「LIVE & UNRELEASED」(SONY RECORDS INTERNATIONAL SICP239〜40)
WEATHER REPORT
あんまりヘヴィーなので、一回聴いて、もう一度ざっと聴き、3度目に聴こうとしてあきらめた。もうへとへとなのである。昔は、フュージョンの代表のようにいわれたこともあるウェザーだが、こうして改めて聞き返すと、こんなもんどこがフュージョンやねん、めちゃめちゃえげつないプログレジャズやんけ、と怒鳴ってしまいたくなるほど、濃密な演奏がつまっている。驚いたのは、ジャコパス〜ピーター・アースキンの時代がいいことはわかっているが、それ以外のメンバーのときも、まったく遜色ないほどすばらしいことで、はっきりいって、全曲グレイトである(とはいえ、やっぱりジャコは凄いと再認識してしまう瞬間も多いが)。マイルスバンドの影響云々も、意外なほど感じられない(リズムのカラフルさと、そこに乗るキーボードの不協和音的ハーモニー……みたいなところは似てる)。やはり、マイルスはジャズであり、自由である。ウェザーはある意味不自由である。それは絶対そうだと思う。でも、不自由だからよくないということはないし、不自由だからかっこよくないということもない。逆に、全メンバーのおそるべき集中力は、ウェザーのほうがずっとうえだし、背筋がぞっとするほどの怖さを感じる。かっこええ。ほんま、こんなグループがあったということ自体驚きだ。アルバム未収録の曲もあるし、「ティーン・タウン」、「エレガント・ピープル」、「ブラック・マーケット」などの有名曲もある。超お買い得。まさに宝物のような2枚組。全然ちがう時の全然ちがう場所の全然ちがうメンバーの曲を、拍手でつなげてあるので、特定の一カ所でのライブのように聞こえるという趣向もグー。でも、ショーターって、ウェザーではソプラノばっかり吹いていた印象あるけれど、そうじゃないんですね。
「NIGHT PASSAGE」(ARC COLUMBIA JC36793)
WEATHER REPORT
ウェザーというグループの演奏は、今聴くと、普通のジャズ、それもかなり過激で知的で先鋭的なジャズであって、どこがフュージョンやねん、と思うが、当時はこれがフュージョンバンドの頂点のように言われていて、リー・リトナーやアール・クルー、スパイロ・ジャイラ、ナベサダ……などと同列にくくられていたのだから驚く。でも、私がジャズを聞き出したのはまさにフュージョンブームのまっただ中で、4ビートジャズは古臭いものという感じの極端な扱われかただったが、そういう初心者の耳でも、ウェザー・リポートは「ただもんやない」というのはわかった。まあ、わかって当然であって、とくに本作はウェザーの過激さの頂上ともいえるような、一種のフリージャズを感じさせるほどの前衛的な演奏であって、とにかくめちゃめちゃ、死ぬほどかっこいい。A面もいいが、「ロッキン・イン・リズム」(これはエリントンハーモニーをシンセで再現したものだと思うが、その過激なハモリには驚愕。きっと当時の若いファンはみんなびっくりして、エリントンを見直したはず)にはじまり、「スリュー・ビュウズ・オブ・ヲ・シークレット」(ジャコパスのアルバムのバージョンより感動的かも。ジャズという音楽のひとつの到達点ともいうべき美しさ)、そして漆黒のなかを濁流が流れるような異形の美「マダガスカル」へと至るB面のすばらしさは筆舌に尽くしがたい。これ(マダガスカル)が大阪でのライヴだというんだからうれしいじゃありませんか。B面全体がひとつのメドレーというか、ストーリーがあるように思え、一気に聞いてしまう。いや、そういう意味では、このアルバム全体がA−1からBラスまでひとつの流れになっているのかもしれない。これまでも、そういったアルバム作りをしてきたウェザーだが、コンセプトアルバム的な感じが完成の域に達したのはこの作品ではないか。とにかくもう何度聴いてもため息が出るような、どの部分も完璧なできあがりで、こういうのを聞くと、即興だとか譜面だとかいうのがむなしくなる。いい音楽はいいのである。凡百のミュージシャンがそういう言葉を吐くのをきくと、おまえが言うな、と思うときもあるが、このアルバムを聴くと、まさに「ええもんはええ」と思う。全員がすごくて、ひとつの頂点目指してかけのぼっていく感じは鳥肌がたつが、やはりショーターのブキブキいう音色とすばらしいアーティキュレイション、そして天才としかいいようがないソロフレーズに浸っていると、しみじみ「ええなあ」と思う。ウェザーのアルバムのなかではもっとも好きな一枚です。
