noble watts

「HONKIN’,SHAKIN’& SLIDIN’」(JASMINE RECORDS JASMCD 3115)
NOBLE”THIN MAN”WATTS

 本作のタイトルは18曲目と19曲目に入っている曲名から取られているようだが、非常にストレートでしかもワッツはそれを体現している奏者だと言える。ノーブル・ワッツといえばポール・ウィリアムス(バリトンサックス)のもとでホンカーとして活躍していたひとという印象がある。ポール・ウィリアムスというと、「ハックルバック」というほんわかした曲で一世を風靡した感があるが、ワッツのホンキングぶりはすさまじいものがあった。本作はそんなワッツ(「スィン・マン」という二つ名があるから、よほど痩せていたのだろう。ワーデル・グレイが痩せていて「モスキート」と言われていたのと双璧だ)のシングルを集めたもので、なんと31曲も入ってる。しかもポール・ウィリアムズとの演奏は4曲しかなくあとは全部自己のリーダーセッションである。いやー、人気あったんやなあ。シンガーのジューン・ベイトマンというひとをフィーチュアした作品がけっこうあって(のちに奥さまになる)、それもすごくいいのだ。14曲目の最大のヒット「ハード・タイムス」(別名「ザ・スロップ」)はたしかに冒頭の音色も魅力的なテナーソロによるイントロからすばらしいテナーソロが爆発し、ギターソロも最高である。ホンカーの演奏の典型だと言われればそれまでだが、すばらしい音色、すばらしいノリ、すばらしいフレージング、すばらしい小ネタ(アイデア)……を上手くミックスして組み合わせ、ひとつの流れを作り上げ、エンターテインメントとしての作品に仕上げているノーブル・ワッツは凄いと思います。ダメな曲が1曲もなく、とにかくどの演奏もレベルが高い。これはエンターテインメントとして仕事をしているひとには当然要求されることではあるのだが、なかなかそうはいかないものである。このアルバムに収められている31曲は1曲も捨て曲がなく、全曲すばらしいクオリティのものばかりである。これはじつは凄いことではないかと思う。当時、ホンカーが流行っていて、ぼくも私もホンカー……「ブルースと循環で濁った音色でブロウして一丁揚がり」みたいな状態だったと考えられるわけだが、そういうなかで玉石混交にならず、音楽としてのクオリティを高く保つというのは凄いと思う。ワッツの技は基本的にはグロウル、フラッタータンギング、ホンキング、フリークトーン……などホンカーの常道なのだが、それらを上手く組み合わせて独自の表現を作っている。かっちょいい! この時期のワッツグループのレギュラーだったらしいワイルド・ジミー・スプルイルというギタリストは私が知らないだけでめちゃくちゃ有名なひとらしいが、そういうひとの参加も本作におけるワッツグループのクオリティに貢献していると思われる(ウィキペディアの記載に、ワッツバンドのことが一切書いてないのは不思議)。23曲目ではドラムとテナーのふたりだけでものすごくスウィングするごきげんなブルースを演奏していて、圧倒される。59年の演奏らしいが、時代を先取りしている感がある。1曲ずつは2分〜3分と短いがかなり濃密なので、一度にこのアルバム一枚まるまる聴きとおすのはけっこうたいへんである。何回かにわけて聴くことをお勧めします。傑作!