「TOUR DE FORCE」(HOUSEHOLD RECORDS DAA003)
PETTER WETTRE/DAVE LIEBMAN
こういうことがあるから新譜購入はやめられない。ペーター・ウェテル(と読むのかどうからわからん)? 誰やねん、こいつ。全然知らんわ。と言いつつスタートボタンを押す。えっ? このテナー、リーブマンじゃなくて、ウェテルなの? すごいやん、このひと。いやー、これはめちゃめちゃかっこええわ。音色も、空間をいかしたプレイも、自由なリズムも……これはかなりすごい。私のもっとも好きなタイプの演奏である。あわててインターネットでペーター・ウェテルとは何者か、調べてみたが、わかったようでわからん。リーブマンも鬼のようだし、ベースがなんとアトミックのリーダーにして変態ベーシストのハーカー・フラーテンだ。うーん、この濃密な音世界はほんとにおいしい。このペーター・ウェテルというひと、しばらく追いかけてみようと思う。うーん、世の中にはまだまだすごいテナーがおるもんですなー。
「LIVE AT COPENHAGEN JAZZHOUSE」(HOUSEHOLD RECORDS DAA002)
PETTER WETTRE TRIO
リーブマンとの共演盤がすごくよかったので、ライヴでピアノレストリオならこのひとの持ち味がもっと発揮できるだろうと思って購入。その読みはバッチリでした。このひとの硬質なトーンはそのままこのひとの音楽性をあらわしている。コルトレーンにルーツを持つスタイルだと思うし、非常にアグレッシヴな面もあり、ドラム、ベースとの有機的なからみも含めて、聴いていてものすごく興奮する要素満載だが、どこか知的な匂いがする(というかどれだけフリーキーに吹いても、どこかで冷静さが残っている)のもまた良い。そういうあたり、たとえばアラン・スキッドモアやパット・ラバーベラと共通するものを感じる。リーブマンやグロスマン、ブレッカーなどは、白人テナーマンとしてある意味突き抜けてしまい、自分の異常な世界を築いているわけだが、このひとはそこまで突き抜けていない。自分の世界とコルトレーンの世界を折衷しながら、うまいバランスを保ちつつ、めちゃめちゃ高度な音楽性を表現しているわけで、そういうひとにも私はひかれるのです。バスクラもいい。共演者もいい。もっと話題になってもいいアルバムなのに。もしかしたら、私が知らないだけですごく売れてるのか……?
「FOUNTAIN OF YOUTH」(HOUSEHOLD RECORDS DAA 007)
PETTER WETTRE
ノルウェーの今や重鎮といっていいひとで、このHOUSEHOLDというレーベルからかなりの枚数の作品をリリースしているテナー奏者である。長いキャリアのあるひとだが、バークリーでリーブマンやガゾーンの教えを受けた、というから欧州からアメリカに渡ってジャズを勉強するひとたちの典型的なパターンを踏んだひとなのかもしれない。しかし、その演奏はコルトレーンをベースにしたモードジャズ的なものにとどまらず、かなり踏み込んだ表現や尖った表現もあり、柔らかい音ではあるが完璧にテナーという楽器を吹きこなし、スケールの粒立ち感など聴いていてとにかく快感である。エルヴィンのライトハウスのコピー譜を出したりしているらしく、そのあたりはかなりのマニアックなこだわりのあるひとだと思う。本作はカルテットで、非常に真摯な演奏ばかり。アラン・スキッドモアなど欧州のテナー奏者との共通点も感じる。それはつまり「シリアスさ」ということだ。コルトレーンに端を発する音楽を徹底的に分析し、それを自分が演奏するにはどういう技術が必要かということを考えて練習につぐ練習を重ね、その実全に向かって邁進する。その過程で自分の個性が浮かび上がってくる。多くの現在のテナー奏者はそういう努力を経てそれぞれの境地に到達しているのだろうが、ペーター・ウェテルもそのひとりで、まさにリーブマンがやってきた困難な道を自分も進もうとしたひとなのだろう。その成果は本作にも十分現れている。作曲も含めて、めちゃくちゃかっこいい。共演者もたいへんな凄腕のひとばかりで4人が一丸となっての演奏は圧倒的である。それにしてもウェテルの、ちょっと思いつめたようなこのシリアスさは心動かされるものがある。おそらく膨大な練習を経てこの状態にたどりつき、維持しているのだろうが、それはこのひとにとっては必要なものなのだ。こういう演奏を「遊びがない」と考えるひともいるかもしれないが、私にとってはこういうテンションはうれしいのです。何度聴いてもすばらしい。じつは私よりも5歳下でまだ若いのです。傑作! しかし、今検索するとラストアルバムというタイトル作品が去年リリースされたらしく、病気かなにかかと思ったらそうではなく、今の音楽ビジネスに対して一旦距離を置く、というようなことらしい。わからんでもないが、また力強いテナーを聴かせてほしいです。