grover washington,jr

「SKYLARKIN’」(MOTOWN M5−232V1)
GROVER WASHINGTON,JR

グローバー・ワシントンのアルバムでいちばん好きなのがこれ。高校生のとき、生まれてはじめて買ったジャズライフに広告が載っていて、「サックスの王者がフルに燃えた!」みたいなキャッチがついていた。サックスの王者? グローバー・ワシントン……? 聴いたことない名前やなあ……。でも、王者っていうぐらいだからめちゃめちゃ有名なんやろなあ。これは聴かねば……というわけで、某ジャズ喫茶でリクエストしてみた。私は勝手に、コルトレーンみたいなひとを想像していたら、なななななんと……「サックスの王者がフルに燃え」ているような鋼の音色ではなく、へろへろっとした軟弱な音がスピーカーから流れ出してきた。というわけで、一瞬椅子から落ちそうになったが、まあ、せっかくリクエストしたのだから、と最後まで聴いてみたら、これがなかなかよいではありませんか。ちょっと、横面をはられたような衝撃だった。軟弱なようでじつは力強く、ストレートな音色は、微妙な強弱やニュアンス、アーティキュレイションなどを最大に効果的に活用できる。その曲のかっこよさ、そしてアドリブソロの歌心にも参った。ソプラノもアルトもテナーもかわらぬアプローチと、自然な奏法にも感銘をうけた。一聴、なよなよと聞こえる音色だが、ポール・デスモンドやマリオン・ブラウン、リー・コニッツ、そしてレスター・ヤングのように、こういったサックスの美しさもあるんだなあ、ということが高校生の私にも理解できたのです。三つ子の魂百まで、というわけで、以来、ずっとファンなのである。「ブルース・ブラザーズ」の続編に登場するバンドでバリサクを吹いているのを観て、なんだか感動したのもつかのま、その直後に亡くなってしまった。この時期ももちろん大スターだったグローバーだが、その人気は「ワイン・ライト」で開花する。もちろんあのアルバムも好きだし、晩年に吹き込んだクラシック集もこれまたいいのだが、私にとって一番なのはやっぱりこれですね。最初に聴いた一枚という懐かしさや刷り込みを割り引いても、やはりよくできた、すばらしいアルバムだと思う。たまーーーーーーに聴く。気持ちいい。

「GROVER LIVE」(G−MAN/LIGHTYEAR 54875)
GROVER WASHINGTON,JR

まあ、いっしょにしてはいかんのだろうが、たとえばハンク・クロフォードとかケニーGとかキャンディ・ダルファーとかサンボーンとかメイシオ・パーカーとかいったソウル系(と一括りにするのは問題だと思うけど)のアルトは非常に苦手で、いや、いいのはわかるんだけど、どうも「好きっ」という感じにはならない。もっというと、アール・ボスティックとかルイ・ジョーダン、ソニー・コックス、チャールズ・ウィリアムズなどはじつによくわかる。めちゃめちゃ好きだ。しかし、ルー・ドナルドソンあたりになるとビミョーである。ちょっと年期の入ったジャズファンの皆さんがルー・ドナルドソンのオルガン入りの演奏あたりを、臭くていいねえ、みたいな風に喜んでいるのがよくわからん。正直いって、ルー・ドナルドソンは基本は筋金入りのバップのひとだが、ファンキーな体質もあるので、時流にあわせて、そういう演奏をしただけにしか聞こえない。これはまちがった認識だろうとは思うが、とりたててファンキーとか黒いとか思わないのは、音色のせいもあるかもしれない。丸っこい、温かい、人情味ある音色ですからね、ルーって。悪い言い方をすると、野暮ったい、田舎っぽい音。そういうのをしみじみ愛でるひとがいるのもわかるが、私にはたぶんあまりこの先も関係ない。ソニー・クリス? めちゃめちゃ好きですよ。ファットヘッド・ニューマン? 死ぬほど好きです。ラスティ・ブライアント? アホみたいに好きです。えーっと、結局は好みということだな。というわけで、グローバー・ワシントンだが、このひとは、なぜかわからないがとにかくずーっと好きなのです。亡くなったときは悲しかった。「ワインライト」好きだけど持ってはいない。で、本作は没後に出たライヴで、ライヴ時のグローバーのパッケージショー的なものがまるごと味わえる仕組みになっている。「ワインライト」をはじめとするヒット曲(「インナー・シティ・ブルース」「ストロベリー・ムーン」「ミスター・マジック」などなど)を演奏しているわけだが、メンバー紹介が「テイク・ファイヴ」であったりと、古き良きスウィング時代のパッケージショーの伝統も残っているのだ。ソプラノからバリトンまでを駆使して(でも、ソプラノがいちばん多いかも)メロウにソウルフルに「歌」を歌うグローバーはすばらしい。サックスの表現として、愛撫するような吹きかたというか、音程とか音の出しかたとかはほぼパーフェクトではあるが、ジジ・グライスやマリオン・ブラウンのように貧弱でもなく、ポール・デスモンドのように淡白でもなく、クラシックのサックスプレイヤーのようでもなく……唯一無二としか言いようがないグローバーのすごさを今こそ再認識すべきじゃないでしょうか。とにかく、かっこよくて、楽しい。ベースがジェラルド・ヴィーズリーでキーボードがアダム・ホルツマン……といったサイドマンの名前を見ていると、グローバーの音楽が、スタジオミュージシャンによって構築されているのではないことがわかる。

