「THE ROOTS OF THE BLUES」(UNIVERSAL MUSIC FRANCE 0602537474233)
RANDY WESTON −BILLY HARPER
74年以来ずっと共演が続いているこのふたりだが、最近も日本でデュオライヴがあるなど、アクティヴに活動しているらしい。しかも、ブルースとスタンダードを中心にした選曲ということで期待は高まったが、実際聴いてみると、ビリー・ハーパーがかなりおとなしめで、普通のテナー奏者という感じの演奏である。随所に、おおっという箇所もあるのだが、ピアノとのデュオゆえか、全体のコンセプトを意識したのか、それとも(これは考えたくないが)衰えているのか、パワーが感じられない。そういうアルバムなんですよ、ということかもしれないが、ビリー・ハーパーには何歳になってもフルトーンで、こちらの耳が痛くなるようなボリュームのブロウをしてもらいたいものだ。最近はリーダー作も聴いてなくて、「リーダーズ」的なバンドのアルバムを2枚ほど聴いたぐらいしか知識のないハーパーだが、それらでも、今ひとつ往年の、シルバーのテナーが軋むほどの気合いは感じられなかった。あと、音程がいまいちになっている(高音域だけでなく中音域も)。逆に、このアルバムではランディ・ウェストンが元気すぎるほど元気で、鋭いプレイをバリバリかましてくる。リズムも超しっかりしていて、感動する(87歳やで! すげーっ!)。ハーパーも、ウェストンのコンセプトをよく理解して(というか、こういうアフリカ〜ブルース的なものは、ハーパーにとっても十八番だから)、味わい深い演奏をしているのだが、たとえサックスは抑制した音量で吹いても、そのなかにこちらを押してくるような気合いやパワーが感じられないのです(新譜案内に「温かなテナーの響きが仲良く会話する」なんて書かれること自体が、うーん……という感じです)。だってもし71歳やで! これだけ吹けるだけでも立派やん! そらそうです。そらそうやけどなあ……。だって、ビリー・ハーパーですから! ウェストンより16歳も若いやん。全体を覆うスピリチュアルな雰囲気は、すばらしいと思う。
「VOLCANO BLUES」(EMARCY PHCE−5053)
RANDY WESTON/MELBA LISTON
ランディ・ウェストンのビッグバンドで、アレンジは全面的にメルバ・リストンが行っている(コンボ演奏2曲と、ヘッドアレンジによる「クチェザ・ブルース」を除く)。このアレンジがシンプルだが、5管編成という少ない管楽器数とパーカッション2人による多彩なリズムをいかした、めちゃくちゃかっこいいもので、連名になっているのもわかる。内容はまさに「ヴォルケイノ・ブルース」としか言いようがないもので、つまりブルースを前面に押し出した作品。そこにランディ・ウェストンらしく、(ブルースのルーツとしての)アフリカ的なテイストもどーんと横たわっているような内容。いやー、これはかっこええわ。1曲目はジョニー・コープランドのギター弾き語りで、もろブルース。このアルバムが一種の組曲だとわかる構成。2曲目は、アフリカっぽいパーカッションと繰り返されるベースラインを基底に、フルートとトランペット、テナーサックスを中心にモーダルなテーマが奏でられる。ぞわぞわするほどかっこいい、黒いグルーヴのある曲。アフリカンなホーンリフとランディ・ウェストンのピアノが交互に現れる構成で、重くて黒いピアノと重くて黒いホーンリフが雰囲気を高めていく(曲名はブルースとなっていたが、一発もの)。3曲目はトランペット(ウォレス・ルーニー)を中心としたテーマのゴージャスなマイナー曲で、ちょっと変則マイナーブルースっぽい。4曲目は、トーキングドラムではじまりハミエット・ブルーイットのバリトンがアンサンブルをリードする暗くてかっこいい、アフリカっぽい曲。5曲目は、ようやく普通のブルース進行の曲が出た。リズムはラテンで、賑やかな雰囲気の楽しい曲。カウント・ベイシーのナンバーだそうだが(たしかに後半のアンサンブルはそんな感じ)、ソロをとるベニー・パウエルはベイシーにもいたひと。ランディ・ウェストンのピアノソロもええ感じ。