「GOING WESS」(TOWN CRIER RECORDINGS TCD 518)
FRANK WESS
フランク・ウエスといえば、私の勝手なイメージだが、テナー、アルト、クラリネットなど各種のリード楽器を完璧に吹きこなすだけでなく、ジャズフルートのパイオニアであり、モダンなビッグバンドやスタジオでの譜面仕事も完璧にこなし、優秀なアレンジャーでもある……という認識だったのだが、ここでウエスはそういうイメージからは少し離れたような感じである。つまり、オルガン入りのトリオという編成なのだ。テナー+オルガンといえばファンキージャズ、R&Bっぽいジャズを連想し、ウエスっぽくないような気がしていた。しかも、なんとエルヴィンの演奏で有名な「アンティグア」をやっている。これもウエスっぽくない(フランク・フォスターならわかるのだが)。しかし、ライナーを読んでみると、ウエスはここでオルガンを弾いているボビー・フォレスターというひとはスタンリー・タレンタイン、ジョージ・コールマン、パーシー・フランス、ハロルド・ウーズリー、ハロルド・ヴィックといったテナーの猛者たちと共演を重ねてきたひとらしいが、ウエスのバンドでも長く相棒をつとめていたらしい。しかも、内容を聴いてみると、これはオルガン入りのファンキージャズなどではなく、普通のジャズ……という言い方も変だが、ピアノとベースの役割をオルガンがこなしている地味だが充実した渋い演奏ばかりだった(グワーッとかギャーッとかまったくいわない)。考えてみれば、ウエスのキャリアのなかでも特別な部分をしめるであろうカウント・ベイシー・バンドでの経験を考えると、ベイシーというひとはピアノだけでなくファッツ・ウォーラーの流れを組むオルガン奏者であるわけで、ウエスも(おそらく)ベイシーの弾くオルガンにはたびたび接していたのではないか、と思われる(インパルスの「カンサスシティ7」なども)。「オウ・プリヴァーヴ」などのアップテンポのバップ曲、2曲目「ランプ・イズ・ロウ」3曲目「マイ・シャイニング・アワー」5曲目「ラヴ・レターズ」9曲目「君住む街角」……など柔らかい音色でスウィングするテンポでじっくり歌い上げられるスタンダード、4曲目「クレイジー・ヒー・コールス・ミー」8曲目「アイル・ネヴァ―・スマイル・アゲイン」などサブトーンなどを駆使したオールドタイマーのマターで奏でられるバラード、6曲目「フランキー・アンド・ジョニー」などファンキージャズ的なこってりとしたブルース、ラストの「コットン・テイル」のようなエキサイティングなアップテンポでのブロウなど、曲ごとにめまぐるしく雰囲気を変えつつ、その根底にはフランク・ウエスの個性がしっかり伝わってくる演奏ばかりで、もう言うことはない。しかも、どの演奏にも長いキャリアならではのボキャブラリーとたしかなテクニック、ロードバンドで鍛え上げたスウィング感などが感じられる。そして、全体に「上手いやろ」「これを聴け」「どや、ええやろ」というような押しつけがましいところが皆無で、さりげなく披露する感じなのもウエスらしい。それで、7曲目のお待ちかね(?)「アンティグア」は予想を覆すフルートでの演奏で、これがまた可愛らしくていいんですねー。ライナーによると当初はタイトルが「ジャンプ・アップ・ママ」となっていたそうで、どういうことなのでしょう。ウエスは、この曲をフランク・フォスターのエルヴィンとの共演盤で耳にしたのかも……などと想像はふくらんだが、ライナーを読むと、この曲の作者であるローランド・プリンス(ギタリスト)はオルガンのフォレスターと70年代にトリオを組んでいたとのこと。なるほどー! とにかく、ギターのいないトリオなので、ソロイストとしての比重がウエスにはかなりかかるわけだが、楽々とそれをこなしているあたりがさすがである。オルガンはもちろんだが、ドラムのクラレンス・ビーン(バミューダのひと)も見事なサポートである(ソロもすばらしい)。フォレスターとビーンはオルガン〜ドラムのデュオチームを組んでいたらしく、そら呼吸も合うわ……。傑作!