「BLACK MARKET」(COLUMBIA PC34099)
WEATHER REPORT
ウェザーのアルバムのなかではかなり好きな一枚。一曲目のタイトルチューンから「キャノン・ボール」、そして「ジブラルタル」へ至るA面の流れもいいけれど、なんといってもB−1の「エレガント・ピープル」! めっちゃかっこいいではありませんか。どうしたらこんなすごい曲を思いつくんだろうなあ、ショーター。ソロもめちゃめちゃかっこいい。ジャケットも、マイルスのオンザコーナーをはじめとする諸作品を想起せしめるような出来映えで、飾っておきたい。たまに聴きます。
「HEAVY WEATHER」(CBS/SONY 25AP357)
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印象的なジャケットのアルバム。高校生のころ、よく聴いた。やっぱりなんだかんだいっても「バードランド」はかっこいい。かけていると、つい口ずさんでしまう。よくもまあ、こんなメロディとアレンジを思いついたもんだ。どう考えてもヒットするしかない曲で、歴史に残るしかない曲である。イントロから細部の展開、エンディングに至るまでほぼ完璧な仕上がりで、もうこの曲になにかをつけくわえるとしたら……そうだなあ、あとは「歌を載せる」ぐらいか。それを実現させたのがマントラだが、とにかくあまりにバードランドの印象が強すぎて、かえって敬遠する向きもあると思う。でも、もちろんこのころのウェザーに隙はない。ショーターのテナーバラード(?)、そして「ティーン・タウン」と「パラディウム」あたりはすばらしいし、今聴くと、ふつうの過激なジャズといった趣だが、やはり一曲目だけがほかとは肌合いがちがう。しかし、それもふくめてひとつのトータルアルバムになっているあたりがたいしたもんである。まあ、ウェザーのアルバムはぜーんぶがコンセプトアルバムといえるんだけどね。
「8:30」(CBS SONY 50DP133〜134)
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スタジオの曲のステレオの左右への振り方が半端じゃないが、これは「時代」ということでいいのかな。それとも今はミックスが変わってるのだろうか。とにかくウェザーほど、遅れてきた世代とど真ん中の世代で評価がわかれるグループもないのではなかろうか。今の若いひとがウェザーの諸作を聴いたら、ふーん、という感じじゃないかと想像する。私ですか? 私はちょうどど真ん中です。高校のとき、ジャズを聴きはじめも聴きはじめで、フュージョン以外にはまだフリー系はおろかコルトレーンぐらいしか聴いていないようなころ、友達が、おまえ、ジャズ聴いてるんか、どんなん聴いてるんや、と言われ、ネイティヴ・サンとかナベサダとかヒノテルとかムカイとか……あ、コルトレーンとマイルスも聴いたよ、などと答えると、アホやな、ジャズゆうたらウェザーやろ、知らんのか、と言われたのだった。正直、ウェザー・リポートの名前はジャズライフという雑誌で読んで知っていたのだが、「ヘヴィ・ウェザー」すら聴いたことがなくて、あわてて(あわてなくてもよかったのだが)いろいろ聴いてみたが、あまりにヘヴィで、これとナベサダの「カリフォルニア・シャワー」とかを同じカテゴリーと言われてもなあと思った記憶がある。今聴くと、「ナイト・パッセージ」あたりまでは、ほぼ主流派ジャズというか、おもいきって「フリージャズ」とか「前衛」といったカテゴリーにいれてもべつにおかしくないほどの、えげつなく深い演奏の数々でびっくりするし、そのあとの作品もじつに腹をくくったジャズだと思う。さて、本作はここで私がどーこー言う必要はまったくない傑作中の傑作で、1曲目のイントロのジャコのベースを聴いて死に、ショーターのテナーがテーマを吹くそのかっこよさに死に、ドラムとショーターのデュオの凄さに死に……とにかくラストテーマに至るまで何度も死ななければならないわけで、1曲目を聴き終えた瞬間、あー、これはもうジャズとしか言いようがない、このバンドと同時代に生れてよかった、と思った。2曲目のテーマ部分の迫力は「おらおら、やれるもんならだれか真似してみいや」という自信にあふれた勝利宣言のようにも聞こえる。3曲目「ティーン・タウン」ののジャコのベースはえげつないほど凄くて、ソプラノとシンセを加えた導入部だけで十分圧倒的なのだが、そこでどんどんボルテージがあがっていき、もはやだれにもとめられない音の暴走状態に到達する(暴走といっても完全にコントロールされているが)。