6曲目はテナーのテディ・エドワーズをフィーチュアしたスローブルース(これもベイシーナンバーらしい)で、エドワーズがダルい、スウィングテナーの雰囲気を出したずるずるのブルースの感じを出している。そのあとジョニー・コープランド再登場で、これがベイシーっぽい、たとえばジョー・ウィリアムスあたりのシャウターみたいに聞こえてかっこいい(トロンボーンがオブリガードをする。なお日本語ライナーに、コープランドがフレディ・グリーン張りのカッティングをするとあるがこれはテッド・ダンバー?)。ランディのピアノもベイシーっぽい音数の少ないもの。7曲目は、変形マイナーブルース。テーマも吹き伸ばしのリフで、リズムはアフリカっぽい。ベニー・パウエルとウォレス・ルーニーがフィーチュアされて、そのバックでランディの重たいコードがずしん、ずしんと響き渡る。こういう、サブドミにいかないアレンジだと、モードジャズみたいに聞こえるなあ。8曲目はバラードで、テディ・エドワーズのテナーを中心にしたゴージャスなテーマがなんともいえず心に響く。ソロもテナーがフィーチュアされるが、見事の一言(これも曲名はブルースとなっているがちがうと思う)。9曲目はシンプルなリフブルース+パーカッションで、カンザスシティブルースっぽい荒さがいい。アルトサックス、ベース、ピアノがフィーチュアされる。コンガが躍動している。10曲目はこれもカンサスシティっぽいリフブルースで、バッキングのリフもカンサスっぽい。アルトソロのあとに登場するピアノソロもベイシーマナーに聴こえるが、斧のような低音がハッとさせられる。11曲目は、ランディ・ウェストンの激しいピアノソロで幕を開ける。いちばんランディ・ウェストンっぽい演奏で、低音部のオスティナートは心をかきむしられる。テナーとのデュオだが、正直、本作でいちばん好きな演奏はこれかもしれない。いやー、テディ・エドワーズってたしかにこういう黒っぽい、ドスの効いた演奏もすることあるけど、これは驚きました。しみるー。この曲一曲だけのために買ってもいいぐらい。12曲目はユニゾンで力強く演奏されるリフブルースでソロ回しの曲。。激しいアフリカンリズムに乗って、テーマのあとに飛び出してくるハミエット・ブルーイットのバリトンのブロウはめちゃかっこいい。つづくテナーもいいが、そのあとのTKブルーのソプラノソロがすばらしい。そして、ワンノートで吹きまくるベニー・パウエルの豪快なトロンボーンもめちゃいい。ウォレス・ルーニーのトランペットのあとに出てくるテッド・ダンバーのシンプルな単音ソロ、歌いまくるベースソロ、そしてふたたびテーマ。全体にパーカッションが効きまくっている躍動的な演奏で、ひとりとしてダレるソロがなく、個性的なものばかり。ラストの13曲目は、強烈なドラムソロではじまるマイナーなリフ曲で、これもブルースとなっているがそうではない。TKブルーのソプラノソロは快調そのもの。そのあと、突然曲調が変わって、ゆっくりのテンポでのアンサンブルになるが、ビート感は維持され、ピアノの無伴奏ソロになって、エンディングというピリッとした曲で、この聴きごたえのあるアルバムは見事な結末を迎える。傑作。
「THE SPIRITS OF OUR ANCESTORS」(EMARCY PHCE2032−3)
RANDY WESTON
邦題は「アフリカ」で非常にモロだが、原題は上記である。ランディ・ウェストンは、アフリカをテーマにしたオーケストラ作品をいくつも録音しているが、本作はそのなかでも私がいちばん好きな一枚(二枚組だけど)で、その理由はなんといってもファラオ・サンダースが入っていることにある。テーマがアフリカで、オーケストラで、ランディのガンガン弾きまくるピアノで、ツインベースで、パーカッションとヴォイスも入ってて……とこれはまさしく70年代ドロドロジャズの延長にあるような音楽であり、そこにファラオの咆哮がくわわるというのはまったくもって私のためにあるようなアルバムではないか。しかも、ファラオとデューイ・レッドマンとビリー・ハーパーという、他では実現しなかったであろう驚異の3テナーでもあり(さすがに3人でソロをとる曲はないが)、ディジー・ガレスピーやアイドリス・シュリーマン(!)も入っていたりして、言うことなしである(ドラムはアイドリス・ムハマッド)。