるガチンコ即興勝負。まるでDKVトリオみたいなド迫力の演奏もある。ものすごいです。もう一度言います。ものすごいです。傑作!
「LEAN LEFT VOLUME 1」(SMALLTOWN SUPERJAZZ STSJ166CD)
LEAN LEFT−THE EX GUITARS MEET NILLSEN−LOVE/VANDERMARK DUO
「LEAN LEFT VOLUME 2」(SMALLTOWN SUPERJAZZ STSJ186CD)
LEAN LEFT−THE EX GUITARS MEET NILLSEN−LOVE/VANDERMARK DUO
この「リーン・レフト」というのは、アンディ・ムーアとテリー・EXというふたりのギターによるチーム「THE EX GUITARS」が、ニルセンラヴ〜ヴァンダーマークデュオと合体してできたバンド(?)という認識でよろしいのでしょうか(追記・どうやら違っていて、EX GUITARSはTHE EXという4人編成のバンドのうち、ギターのふたりを抽出したバンド内バンドみたいなものらしい。ちがう?)。「EX GUITARS」のほうは、ノイズ系だと聞いていたので、えげつないぐらい激しいデスサウンドの嵐が吹き荒れるのかと思っていたが、案外、めちゃめちゃまともで聴きやすかった。2枚とも同じ日の同じ場所でのライヴなので、まあ二枚組みたいなものだから、同時に取り上げる。いやー、これはよかったです。一応、便宜的に途中で曲を区切ってあるのだが、実際には1枚目はひとつの長い即興である。2枚目も同様。1枚目の1曲目(?)はニルセンラヴとヴァンダーマークとのデュオのみによる演奏だが、これがえげつなく凄い。デュオアルバムでの演奏よりすごいんちゃうかと思うぐらいとんでもない。そして2曲目になってギターが出てくる。ここからもほんとめちゃめちゃかっこいいし、4人ともちゃんと心得てるし、爆音の部分も静謐な部分もある、意外なほど音楽的な演奏で、これならだれにでもすすめられそう。しかも、クオリティは超高い。ヴァンダーマークもニルセンラヴも気合い入りまくりで(とくにニルセンラヴは鬼。阿修羅のごとき、といった形容をしたくなるほどものすごい)、ギタリストふたりもそれぞれ個性がちがっていて、聴き所は死ぬほどある。2枚目になって、ギターふたりのデュオになるのだが、この部分もノイズといえばノイズだが、いわゆるノイズという言葉から思い浮かぶあれやこれやにくらべるとずっと聴きやすい。たぶんギターだけのデュオなのにリズムがめちゃめちゃしっかりしていて、ドラムやベース的な役割も果たしつつ、ふたりで構築していくやりかたを会得しているからだろう。そして、2曲目(実際は続いてます)になるとぐちゃぐちゃな即興になるが、この連中、自分たちだけだとちゃんとやるのに、4人になるとむちゃくちゃするというのはどういうことか。ライブなのに録音もよくて、どの音もクリアではっきり聞き取れて、迫力十分です。「リーン・レフト」はいい! 傑作。このバンドだけは、本当にだれがリーダーというのもない感じなので、ここはこちらの都合で、ヴァンダーマークの項に入れさせていただきます。
「LIVE AT CAFE OTO」(UNSOUND 32U)
LEAN LEFT−THE EX GUITARS MEET NILLSEN−LOVE/VANDERMARK DUO
上記の二枚から3年後、2011年のロンドンでのライヴ。もはやふたつのデュオをくっつけたという初期事情は失せて、ほとんどただのカルテットと化している。この4人の相性はあいかわらず抜群で、冒頭から凄まじい応酬が続く。とくにニルセンラヴは、本当にたのグループにぴったり合っているらしく、いいところが全部出ている猛演。ヴァンダーマークも、一直線に迷いなく吹きまくっていて、ギターのふたりも小細工なく全力でレスポンスしていて、もう、気持ちいいったらありゃしない! 快感。上記でも書いたが、もっぺん言っときます。「リーン・レフト」はいい! ギターのデュオになる部分も、即興する喜びにあふれていて、聞いていてうれしくなってくる。このふたりは案外アコースティックなのだ。そして、どんなに暴れても狂っても、そのしっかりと太い音色が失われないヴァンダーマークの豪快なテナー。なんぼほどアイデアがわき出てくるねん、と呆れ果てるこの4人。書くことはもうとくにありません。めちゃくちゃおもしろいし、楽しいので聴いてないひとはぜひ。とにかく聴いてもらわないとわかんない。聴きやすいし、かっこいいことは保証します。これは娯楽やーっ。終演後の拍手と歓声がそれを物語っています。なお、2セット目にはこの4人にアブ・バース他1名がゲストとして加わり、それは別のレーベルから出ているらしいが未聴。
「WHAT COUNTRY IS THIS?」(NOT TWO RECORDS MW885−2)
THE RESONANCE ENSEMBLE
前回とはちょっとメンバーに異同があるが、あのリゾナンス・アンサンブルのアルバム。やや大編成で、ヴァンダーマークの曲ばかりやる、というわけで、テリトリーバンドのようだが、似て非なるものである。曲はいいし、一曲のうちにいろいろな山場・谷場が用意されていて、アレンジに凝りまくっているのもヴァンダーマークらしいいつものやり方だが、2ドラムが非常に効いていて、しかもソリストが全員すばらしいので、めちゃくちゃ楽しい。レンピスがとくによくて、テナーもアルトもすごい。ヴァンダーマークは出番が少ないような印象。すっかりおなじみになったポーランド勢も大活躍で、みんないいソロをしている(ユーリなんとかというテナーのひとがいないのが残念)。正直言って、リーダーでアレンジャーのヴァンダーマークは、いろんな組み合わせを試していて、それがうまくいく場合もあるが、いまいちなときもあり、たとえばソロは爆発しているのに、ほったらかしとか、ソロイストがだれているのにバックのアレンジだけすごいとか、ちょっとソロの尺が長かったとか……こういったヴァンダーマーク流の「取り合わせ(ちがう要素を組み合わせて、飽きないようにダレないようにする。新しいものが生まれる可能性がある)」はほかの作品でも何十回も試されていることだ。しかも、アレンジによって手を変え品を変え場面を転換していくので、ダレそうになっても救われる。こういう裏読みをしてしまうのは、それが成功しているからである。聴きとおしてみると、つまらなかった部分は一箇所もないが、それはヴァンダーマークの企みがちゃんと功を奏しているからなのだ。1曲目のレンピスのテナーソロ、ヴァンダーマークのバリサク、ベースのデヴィン・ホフのソロなど全部いい。2曲目はポーランド勢をフィーチュアした曲で、まず、冒頭のチューバソロは圧巻。まるでシンセか海獣が霧のなかで咆哮しているような音。最近、いろいろな場面でチューバ奏者が活躍しているが、このひとは要注目。そのあと一転してジャズロック風になるのもヴァンダーマークっぽいなあ。ブルーのトランペットはあいかわらずスカスカだが、そのバックのアレンジはめっちゃかっこいい。