peter warren

「BASS IS」(ENJA RECORDS CDSOL6567)
PETER WARREN

 廉価版で出たので聴いてみた。申し訳ないが、はじめて聴いた。傑作だというのは耳にしていたが、これまで聴かなかったのはたんに機会がなかったからだと思う。こういう、自分の楽器(私にとってはテナーサックス)ではないひとがリーダーで、しかも自分の楽器が入っていないようなアルバムは、自分で買って聴くということはあんまりないわけで、いきつけだったジャズ喫茶になかったとか、先輩がだれも持っていなかったとか、そういったしょうもない理由で、接する機会がなかったりする(だからジャズ喫茶というのは大事なのだと声を大にしたい。知らんレコードを無理矢理聞かされるというのは、とんでもなくありがたいことなのだ。聞かず嫌いも治るし、世界が広がるし、興味はあるけれどいきなり買うのはためらわれるような新譜もチェックできる。今はクラブとかネットとかがそういった場を担っているのか、というとそうではない気がする。ジャズ喫茶は必要なのだ)。――というわけで今回の廉価版発売をいい機会として聴いてみると……ひゃー、めちゃめちゃええやん。びっくりしました。ピーター・ウォーレンが同じくベーシストのジャミー・ファウント、グレン・ムーアと結成したベーストリオの録音をすることになり、録音に加わることになっていたパーカッションのバリー・アルトシュルを迎えにいったら、そこにたまたまチック・コリアとデイヴ・ホランドがいて、ふたりとも録音に参加することになった。そして、これもたまたまニューヨークにいたジョン・サーマン、ステュ・マーティン、スティーヴ・ハウスも録音に参加することになった……という(日本語ライナーにそう書いてある)経緯をみるかぎりではかなりざっくばらんなアルバムっぽいが、実際に聴いてみると、相当綿密に企画を練ったアルバムのように思えるほどだ。つまり、それだけうまくいったということだろう。1曲目、2曲目はベーストリオによる演奏で、冒頭の力強くリズミカルな弓弾きから、もうわくわくする。ベース3本での表現とは思えないほど、フツーに聴ける。スリリングで、楽しいジャズ。46年まえの演奏だが、今聴いてもめちゃぐいぐい来る。それぞれのベースの音色もみずみずしい。2曲目は重厚なアルコソロではじまるウォーレンの短いソロ曲。3曲目はこのトリオにホランドが加わって4ベースとなり、アルトシュルのタブラが加わった演奏。タブラのせいかどうかわかないが、なんとなくインドっぽい雰囲気を感じる。ええ感じで、いつまでも聞いてられるような演奏。タブラもめちゃくちゃかっこいいよ(ただし、ある程度音量を上げないとちゃんと聞こえないので、できれば大音量で聴くことをおすすめします)。4曲目と5曲目は、ファウント抜きで、残りのメンバーも入っての即興。ひじょーーーーーにクオリティの高いフリージャズ。あえてフリージャズという言葉を使わせてもらうが、まさにそういう内容。すばらしすぎる。チック・コリアもすごくツボのわかった演奏をし、ジョン・サーマンが目を見張る大活躍をして、しかも全員のプレイがひとつひとつ細部までよく聴こえる。録音もいいのだ。ああ、こういうのはほんと、私のどまんなかです。パワフルで、躍動的で、ほんとうに上質のフリージャズだ。最後の曲は、唐突に終わるので、途中でテープがなくなったのかも。レコードだったら、A面はベーストリオ、ベースソロ、ベースカルテット+タブラという3曲、B面は全員による集団即興という、この構成もいいよね。傑作だと思いました。