david weiss

「SNUCK IN」(SUNNYSIDE COMMUNICATIONS SSC1256)
DAVID WEISS & POINT OF DEPARTURE

 ニューヨークジャズの今がわかる、という触れ込みだったので、今がわかりたい私は思わず買ってしまったのだが、なるほどこれがニューヨークジャズの今なのか。たしかに全員、めちゃめちゃうまくて、ときどき、ああ、これはうまいなあ、と感嘆しまくる瞬間がある。とくにジャミリー・ウィリアムズというドラムはすばらしく、ソリストを適度なパワーでプッシュする。エルヴィンなどのように、力であおり立て、ときには立ち往生させてしまうような感じは微塵もなく、リズムの複雑さやセンスで的確にソリストを昂揚させ、刺激する。知的だし、シャープだし、かっこいいのだ。リーダーであるトランペットも当然めっさうまいが、テナーのJDアレンというひとは、名前はまえから知っていたけど、演奏ははじめて聴いた。いやー、うまいです。ブロウするというより、具体的なアイデアを即興的にすごいスピードで組み合わせて、それをリズムのうえで展開していくようなプレイ。すごいすごい。つまりは、全員、楽器はちがうけれど同じようなタイプなのかなあと思う。ひとりとして「力」や「ノリ」や「血」で勝負していない。そういう漠然としたものは、とりあえず置いておこうよ、我々はそういうものをくぐり抜け、体験したあげくにこの表現にたどりついているのだ、という自負を感じるのだ。西洋音楽理論に基づいた即興演奏、というか、純粋な音楽的表現として、かなり究極に近いところまで来ているように思う。でも、やっぱり今の私にはあまり縁のない演奏だとしか言いようがない。おもしろいし、興奮もするし、新鮮でもあるのだが、最後のパズルの一片が足りないように思う。それに、ニューヨークジャズの今とかいっても、こういうタイプの演奏で、しかももっとパワフルでイキのいい連中は日本にもけっこういるぞ。そういったひとたちを生で聴くほうがずっとリアルだし、エキサイティングではないか。日本ジャズの水準の高さを、本作を聴いたことで逆に再確認したような気がする。繰り返すが、本作はすごくかっこいいですよ。なお、ポイント・オブ・デパーチュア(出発点?)というのはバンド名だと思うが、アンドリュー・ヒルの作品名と関係あるかどうかは不明。ジャケット背には「DERPARTURE」と誤記されている。