トラザスカのアルトはこれもあいかわらずええ音してまんなあという太いしっかりした音でまるでテナーのように吹きまくる。それにからむジンペルのバスクラもスクリームしまくり、本作のハイライトのひとつを作り出す。ブレイクがあって無伴奏ソロはスティーブ・スウェルのプランジャー。3曲目は集団即興からはじまり、ツインドラムが暴れまくる大げさなテーマ(これもヴァンダーマークの曲の特徴)がドーンと展開したあと、ブラッシュとチューバによるデュオになる。こういうヴァンダーマークのあざといダイナミクスの付け方も皆さんも何度も聴いて慣れてますよね。でも、かっこいいんだからしかたがない。チューバのバンプの効いた軽快な第2テーマに続いてスウェルの豪快きわまりないボントロのブロウにつぐブロウ。かっこええーっ! あるひとを思い出してしまうが、それは内緒。レンピスのアルトソロも、チャーリー・パーカー的ですばらしい(ヴァンダーマークはこういう風に吹くことはできんからね)フリーになってからはマグナス・ブルーも加わってふたりで荒くれまくる(ここでのブルーはすばらしい)。しかし、デイヴ・レンピス、このひとはどこまで才能あるねん。というか最初にそれを見抜いたヴァンダーマークの慧眼恐るべし。俺なんか全然わからんかったもんねー。ぜひ、このメンバーで日本に来てほしいわ。
「IMPRESSIONS OF PO MUSIC」(OKKA DISK OD12095)
KEN VANDERMARK’S TOPOLOGY NONET FEATURING JOE MCPHEE
これはすばらしい。要するに、ヴァンダーマークが新たに組織したノネットで、ジョー・マクフィーの曲にインスパイアされた曲を書いて演奏するという趣向なのかなと思ったが、どうやらマクフィーの曲を内包するような新たな曲をヴァンダーマークが書いたということらしい。つまり二重構造になっていて、それをアレンジではなく、あくまで「曲」ということにしてあるのは、アレンジというにはヴァンダーマークの独創の部分が多すぎるからではないか。ヴァンダーマークによるめちゃめちゃ長文のライナーは字が小さすぎて全部は読めなかったし、マクフィーが言ってる「ポ・ミュージック」というのもよくわからないけど、まあ鑑賞には関係なさそうだ。ヴィブラホンやチェロがアレンジ上、じつにうまく作用していて、そういった室内楽的な場面と、ノリノリのブラックミュージック的な場面、えぐいフリーなパワーが前面に出る場面など、さまざまな要素がドッキングしているのはさすがヴァンダーマーク。しかも、最近のヴァンダーマークの中編成ぐらいのアンサンブルはどれも以前よりも即興と編曲のバランスとか融合がうまくいっていて、非常にスリリングなものが多いが、本作はそれに足して、圧倒的貫禄のあるマクフィーの存在が重要な要素となっていて、彼の稚気あふれる、ドスのきいた吹きっぷりが全員に刺激を与えているのはまちがいない。1曲目は、ゴスペルっぽい管楽器だけのイントロから一転伊福部昭的重くて迫力のあるサウンドになり、そのあと(たぶん)マクフィーのゴジラの咆哮のようなテナーソロになる。そして、ジェブ・ビショップの圧巻のトロンボーンソロ。ソロのバックでときおり、きこえるヴァイブやチェロがほんとにかっこいいんだよなー。ボントロソロが終わった瞬間、高音で軋むような音で出てくるのは(たぶん)レンピスのアルトでチェロとのデュオ的な展開になる。そこにドラムなどが加わって、超アップテンポでの激しいアルトのブロウが続く。そして、ティム・デイジーのドラムソロになり、再び伊福部的テーマに乗ってマクフィーのギザギザなテナーのブロウでエンディング。2曲目は、リズミックな遊びを伴った印象的なテーマに続いて、レンピスのアルトソロになる。これはパッション優先だが、ちゃんとフレーズを伴った、どちらかというとヴァンダーマークっぽいソロである。音がしっかりしているので説得力がある。変態的なアンサンブルを経て、(おそらく)ヴァンダーマークのバスクラリネットが延々と吹くヴァンプに乗って、ヴィブラホンの幻想的なソロ。それが終わった瞬間に無伴奏で、マクフィーのテナーとロンバーホームのチェロのデュオになり(かっこいい)、リズムが入ってエンディングテーマ。3曲目も、管楽器とヴァイブだけのかわいらしくて印象的なイントロから、そこにビショップのトロンボーンが太く濁った音でテーマを朗々と吹きあでるバラード。ちょっと中華風な感じもするなあ、と思ったら「スウィート・ドラゴン」という曲だった。なんともいえない、切なくてええ感じの演奏だ。そこから(おそらく)ヴァンダーマークのクラリネットソロになる。ベースのアルコやトロンボーン、コルネットなどがときどきロングトーンを吹くだけでそのソロを支えている。この緊張感も見事。そして、ケスラーのベースのアルコソロになる。そこにほかの楽器が少しずつ乗っていき、終わる。4曲目は(おそらく)ジョー・マクフィーとヴァンダーマークのテナーのデュオによる演奏。美しい緊張感を保った演奏で、アコーステッィクなハーモニーがすばらしい。最後までその緊張感も美しさもいささかもそこなわれずに終わる。最高です。5曲目は、シンプルなテーマのあとヴァイブとチェロのデュオ。それがしだいに音量を増していき、つぎの場面はドラムとヴァンダーマークのバスクラとビショップのトロンボーンのトリオでのインプロヴィション。そしてリフのあとインテンポになり、管楽器が一斉に暴れ出すやかましい展開。そしてまたシンプルなテーマが出て終わり。6曲目はこのアルバム中もっとも長尺の演奏。トロンボーンとクラリネットによるイントロのあと、ビート感の希薄な、ゆるーい空気のなかでマクフィーのテナーがぶつぶつ、ぐつぐつといったソロをして、そこからチェロとデイジーのパーッカッションとアルコベースのトリオになる。速いインテンポになり、それにゆったりとしたノリ方でのコレクティヴインプロヴィゼイションになり……こんな風に書いていてもしかたないような展開がずっと続き、べつのリフになって、マクフィーがまた、酔っぱらいのジジイがぐちぐち言うようなテナーを吹いて、最後はヴァイヴがきれいにしめて終わるという、不思議な一曲。ラストの曲は、ヴァンダーマークのバリトンサックスのテーマ(マイナーブルース?)に乗って、チェロが好き勝手なノイジーなソロ。バリトンのリフがだんだんと音をひずませ、フリーキーになっていく。レンピスのアルトソロは、チャーリー・パーカー〜ドルフィーマナーの流暢で饒舌かつきっちりしたものですごい。最後はヴァンダーマーク(と思う)テナーソロでエンディング。やはりヴァンダーマークは多作とはいえ一作一作目を(耳を)離せないなあと思った。
「MUTATIONS/MULTICELLULAUS MUTATIONS」(DEN RECORDS DEN 015)
RARA AVIS