これは、ジャズだロックだフュージョンだなんだかんだ相撲甚句だというカテゴライズを超えたもので、こういった全員一丸の猪突猛進については、山下トリオもウェザーもエルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーンも一緒だ。もうちょっとソプラノのミックスの音量が大きかったらなあ。4曲目は「急にジャズがはじまった」感のあるバラードで、こういうのを挟まれると、ああ美しいなあ、やっぱりジャズマンだなあ、とかいった印象ではなく、5曲目からの体力勝負にそなえて、ここはちょっと落ち着こうぜ兄弟たち、といった感じである。中学・高校生の新規ファンの諸君も、この曲は飛ばさずに聴いてほしい。そしてこの2枚組の曲順が完璧であることに将来驚いてほしい(なにを言ってるんだわしは)。5曲目はジャコのベースをひたすらフィーチュアした曲。6曲目はマイルスの(というかザヴィヌルの)「インナ・サイレント・ウェイ」で、ほんの一瞬の演奏。この時点で、このライヴが全体でなにかを言おうとしているひとつの組曲のようなものだとわかる(ウェザーのライヴは、いつもそうなのかもしれない)。2枚目に移り、「バードランド」で開幕。マントラのバージョンの派手で陽気で賑やかで明るい演奏にくらべると本家は、よく聴くと暗いし重たい。そこがいいのです。バードランドで会場を盛り上げまくったこのグループはつぎになんと、ショーターのテナーの無伴奏ソロを配置する(ライヴでの順序とちがっていたとしても、アルバムとしてこういう順番で聴いてくれ、ということだからね)。これがもう死ぬほどかっこいいのである。ドスのきいた低音から、独特のしゃがれた中音域、そしてだれをも魅了する高音まで、ショーターの「音」の魅力が露骨に味わえるソロだ。これがこのアルバムの白眉! といいたいところだが、ちょろっと吹いて、そのまま終わってしまうので、もっと聴きたいなあと思うところで寸止め。まあ、そういった「間奏」的な献立なのだろう。そして、ザヴィヌルのシンセが爆発する3曲目から「ブギウギ・ワルツ」にかけてのメドレーが、このアルバムの頂点かもしれない。曲のかっこよさ、全員の一体感、ドライヴ感、それぞれが秘技・必殺技を繰り出す感、時代の最先端感、ポップ性、前衛性……どれをとっても、ああ、ウェザーってこれだよねと言わざるをえない。ウェザーにはいろんな時期があって、それぞれに聞き方の楽しみがあるわけだが、この時期はやっぱりこれ、これ、これだよなあ……と思う。ここからはスタジオ録音で、スタジオ録音を入れている時点で、やはりウェザーがこのアルバムを一種の組曲と考えていることがわかるんじゃないんじゃないんじゃない? 4曲目は表題曲だがあまり話題にならない。しかし、ドラマチックな演奏で私は好きです。5曲目はゆっくりしたグルーヴの曲で、聴いているといろんな情景が思い浮かぶような、外国を電車で旅している車窓の風景のような楽しい演奏。とざーん電車ーができたからー、などと歌いながら聴くのも一興(か?)。ちょっとゆるい即興風のところもあり、いい感じだがフェイドアウト。6曲目は、ザヴィヌルとショーターのデュオに少年コーラス隊(?)みたいなものを入れた、あからさまな演奏意図が感じ取れる作品である。まあ、こんなのもこのあたりで聴くと、アルバムの締めが感じられてい テーマの、半拍置くところがなんともかっこいいのです。しかし、それはショーターの作曲すべてにいえることで、なんかちょっと「ずらす」んですなー。ザヴィヌルのソロもショーターのソロもそれぞれすごいし、ジャコも活躍するのだが、でも、この曲がアルバムのラストだというのは、なんだか肩すかし。それもまたよし。2枚組だが、こんな内容なら2枚でも3枚でも5枚でも10枚でもあっというまに聴き終えてしまうだろう。これがライヴっちゅーのもすごい話だが、こうしてちまちまと各曲ごとの感想を書いても、それがどーしたのと怒られるような、歴史的な傑作であります。日本盤の岩波洋三氏のライナーはあいかわらずおもしろくて、かなりの分量だがほぼなにも言ってないに等しい、内容のない文章なのでぜったい読まなくちゃだめですよ。笑えるから。本作なんかはそうは思わないけど、後期のウェザーはあきらかにザヴィヌルが主導権を握っていたと思うが、とりあえずウェザーリポートという項を立てたのでそこに入れておく。