「INNER CITY BLUES」(MOTOWN RECORDS POCT−5508)
GROVER WASHINGTON,JR

 グローヴァー・ワシントン・ジュニアの初リーダー作だそうである。当時のヒットソウルナンバーを看板にしたアルバムで、1曲目の表題曲「インナー・シティ・ブルース」はマーヴィン・ゲイの曲。つまり「歌のない歌謡曲」的なものかと思いきや、めちゃくちゃ気合いの入ったサックスブロウアルバムである。パーカッションのイントロに続いて、グローヴァーがけっこうしっかりした音(後年はどんな楽器でもどんな曲調でもサブトーンで吹くことが多かったと思う)でテーマを吹く(ブルースというタイトルだが、ぜんぜんブルースではない。淡谷のりこだけでなく本場アメリカでもそうなんですね)。バックは錚々たる豪華絢爛ミュージシャン(ボブ・ジェームズ、リチャード・ティー、ロン・カーター、アイアート・モレイラ、アイドリス・ムハマッドなどなどなど)で、たとえば1曲目の美味しすぎるギターソロはエリック・ゲイル。このソロのあとで果たしてサックスソロは大丈夫なのかと思っていると、いやー、さすがのすごいブロウで感心。一音を長く伸ばすだけでかっこいいのだから、よほどセンス(と音色)がいいんだなー。2曲目は「ジョージア・オン・マイ・マインド」で、ストリングスが入って、一歩間違えるとムードミュージックみたいになりそうなところをちゃんとファンキーに押さえている。この曲の吹き方などはもう後年の、力の抜けた軽い軽い鳴らし方になってますなー。3曲目はまたもマーヴィン・ゲイの「マーシー・マーシー・ミー」でこれも白熱のブロウ。そして、4曲目は、これが聞きたいがために買った「エイント・ノー・サンシャイン」。コーラスとホーンセクションが入った豪華でいなたい音作りだが、エリック・ゲイルのギターがむせびなく。ああ、もうド演歌すれすれやなあ……と思っていると、そこはそれ、ぎりぎりかっこよく、うまく処理されている。5曲目は知らん曲だが、グローヴァーは優しく、メロディを吹く。メロディをサックスで普通に吹くだけでかっこいいなんて、なかなかできないことでありますよ。このひと、高音部でもサブトーンっぽく吹くよなー。最後はおなじみの「アイ・ラブ・ユー・ポーギー」。トランペット(サド・ジョーンズ?)をフィーチュアしたジャズっぽいアレンジになっている。サド・ジョーンズってフレンチホルンも吹くのか。なお、クレジットにあるオイゲン・ヤングというのはたぶんスヌーキー・ヤングのこと。そして、知らなかったのだが、録音はルディ・ヴァン・ゲルダーなのだった。