kenny wheeler

「DOUBLE,DOUBLE YOU」(ECM RECORDSECM 1262/POCJ−2225)
KENNY WHEELER

 タイトルがまずかっこいいっすよねー! 今から考えるととんでもない豪華極まりない顔合わせなのだが、それが単に豪華で終わっていなくて、きっちりした音楽的成果を、それもとんでもなくハイレベルな成果を生んでいるところが本作の凄いところである。ケニー・ホイーラーというトランペット奏者は、私の印象では、透明感のある音とフレーズを吹く、いわゆるハードバップ的なアメリカのジャズとは一線を画した音楽性のひとで、しかも、グローブユニティへの参加など、前衛ジャズへの志向も大いに持ち合わせているミュージシャン……という感じなのだが、そのひとがマイケル・ブレッカーと……というのが発売されたときに思ったことである。たぶん、そのふたりを結び付けたのはECMというレーベルなのだろうと思うが、この「傑作にしかなりようがない」メンバーが集結した作品が録音されたのはヨーロッパではなくニューヨークなのだ。しかし、ここで聴かれるサウンドはECMサウンドとしか言いようがないもので、リリシズム、透明感などなどすべてがかっこいいし、ブレッカーもそのなかに溶け込んでいる。全曲ホイーラーのオリジナルだが、1曲目、ホイーラーの硬質なソロが全体の空気感を作り、ジョン・テイラーのピアノソロ、デイヴ・ホランドのベースソロもすばらしさのあと、満を辞した感じで(私にとっては、ですが)10分過ぎぐらいにようやくブレッカー登場となるが、このソロがもう最高なのでありまして……。白熱するホイーラーとブレッカーのブロウをあおるディジョネット……いやー、美味しすぎる。2曲目はホイーラーのトランペットをフィーチュアしたアブストラクトなバラードで、これもピアノとデュオで奏でられる「まさに!」という感じの演奏は40年経った今も新鮮で、たとえばクリフォード・ブラウンやディジー・ガレスピー、ブッカー・リトルの演奏と同じく瑞々しく、しかも彼らのソロがそうであるように挑戦的で前衛的で、そして歌心にあふれている。3曲目はトランペットとテナーの2管で奏でられる旋律にリズムセクションが入ってくる。インテンポになってからはふたりの掛け合いでテーマが演奏される。いわゆる「ジャズ」にいちばん近い感じの曲。ホイーラーのソロもええ感じだが、ブレッカーのソロは「これってドルフィーぽくねえ?」と思うぐらいの微妙に明後日感を演出するフレーズを重ねていく。1曲目のソロでもそう思ったが、ライヴだったらもっと行くところまで行ってると思うなあ。デイヴ・ホランドのベースソロは、もうよだれが出まくりです。エンディングも、なんかいいね。ラストは3曲の組曲で、1曲目はブレッカーのテナーとピアノをフィーチュアした演奏。無伴奏のピアノのすばらしさに耳を奪われる。2曲目はホイーラーがテーマを高らかに歌い上げる。教会音楽のように夾雑物を排した透明なテーマ、そしてソロ。アメリカ的なジャズをやりながら、そのなかからくみ上げてきた結果がこういう演奏なのだろう。ディジョネットのシンバルワークにもそのあたりはしっかり表現されている。そこからベースソロ、そしてブレッカーのソロへの流れも超かっこいいとしか言いようがない。ブレッカーのソロは、本作中もっともブレッカー的で(変な言い方だが、ブレッカーフレーズを駆使しまくっている)、エキサイティングでテクニカルでホットで……とにかく聴き惚れる! これはすごいです。ライナーを書いた青木和富氏はフュージョンがどうのこうのと書いておられるが、それは「時代」であって、今の耳からするとおそらくそういう議論はもう存在しないだろう。ここでのブレッカーのソロは圧倒的で、技術的な側面も今でもこれを凌駕する演奏は多くないと思う。最後はディジョネットのドラムソロで終演。4曲目が、というより全体がひとつの組曲のように思えるほど、統一感のあるサウンドのアルバム。リーダーであるホイーラーの強い意志を感じる。傑作!