salim washington

「DOGON REVISITED」(PASSIN’ THRU RECORDS PT41237)
SALIM WASHINGTON

 ブルックリンのひとで、長年、ハーレム・アート・アンサンブルというバンドを率いているそうだ。顔にペインティングをしたジャケットの迫力とタイトルにひかれて思わず購入してしまったが、正解だった。タイトル曲はもちろんジュリアス・ヘンフィルの「ダゴンAD」のことで(8曲目に入っている)、そういうところからもこのひとの音楽的ベースがなんとなくわかる気がする。アミリ・バラカ(リロイ・ジョーンズ)がライナーを書いていて、2曲目のポエットも書いている。そういう演奏。ヴィオラとポエットリーディングのメラニー・ディアというひとはサリム・ワシントンの奥さんだそうだ。ドラムがタイショーン・ソーリーでベースがヒル・グリーンという超豪華なリズムセクションだが、そのあたりもサリム・ワシントンの人脈ということだろう。そして、このふたりが活躍しまくるのだ。1曲目、いきなり飛び出してきたのは、どちらかというと丸みを帯びた、ぐっとコントロールのきいたテナーの音で、正直、ジャケット写真や取り上げている曲などから、もっとエグい、ぶっとい、エッジのきいた音かと勝手に思っていた。フリージャズというより、アコースティックで真摯なモードジャズ、といった趣である。ときにフリーキーに吹いたり、ドスのきいたフレージングをしたりするのだが、基本はあくまでちゃんと吹くひとだ。しかも、武骨で、ごつごつした演奏で、あまり流暢ではない。全体の演奏は、オーネット・コールマンのアコースティックなころの感じといおうか……たとえばチャールズ・ブラッキーンとかアーネスト・ドーキンスなどの名前が思い浮かぶ。しかし……かっこいい。曲もいいし、共演者もいいのだが、なにより真摯につむいでいくそのブラックネスあふれるフレーズがじわじわとこちらを浸食してきて、感動させる。見かけはそれほどハードにブロウしているわけではないが、暑苦しすぎるぐらい熱い演奏なのだ。2曲目は、ワシントンはムビラを演奏し、夫人のメラニー・ディアがアフリカや黒人について書かれたポエットを読む(というか歌う)短い演奏だが、濃い。3曲目はアブストラクトなバラードで堂々とした演奏。千鳥的にいうと「癖がすごい」というやつかも。本人が意識していなくてもにじみ出る「癖」。ジャズですなー。4曲目はヴィオラの無伴奏ソロではじまり、ベースがパターンを弾きはじめるアフリカっぽいモードの曲。サリム・ワシントンはここでオーボエを吹いているのだが、これがまーったくオーボエに聞こえないのである。どう聞いてもソプラノサックスで、あのオーボエ独特のダブルリード感がまるでない。これはすごいと思うよ。上手い下手でいうと上手くはないのだろうが、こんな風にオーボエを吹けるインプロヴァイザーがいるだろうか。テナーと同じく、ごつごつとした武骨なオーボエだ。そして、これもまたじわじわと盛り上がっていく。少しずつフレーズを重ね、高みへ達する。コルトレーンのソプラノを思い出さずにはおれない。めちゃくちゃかっこいい。そして、ヒル・グリーンのベースソロもまた聞きどころ満載。この曲はすばらしい。5曲目はフルートによる演奏。幽玄なイントロではじまり、途中でビートが現れたり、またフリーなリズムになったり……という自由な曲。6曲目はテナー。フリーなイントロからラテンぽいリズムになる。テナーは、ファラオ・サンダースのような、柔らかな音でときにメロディックにときにフリーキーに吹く。ていねいなソロだ。最後にハーモニクスを駆使したカデンツァがあって、めちゃかっこいい。人柄を表しているのだろうな、こういう演奏は。7曲目はヴィオラが活躍する曲で、モンク的というかドルフィー的なテイストがある。先発ソロはテナーで、いやー、ごつごつしてるなあ、武骨だなあ……と思う。つづくヴィオラも、ややテナーに似てごつごつした手触りである。8曲目はヘンフィルの「ダゴンAD」で、重厚なエイトビートがキープされるうえで、ヴィオラをフリーキーに弾きまくる。最後のリフだけでもかっこいい。ドラムのエンディングもええ感じ。ラストの9曲目は、本作中もっとも普通のジャズっぽい曲かも。ベースソロがふんだんにフィーチュアされるが、(あたりまえだが)普通に上手い。テナーはあいかわらず武骨にキメて、エンディング。いやー、けっこうヘヴィローテーションで聴いたが、おもしろかったです。傑作では?