ララ・アビィスというのはなんぞいや、そういえば「あらえびす」というのがあったなあ、とか思っていたら、ヴァンダーマークが伊太利亜即興系ミュージシャンとともに結成した新しいプロジェクトらしい。なじみの名前もないし、2枚組だし、どうしようかなあと思ったが、とりあえず聞いて見ると、これがめちゃめちゃよかった。思っていた倍以上によかった。ヴァンダーマークもさることながら、イタリア勢がすばらしい。とくにサックスのステファノ・フェリアンというひと。きっと超有名なひとなのだろうな。めちゃめちゃうまいしセンスもすごい。あと、SEC...というエロクトロニクス系のノイズメーカーのひとも超センスいい。録音後にテープ操作がほどこされているみたいで、ときどきサックスの音とかが変にひずんだり、歪んだりするのもおもしろい(サックスの音そのものを加工しているのではないと思う)。ピアノはオーソドックスなフリージャズ(変な言い方だが)のひとっぽく弾いているが、じつはクラシックバリバリのひとかもしれない。とにかくうまい。ベースがいちばん地味で目立たない。ドラムがいないのもおもしろい。1枚目はこの5人による演奏で、2枚目はそれぞれの順列組み合わせによるデュオとかトリオだが、どちらもおもしろい。2枚目のほうがそれぞれの個性がはっきりわかっておもしろいかも(ただし、2枚目の収録時間は21分52秒と、めちゃ短いです)。とにかくステファノ・フェリアンというひとのソプラノとテナーが出てくるたびに私は感心して聞いておりました。おおっ、と興奮する箇所が満載で、知的な興奮を覚える場合と、フツーに盛り上がる場合と、偶然をうまくとらえて拡張していくあたりの「やった!」感がある場合と、テクニックに感動する場合と……さまざまな興奮が詰まっている。二枚組だし、知らんひとが多いし、どうかなあ、とためらっているひとはぜひ聴いてみてください。
「KALFA IN FLIGHT」(NOT TWO RECORDS MW860−2)
THE RESONANCE ENSEMBLE
またまたリゾナンスアンサンブルで、2009年のライヴだが、ライナーは例の如くめちゃめちゃ長文のヴァンダーマークによる説明。テリトリーバンドのことがかなりのスペースを割いて書かれている。たしかに編成としては似てるわなあ。個々にみるとすばらしいミュージシャンばかりでそれぞれのソロはめちゃいいし、曲もアレンジも悪くないが、ヴァンダーマークの中編成ものはどれもだいたい似たような感じになってしまい、このアルバムも例外ではない。凄腕のミュージシャンを揃えており、クオリティはものすごく高いし、非常に前向きで、聴き所も満載だ。しかし、核になるようなひとがいないため、たとえばフレッド・アンダーソンをゲストに入れたテリトリー・バンドや、ジョー・マクフィーを入れたトポロジーノネットが、そのひとの貫禄が滲み出て、緊張感ある作品になったような「核」があったほうがいいのかな、でも、それは普段着とはちがってスペシャルなものだから……などと考えてしまう。でも、この演奏をライヴで聴いたとしたら、興奮のるつぼになることはまちがいない。ツインドラムもよく効いているのはいつもどおりだし、飽きる箇所、ダレる箇所はひとつもない(集中して聴いていれば、ですよ。まあ、ひとつもないというのは言い過ぎか。集団即興の部分などはそういうときあるな)。長尺の曲が3曲入っていて、1曲目は写真家の高梨豊に捧げられている。なにしろ7管編成だからアンサンブルも迫力がある。展開は細かに書かないが、ミディアムテンポのスウェルのトロンボーンソロでいきなり開幕。リフも入ってだんだん盛り上がっていく。つぎにでてくるバスクラは超快調ですばらしいが、だれだかわからん。ジンペル(ツィンペル?)かトルザスカかどっちか。トルザスカはアルトの確率が高そうだから、ジンペルかなあ? とにかくすごいソロです。最後はアクティス・ダートのバスクラみたいにダーティートーンでブロウしまくる。これも例によって、起伏のある一種の組曲的構成になっており、20分もあるから、いろいろな場面があり、そのあとはリズムが消えて、妙な演劇的(?)なシーンになる。ときどき、「バッ」という一音だけのリフがときどき挿入されてフリーな演奏を引き締める。がらんがらんと鳴るシンバルがフィーチュアされる。そこからバスクラ2本とクラリネット1本だけになるところはかなり興奮度高し。ひとりはサーキュラーでずっと切れ目なくパターンを吹いているという高度な演奏。そこにチューバとチェロが加わり、まだ演劇的(どうして演劇的と思うのかわからないが、お芝居の1場面みたいな空気感なのです)な感じは持続している。そして、チューバとチェロだけが残ってデュオになる。このふたりの表現力はハンパないので楽しい。噛みあわないのにどこかで通じ合ってる……そんな演奏。そのあとゆったりとしたクラシカルなテーマが現れ、尾を引くような感じでテナー(たぶんヴァンダーマーク)だけが残り、無伴奏ソロ。これはなかなか聞きもののすごい熱の入った演奏。これってレンピスじゃないよね。もうわからなくなってくるわ。ドラムが入ってデュオになり、全員が入ってテナーはフリーキーになっていく。そこにマグナス・ブルーのトランペットが入って、テナーとトランペットが同時にソロをし、ほかのメンバーもラフなアンサンブルを吹いているような展開になり、バシッ斬るように終わる。2曲目はこれも20分近くあって、ドン・エリスに捧げられているのでやはり変拍子。パターンに乗って冒頭はヴァンダーマークの豪快なテナーソロ(これはまちがいないと思います)。そしてスウェルのこれも豪快で圧倒的なトロンボーンソロ。マグナス・ブルーがくわわって、金管ふたりのデュオになり、収束。そのあと管楽器が短い「とととと」「たたたた」みたいなスタッカートのタンギングのフレーズを飛び交わす場面になり、ベースの低音だけが残り、そこからベースの無伴奏ソロ。そしてドラムソロからドラムデュオになる。このあたりの展開はさすがヴァンダーマーク。そしてそれに管楽器がおずおずと加わっていき、だんだんやかましいコレクティヴインプロヴィゼイションになって、全員が「ぎゃーっ」といったところでバシッと斬るように終わる。3曲目はわけのわからない変態的なテーマの曲。チューバの蠢くような低音に乗って、(たぶん)レンピスの力業の渾身のテナーブロウが延々とフィーチュアされるパワーミュージック的な展開ではじまる(レンピスだと思うんですが……)。かなり長いあいだ混沌としたあとで(ここ、ちょっとダレるかも)出てくるホームランダーの無伴奏のチューバソロもすばらしい。まるでジャグバンドみたいだし、また、民族楽器みたいでもある。いつもながらのすごい表現力だ。マグナス・ブルーはフィーチュアされたソロのときはあいかわらずだ。コレクティヴインプロヴィゼイションの場面だと、いい味を出すのになあ。ヴァンダーマークのテナーソロは余裕の吹きっぷりでバンドを引っ張り回す。そこにまたブルーが加わり、変態リフが現れてふたりを煽る。そして、どんどん盛り上がったところで、バシッと斬るように終わる。そういう趣向らしい。
「PROVOKE」(CLEAN FEED CF273CD)
MADE TO BREAK
