sadao watanabe

「BIRD OF PARADISE」(FLYING DISK VICJ−61365)
SADAO WATANABE WITH THE GREAT JAZZ TRIO

 渡辺貞夫のビーバップの最高傑作である。「アイム・オールド・ファッション」も、ジェフ・ワッツやマルグリュー・ミラーとやってるやつ(名前忘れた)も裸足で逃げ出すような完成度の高さである。一曲目の「バード・オブ・パラダイス」からいきなり全開で、あらゆるフレーズ、あらゆるテーマのフェイク、あらゆる装飾音がすばらしい。もう一度いうが完璧である。パーカーの若きフォロワーだったアルト吹きたち……たとえばフィル・ウッズ、ルー・ドナルドソン、チャールス・マクファースン、チャーリー・マリアーノ、リッチー・コール……その他もろもろの連中がついに到達できなかったほどの高みに渡辺貞夫は本作で到達したといっていい。それほど一音一音が完璧である(なんども完璧といってしまうが、それほど完璧なのだよ)。どの曲もすごくて、2曲目「ドナ・リー」のソロの歌い方など、もう完璧(またかよ)。「ドナ・リー」をここまで速いテンポで破綻なく歌い上げるというのはとんでもないことですよ。よく、パーカーのロングソロを聴いていて思うことだが、「あ、今のフレーズ、いいね」というフレーズのすぐあとにまた「あ、今のもいいね」というフレーズがつらなり、「あ、これもいい、今度のもいい、これもいいね、いいね、いいね、いいね……」とそれがとぎれることなくどんどん流れこんできて、こちらの許容範囲を超えてしまい、気がついたときには「うぎゃー、もうやめてくれ!」と叫びながらフレーズの洪水に埋もれている……というようなあっぷあっぷ状態にさせられる。そんな至上の体験を、このアルバムでも体験することができるのである。ビバップアルトの醍醐味っす、やっぱりそれじゃないかい? もちろんバックをつとめるグレイト・ジャズ・トリオもすばらしくて、とくにアンソニーのドラムは、例によって、ソリストを複雑なリズムでプッシュするのだが、それをある意味柳に風と受け流しながら「自分の歌」をひたすら歌いまくるナベサダには感動すら覚える。そして、そのコンビネーションがかつてのパーカーとロイ・ヘインズやパーカーとマックス・ローチがそうだったような、最先端の音楽「ビバップ」の新しさを蘇らせたように聞こえる。とにかくアルト吹きは全曲、一音一音ていねいにコピーすべき名盤であって、チャーリー・パーカーをコピーするよりも勉強になるかもよ、と思ってしまったりして(ブルースをのぞく。ブルースはやはりパーカーのほうが圧倒的にすごい。吉田先生もそう言ってました)。