bukka white

「PARCHMAN FARM」(SONY RECORDS SRCS7392)
BUKKA WHITE

 ブルースの熱心な聴き手ではないので、昔からこのアルバムのことは知っていたが、聞いたことはなかった。なぜ知っていたかというと、1にも2にもジャケットのインパクトで、LP全面にこのおっさんの顔がドーン! と載っている。しかも、入りきらずにはみ出ている。この凄さだけで覚えていて、中身とかこのブッカ・ホワイトというひとがどういうひとかまるで知らずに今日まで過ごしてきたのだが先日「ブルースを蹴飛ばせ」という本を読んで(著者の方、めちゃめちゃ文章うまい)、ブッカ・ホワイトの略歴を知り、ただちにレコ屋に行って本作を購入したのであります。そういうことがきっかけで、生涯聴き続けるミュージシャンと出会う……ということはありえるのだ。ブッカ・ホワイトは、チャーリー・パットンにギターの手ほどきを受け、その後各地を放浪し、プロ野球の投手になり、それからプロボクサーになった。レコーディングが決まったのに、自分を恨んでいるやつをピストルで撃ち殺してしまい、パーチマン刑務所に収監された(サン・ハウスが入ってたのと同じところらしい)。保釈ののちに吹き込まれたのが本作だという。そんなことはブルースファンなら先刻ご承知なのだろうが、魅力的な経歴ではないか。サン・ハウスにしてもリトル・ウォルターにしてもロバート・ジョンソンにしても、ブルースのひとって殺したり殺されたりが多いような気がする。本作に収録されている曲でも、ブルースらしいエロい歌詞の曲に混じって、黒い列車に乗ってここから行っちまいたいが金がない、という「ブラック・トレイン・ブルース」、この土地では俺は余所者、母親の墓を探してる、という「ストレンジ・プレイス・ブルース」、パーチマン刑務所に入ったがだれも保釈金を払ってくれない、この囚人服をいつになったら脱げるんだ、という「フェン・キャン・アイ・チェンジ・マイ・クローズ」、そのものずばりの「パーチマン・ファーム・ブルース」(厳密にはブルース形式ではない)、禁酒法の歌なのかな? 役人なんか気にせずジンを飲もうぜと楽しげに歌う「グッド・ジン・ブルース」、高熱が出た苦しみを歌った「ハイ・フィーヴァー・ブルース」、地方検事はひでえ野郎だぜと権力者を誹謗する「地方検事ブルース」、頭がおかしいぜ、俺は死ぬんだ、あそこの墓を見ろ、1000人の人間が俺を埋めようとしてる……と病に冒されて死んでいく人間の心中の叫びを歌った「フィクシン・トゥ・ダイ・ブルース」など、かなり強烈な内容のブルースがあふれている。ロバート・ジョンソンのようにすごいテクニックでギターを聞かせるというより、ざくざくと刻むビートに乗って無骨に歌うという感じだが(ブルースのことよくわからないので、頓珍漢なことだったらすいません、声もいいし、音程も完璧だし、ギターの伴奏とリズムも見事で(たぶんかなりむずかしいことをさらりとやっている)、ソロ(厳密にはウォッシュボード・サムとデュオだが)で録音していることは途中から忘れてしまう。あー、かっこええなあ。個人的には「フィクシン・トゥ・ダイ・ブルース」が何度聴いてもぞっとするような暗さとかっこよさに満ちていると思う。出会いに感謝。