ヴァンダーマークの新バンド(なんぼほどあるねん)。メンバーはおなじみのティム・デイジーと、エレベのデヴィン・ホフ、なにをやってるかわからないクリストフ・クルツマン(ノイズとかエレクトロニクス的なもの?)の4人で、演奏自体はヴァンダーマークのいつものやつ、という感じだが、細かい部分がいろいろとツボに入って、非常に気に入った。ライナーは例によってヴァンダーマークによるかなり膨大なもので、自分のグループ遍歴的なものを延々と書き連ねてある。それを言わんとこのバンドの説明ができんか? と言いたいが我慢して読むと、なるほどといろいろわかってくるので、購入した皆さんもちょっとめんどくさいけど読んだほうがいいですよ。1曲目はジョン・ケージに捧げた曲で23分もある。これも例によっていろんな場面が芝居のように連なって展開していくが、オーソドックスなドラムとテナーのデュオによって幕を開け(ひじょうに快調)、そこからテーマになり、テナー〜エレベ〜のドラムのピアノレストリオ+ノイズ(?)による7拍子でのストレートアヘッドなジャズロック(?)が開幕。ここも非常にシンプルで力強い表現。そのあと、リズムが一旦崩れ、か細いクラリネット主体よるなんかフォークソングみたいな場面が延々と続く。そのうちにドラムがソロをはじめ、ベースが変なパターンを弾きはじめ、テナーがふたたびジャズロック風に入ってくるという……あいかわらず正体のよくわからん曲を書くひとだよ。2曲目はさまざまなノイズの饗宴ではじまり、それが一種の不気味なオーケストレイションを作りだしていく過程が提示される。まるで、ホラー映画における廃墟や終末期の世界を描いているような鬱々とした狂気が感じられる。そこにクラリネットがこれも狂ったような断片的なフレーズをまき散らす。しかし、それがマイナー風の4ビートジャズへと変化していき、スウィングするブラッシュに乗って、オールドジャズのようなスタイルの演奏が展開する。なにを考えているのだ、ヴァンダーマーク。そして、15拍子(?)のエレベのペンペンするリフに乗って、ヴァンダーマークはテナーに持ち替えてブロウする。なんだか1曲目とおなじような展開だが、ひごく座りがよくて、聞きおえたあとになんとなくカタルシスがある。3曲目も、静かなイントロダクションではじまり、そのムードが持続したまま、テンション高く、しかも静謐な演奏がずっと続く。そして、6拍子のパターンに乗って、ヴァンダーマークが吹きまくる。ノイズとかサンプリングの音などが見事に効果的に使われており、ヴァンダーマークとのインタープレイもずばずば決まっている。このクリストフ・クルトマンというひとの参加がこのグループ最大の特徴であり個性なのだろう。5拍子のパターンがはじまり、ヴァンダーマークはテナーでずっと軋むようなノイジーな演奏をする。そこから後半戦で、4人によるフリーファンク的なゴツい演奏は、理屈や分析を吹っ飛ばすような直情的な魅力に満ちている。ラストに向かって、ノイズの嵐も激しさを増して、坂道を転げ落ちるように4人が一丸となって突進していく。いろいろ、ちょっとした細かい箇所で「おっ」とおもうようなかっこいいセンスを感じる。いやー、ヴァンダーマークからは目を離せません。3曲とも似たようなパターンといえばそうなのだが、そのやりかたがはまっているからかまわんでしょう。
「GRAY SCALE」(SMALLTOWN SUPERJAZZ STSJ193CD)
FREE FALL
ヴァンダーマークが、ジミー・ジュフリー・トリオのひそみにならい、クラリネットだけを使って、ベース、ピアノとのトリオで演奏する「フリー・フォール」の(たぶん)4枚目のアルバム(ほかの3枚は「ポイント・イン・ア・ライン」「アムステルダム・ファンク」「ファーネイス」)。全9曲だが、どれもそれほど長くない演奏だが、いわゆる「室内楽フリージャズ」というのとはちがって、サックスを使わなくても、ドラムがいなくても、これだけの燃焼度のある激しくダイナミックな演奏ができるのだということをヴァンダーマークは見事に証明した、といえる。それは、このメンバー(ピアノのハヴァード・ウィーク、ベースにフラーテン。どちらも凄まじいテクニックと狂気を同居させたすばらしいミュージシャン)という人選による部分が大きいと思うが、それにしても、この躍動感、切迫感、パッション、知的なおもしろさ等々はジュフリーというよりドルフィに通じるものがあると思う。しかも、この編成によって、より自由度が増し、3人の飛翔感はただごとではない。もし、ヴァンダーマークのファンで、フリー・フォールはサックス吹いてないから、あんまり迫力ないんじゃないの? と思っているひとがいたら、もったいなーい。少なくともこの4枚目に関してはそんなことはないので、ぜひ聴いてみてください。
「MARK IN THE WATER」(NOT TWO RECORDS MW879−2)
KEN VANDERMARK
ヴァンダーマークのソロ。「ファーニチュア・ミュージック」に続くもの。本作はヴァンダーマークファンにはおなじみの「アルケミア」におけるコンサートのライヴ録音で、当日はソロで、偉大なリード楽器の先達のポートレイトを描くという試みが9曲、フリーインプロヴィゼイションが8曲演奏された。そのうちからポートレイト3曲と、オープンなフリーインプロヴィゼイション7曲を選んだのがこのアルバムだ。本人にとっては、リード楽器の先達のポートレイトを描くというのがコンサートの主旨だったようだが、リリースに足るとヴァンダーマークが判断したソースは9曲中3曲しかなく、逆に、そういう試みがフリーインプロヴィゼイションによい影響を与えて、そちらは非常にいい出来映えだった……ということらしい。でも、まあそういう裏話はともかくとして、このアルバムはめちゃめちゃよくできていて、サックスとクラリネットの無伴奏ソロなのだが、どの曲もすばらしい。自由奔放なもの、厳格な構築美を感じるもの、叙情的なもの、思わず興奮する過激なもの……どれも「芸術」的なものを感じる。ここでの「芸術」は否定的なものとして言っているのではなく文字通りの意味である。ヴァンダーマークがひとつうえのステージに上がったとさえ思えるほどの、ほんとうに凄い演奏だ。1曲目はブロッツマンに捧げられ、2〜3はそれぞれ、コールマン・ホーキンス、エヴァン・パーカー、アンソニー・ブラクストンのポートレイトを描いた演奏、そして、4〜10はまたそれぞれ、ジミー・ジュフリー、フレッド・マクダウェル、ジョン・カーター、エリック・ドルフィー、スティーヴ・レイシー、ジョー・マクフィーに捧げた演奏となっているが、そういう気持ちで聴くと、たしかにそれぞれの先達たちの演奏が思い浮かぶような即興になっている。しかも、なんとなく似た演奏をしている……というレベルではなく、あくまでヴァンダーマークの世界観と個性のなかでの演奏で、聴いているとなんとなくそれらのミュージシャンの顔や演奏が浮かび上がってくるというハイレベルなトリビュートである。だが、トリビュートとかポートレイトとかを一度取り払ってしまっても、めちゃめちゃおもしろく、めちゃめちゃ興奮するサックスソロアルバムになっていて、これはたとえばブラクストンの「フォー・アルト」などとともにジャズ史に残る傑作級では? 個々の演奏については詳述しないが、とにかくただちに無心に聴いてくれればすべてわかると断言できます。
