bennie wallace

「LIVE AT THE PUBLIC THEATER」(ENJA 15MJ9060)
BENNIE WALLACE

  この作品がベニー・ウォレスの日本初紹介的なアルバムだったと思う(記憶では、本作に先行する「フォーティン・バー・ブルース」はたしかこのあとに出たのだ)。非常に評判になった。私も、発売されてすぐに聴いたが、フリージャズまではいかないが、フレーズや曲やリズムを解体して再構築するやりかたは相当自由度が高いし、ジャズにしっかり根ざした、黒人的なねちっこい吹きかたをするテナーだなあ、とめちゃめちゃ気に入った。フレージングが独特で、これはテナーサックスにしかできないフレージングなのだ。こういう具体的なアイデアがはっきりしている、変態的なフレーズをしっかりした音色で吹ききるには、めちゃめちゃな技術が必要で、どんだけうまいねんこいつ、と当時の私は目を見張った。まあ、誤解を承知であっさり書くと、ドルフィー的な発想をテナーの楽器力をいかして表現している、という感じか。とにかく音色が太くて、低音部が度迫力で、高音部やフラジオのしゃくりあげるような音もまたかっこよく、ソロを聴いていると陶然としてしまう。これも誤解を承知で書くと、ソノリティはイーヴォ・ペレルマンのそれを連想させる。このエンヤのアルバムを皮切りにたくさんのアルバムがリリースされたが、たいがいはピアノレスで、ドラムはブラックミュージシャンであることが多く、そのあたりにはかなりこだわっているようだなあと思っていた。たしかトミー・フラナガンが入った「ザ・フリー・ウィル」というアルバムがあったはずだが(私は持っていないが、ジャズ喫茶で聴いたことはある)、あれはまあ大物ゲストを迎えたという感じであって、やはりこのころのウォレスは、ピアノレスが基本だろう。エンヤでは、「フォーティン・バー・ブルース」にはじまって、本作を含め、いろいろ出たが、チック・コリアやジョン・スコがゲストのものやジミー・ネッパーが入ったモンク集などがあったと思う。そのあと、新生ブルーノートに移籍して、ドクター・ジョンなどが入ったアルバムなど、企画ものをいろいろと出した。そのあたりも好きなアルバムもあるのだが、やはり私にとってのベニー・ウォレスはエンヤのころが一番かなあ。それも、本作がいちばん好きかも。ダニー・リッチモンドもエディ・ゴメスもめちゃめちゃかっこよく、そしてまたベニーがこの猛者ふたりをうまく使いこなしているのだ。映画音楽の仕事にうつり、その後カムバック(?)して出したバラード集的なものなどは聴いていないので論評できないが、一度、大阪のライヴハウスでベニーのライヴを聴いたことがあり、そのときはトロンボーンがレイ・アンダーソンという豪華な編成だったが、もう死ぬほどよかった。今でもよく覚えているが、とにかくフレーズの出だしがテナーの低音である確率が80パーセント以上、と言い切ってもいいぐらい、フレージングが組み立てが「テナーの低音→チュウ音域→高音」となっている。それはなぜかというと、たぶんテナー吹き以外にはわからんだろうが、テナーで最初に「バコッ」と低音をいわせて、そこから上へあがっていくというのは、じつに気持ちがいいのである。そのときのライヴは、レイ・アンダーソンの手抜きなしの大暴れもてつだって、めちゃめちゃよくて、聴き終えて茫然自失だった。こいつ、あまりにもうますぎるやろ! と思った。まあ、それぐらい私はベニー・ウォレスが好きなのだが、このアルバムが出た当時、大阪のラジオのジャズ番組で末廣光夫(デキシー〜スウィングジャズマニアの有名なひとだ)が、このアルバムの「ブルー・モンク」をかけて、こんな演奏をジャズだといっていいのだろうか、ひどい演奏だ、こういうのを聴いて、初心者がジャズってむずかしい音楽だと思ったらどうするのだろう、と酷評にもほどがある紹介をしていて、それならかけなきゃええやろ、とラジオを聴いていた高校生の私は思ったのである。しょせん、人間は自分の物差しでしかものをはかれない。そのとき、「ブルー・モンク」のあとに末廣氏がかけたのがシャープス・アンド・フラッツのアルバムで、やはりこういうメロディーのある演奏がいいですよね、といって、またしてもベニー・ウォレスを引き合いにだしてけなしたので、ラジオのまえで私は怒りにふるえていた。それ以来、私は逆に、シャープス・アンド・フラッツが冷静に聴けなくなってしまい、先日、解散を発表したときも、なんの感慨もなかった。長年ビッグバンドをやってきたものとしてはあまりに冷たい反応かもしれないが、すべてはあのときのラジオに起因するのである。公の場でなにかをけなすときは、それが大好きだと思っているひとも多数いることを忘れてはならない。自戒も含めてそう思う。それでもあえて「俺はこれをけなす」というならどうぞご勝手に。でも、そのことであとでどんな目にあっても知らんよ。ミュージシャンが、おおげさにいえば命をかけて作った作品を、理解ができない、気に入らない、というだけの理由で、ボロカスに言うわけだから、それぐらいの覚悟はできていないと。「ミュージック・マガジン」のジャズ評欄についても、おなじ印象を持つ。なんやこれ、しょうもなー、と思ったときに、自分の尺度、理解力が足らないのではないか、と省みることがあってもいいのではないか。長年やっていると、そのあたりがなあなあになってくると思う。ベニー・ウォレスのアルバムのことから脱線したかもしれないが、どうしても書いておきたかったので、すいません。本作品に話は戻るが、オリジナルだけでなく、「ブルー・モンク」「インナ・センチメンタル・ムード」もすばらしいので、聴いたことがないひとはぜひ一度聴いてほしいです。とくに後者は、これを聴いたらさすがに「メロディーがない」とか言わんやろと思うぐらいの名演。

