mal waldron

「ONE−UPMANSHIP」(ENJA RECORDS/ULTRA−VIBE CDSOL−6531)
MAL WALDRON WITH STEVE LACY

 ジャッキー・マクリーンとの「レフトアローン」で日本人好みの切々としたマイナーバラードを歌い上げたマル・ウォルドロンのこれは硬派の代表的アルバム。3曲ともマルのオリジナルで、タイトルになっている「ワン・アップマンシップ」というのは「一歩先んじること」だそうだが、「アパマンショップ」とはまったく関係がない。山下洋輔が武田和命をメンバーにしていたころ定番のように演奏していたような記憶がある。変な曲だよねー。本当にかなり自由な演奏で、一曲目はテーマが終わったあとレイシーのソロになる部分はほとんどフリーリズムでこの部分も聞きものだが、そのあとテーマがあって、マンフレッド・ショーフの凄まじいソロになるが、まるでコルトレーンのような音の奔流であまりのかっこよさに言葉を失う。マルの幻想的(?)なソロ、そのあとの(ハンニバルのバンドで有名な)マカヤ・ンショコのドラムもいい。2曲目はマルの重たい左手が印象的なバラード。レイシーの思索的で丁寧なソロ(すごくヘンテコな音を織り交ぜて、まったく容赦ない演奏で感動する)、江戸時代の俳句のように訥々とフレーズを重ねていくピアノソロのバックでわけのわからんことをしているジミー・ウッドなど心に染みる(しかも変態的である)。ラストの3曲目はハービー・ニコルズに捧げた曲で、普通のリズムなのだが、3拍子と4拍子が入り混じるような感じに仕立てていて、たしかにハービー・ニコルズの香りがする。マンフレッド・ショーフのソロはモーダルで緊張感にあふれ、突き刺すような鋭さがあって超かっこいい。高音部がかすれるところもいい。レイシーのソロはもうまさにレイシーとしか言いようがない、自分を押し出したもので、圧倒的だ。そのあとのジミー・ウッドのベースソロもマカヤ・ンショコのドラムソロも「俺は好き勝手にやるぜ」というような自由なもので、とにかく全体に漂う「好き勝手」な感じ、自由な感じ、でたらめな感じにしびれる。全体にこれはもう「フリージャズ」と言い切っていいのではないかと思う。全員が自由に暴れまくっているのだが、どこかにピーンと張り詰めた節度のようなものがあって、シリアスな透明感がずっと持続している。これはマルの演奏の特徴かもしれない。傑作。ジュニア・ウォーカーといえば「ショットガン」だが、私はこのアルバムがいちばん好きだ。もうべた惚れなのである。学生のころ、なんかすごそう、という直観で買ったら大当たりというやつで、そのときはじめてジュニア・ウォーカーを知った。キング・カーティスに比べると知名度はやや劣るかもしれないが、録音当時(60年代から70年代頭ぐらい)はめちゃくちゃ人気があったはずで、とにかくわかりやすいし、かっちょええし、どこを切ってもあふれでるファンク魂が心を打つ。キング・カーティスはとにかくうますぎるぐらいうますぎて、サム・テイラーと同じぐらいうまいと私は思っているのだが(サム・テイラーは、いわゆるホンカーのなかでは群を抜いてうまいと思う。キング・カーティスもテクニックに関してはめちゃめちゃすごいのだ)、ジュニア・ウォーカーはうまいへたを超越した「これしかおまへん」のひとである。曲はたいがいワンコードで、ドファンキーなR&Bというかソウルなのだが、ウォーカーは最初、野太い濁った音で曲調にそってかっこいいけど単純なフレーズを吹いていたかと思うと、やおらフラジオでぴーーーーーーーーーーっ! とスクリームする。マウスピースはなんだかよくわからないが(たぶんラーセン)、とにかくひたすらぴーぴーいう。どの曲でもそうだ。冒頭からいきなりぴーぴーいう場合もある。あとは、自身のボーカルというかシャウト。これもまたかっこいいのだ(インストの曲もある)。ダンスミュージックだからそれでいいのだが、よく聴くと、曲ごとにパターンをいろいろ変えており、飽きないようになっている。フラジオの王様という感じで、最近のテナー奏者はそりゃもうフラジオに関しては研究しつくしていて、おそらくクラシックの奏法からの影響もあると思うが、とにかくはるか上のほうまで通常音域として使用されていて感心しまくるが、このひとがなぜフラジオの王様かというと、とにかくすべての曲において、ほとんどフラジオで押しまくっているからであって、こういうことはキング・カーティスにはないなあ。しかも、コントロールが抜群で、じつはそうとううまいひとなのだ。モータウンの別レーベルである「ソウル」からたくさんのアルバムを出しているが、やはりこのライヴ盤がいちばんかっちょええんではないでしょうか。汗と怒涛の黒いグルーヴとフラジオ。これに尽きます。彼の曲としては、このアルバムでも取り上げられている「ショットガン」と「ファット・ダズ・イット・テイクス」というのが二大ヒットらしいが、私はなんといっても1曲目の、イントロから導入される「ヒップシティ」という、ただただノリがいいだけの曲が猛烈に好きなんです。オールスターズと名乗ってはいるが、テナーとギターとベースとドラム(とオルガン)というシンプルな編成で、ここまで客を煽り、盛り上げられるというのは、はっきり言って「テナーサックスという楽器の力」だと思う。みんな、それを忘れるなよ。