「TEMPEST IN THE COLOSSEUM」(SONY MUSIC JAPAN INTERNATIONAL SICP 3998)
V.S.O.P QUINTET
77年のライヴ・アンダー・ザ・スカイにおけるライヴ。タイトルのコロシアムというのは田園コロシアムのことである。VSOPは、76年にニューポートで行われたハービー・ハンコックのそれまでの業績を振り返るコンサートを収録した「ニュー・ポートの追想」の前半部分がそれにあたる。バンド名どおり、一回かぎりのスペシャル・パフォーマンスのはずだったが、好評に味をしめて、そのあと何度もコンサートが行われ、アルバムも作られた。そのうちの3枚目(「ニュー・ポートの追想」を一枚目とすると)にあたるのが本作である。ちなみに4作目もライヴアンダーでの79年のライヴで、有名な豪雨のなかでの演奏である。さて、本作だが、テクニックがあり、音楽性に優れている……だけでなく、個性の塊のような五人が勢ぞろいしたバンドで、とにかくめちゃくちゃかっこいい。アップテンポの変形ブルース「アイ・オブ・ザ・ハリケーン」で幕を開けるが、全員やりたい放題である。ソロはどれもロングソロで、それをあおり、からみまくるリズムセクション(とくにトニー・ウィリアムスは爆発している)も凄まじい。しかし、考えてみれば、一見「やりたい放題」のように聞こえるが、このひとたちは(ハバードを除いて)マイルスのもとであのプラグドニッケルのような超人的かつ異常なテンションの修羅場をくぐり抜けてきた連中なわけで、正直、あの演奏に比べれば、ここでの演奏はどれもリラックスした楽しいものなのではないかと思う。このメンバーならなにやってもいいよな的なゆとりが、このグループでの演奏を適度にリラックスした、いきいきとしたものにしているような気がする。ちょっとしたゆるみや集中力の欠如にも目を光らせているマイルスといううるさいおっさんがいない分、少し空気がゆるんでいるのだろう。だから「楽しく」演奏できている。そこが、大衆に大ウケした理由なのではないだろうか(観客数はなんと12000人だったらしい)。選曲も「アイ・オブ・ザ・ハリケーン」「81」「処女航海」「レッド・クレイ」……などヒット曲が多い(ええ曲ばっか!)。ショーターも、こんなに饒舌で、ごりごり吹く姿はこの時期としては珍しいのではないか。マイルスバンドやブルーノートではあれだけシュールなフレーズを積み重ねていたショーター(そしてこのときはウェザーリポートでバリバリのフュージョンをやっていた)がまるでハードバップ期に逆戻りしたような具体的で直情的なソロを吹きまくっている(「レッド・クレイ」のソロなんか、めっちゃすごいね)。5人がそういう演奏を楽勝で繰り広げている姿はたしかにかっこいいが、ちょっと物足らない気もする。いやいや、そこがええんやがな、わかってないなあ……と言われるかもしれないが……。この時期の彼らひとりひとりのリーダーバンドなら、たぶんこんなわかりやすい「自分も楽しんでますよ」的な演奏はしなかったと思うが、それをたっぷりと聞かせてくれるというのは貴重だ。本作を聴いていると「うぎゃー、めちゃくちゃすごいじゃん!」という場面が目白押しなのだが、じつはそういう箇所もこのひとたちにとってはけっこう気楽にやってるような気がする(リラックスして自由度が増している、というか……)。それだけこの5人が凄い、と言うことでもあるのだが……。というわけで、ときどき無性に聴きたくなるアルバムなのだが、じつはVSOPはこれ一枚しか持っていないのです(これを買ったのもけっこう最近に廉価版が出たからなのだ)。プラグドニッケルや1969マイルスを聴くのがちょっとしんどいなあ、と思うようなときに聴けばばっちりです。傑作。