「LIVE!」(MOTOWN
JR.WALKER AND THE ALL STARS
ジュニア・ウォーカーといえば「ショットガン」だが、私はこのアルバムがいちばん好きだ。もうべた惚れなのである。学生のころ、なんかすごそう、という直観で買ったら大当たりというやつで、そのときはじめてジュニア・ウォーカーを知った。キング・カーティスに比べると知名度はやや劣るかもしれないが、録音当時(60年代から70年代頭ぐらい)はめちゃくちゃ人気があったはずで、とにかくわかりやすいし、かっちょええし、どこを切ってもあふれでるファンク魂が心を打つ。キング・カーティスはとにかくうますぎるぐらいうますぎて、サム・テイラーと同じぐらいうまいと私は思っているのだが(サム・テイラーは、いわゆるホンカーのなかでは群を抜いてうまいと思う。キング・カーティスもテクニックに関してはめちゃめちゃすごいのだ)、ジュニア・ウォーカーはうまいへたを超越した「これしかおまへん」のひとである。曲はたいがいワンコードで、ドファンキーなR&Bというかソウルなのだが、ウォーカーは最初、野太い濁った音で曲調にそってかっこいいけど単純なフレーズを吹いていたかと思うと、やおらフラジオでぴーーーーーーーーーーっ! とスクリームする。マウスピースはなんだかよくわからないが(たぶんラーセン)、とにかくひたすらぴーぴーいう。どの曲でもそうだ。冒頭からいきなりぴーぴーいう場合もある。あとは、自身のボーカルというかシャウト。これもまたかっこいいのだ(インストの曲もある)。ダンスミュージックだからそれでいいのだが、よく聴くと、曲ごとにパターンをいろいろ変えており、飽きないようになっている。フラジオの王様という感じで、最近のテナー奏者はそりゃもうフラジオに関しては研究しつくしていて、おそらくクラシックの奏法からの影響もあると思うが、とにかくはるか上のほうまで通常音域として使用されていて感心しまくるが、このひとがなぜフラジオの王様かというと、とにかくすべての曲において、ほとんどフラジオで押しまくっているからであって、こういうことはキング・カーティスにはないなあ。しかも、コントロールが抜群で、じつはそうとううまいひとなのだ。モータウンの別レーベルである「ソウル」からたくさんのアルバムを出しているが、やはりこのライヴ盤がいちばんかっちょええんではないでしょうか。汗と怒涛の黒いグルーヴとフラジオ。これに尽きます。彼の曲としては、このアルバムでも取り上げられている「ショットガン」と「ファット・ダズ・イット・テイクス」というのが二大ヒットらしいが、私はなんといっても1曲目の、イントロから導入される「ヒップシティ」という、ただただノリがいいだけの曲が猛烈に好きなんです。オールスターズと名乗ってはいるが、テナーとギターとベースとドラム(とオルガン)というシンプルな編成で、ここまで客を煽り、盛り上げられるというのは、はっきり言って「テナーサックスという楽器の力」だと思う。みんな、それを忘れるなよ。
「SHOTGUN」(MOTOWN UICY−75848)
JR.WALKER AND THE ALL STARS
上にあげた「ライヴ」が70年の発売だが、本作の録音はだいたい60年代半ばぐらいだと思う(シングルを集めたものなので、バラバラだろうが)。リズムも、録音も、かなりチープで、古臭い(タンバリンとかがすごく古い感じでいいですね)が、音作りとしてはもう完璧にジュニア・ウォーカー・アンド・ジ・オールスターズのサウンドができあがっていて、かっこいい。1曲目こそ、マイナーブルースだが、2曲目の「ドゥ・ザ・ブーメラン」(へんなタイトル)はソウルフルなシャウトとハモリ、スムーズなテナーブロウ、オルガンやぺんぺんしたギターのリフなどの要素が全部揃っており、あとの曲はすべてそういう調子だ。シングルなので、後半がフェイドアウトというものが多くて残念だが、上記「ライヴ」を聴けば、たぶんライヴではたっぷりとした尺で吹きまくっていたのだろうと想像される。また、「ライヴ」に比べるとフラジオでぴーぴーいわせるよりも、かなりストレートにブロウしているものが多く、そのあたりもスタジオとライヴのちがいといえるのか、それとも時代が下るにつれて、一番ウケる部分を前面に押し出すようになっていったのか……とにかく「作品」としてしっかりした曲ばかりだ。あと、ウォーカーのテナーの特徴として、フラジオとグロウル以外に、フラッタータンギングでフレーズを吹く、というのがあり、本作の5曲目「シェイク・アンド・フィンガーポップ」ではそれらが全部聴ける一種のショウケースになっている。この曲はいろいろ学べますよ。当然、ウォーカーの音楽を「ワンパターン」というひともいるだろうが、たとえばホンカーのレコードに比べたらはるかにバラエティに満ちていて、聞き飽きないと思う。それに、ソングライターがちゃんといるので、そのあたりのことはちゃんと考えているし、なによりダンスミュージックなので、いちばん肝心なのは踊れるビートとファンキーなサウンドを提供することで、それについてはもう申し分ないうえ、全曲、ウォーカーのブロウとスクリームが聴けるのだから、私としては言うことおまへん。ホンカーについてはいろいろと再評価がしっかり行われて定着している感があるが、たとえばアール・ボスティック、サム・テイラー、シル・オースティン、そしてこのジュニア・ウォーカー、ブーツ・ランドルフなどはまだまだそうでもないんとちゃいまっか。ハンク・クロフォード、メイシオ・パーカー、ファットヘッド・ニューマン、サンボーン、グローバー・ワシントンなどのブラック・メロウ・ファンキー・ミュージック(?)へつながるひとたちなので、もっとみんな聴きましょう。