「TWILIGHT TIME」(BLUE NOTE/東芝EMI CP32−5256)
BENNIE WALLACE

 エンヤの諸作を経て、ウォレスがメジャーであるブルーノートで作った一枚。なるほどなあ、これがやりたかったのかと腑に落ちたが、同時にふーん、そうか……とも思った。メンバーを見ても曲を見ても露骨に明らかで、ニューオリンズ、ブルースに回帰するコンセプトである。さすがブルーノートで、めちゃくちゃすごいメンバーである。1曲目の冒頭、いきなりシンプルなファンキービートで幕あけするが、これでなんとバーナード・パーディーである。さすがやなあ。手慣れた感じのノリノリのギターはスティーヴィー・レイ・ヴォーン(めちゃくちゃかっこいい!)。そして、ロールするピアノはドクター・ジョン! エレベはボブ・クランショウ……これはジャズ勢からの参加。ベニー・ウォレスの野太いの音のソロもファンキー、ブルージーに主軸を置いた感じでいつものゴリゴリさは影を潜めている。2曲目は4ビートの歌もので、ここでのウォレスは我々の知っているあのウォレスだ。テナーの低音を駆使しながら吹きまくる。ベースはウォレスといえば……のエディ・ゴメスだが、鋭いドラムはディジョネット! 3曲目は盟友レイ・アンダーソンの豪快なガット・バケット・トロンボーンが加わり、ニューオリンズジャズ〜R&B風味を盛り上げる。ふたりとも自分の味を出しながらのファンキーなソロで、こういうのをやらせるとこのひとたちの独擅場である。フリーキーなブロウだが雰囲気はニューオリンズなのだ。かなりまえに小さなハコ(バナナホール?)でこのふたりの競演を見たが、まさにこんな感じだった。すばらしい。4曲目はテナーのワンホーンの「テネシーワルツ」で、いかにも南部という空気が醸し出されている。このあたりにウォレスの本作のテーマがあるような気がする。ジョン・スコフィールドのギターは、だれもが知ってる大スタンダードだからこそのアウトするフレーズを重ねていき、ウォレスも個性を前面に出したソロをする。名演ですね。5曲目は一時のオルガンジャズにありそうなファンキーなリフブルースをひとひねり、という4ビート曲。ウォレスのソロはこのひとならではの、低音からはじまるアルペジオから狂っていく感じのフレーズを連発していて、聴きごたえ十分。テナーというのはこういう魅力がありますよね。ディジョネットとジョン・スコフィールドとのからみもめちゃくちゃかっこいい。ラストのウォレスとスコフィールドのバースというか同時演奏にディジョネットがプッシュしまくるあたりもすばらしい。6曲目はファンキーなビートに載せてのモンク的(?)というか、ちょっとひねったブルースだが、ギターもテナーも最高のソロで、とくにウォレスのテナーは本作中の白眉ではないかと思えるようなゴリゴリのアグレッシヴなもの。つづくレイ・アンダーソンのトロンボーンは狂乱のパワフルな最高の演奏。バシッと終わるエンディングも超絶かっこいい。7曲目はゴスペルナンバーで、シェップとかもやってる曲。ウォレスのワンホーンだが、サブトーンとかを使っているが、けっこう淡白な気もする。非常に伝統的な奏法で見事だが、アーネット・コブやバディ・テイト、その他……ほどの「いやらしさ」は感じられない。8曲目はニューオリンズ独特のはねるビートのファンキーな曲で、2管編成。ドクター・ジョンのピアノはさすがの職人芸。テナーとトロンボーンの息ぴったりの掛け合いも見事で、聴きごたえ十分の圧巻の展開。ラストの9曲目は表題曲で、サブトーンをまじえて朗々と、変態的に歌い上げるウォレスと、プランジャーで人間が歌っているような表現をぶちかますアンダーソンの対比。ギターもよい。そして、ウォレスのフリージャズ+ニューオリンズ的な超個性的なフレージングの嵐というべきカデンツァによってすべてが見事に締めくくられる(あいかわらず低音からはじまるフレーズの多いことよ!)。傑作! ただし、ライナーノート(岩波洋三)はけっこうキツいです。