weasel walter

「ELECTRIC FRUIT」(THIRSTY EAR THI57196)
WEASEL WALTER−MARY HALVORSON−PETER EVANS

 なんか、ため息が出るほど良かった。この3人に、なにもプラスするものはないし、なにもマイナスするものもない。完璧な表現では? ちょっとまえならいざ知らず、今ではそれぞれに大活躍していてたいへんな大物になってしまったこの3人だが、正直言って私はこの3人のよい聴き手ではない。メアリー・ハルヴァーソンにしてもエヴァンスにしてもウィーゼル・ウォルターにしても、とても好きだが、リーダー作は持っていない。だれかのアルバム(たいがいサックス奏者)に入っているのを聴いてるだけだ(だからたまにyoutubeとかで聴くとすごく新鮮)。しかし、なぜかこのアルバムを持っているのだ。持っているということは買ったんだろうな。ということで、サックスがいないのにこのアルバムを買ってしまった私だが、考えてみれば、これまではサックス奏者目当てて聴いていて、そのとき「このひと、いいなあ」と思った人たちがこうして集まったトリオなわけだから、悪いはずがないっすよね。というわけで、冒頭に書いたように、いやあ、マジで参りました。一番すげーと思ったのは、何曲目かのギターの変態的なアルペジオで、もう気持ち悪いったらありゃしない。これは珠玉のアルバムだなあ。今へヴィローテーションで聴いてるけど……でも、なんで買ったのかいまだに思い出せない。なお、本作が録音された「メネグロス〜千の洞窟」というのは「指輪物語」に出てくる地名だが、どうやらニューヨークにある録音スタジオのことらしい。びっくりしました。

「IGNEITY:AFTER THE FALL OF CIVILIZATION」(WEASEL WALTER)
WEASEL WALTER LARGE ENSEMBLE FEATURING HENRY KAISER

 タイトルの意味がよくわからんが、とにかく文明崩壊後の世界なのだろう。このアルバムを聴くと、全員で全力で集団即興をやかましくがなり立てるパートと、ソロらしいものが浮上するパート、リズムが消えて、管楽器(とギター)による即興アンサンブルになるパートが順番に出現する感じで、ああ、昔懐かしい集団即興で、とにかくみんなでわーっとうるさくめちゃくちゃやってしまえ! というやつだな、と思うひとがいるかもしれないがそういうのとはかなり違うのだ。どう違うのかはなかなか説明しにくい。めちゃくちゃテクニックも音楽性も高いすごいひとたちが集まっており、そういうひとたちに好きなようにやってくれ、というわけだが、「好きなように」やらせるために、言い換えれば、集団即興に最大限の自由を与えるために、かなり繊細かつ周到な配慮がなされているように思う。だって、メンバーは13人で、パッと見るだけでも、ピーター・エヴァンス、スティーヴ・スウェル、ジム・ソーター(!)、クリス・ピッツィオコスなどなど豪華絢爛ではあるがいかにも個性のきつそうなヤクザな連中ばかりが集結しており、一応「フィーチュアリング・ヘンリー・カイザー」とはなっているがギターも3人もいるので、どれがヘンリー・カイザーなのかわからん。そういう主張の強い猛者たちを集め、「最大限の自由」を与え、なおかつある種のまとまった表現を得るには、主催のウィーゼル・ウォルターはかなり苦心したと思うのだ。結果はこのとおりで、60分一本勝負のすばらしい即興ドラマに結実した。まあ、聴いてもらうしかないですが、さまざまな場面がときにはごつい感じでドーンと、ときにはスルーしていく感じでひらひらと、目のまえをパラパラマンガのように展開していき、興奮する。もちろん、対峙するような感じで真剣に聞かないとなんの面白さもわからん音楽ではあるけれど。過激でスピード感があってエネルギーに満ちているこういう音楽はいつの世においてもすばらしいと思う。個人的には「ジム・ソーターってちゃんと吹けるんかい!」というのが一番の驚きでしたが。正直、クリス・ピッツィオコスが聞きたくて買ったのだが、どれがどれやら、というか、そういう聴き方をすべきではないタイプのアルバムでめっさおもろかったです。