だが、聴いてみると、(もちろん上記のような聴き方もできるのだが)本作はゲストがどうのこうのというレベルとは違った意味で傑作であり、とんでもないエネルギーを持った凄まじいアルバムなのだ。全体がひとつの組曲になっており、雄大なストーリーが語られる。この凄いメンバーを使って、メルバ・リストンにアレンジをさせて、ちゃんと自分の意図どおりに作品をしあげたランディに拍手。これだけ豪華メンバーをそろえているのに1曲目がランディ・ウェストンのソロピアノからはじまるというのも示唆的だが、このソロがまためちゃくちゃかっこいいのだ。シンプルだがオーケストラに匹敵するぐらいの巨大なパワーを感じさせるソロピアノで、これはこのひとにしかできんわなあ、と感嘆また感嘆。2曲目は、ナイルの流れを思わせるようなディープでゆったりしたピアノにはじまり、ラプソディックなクラシックっぽい曲調になり、全体にウェストンの右腕でもあるタリブ・キブウェのフルートが大フィーチュアされる。ベニー・パウエルの悠々としたトロンボーンもいい感じ。曲調はどんどん変わり、短いなかにさまざまな場面が矢継ぎ早に展開していくのだが、それが「目まぐるしい」といった感じにはならず、ひとつのお話を聴いているように楽しい。随所にびしびしとはまりまくるピアノがかっこいい。3曲目は、パーカッションがカラフルなマイナー曲。ゴーン! ゴーン! と寺の鐘のように強調されるピアノの低音に煽られるようにファラオ・サンダースがまずいつものテイストでたっぷり時間をかけてゆったりと吹き上げる。そのあとデューイ・レッドマンがこれもええ感じのソロをして、そのあとふたりのバトル(?)になる。音を聴けばすぐにどちらかわかるが、フレージングそのものはこういった曲調においてはよく似ていて、まるで兄弟のようだ。そのあとパーカッションのリズムとベースのオスティナートに乗ってランディの自由奔放かつハンマーのようにずしりと重いピアノソロ。さまざまな必殺技が繰り出されて、見事のひとこと。かーっこいいっ! ベニー・パウエルのバストロソロのあと、ドラムソロがあって、最後はオスティナートだけが延々と続くのだが、ここがまたいいんですねー。4曲目はアフリカンパーカッションとヴォーカルをフィーチュアした曲で、この曲がここにあることでぐっと「本物」感が高まる。5曲目はピアノとのデュオでアイドリス・シュリーマンが朗々と歌いまくる(というかほぼ無伴奏ソロに近い)オープニングから、アフリカっぽいパーカッションのリズムを押し出したアンサンブルになるのだが、このアレンジはなんともいえないかっこよさだ。ランディのピアノソロは不協和音を強調した、横に流れる感じで(つまりパーカッシヴではないという意味)すごいです。パーカッションとのデュオになるが、非常にシンプルななかに込められたメッセージ的なものを感じる。だれかの曲に似ているような気もするが(モンク? レイシー?)はっきりとは思い出せません。ここで2枚目になり、6曲目はブルース(マイナーブルース)で、ランディのパーカッシヴなソロが大フィーチュアされる。タリブ・キブウェのアルトソロ(このひとのソロはバッピッシュなようで、かなり独特だなあ。いつも感心させられる)をはじめパウエルのトロンボーンソロ、ビリー・ハーパーのテナーソロ(このころはまだ元気はつらつでめちゃかっこええ)、アイドリス・シュリーマンのトランペットソロ、そしてデューイ・レッドマンのやけにまともなソロ。そして、リフをしつこくしつこく繰り返すエンディングがまたかっこいいのだ。うーん、ランディ・ウェストンの特徴は「しつこく」だな。7曲目は、不穏な感じの曲調。同じリフの繰り返しなのだが、モーダルな感じのブルース。テーマのあとベースソロになり、またテーマ。ゆっくりしたグルーヴ。続いてピアノソロ。リズムとたわむれるようなソロだ。またしてもテーマリフ。このルーティーン、同じことの繰り返しなのだが、なぜか心ひかれて飽きない。パウエルの見事なトロンボーンソロ。ブルースの範囲内でヘヴィにシンプルに歌いまくる。かっこいい。最後にまたピアノソロ。かなり長尺の演奏だが、ダレない。ラストの延々という繰り返しも6曲目に準ずる。このしつこさがアフリカっぽいのか? 