「SCHL8HOF」(TROST RECORDS TR125)
DKV + GUSTAFSSON/NILSSEN−LOVE/PUPILLO
DKVトリオにマッツ・グスタフソン、ポール・ニルセンラヴ、マッシモ・ピュピロが参加したセクステットによる演奏。つまり、ピアノレスのダブルトリオのような編成。1曲目はDKVトリオのみの演奏で、これはオーソドックスでアコースティックなフリージャズが演奏され、たいへん安定感抜群で楽しいが、いつものあれ、という感じ。2曲目、3曲目がセクステットによる演奏だが、冒頭から全力疾走のえげつない爆音プレイが炸裂する。ピュピュロのエレベのノイズとケスラーの太いウッドベース、そして世界ツートップのツインドラムの叩きまくるリズムに乗って、マッツのバリサクがひたすら狂い、わめき、叫ぶ。そのバックでヴァンダーマークはずっと即興リフを吹いてマッツを煽りまくる。それだけのシンプルな演奏だが、しだいに狂乱の様相を呈していき、ヴァンダーマークはリフを吹いているだけなのに,まるで主役のようにそれがパワーを伴った咆哮のように聞こえてくる。全員がひたすらゴールを目指し、唐突に終わる。3曲目はもっとも長尺な30分を超える演奏。マッツは最初はテナーを吹いている。これもほぼ2曲目と同じような展開で、ヴァンダーマークの「リフ」の異常なまでの破壊力はかなり昔のDKVトリオのライヴのとき以来ずっと感じているが、ひとのバックで同じことを延々と全力で吹き続けることでこんなに凄まじい演奏を行うひとを知らない。ひとつの才能でもあり、フリージャズの展開のひとつのありかたともいえる。もちろんそれだけでなく、さまざまな展開が待ち受けており、DKVトリオにゲスト、という形ではなく、6人がまったく対等な形での即興であることは明らかだ。そしてこの6人の顔合わせは大成功で、ユニットとしてべつの名前をつけたほうがいいのでは、と思わせるほどひとつのバンドとして機能している。つまり、DKVにゲストが入ったという音楽性ではなく、この6人でしかできない音楽になっているのだ。興奮につぐ興奮。パワーミュージックではあるが、圧倒的音量とパワーのなかにさまざまな感情レベル・則物レベルの交感があるし、全員が一丸となった恐ろしいドライヴ感はとてつもなく、ダンスミュージックとしての側面もあると思う。もちろんバラード的な部分もあり、それらが即興的にひとつながりの大きな流れのなかに現れては消えるあたりの感動はなんとも表現しがたい。傑作! なお、タイトルはウェールズにあるホール(?)の名前らしく、フリー系のミュージシャンも含む大勢がここで演奏を行っているようだ。
「SOUND IN MOTION IN SOUND」(NOT TWO MW921−2)
DKV TRIO
いやー、すばらしいですね。聴き終えてへろへろになったが、この心地よい疲労感はいつものことながらヴァンダーマークという男の全力疾走につきあうと毎度味わうことになる疲労なのだ。演奏する側もそうだが、聴くにも相当体力がいる。でも、とにかく5枚、ずーーーーーーっと面白いんだよな。それにしても……DKVトリオの演奏だけで、ゲストも入らない。それだけで5枚組ライヴって、ヴァンダーマークは頭がおかしいのか! いや、きっとおかしいんだろうな。我々はその頭のおかしい男にずっとつきあっていかねばならないのだ。そう、我々も頭がおかしいのです。オーストリア、ポーランド、スロヴェニア、アメリカ(シカゴ)、アメリカ(ミルウォーキー)の5カ所での演奏がそれぞれ1枚ずつで、順に「金」「土」「木」「火」「水」と名付けられているのは陰陽五行説か「五輪の書」の影響か「フィフス・エレメント」を観たのかそれはわからないが、とにかくひたすら3人での演奏がぎっしり詰まっている(少しは意味があるのかと思って聴いてみたが、たぶんゼロ。たまたま5枚組だからでしょう。もし7枚だったら七福神の名前をつけるとか、そういうノリ)。そして、今のこのグループは結成当時とはちがって、全編即興である。それも、最近の「PAST PRESENT」という7枚組(!)を聴いてすでにわかっていたことである。しかし、このバンドにとっては、即興とかコンポジションとかはほとんど意味がない。ヴァンダーマークは、フリーインプロヴァイズド的なぐちゃぐちゃの演奏や企画ものをのぞくと、(最近特に)たいがいマイナー系のモードで吹くことが多いし、ビバップ的なコードチェンジのあるソロやメジャー系の演奏は、なぜかあんまりやらないが、たぶん「全部を即興で」というポリシーだとそのほうが都合がいいのだろう。そして、彼の特徴である、リフを即興的に作って、そのリフを死ぬほど繰りかえしてのめりこんで狂っていく……というヴァンダーマークの方法論(ニルセンラヴとのデュオでの来日時も毎回披露していた)がここでも顕著である(私はこのバンドのごく初期の「トリゴノメトリー」のレビューでもそのことを書いているが、つまりヴァンダーマークのそういったやり方はずっと変わらんということなのだ)。音はめちゃくちゃでかいし、バリトン、テナー、クラリネットという3種類をとっかえひっかえしながら、ときにグロウルや、循環呼吸を織り交ぜて、とにかく突っ走る。そのヴァンダーマークにほかのふたりは見事にブレンドする。とくにハミッド・ドレイクはもう心得すぎるぐらい心得ているので、ヴァンダーマークが吠えまくっても単純に盛り上げたりせず、非常に繊細なドラミングで応えていてすばらしい。このトリオがほかのヴァンダーマークのグループとちがうのはなんといってもドラムで、リズムの反応の多彩さもさることながら、どうしてもブラックミュージック的な、腰にバネのある、粘っこいドラミングが、バンドをいきいきと活性化して、音楽もこう、なんというかスウィングしたものになっているように思う。そして、このバンドは(まあ、ヴァンダーマークはたいていそうだが)フリージャズというより、フリージャズとモードジャズの中間あたりの、力強いパワーミージックを狙っていると思われるので、あまりフリーだなんだと言うことなく楽しく聴ける。なにしろ5枚組なので、こまかいレビューはやめておくが、1枚目「金」は、さっきも書いた即興リフでのめりこんでいくタイプの演奏がたっぷりで、聴いていて、こちらもそれに合わせて首を振ってしまうようなシリアスかつ楽しい演奏が多い(フリーな曲もある)。バリトンではことに顕著で、露骨なヴァンプだけでぐいぐいと力技で客を乗せてしまう。クラリネットでののんしゃらんかつ熱い演奏もある。2枚目はとくにベースが自由自在に泳ぎ回り、それに乗ってヴァンダーマークがのびのびとブロウし、ドラムがちょっとびっくりするようなセンスをぶちかまし……といった3者のからみがすばらしく、マイルスのプラグドニッケルを連想させるような自由な空間のなかでのとてつもないグルーヴがあって、この5枚の中ではいちばん好きかも。