vienna art orchestra

「BLUES FOR BRAHMS」(AMADEO839 105−2)
VIENNA ART ORCHESTRA

 1988年の傑作二枚組ライヴ。買ってからずっと惚れ込んでいる。一曲として、似たような演奏がなく、あれよあれよというまに二枚組を聴きとおしてしまう。ローレン・ニュートンがいたりするからかもしれないが、ウィーン・アート・オーケストラが好きだ、いうと、でもあれフリーでしょう? と言われたりするが、この二枚組を聴けばわかるように、ものすごくしっかりした譜面があって、ソロもいわゆるモードジャズ的なものがほとんどだ。ソロの昂揚が過ぎて、フリーに突入する……みたいな形での展開はあるが、最初っからフリーインプロヴィゼイション……みたいな曲はない。ジャズの伝統をこれでもかというぐらいに踏まえたビッグバンドであり、ソロイストは皆傑出していて、超かっこいい。とくにハネス・コテックとハンス・ソカルはめちゃめちゃ凄い。1曲目を聴いて興奮しないビッグバンドジャズファンがいるだろうか。サックスソロの見事さ、トランペットソロの破壊力、もう絶品です。ギル・エヴァンス・オーケストラのほうがはるかにフリーである。ウィーン・アート・オーケストラはああいうぐだぐだ感がほぼ皆無である。また、イタリアン・インスタビレ・オーケストラのほうがソロにおけるフリージャズっぽさはずっと上だ。ここに集うメンバーは、どんな音楽でも譜面でもアドリブでもばっちりこなせるのに、表現手段のひとつとしてジャズとかロックとかフリーインプロヴィゼイションとかを選択しているだけだと思う。私はいつも、モダン「ジャズ」ビッグバンドの最高峰のひとつだと思っていて、その技術力や音楽性は群を抜いている。クラーク〜ボランにも通じる、シャープで細かいニュアンスまでびしびし決まる凄みがある。2曲目の長いピアノソロもすばらしいし、チューバソロはハーモナイザーかなにかで高音とだぶらせている。3曲目はローレンス・ニュートン登場でヴォイスインプロヴィゼイションが炸裂する。ヨーロッパらしいユーモア感覚の演奏。4曲目はクラシック的なオープニングからフリューゲルホルンが艶やかに歌うが、それがいきなりドブルースに突入するというブラームス→ブルースという駄洒落?的な仕掛けの曲。しかし、フリューゲルのあまりのうまさに笑えない。5曲目はこれまたすばらしいアルトとローレン・ニュートンのヴォイスのデュオ。こういうのを聴いて「ウィーン・アート・オーケストラってフリーでしょう?」と言ってるのかな。しかし、これもけっしてフリーというわけではなく、すごく真っ当な、ジャズをベースにしたきわめてクールでテクニカルで熱い即興だ。超かっこいい。2枚目にいって、1曲目はそのタイトルも「ファット・ワズ・ディス・シング・コールド・フリージャズ?」つまり「フリージャズっていわれてるものってなんだったの?」……痛烈ですね。ドラムとトランペットの凄まじいデュオで幕を開け、この時点で興奮しまくり。昔、このひとの演奏の8oを副島さんのメールス映像の上映会を主催したときに見て「すげーっ」と思った記憶あり。テナーのロマン・シュウォラーのソロはコルトレーンマナーの正統なもの。チューバに支えられて吹きまくるトロンボーンとそれにからみつくシンセはこの曲の白眉。2曲目は「J.Aにインスパイアされた」というタイトルだが、J.Aってだれ? トロンボーンかと聞きまがうようなめちゃうまいチューバがメロディーを吹き、テナーとソプラノがそれぞれ個性を示す。3曲目はまたしてもフリューゲルホルンが、絶妙な音色での歌い上げをみせる感動的な演奏。緊張感が最後まで途切れず、なんともいえぬ空気のなかで余韻が響く。4曲目はアルトサックスをフィーチュアした演奏。このアルトのひと(コ・ストライフ)がめちゃめちゃうまいんです。もう惚れ惚れする。涙腺を刺激するような音色である。ローレンス・ニュートンがなぜか数を数えはじめるという異常な展開のなか、アルトはひたすら吹きまくる。この曲、めっさかっこいいです。5曲目はなんとスタンダード中のスタンダード「ボディ・アンド・ソウル」。プランジャーでトランペットがオールドスタイルを模してブロウしまくり、ローレンス・ニュートンがヴォイスでこの曲を解体し、再構築して、この曲の新しい魅力を引き出す。最後の曲は、ふたりのテナーのデュエットで始まるのだが、これがもうかっこいいんです。デクスター・ゴードンとワーデル・グレイを聴いているみたいな気分。うますぎるってあんたら。ほかのメンバーが入ってきて、各管楽器セクションごとのバトル(?)みたいになって、あー、これはウケるやろなあ。たぶんコンサートでもラストの盛り上がりのための曲か、アンコールナンバーなのであろう。やはり、ビッグバンドはテナーはふたり必要だね。いやー、ほんとうにすばらしいアルバムであります。最初に書いたようにフリージャズではないのだが、フリージャズ的狂気をきちんとした譜面と最高のソロで伝えているバンドである。ベイシーファンもエリントンファンもサドメルファンもグレンミラーファンも必聴と言っておこう。