florian weber

「CRISS CROSS」(ENJA RECORDS ENJ−96152)
FLORIAN WEBER TRIO

 モンクとビル・エヴァンスにインスパイアされた演奏ということらしい。もちろんダニー・マッキャスリン目当てで買ったのだが、1曲目がいきなりリーダーのフロリアン・ウェバーのピアノ(ローズ?)ソロで、コケた。でも、そのソロがすごくいい感じなので期待は膨らむ。2曲目でマッキャスリン登場。ベースのいない変則トリオなのだが、ピアノがしっかりとリズムを刻むのでノープロブレムである。1曲目はピアノソロで、2曲目は変わった曲で、マッキャスリンのソロも、リーダーアルバムほど変ではないかなあと思って聞いているとやはり随所に変な箇所があって笑う。ええやん。3曲目もピアノソロでモンクの「ルビー・マイ・ディア」。4曲目は「クリスクロス」でこれもモンクだが、ここでのマッキャスリンが超変態なソロを繰り広げていて、もうハマる。短い演奏なのだが珠玉。ほかのメンバーもよくて、うわー、かっこええなあと心から思うような演奏。5曲目はエヴァンスのバラードだが、マッキャスリンはかなりキワキワの変態性と抒情性をうまくミックスしながら絶妙の歌を歌い、つむぐ。いやー、これは変だ。しかも心に染みる。6曲目はなんとレディ・ガガの曲(「ユダ」)だが、これがまたすばらしい変態的かつグッと抑えたアレンジで超かっこいい。マッキャスリンのテナーも、普通に聴けば普通に聞こえるかもしれないが、テナー吹きからするとかなり変ですよ。うわー、これはおもろすぎ。ドラムソロもフィーチュアされる。ラストのテナーの高音がまた変態。7曲目はモンクの「フォー・イン・ワン」だがかなり原曲をひねってある。ここでのマッキャスリンのソロはまさに変態の極致といえるようなブロウで、これこれこれですよ! とよだれが垂れそうになる。変なこだわりのフレーズのオンパレードで、普通ならアブストラクトに聞こえるだろうフレーズがなぜかものすごく具体的でアグレッシヴに聞こえるという(すごくわかりにくいかと思いますがすいません)凄技の連発で、それがピアノのいびつなバッキングとあいまってものすごいことになってる。最後のほうはもう、頭のおかしいホンカーみたいになってて(これもマッキャスリンの側面のひとつ)、凄まじい。この演奏はマッキャスリン的であり、またモンク的でもある。ベースがいないということはほぼ忘れてる。8曲目はビル・エヴァンスのレパートリーから。ものすごく美しいバラードに仕上がっている。マッキャスリンもめちゃめちゃかっこいい。9曲目はモンクの「エヴィデンス」だが、これも16ビートの曲に変貌。それがなんの違和感もないというか、「エヴィデンス」だと聞かされていなければ、こういう新曲としか思えないだろう。それぐらいの完成度。しかも、(マッキャスリンのことばっかりで恐縮だが)ここでのテナーソロは7曲目と並ぶド変態具合炸裂で、いやー、すばらしーっ! 低音でのイジイジしたフレーズとか、ほんと、頭おかしいとしか思えん。めちゃくちゃ好き。そしてラストは「ラウンド・ミドナイト」だが、この曲をテナーがどう吹くのか……とわくわくしていたら、やはりというかなんというかピアノソロだった。そりゃそうだよね。というわけで、リーダーのフロイアン・ウィーバーのファンはもちろん、マッキャスリンファンも絶対に聞かねばならない傑作なのであります。いやー、まいったまいった。