もちろん例のリフで狂っていく演奏もたっぷり。こんなことだけでめちゃくちゃ凄まじい音楽を作ってしまうのだから、こいつらはすごいよなあ。クラリネットでの演奏部分は「フリー・フォール」的な味わいもある(すごい集中力)。ケスラーとドレイクのソロも(ケスラーのソロは毎度毎度笑ってしまうぐらい自由奔放で、なにを考えてるのかわからんぐらい素敵。日本でいえば船戸さんか?)。3枚目は、三者一体になって突き進むような演奏が聴ける。こういうジャズの場合、サックスがソロ、ほかがバッキングという役割がひっくり返る場合もあるし、同調だけでなく裏切りもあれば異なったものをぶつけあって実験したり、それが成功したり失敗したり……とさまざまな要素が詰まっているわけだが、そのなかのひとつに「全員一丸」というのもをあって、これはやろうと思えば優れたミュージシャンなら当然できることだ。しかし、今上げたようないろいろな要素を踏まえての、雪崩れ込むような「全員一丸」はなかなかない。ビートを強調するような演奏を臆面もなく(?)ドカーンとぶちかますことができるこの3人ならでは、という部分もある。ハミッド・ドレイクのじつに「普通に凄い」ドラムソロがフィーチュアされたり、ヴァンダーマークの勢い一発の凄まじいテナーの無伴奏ソロがあったりして興奮しまくる。クラリネットのブロウもいつになく燃え上がる。最後に短い「ザ・シング」(ドン・チェリーの曲だけどクレジットはない)の演奏あり。4枚目は、本拠地シカゴに戻ってきての演奏。といってもなにか変りがあるというわけではない。いつもどおり、躍動的なドラムがとにかくすばらしくて、聞き惚れる。こういう部分はやはりフリージャズというより、トランジションやサンシップあたりのコルトレーン的な醍醐味だな。精神的には自由なのだろうが、音楽的にはひたすらまっしぐらにワンモードで突撃していく。つぎつぎと新しいリフを即興的に生み出していき、それをバシッと全員で合わせるというやり方は、一瞬のためらいも許されない。その点、このひとたちは疾走感もなにも削ぐことなく、楽々と(そう聞こえる)やってしまう。ああ、爽快! クラリネットでのめちゃくちゃ吹き(高音でノイズみたいに揺らせる技)は、何度聴いても心を揺さぶられる。ケスラーのアルコソロも不気味でいいなあ。バリトンによるかなり長尺のえぐいマイナーロッキンな演奏も聴きごたえ十分。これは三人とも体力いりそう。でも、ここまで徹底的にやらないとダメなのだ。最後の5枚目は、では全部の集大成的な演奏になっているのかというと、もちろんそんなことはなく、いつもどおり全力投球で、そきときに思いついたとおりに演奏しているだけだ。1曲目などは珍しく、メジャーな雰囲気の8ビートの演奏になっている。2曲目はクラリネットの高音部と低音部がべつの人格のように交互にソロをするというような(あくまで私の感想です)趣向の演奏で、そこにアルコベースの律動が加わる。ヴァンダーマークがちらっとリフを吹くと、すぐにそれに応えて、もっとも適したリズムをつけるドレイクとケスラーの阿吽の呼吸はすごいとしか言いようがない。5枚目は全体的にバリトン使用率高いかも。バリトンを用いた、バラード風の演奏(5曲目)もある(結局は、バラードではなくなるのだが)。最初から最後までバラードで通すという選択肢はこのトリオにはあまりないような気もする。まあ、このバンドの場合、「曲」という概念も希薄で、CD上は曲を切ってあっても、実際はずーっと続けて演奏されていることも多い(一旦、終わることもある)ので、バラードっぽい部分だけがバラードという認識なのだろうな。ドレイクのドラムソロもええ感じです。そして、ヴァンダーマークによるリフ、リフ、リフ! こういう体力勝負の気合いと根性でどこまで高みを目指せるか、だが、DKVトリオならまだまだ上に行けるはずだ。最後の最後がバラード風というのも哀愁ですなー。というわけで……あー、疲れた。ほんと疲れた。とにかく5枚にわたって、ひとつとして同じ感じの、こないだポーランドでああいう風にやったから、今日もあれ、やっちゃいましょうか的な演奏がないことに驚く。クリエイティヴィティといえばそれまでだが、「同じことはしない」というはっきりとした意志を感じる。ああ、このバンドで来日してくれんかなあ。
「IN THE ABSTRACT」(NOT TWO RECORDS MW917−2)
SIDE A
ヴァンダーマークの新トリオの「ア・ニュー・マージン」に続く第二作。ドラムにチャド・テイラー、ピアノがアトミックのホーヴァール・ヴィーク。私の聴いたかぎりでは、すごく伝統的なフリージャズ的である。ピアノがかなり前面に出ており、ドラムは基本的にはジャズ的なスウィングするドラミング。ヴァンダーマークはいつものとおりだが、クラリネットの頻度やや高めか? ものすごく安心して聴ける、ハイレベルの演奏で、作曲もプレイも最高で楽しいのだが、その分、破綻はほぼゼロでそのあたりをどう感じるかによって受け取り方もちがってくるだろうが、私はひたすら気に入りました。安定感というのはよくないことなのか? そんなことを言い出したらブルーノートだのなんだののハードバップはほんどが安定しまくりでスリルなんかはない(ある、というひともいるだろうが、細かい演奏上のやりとりとしてはそうかもしれないが、数歩下がって眺めてみたら、ほぼないでしょう。でも、おもしろけりゃあいいんです)。またヴァンダーマークがおんなじようなプロジェクトを……どうせあんな感じなんでしょ、という意見もあるかもしれないが、やはりメンバーを変えると、出てくる音はまるで変わり、それぞれの個性が発揮された全体のサウンドになる(そういうひとを人選している)わけで、やはりすごくかっこいいし、面白いのだ。タイトルは「アブストラクト」だが実際の演奏はどちらかというと具象画というか、テーマもアイデアもはっきりした、ビート感もドライヴ感も歌心もある、きわめてリアルなものだった。ベースがいない、というのも、あえてベースを排して浮遊感を……とかいう感じでもなく、この3人で言いたいことが言い尽くせてしまうので、べつにいらんやん、ベースを入れるかどうかなんて考えもしなかった……ということではないのか。それにしても、変拍子ありバラードあり8ビートありテーマだけ合わせてあとはどしゃめしゃの山下トリオ的フリーありブラッシュでスウィングする曲ありドラムとバリトンの哀愁のデュオあり……のコンポジション・構成もすばらしいし、盛り上がるし、曲ごとのバラエティもありで、言うことないなあ。ヴァンダーマークの最近のやつでなにか一枚と言われたらこれを挙げるという手もあるぐらいの傑作だと思います。
「NINE WAYS TO READ A BRIDGE」(NOT TWO RECORDS MW920−2)
KEN VANDERMARK
6枚組の大作。2012年から2014年にかけての演奏。
