「CHERRY RED BLUES」(KING/VIVID SOUND CORPORATION VS−1033)
EDDIE’CLEANHEAD’VINSON
ひょろろろほっ、としゃくりあげるような独自の歌唱法で有名なクリーンヘッド・ヴィンソンの、最盛期の演奏が詰まった一枚。ピー・ウィー・クレイトンと来日したときに観にいったが、アルトはたいしたことはない(なぜか「ストレート・ノー・チェイサー」とか演っていたし、マイルスの「フォア」はこのひとの作曲らしいので、サックスに関してはバップのひとということか。どうもよくわからん)。やはり、肝はこのヨーデルまがいの「しゃくりあげ唱法」でブルースを歌う、というところにある。チック・ウェブのところにいたルイ・ジョーダンといい、クーティー・ウィリアムスのところにいたクリーンヘッドといい、ベイシーのところにいたアール・ウォーレンといい、スウィング系のビッグバンドにいたアルト吹きはみんな歌がうまいのはどういうことか。「チェリー・レッド」「アシュズ・オン・マイ・ピロウ」「キドニー・シチュー」……といったヒット曲も網羅されているし、メンバー的にも豪華(ウィントン・ケリーとかミルト・バックナーとかバディ・テイトとか……)なので、演奏自体も非常に充実しているが、やはりなんといってもこのつるっぱげのおっさんのひっくりかえりシャウトが聞き物である。存在感と個性にあふれたブラックエンタティナーの偉人である。
「WEE BABY BLUES」(BLACK & BLUE/SOLID CDSOL−46016)
EDDIE VINSON
今回、ブラック・アンド・ブルーが30枚(!)日本盤として発売されたわけだが、そのなかでいちばん欲しかったのがこのエディ・クリーンヘッド・ヴィンソンのやつ。これまで名前は聞いていたが見たことなかった。共演がハル・シンガーとジェイ・マクシャンとTボーン・ウォーカー(!)という、フランス人はわかっとるんかいな的な組み合わせであるが、とにかく聴いてみたかったのである。しかし、ほかのアルバムは売っているのに、なぜか本作だけどこにも見当たらず、もしかしたらこれだけ発売中止になったのでは……(よくある。マスターテープが届かなかったとか)と思っていたら、何軒も大きなレコード屋をまわった果てにやっと入手。さっそく聴いてみると……うわっ、めちゃめちゃええやん。というか、クリーンヘッドの最高傑作といってもいいぐらいのクオリティでは? 例のしゃくりあげる唱法は(なぜか)ほとんど使わず、太くよく響きまくる声で「キドニー・シチュー」をはじめとするブルースをシャウトしまくる。いやー、すばらしい。しかも、(私が聴いたかぎりでは)いつもはボーカルの添え物的なアルトサックスも、本作ではかなりいい感じである(7曲目のスローブルースとか最高ですね)。Tボーンも、もともとジャズっぽいこともやるひとなので、すっかり溶け込んで、見事な演奏をしているし(元気がないように感じるのは体調の問題か、それともジャズ畑のミュージシャンへの配慮か。でも、ときどきハッとするような迫力あるプレイをぶちこんでくる)、ジェイ・マクシャンもあの濃厚なカンサスシティ臭こそないものの、シャッフルにブギーにスローブルースに大活躍している(5曲目の「昔はよかったね」とか)。そして、本作の陰の功労者というべきハル・シンガーはあまり目立たないものの、めちゃくちゃナイスな演奏で本作をしっかり支えている(3曲目の強烈なブロウを聴け! 6曲目、9曲目のスローブルースも見事すぎる)。これは、ブラック・アンド・ブルーのプロデューサーの慧眼か、それともなんとなくフランスにいたジャズ〜ブルース系のひとを集めるとたまたまうまくいったのかはわからないが、めちゃくちゃいい感じに仕上がったことはまちがいない。曲も、だいたいクリーンヘッドの曲は、暗くて深みのあるようなものは少なく、力強く、ジャンプする、一本調子(というと悪い意味になるか。そうではなくて常にピーンとしたテンションが張っている感じ)の心地よいシャウトで、歌詞も1曲目の大ヒット曲「キドニーシチュー」なんて、単に「おまえはめっちゃ金かかる女やから、古いなじみのスーのところへ帰ろう。あの子はキャビアとかじゃなくて、肝臓のシチューなんだぜ」みたいなアホみたいな歌詞だし、7曲目のスローブルースにいたっては、ウイスキーをジュースみたいにがぶがぶ飲む女の話で、深みのかけらもないのだが、そこがいいんです! エリントンの「昔はよかったね」も、歌詞だけ聴くとほんとにアホみたいな歌詞で笑ってしまう。そこにハル・シンガーのサブトーンでのめちゃかっこいいオブリガードがつくと、「傑作」になってしまうのである。ジャケットのひどさにだまされてはいけません。中身は最高でっせ。傑作! でも、帯にある「アーネット・コブ〜イリノイ・ジャケーの流れを汲むアルト・ホンカー」というのはちょっと解せん。この書き方だと、コブやジャケーに影響を受けた後輩、という感じだが、ほぼ同時期にミルト・ラーキン楽団に在籍したというだけで、このひとのプレイにコブやジャケー的なものはほぼ感じないし(生で聴いたときも、ストレート・ノー・チェイサーとかやってたし、コード進行がメカニカルな「フォア」の作曲者だし……)、そもそもクリーンヘッドは「ホンカー」的な演奏はしてないのでは? このあたりのことは、帯を書いたひとにちゃんと聞いてみたい気がする。まあ、そんなことはどうでもいいのかもしれないが、こういう書き方って、ちゃんと演奏を聴いて書いたのかなあ、とも思うし、もしそうだったら、なにを聴いてるんだろう、と思うのです。解説のひとは決して「アルト・ホンカー」などとは書いていないのである。不思議だ。