little walter

「THE BEST OF LITTLE WALTER」(CHESS PLP−802)
LITTLE WALTER

 リトル・ウォルターについては、ブルースファンはこぞって絶賛するが、私はいまだにその良さが(あまり)わからない。そういうときは、「しつこくしつこく何度も何度も聴く」ということで乗り切ってきた私だが、リトル・ウォルターの本作に関しては、何度聴いても、この「ジューク」というヒットナンバーをはじめ、これもヒットした「マイ・ベイブ」とかにしても「ええなあ」とは思うのだが、「すごいっ」という感覚はない。レスター・ヤングだったか、のソロをコピーして、ハープで吹いてみる、というのがリトル・ウォルターの練習法だったというようなことをどこかで読んだ記憶があるが、それならレスター・ヤングを聴けばええやん、と思ってしまう私は、やっぱりブルースがちゃんとはわかっていないのだろうな。しかも、そんなにサックスに似ているとは思えないがなあ(小出さんの日本語ライナーによると「サックスそのものだ」と書いてあって、よくわからん。どっちかというとハープそのものだと思うが……)。悲しいなあ。でも、しかたがないのである。いまだにサルサがわからない(というか、肌にあわない)ように、わからないミュージシャン、肌にあわないミュージシャンがいてもしゃあないのだ。いや、このアルバムで演奏されているような、初期のシカゴブルースのサウンドは、すごく好きなんです。だから、このアルバムも好きは好きなのだが、みんながいうような「アンプリファイアド・ハープの神様」的な扱いがよくわからないのである。すまん。リトル・ウォルターについてはボーカルのほうが好きです。でも、「ブルー・ライツ」のどろどろしたスローブルースのハープの表現は、本作ではいちばん気に入った。あと「テル・ミー・ママ」の超軽快なリズムセクションとそれにのっかるボーカルのかっこよさ、みたいなこともわかります。それにジャケットは死ぬほどかっこいい。

「HATE TO SEE YOU GO」(GEFFEN RECORDS UICY−75955)
LITTLE WALTER

(上記の文を書いてからたぶん10年以上……)リトル・ウォルターは「ザ・ベスト・オブ……」のLPを持っていてかなり聴いていたのだが、その一枚しか持っていないとずっと思っていた。しかし、最近ふと気づくと、同アルバムのCDも持っていて、しかもなぜか二枚あることに気づき、そこで急に聴いていない音源を聴きたくなって、本作と「コンフェッシン・ザ・ブルース」の二枚を購入した。年代順にいうと「ザ・ベスト・オブ……」「コンフェッシン……」そして本作ということになるが、本作はとにかくそのジャケットがエグくてずっと気にはなっていた。額の傷の縫ったあとのインパクトがすごいのだ。そして、聴いてみると、たしかに当時のシカゴでぶいぶいいわせていたウォルターの、行儀のよい、型にはまった音楽ではない、ひたすら無頼漢というか「だだけもん」の音楽であったシカゴブルースの生々しさが伝わってくる。たしかにブルース形式ではないR&Bっぽい曲も多いが、流行を狙ったのではまったくなくて、すべてがウォルター色に染まっているのがすごいところである。絶妙のバッキングをつけているロックウッドやシャッフルの神であるところのフレッド・ビロウなどに盛り立てられて、ウォルターのハーモニカとボーカルが冴えに冴える。私も長いあいだ「ザ・ベスト・オブ……」を聴いていて、なんでブルースファンがこんなハープを「サックスと同じことがハープでできる」「アンプリファイアドした革新的なハープ」「ブルースハープの歴史を変えた」みたいに思っているのか、と不思議だったが、さすがに今では、このひとの凄さがわかるようになりました。「ハーモニカのチャーリー・パーカー」みたいな言葉にまどわされてしまうのだ。ブルースハープ、いや、そもそもハーモニカというものはこどものおもちゃのようなものであって、サックスやピアノなどを入手できないひとたちにとって、そんなおもちゃからとんでもない豊穣な音楽を引き出すというのはまさにマジックであったのだ。そういうことは、サニー・ボーイ一世やジェイバード・コールマンなどの古いハーピストを聴かないとなかなかわからん……ということが最近わかった。たしかにウォルターは革新的で、かつすばらしいセンスの持ち主である。「ザ・ベスト・オブ……」しか聞いてこなかったことを反省して、これからはこのアルバムも聴くことを誓います。傑作!

「CONFESSIN’ THE BLUES」(CHESS/GEFFEN RECORDS UICY−75956)
LITTLE WALTER

 はー、なるほど、と一曲目を聞いて思わず膝を打つ、という感じだ。名盤の誉れ高い「ベスト・オブ・リトル・ウォルター」に比べても、この思い切りのいい、というか、完全に吹っ切れた、アフタービートを強調した速いシャッフルに乗ったノリノリの演奏、ボーカル、そしてハープブロウが一体化していて、まさに最強だ。二曲目のインスト、三曲目のオーソドックスなシカゴブルースのようでシャープで聞きごたえのあるボーカルとロックウッドのギターのインタープレイ、四曲目のスローインストでの大仰(?)なハープのかっこよさ、五曲目の軽快でポップなシャッフル、六曲目のインスト曲でのハープのジャズっぽいフレージング、七曲目のヘヴィでも軽くもない、ちょうどいい感じのミディアムテンポのこってりした曲でのハープ、八曲目のフレッド・ビロウのドラムを中心にパワフルに驀進するビート感、九曲目のブルース+アルファのポップさ、十曲目の深淵から響いてくるようなスローインストの重厚さ、十一曲目の(ジャズファンにはおなじみの)タイトル曲のボーカルの凄み、十二曲目のマイナーインスト(ちょっと変わった曲です)、十三曲目のバリトンサックスのリフとオルガンが入ったロックンロールナンバー(ギターはバディ・ガイ)、十四曲目のシンプルだがホットなマディのスライド、十五曲目のシャッフルでの(声はガラガラだが)ハープの切れ味……などなど聴きどころはめちゃくちゃ多い。十六曲目以降はボーナストラックだが、十六曲目の「トゥー・レイト」はR&Bっぽい曲作りで、しかもそれをウォルターは完璧にこなしていて、あー、もっと長生きしてほしかった、と思わざるをえない。十七曲目は早めの4ビートのインストでハープのフレーズ云々というよりこのノリをまるごと味わうべき演奏か。十八曲目はノリノリのポップでキャッチーな曲だがウォルターはしっかり対応している。十九曲目はミディアムスローな曲調だが、適度な軽快さがある。二十曲目はマイナーなR&B風味の曲だが、ウォルターのハープはフレーズがどうこうというより迫力で「持っていく」感じ。ラストの二十一曲目はドスのきいたシャッフル曲。とにかくどの曲も聴きどころがあって、全二十一曲を満喫できる。「ベスト・オブ……」だけではわからないリトル・ウォルターの魅力満載。私が買ったは千円の廉価版だが信じられないぐらい安いよねー。傑作! なお、文屋章さんのライナーは、たぶん以前に出たアルバムのものをそのまま持ってきているので、この再発とは曲がずれている箇所があるので注意。