1枚目はピアノのアウグスティ・フェルナンデスとのデュオで、いかにインプロヴィゼイション・デュオらしい真っ向勝負の演奏。なんのギミックもない、音と音とのぶつかりあいでこういうのはたいへん気持ちがいい。1曲目のクラリネットといい、2曲目のフルトーンのテナーといい、ガチンコでピアノと対峙してふたりとも全力で吹きまくり、弾きまくる。こういうのが一番「ジャズ」を感じる。ブルーノートとかプレスティッジの有名盤を聞いてもあんまり感じない。たぶん、こういう演奏がもっともジャズの正統な後継者的なものだと思うからだろう。3曲目はプリピアドピアノとバリトンとのデュオで、最初のほうは音がへしゃげたピアノが、途中からはバリトンのパーカッシヴな奏法がなんだか大工さんとデュオをしているようにも聞こえて笑える。後半は一転してまとも(?)なデュオになって大迫力。やはりヴァンダーマークのバリトンはかっこいい。このふたりがすごく相性ばっちりなこともわかる。この曲を聴けばたいがいの嫌なことは吹っ飛ぶと思うぞ。4曲目はいわゆる「インプロ」(という言葉はあまり好きではないが)みたいな感じで展開していくが、しだいに熱くなっていきなかなか凄まじいところにまで到達して終了する。すばらしい。5曲目はこれもしずしずとはじまるがだんだんスピードアップしていき疾走する感じに。ピアノの粒立ちとヴァンダーマークのクラのからみがすごいし、ラストの異常な展開は、ああ、これは即興でないとこうならんよなあと思う。さすがである。かっこいいのである。最後の6曲目はダークな雰囲気のなかで進行する一種のバラード。締めくくりにはぴったり。
2枚目はエレクトロニクスとヴォイスのクリストフ・クルツマンとのデュオ。リゾナンス・アンサンブルでも共演してたひと。1曲目を聴くとエレクトロニクスがまるで管楽器のような生々しさを持っているので、これもヴァンダーマークと非常に融合している。2曲目でヴォイスになるが、予想していたような声の即興ではなく、ちゃんとしたメロディと歌詞のある、ある意味ポップな曲である(歌詞はジョー・マクフィーによるもので「乞食たちへ」というタイトルだそうだ)。そのあとノイジーなエレクトロニクスとテナーが炸裂して、めちゃかっこいいです。3曲目は逆にヴァンダーマークがエレクトロニクスの一員(?)のようなサックスを吹く。なかなかおもろいです。4曲目もクラリネットがエレクトロニクスのように聴こえたり、エレクトロニクスがサックスのようだったりして楽しい。ちりばめられたノイズが餃子のタレのラー油のように刺激を与える。どうやっているのかわからないパーカッシヴな音と低音でぐねぐねとのたくるようなノイズにサックスのこれまたノイジーな音が加わっていくあたりのかっこよさは筆舌に尽くしがたい。たぶんサンプラー的なものでその場で録音して加工し、すぐに鳴らしているのだろう。最後の最後になって突然生音が登場するあたりの展開もおもしろい。最後の5曲目は4曲目からの続きで、実際は切れ目がない演奏。雨だれのようにぽつん、ぽつんと響くエロクトロニクスに管楽器がからむ。これが延々続き、ミニマルミュージックっぽくもある。最後まで行くのかと思ったら5分ほどでべつの展開に。ブレスのようなノイズとタンポによるパーカッシヴな音がなんとも人間臭い。そして、ラストにまたクルツマンのボーカルがフィーチュアされてエンディング。
3枚目はおなじみジョー・マクフィーとのデュオだが、ヴァンダーマークはマクフィーとはしょっちゅう一緒に演奏しているが、ふたりだけ、というのはあっただろうか(よく知らん)。ただただ、ふたりの生身の人間が向き合って音を出している。加工もなにもない?き出しの音。そういう即興が9曲入っている(コンポジションはひとつもないようだ。5曲目とか作曲されているようにも聞こえるが、たぶん即興リフ)。マクフィーはほんと、プリミティヴというか、その場での思いつきで演奏するひとで、即興というのは全部そういうものだろうと言う意見もあるだろうが、実際はいろいろ考えたり、少し先の展開を仕込んだりしながらやっているわけで、その点、マクフィーの自由さはすごいのだ。1曲のなかでも平気で楽器を変えたりするが、それもたぶんパッと思いついてやっているのだろうな。聞いていると仕込みなしのこの自由さが快感というかくせになってしまうのである。ヴァンダーマークもふだんよりも自由に吹いているような気がする。おそらくマクフィーとやることで解放されるのだろう。どの曲がどう、というより、全体でひとつの演奏だと考えればいいのでしょう。めちゃくちゃ楽しいが、ふっと冷静になると、ええ大人がふたり並んでえんえんとなにをやっとんねん的な気持ちにならんでもない。つまりはそんな風な、ふたりのこどもが楽器をもって楽しく遊んでいるのを、こっそり聞かせてもらってる……そういう雰囲気のある演奏である(3曲目とか顕著です)。それぞれのソロもところどころフィーチュアされる。いやー、楽しゅうございマス!
4枚目はジョー・モリスとのデュオ。モリスはギターのみ。ヴァンダーマークとは気心の知れた仲だと思うけど、だからこそ新鮮な演奏をするのはむずかしかろう……とか思って聴いてみると、いやー、さすがにこのふたりはそんなレベルにはいなかった。一体化というか融合がすごすぎて、「生物都市」か「がしんじょ長屋」かというぐらい。モリスはフリー系のギタリストとしては地味かもしれないが、その集中力と反応力は半端なく、ここでの演奏もすべて同じやりかたなのだが、めちゃくちゃ面白い。錐もみ状態に狂っていくヴァンダーマークをピッキングで正確に押し返す(?)ような感じで、そのせめぎ合いの部分に即興の神が降りるのだ。ヴァンダーマークがシンプルに絶叫していこうとするのをプッシュしているようで、じつはぐっと引き締めているというか、そういうストイックなプレイによってドーンと盛り上がるのではなくじわじわとマグマのように沸騰していく。事実、どの曲も異常に盛り上がる。これは、誤解を招く表現かもしれないが「芸」である。「芸能」の技術という意味での「芸」だ。すばらしいとしか言いようがない、全6枚中の白眉と言ってもいい。
と、ここまではデュオで、5枚目、6枚目はトリオである。5枚目は、ヴァンダーマークにポール・リットン、ネイト・ウーリーというオールスター(?)セッション。心得たひとたちによる安定の演奏だが、やはりネイト・ウーリーの存在感が圧倒的である。朗々とした音からノイズ、ブレスの音までを駆使してさまざまな表現を組み合わせ、つづりながら、どんどん訴えかけてくる。ときにジャズ的なものやフリーインプロヴィゼイション的なものも現れては消えていく。ヴァンダーマークも凄まじい。とくに2曲目のオーバートーンを使ったブロウは体力・気力ともに充実していないとできないだろうと思われるパワフルな表現。また、リフをむりやりねじ込んでくるところもいつもの手法である。それにしても2曲目の途中からウーリーがしつこく吹くテーマはアイラーの曲をやっているということなのか、それともたまたま出てきたのか。ポール・リットンのばたばた、がちゃがちゃしたパーカッションも相変わらず面白い。そしてこの3人が全力でぶつかるとこんなにも楽しく、騒々しく、めちゃくちゃで面白い空間ができあがるのかと感嘆した。フリージャズは楽しい!