8曲目はフリーな感じのピアノ〜ベースデュオがイントロダクションのようになっていて、そのあとベースのフリーなソロからパターンを弾きはじめ、パーカッションが加わって、そこにファラオ・サンダースがガイタというチャルメラっぽいというかミュゼットっぽい楽器を乗せる。ここはめちゃくちゃかっこいい。とにかく、吹き伸ばししているだけでかっこよく聴こえるのだからなあ。呪術的なガイタのソロが延々フィーチュアされたあと、ランディ・ウェストンの重いピアノが現れ、ゴンゴンと弾きまくる。なお、この曲は、管楽器はファラオのガイタのみ。9曲目は、ビリー・ハーパーとディジー・ガレスピーとランヴィ・ウェストンが交互にピックアップのようなソロを吹き合い、それをオケが盛り立てるという構造が続いたあと、ランディのイントロに導かれるようにビリー・ハーパーの重量級のブロウがはじまる。このころのハーパーはほんと凄まじいなあ。同じことを吹いても、へなへなの音のやつとは鍛え方がちがう。ぐぐぐーっと底から持ち上げるような音で吹くから説得力がすごいのだ。つづいてベニー・パウエルの、ジャングルに夜明けが訪れたような美しい音色の高音ロングトーン中心のすばらしいソロ。そしてウェストンのダイナミックなソロにつづき、これはもうけっこうヨレヨレのガレスピーのソロ。だが、存在感だけはある。のびやかなタリブ・キブウェ(このひとはアンサンブルでのリードアルトとしても艶やかな音色で活躍している)のアルトソロのあと長いアンサンブルパートを挟んでパーカッション(コンガ?)のソロになる。それが終わると、ガレスピーがカデンツァ的なソロを吹くが、これがさっきとはうってかわってめちゃくちゃかっこいいし安定しているしユーモラスだし、言うことなしの演奏なのだ。不思議だ。ジャズというのはおもしろいもんだよね。ラストの10曲目は、またランディのソロ。これもまた見事。大作アルバムを締めくくるのにふさわしい演奏。というわけで、ファラオ・サンダースはテナーを一曲しか吹いていないし、ほとんどギャーっといってないという点はともかく、本当にすばらしいアルバムだ。多くのひとに聴いてほしいが、現在入手できるのかな? 傑作。
「UFULU AFRICA/HIGHLIFE」(EMI RECORDS/ROULETTE JAZZ CDP7945102)
RANDY WESTON
ランディ・ウェストンの(またしても)アフリカをテーマとした二つの大編成アルバムをカップリングしたお買い得盤。どちらもアレンジは(いつもの)メルバ・リストン。どちらも超豪華メンバーだが、とくに「ウフル・アフリカ」のほうは無駄に豪華で、信じられないようなスターばかりを集めた史上空前のゴージャスな顔ぶれ。しかもその豪華メンバーを使いこなしていない、というか、ただただすごいアンサンブルとウェストンのすごいピアノをクローズアップするためだけに使っている感があるあたりもとんでもない作品なのだ。しかし、これだけ豪華なソロイストたちを並べていると、「もったいないなあ」と思う反面、やはり熱気というか深みがあるのだろうなとも思う。一応、メンバーを軽く書いておくと、「ウフル・アフリカ」は、トランペットがクラーク・テリー、リチャード・ウィリアムス、ベニー・ベイリー、フレディ・ハバード(!)、トロンボーンがスライド・ハンプトン、クウェンティン・ジャクソン、ジミー・クリーブランド、サックスがジジ・グライス、サヒブ・シハブ、バド・ジョンソン、ユーゼフ・ラティーフ(!)、セシル・ペイン、ホルンがジュリアス・ワトキンス、ギター(とギター)がレス・スパン、ケニー・バレル、ベースがジョージ・デュビビエとロン・カーター、ドラムがマックス・ローチ(?)とチャーリー・パーシップとGTホーガン、パーカッションがオラトゥンジとキャンディド……ああ、書いててくらくらしてきたのでこのへんでやめる。肝心の内容だが、「ウフル・アフリカ」のほうは、パーカッションとナレーション(?)による「ウフル! フリーダム」という声のやりとりだけの曲ではじまり、2曲目はこれも3拍子系のパーカッションとピアノ低音のオスティナートによる印象的な曲。管楽器もパーカッシヴに使われているだけ(いやー、贅沢の極み)。