trevor watts

「TREVOR WATTS’ MOIRE MUSIC」(FMR−RECORDS FMRCD250−0208)
TREVOR WATTS

 いやーーーーーー、びーーーーーーっくりしました。かっこいい! めちゃめちゃかっこいい! 最初、冒頭部を聴いたときは、あれ? 失敗したか、と思ったが、すぐにそれが、お、けっこうええやん、に変わり、そのうちに、うひゃーっ、こここここここれはすごい、になり、しまいには立ち上がって周囲のものを叩きまくっていた。二曲しか入っていないうえ、(ジャケットの表記を信じるならば)リーダーのトレヴァー・ワッツはソロをとっておらず、たまに出てくるソロもひゃらひゃらした、いまいち私好みのものではないのだが、そんなことは……そんなことはどうでもいいのだ。そもそもソロがどうのこうのというタイプの音楽ではない。パーカッションやドラムが刻む怒濤のリズムがベースにあり、そこに狂乱の管楽器アンサンブルが乗っかり、ひたすらひたむきに咆哮する。全体としてはエスニックでアフリカっぽくもあり、とはいってもやはりジャズであって、なにに一番感じが似ているかといわれると、うーん、ガムランやジェゴク、ケチャといった音楽の、あのポリリズムでおんなじことを延々やられるとこっちも洗脳されていき、最後には全員で全力でフルボリュームで疾走……みたいなところが(感動のタイプとして)似ているかもしれない。とにかくひたすら「全体」を味わうべき音楽なので、ビッグバンドといっても、テーマ→ソロまわし→アンサンブル→テーマ……みたいなものとはまるでちがっています。一種の呪術的なところは、やっぱりアフリカ的なのかなあ……。傑作。

「DIALOGUES FOR ORNETTE!」(FMR RECORDS FMRCD404−915)
TREVOR WATTS VERYAN WESTON

 ピアノのヴェリアン・ウェストン(と読むのか?)とトレヴァー・ワッツのデュオでオーネット・コールマンに捧げた即興集(なぜびっくりマークが?)。後半はライヴ。ジャケット写真を見ると、ウェストンはピアノではなくキーボードを弾いているし、演奏している場所もホールとかライヴハウスではなく、そのへんの家のまえ、みたいに見える。大丈夫かいな、と一抹の不安を覚えつつ聴いてみると……なーんだ、傑作じゃないの! それも、かなりの大傑作ではないかと思う。ワッツは、ソプラノ、アルトを吹いているが、戯れるような演奏から凄まじい咆哮まで自在で、ほとほと感心。ワッツというひとはフリージャズといってもしっかりしたフレーズもいくらでも吹けるめちゃ上手いひとで、そういう作品も多数あるが、本作ではフリーに徹している。引き出しが多いし、ピアノのウェストンとの愛称抜群で、名手ふたりによってみるみるドラマが構築されていく様子は魔法のようである。「即興だからこんなもんでいいんだ」とかいうレベルをはるかに通り越して、また、即興とかコンポジションとか分けることないよな、という状態をも通り越して、たしかにこれは即興でしかありえないといういきいきとした、しかも、すみずみにまで注意の払われた、迫力満点の、ほぼ完璧に近いインプロヴィゼイションになっている。ドライヴ感も抜群。そして濃密。スガダイローと多田誠司のデュオを思い出すほど。いやー、びっくりしました。この、魂を持っていかれるかのごとき高揚感はすごいです。それにしてもこのピアノのひと、このひとと共演したらどんなミュージシャンでも名演になってしまうのではないか、と勘繰ってしまうほどの即興の名手だと思う。どの演奏も、何度聴いてもすばらしい傑作。いやー、ノーマークだったなあ。ワッツはこのとき76歳。音色の力強さ、美しさに聞き惚れる。ライヴのほうでは、キーボードも聴ける。