6枚目は、ジョン・ティルブリーとエディ・プレヴォとのトリオ。ティルブリーは知っているがプレヴォってだれやったっけと調べてみると、相当古くから活躍しているフリージャズ〜即興のひとで、イギリスを中心にさまざまなひとと共演している。AMMのひとでもある。しかし、ヴァンダーマークと接点があったというのは知らなかった。演奏はインプロヴィゼイションのマナーにのっとったもので、破天荒なところやめちゃくちゃなところはないが、3人の技量がすごいので聞かせどころ満載の演奏になっている。バリサク中心のヴァンダーマークのブロウはときにパーカッシヴに、ときにノイジーにと千変万化。重くて暗い曲調がものすごくかっこよく、途中のヴォイスはだれなのかわからないがめちゃはまってる。最後の曲は5分ぐらいで一旦演奏が終わり静寂がおとずれるので、終わったと思ってストップボタンを押すひとがいるかもしれないが、じつはこのあと、かなりの沈黙のあとにふたたび演奏がはじまるのでお間違えないように。
というわけで6枚組ではあるが一枚ごとの収録タイムはけっこう短いし、どれも充実しているので、あー、ヴァンダーマークのいつものの顔ぶれかあなどと思っているあなた、聴いて損はないすばらしいボックスですよ!
「COLLIDER」(NOT TWO RECORDS NW930−2)
THEDKVTHINGTRIO
以前はしょっちゅう一緒にアルバムを作っていたヴァンダーマークとグスタフソンだが、こういうがっつりの共演まるまる一枚というのは久し振りではないか。DKVトリオもザ・シングも、今となってはスタープレイヤーばかりのバンドになってしまっていて、そのふたつが結合するとこれはもうオールスター感謝祭みたいになる。しかし、このリズムセクションは本当にドリームリズムセクションだなあ。ハミッド・ドレイクとニルセンラヴという組み合わせはなにをやってもとにかくめちゃくちゃグルーヴするのが凄い。フリーだろうとなだろうととめどなくグルーヴしていくので、怖くなってくるぐらいだ。ベースのふたりも、狂気のように弦をはじきまくっている光景が頭に浮かんでくる。左がグスタフソンで右がヴァンダーマーク。両者のちがいがはっきりわかる。こうしてみるとヴァンダーマークというのは案外ちゃんとしたやつだなあと思う。コード感のあるソロをするし、即興リフも吹きたがるし、非常にジャズ的である。しかし、マッツはやはりかなり変態である。1曲目はワンコードでリズムもしっかりした土台のうえでサックス怪獣たちが存分に暴れる。2曲目はフリーだが、ヴァンダーマークがクラリネットで狂ったあとマッツのバリトンがなにもかも破壊していく。そこからの再構築。結局はマイナーワンコードになっていくが、ドラムふたりのとてつもなくバウンスし、躍動するリズムには降参。疲れ知らずのように吹きまくるふたりのサックス。ああ……快感! 結局こういうのが一番好きなのだろうが貴様は! と言われているような演奏である。3曲目はやはりフリーなリズムではじまり、ヴァンダーマークがクラリネットの高音をひたすらピーピーいわしたあと、不穏な雰囲気のなかにマッツのテナーが朗々と進軍をはじめる。ヴァンダーマークはバリトンで応える。となると、あれ? ときどきギョエーッと叫んでいるサックス(?)はだれ?と思ったら、どうやらヴァンダーマークが低音リフを吹いたあとすぐさま高音でギャーッと叫びまた間髪をいれずリフに戻っているようだ。ご苦労さまです。この「フリー→マイナーワンコード」という図式はだいたいこのひとたちが即興をするときにはだいたい踏むパターンなのかもしれないですね。タイトルはパクチーのことかと思ったら(それはコリアンダー)、「衝突型加速装置」ということらしい。なるほどー。なお、だれのリーダー作なのかわからないので、便宜上、先に名前の出ているDKVトリオのリーダーであるヴァンダーマークの項に入れた。
「THE FIELD WITHIN A LINE−BLACK CROSS SOLO SESSIONS 1」(CVSD CD080)
KEN VANDERMARK
コロナ禍でアメリカのミュージシャンはいろいろたいへんな目に遭い、試行錯誤を繰り返していたようで、ヴァンダーマークもそのひとりである。本作はコルベット・アンド・デンプシーからのリリースのようだが、コルベット・アンド・デンプシーとはどこにも書いてなくて、「CvsD」という略称のみが使われている。本作は、ヴァンダーマークがシカゴの自分の家で録音したソロアルバムだが、久しぶりのソロということもあり、しかもめちゃくちゃ録音もよくて、何度も聴いたが、すごい傑作なのではないか、と思う。コロナ禍のなか、ソロのみを記録するという「ブラック・クロス・ソロ・セッションズ」という試みは、今のところジョー・マクフィー、オッキュン・リー、モレーノ・ヴェローゾ(このひとは知らなかったがギターとヴォーカルのひとらしい)の4人が出ているようだが(ジャケットの真ん中にある黒い十字架の中央にある「1」という文字は、ヴァンダーマークのソロが2もある、ということではなくて、ブラック・クロス・ソロ・セッションズとしてのナンバリングである)、とりあえずヴァンダーマークのやつを聴いてみたのだが、すばらしかった。バリトン、テナー、クラリネット……といつもの持ち替えだが、どの演奏もそれぞれふたりの人物に捧げられている(これによってヴァンダーマークの関心がどこにあるのか知ることができる)。パワフルだがどこか透明感のある即興で、曲ごとの方向性もはっきりしているので聴きやすいが、「仕込んだ」感はなく、自由で自在でタフで美しい。自身のライナーノートによると、アルバムタイトルはジョン・ケージのドキュメント映画に影響されたらしい。また、画家のウィレム・デ・クーニンと詩人(小説家)のウィリアム・バロウズの影響もあるそうです。シカゴとアメリカのたいへんな状況(日本もまた同様であるが)についても書かれており、そういうことを踏まえたうえでのソロ即興はたいへん重いものだが、聴いてみるととてもストレートでメロディのある曲が多く、聴いているとすがすがしくさえある。やっぱりジャズのひとなのだなあ、と思う構成力(自由に吹いているようで、リフとかモチーフとかの提示で強引にまとめていく力技もあり)も良い方向に働いている。1曲目は例のちょっと柔らかい独特の音色のバリトンからはじまり(メロディを吹くだけの短い演奏)、どうしてもドルフィーを連想してしまう跳躍の激しいテナーソロの2曲目(スラップタンギングと普通のフレーズを交差させるスゴ技やマルチフォニックスも多用)、バスクラリネット(?)によるスラップタンギングの嵐(すごい!)の3曲目(マルチフォニックスや循環呼吸もあり)、速いビートのクラリネットによるスピード感あふれる展開の4曲目……などなどを聴いているとどんどんのめり込まされるというか、このアルバムの内部に引きずり込まれていく感じで、この圧倒的な「よそ見をするな! この音を聴け!」という確信に満ちた演奏の説得力は凄いです(6曲目のバリトンソロなどは、武芸者の斬り合いのような迫力がある)。7曲目のクラリネットのノイズ的なブロウなどもけたたましい金切り声のなかからメロディが聞こえてきて最高だが、そのあとのさまざまなテクニックを駆使した展開もしみじみかっこいい。10曲目の長いラインをリズムを崩さずに吹き切る感じとかも圧倒的である。ラプソディックでめちゃくちゃ短い11曲目を経て、ラストの12曲めはバリトンによる真っ向勝負の即興でした。シンプルに「かっこいい」と言わせていただきたい演奏ばかり。とにかくいつもわれらがヴァンダーマークは言行一致なのだ。傑作!