3曲目は女性ボーカル(前半)と男性ボーカル(後半)をフィーチュアした「アフリカン・レディ」という曲。バリトンサックスがソロをするときだけ倍の4ビートになる。ポップなような不穏なような曲調のすごく面白い曲で、3+2+5というビートはたしかにアフリカっぽい。4曲目は、きびきびした3拍子のリズムが心地よい曲で、これぞランディ・ウェストン! という感じの曲。トランペットソロがふたりフィーチュアされるがだれなのかはわからん。チェイスになるが、バトルという感じではないなあ。パーカッションふたりとドラムのソロが延々フィーチュアされまくって超かっこいいっす。最後の5曲目はブルースで、最初テナーソロがフィーチュアされるが、たぶんユーゼフ・ラティーフだと思う。よく歌うトランペットソロとトロンボーンソロ、アルトソロ、ミュートトランペットソロ、ギターソロ……とソロ回しが続く。この1曲でソロイストを全部消化しようというのはさすがに無理。35分ほどの短いアルバムだが、非常に充実の内容だ。
つづく「ハイライフ」は、こちらはぐっとこじんまりした編成で6管編成。でも、曲のバラエティはこちらのほうが上かもしれない。トランペットがレイ・コープランド、トロンボーンがクウェンティン・ジャクソン、ホルンがジュリアス・ワトキンス、チューバがアーロン・ベル、テナーがブッカー・アーヴィン、ソプラノがバド・ジョンソン、ベースがペック・モリソン、ドラムがチャーリー・パーシップ、これにパーカッションが3人入る。これも基本的にはランディ・ウェストンのパーカッシヴで力強く、大きなうねりのようなピアノとそのコンポジション(ほんと、ええ曲ばっか)を引き立てるための編成だが、2曲目のすばらしいトランペットソロや6曲目のブルースでのアーヴィンの豪快なソロなども楽しめます。それにしてもウェストンのピアノは、こちらのツボというツボを押してくるような、魅力だらけのソロだなあ。ソロだけでなく、バッキングのときも存在感が半端ではないのだ。全編、バド・ジョンソンのピッチが悪くて音がへろへろのソプラノが耳につき、気になって気になってしかたないが(このひとのソプラノはいつでもこうなのだ。なんで吹くんやろ。スタジオ的な仕事には必要だったからか? 「カンサスシティジャズの侍たち」のセッションでも吹いてたよね)、これも何度も聴いてるうちになんとなく味わいのように感じられてくるから不思議。まさにカップリングされる運命だったかのような2枚。通して聴いてもなんの違和感もないし、ひとつの組曲のようにも聞こえる。最高です。
「LITTLE NILES」(UNITED ARTISTS/東芝EMI LBJ−60058)
RANDY WESTON’S MUSIC
3管編成のセクステットにもかかわらず、メルバ・リストンの秀逸すぎるアレンジの力によって、まるでオーケストラを聴いているかのようなサウンドに仕上がっている。ジョニー・グリフィン(どのソロもすごい)はもちろん、トランペットのレイ・コープランド(A−3のタイトル曲でのソロ!)、そしてリストンのソロもすばらしいうえ、全員がリストンのアレンジをしっかり飲み込んで、アンサンブルとソロの両方をキメまくっているところが爽快である。全曲ランディ・ウェストンのオリジナルであることもこのアルバムにかけるなみなみならぬ意欲のあらわれだと思うが、ウェストンのずっしりと重くスウィングするピアノも全編にわたって最高である。A−2のチャーリー・パーシップのドラムソロ、B−2のジョージ・ジョイナーの重量級のベースソロ、ラストB−3でのベースとティンパニ(!)の掛け合いなどもめちゃくちゃいいし、B−2にこの1曲だけ加わっているアイドリース・シュリーマンのソロもまさにバップですばらしい。3拍子の曲が多いのも本作の特徴(?)で、7曲中3曲がワルツである。とにかく6人全員の個性が前面に出た、ジャズとしては理想的なアルバムであり、ウェストンの曲よし、リストンのアレンジよし、個々のソロよし、アンサンブルよし……という傑作であります。ウェストンの後年の露骨なアフリカ志向はほとんど感じられないが、それでもこの巨人の若き日の充実しまくった表現にメンバー全員が協力して作り上げた最高の音楽だと思います。