「PREACH BROTHER!」(BLUE NOTE RECORDS ST−84107)
DON WILKERSON
リヴァーサイドの「テキサス・ツイスター」に続くリーダー作。リンクのメタルをつけたテナーの写真が印象的である。メンバーは、ソニー・クラーク、グラント・グリーン、ブッチ・ウォーレン、ビリー・ヒギンズ……とめちゃくちゃ豪華だが、よく考えるとオルガンがいない。どう考えてもオルガンがいるべき音楽ではないか。1曲目のノリノリのブルースはカウント・ベイシーの古い曲をシャッフルで現代的なダンスナンバーに仕立てました、という感じだが、ウィルカーソンというひとは案外「音」が軽く、高音中心に吹くということもあってか、か細くてひょろっとした印象を受ける。テキサステナーで錚々たるブルースマンのバックを務めていた、という経歴から、さぞかしドスのきいたブロウをするのだろうと思っていたが、当時、いそいそと聞いてみて拍子抜けした覚えがある。レイ・チャールズの有名ヒットナンバーでソロをしているひとなのに……と思ったが、今にして思えば、たとえばこれはスタンリー・タレンタインに相通じる演奏なのだ(高音部をひょろひょろっとしたビブラートをかけて吹くところとかブルーノート多発のフレーズとか)。あるいは、同じくレイ・チャールズバンドの番頭格であったファットヘッド・ニューマンとか。しかし、フレージングの中身や曲の構成は完全にホンカーやブロウテナーのそれである。1曲目のグラント・グリーンとからみあいながら吹きまくるソロ、グリーンの歌いまくるソロ、ソニー・クラークのソロなどは濃いソウルジャズを求めるひとにはちょっと物足りないかもしれないが、逆にどれもモダンジャズ的には美味しい感じだ。ともあれ、最後の締めはギターとテナーのリフの掛け合い(?)によるベイシー的なエンディングの盛り上げ方で、明るすぎるぐらい明るい曲である。2曲目はスローブルースで、オクターブ下で吹いてもいいのに、と思うような感じのテーマの吹き方。高音部が好きなんですね。そして、中音域、低音域でもけっして音が重くない。このあたりもタレンタインと似てるかもなー。玉をコロコロと転がすようなソニー・クラークのソロ、ほとんどリフに終始するブルース魂あふれるグリーンのソロなど聴きどころも多い。3曲目もブルースで、クラーベが似合うようなラテンっぽいリズムのリフ曲。掛け声も入る楽しい曲。ウィルカーソンも軽ーい感じで吹いているのだが、そこからとめどないテキサステナー臭とブルースフィーリングがあふれる。音が細いのでピンとこないかもしれないが、吹いていることはまさにブロウテナーの教科書のようなすばらしいソロである。B面に参りましょう。1曲目はR&B的なノリの曲で、ブルースっぽい(けど、ブルースではない)曲調。だれだかわからないが(たぶんウィルカーソン)ボーカル(?)を取る。「キャンプ・ミーティング」というタイトル通り、どことなくキャンプでの楽しい体験を思わせる曲調。テナーもグラント・グリーンのギターも快調で、なーんにも考えなくてもいい雰囲気。テナーソロのブレイクも「ここぞ!」という感じではなく、軽ーいノリである。2曲目は、「エルドラド・シャッフル」という意味深なタイトルだが、普通のリフブルース。タイトルは「シャッフル」とあるが、シャッフルと4ビートのあいだぐらい。グラント・グリーンやソニー・クラークなどにとっては実力を全開にしたセッションではないのかもしれないが、個人的にはとても好ましい演奏である。ウィルカーソンのテナーソロも軽く吹き流しているようで、美味しいところはきちんと押さえたものである。ラストの3曲目はこれまた呑気な曲調のミディアムの4ビートの曲。後藤誠氏の日本語解説によると「ホンカーの神髄を聴かせる」とあるが、どの部分のことなのか教えてほしい。どこやねん、それ。あと、「マーチのリズムを取り入れ、オーソドックスな展開も見せる」というのも、どこやねん、と思う。結局6曲中4曲がブルースという内容だが、「すごいのでは……!」と思って聴いたら案外、軽いアルバムだった……でも、最近聴き返すと、なかなか味わい深い、という感じの作品でした。東芝の日本語ライナーは、惑わされるかもしれないのでマジで読まない方がいいかも。ドン・ウィルカーソンはB・B・キングの「ブルース・アンド・ジャズ」にも(ホーンセクションとして)参加していて、同時代的に同作を聴いたものとしてはとても親しみがあります。
「ELDER DON」((BLUE NOTE RECORDS ST−84107)
DON WILKERSON
「プリーチ・ブラザー!」より吹き込みは前だが、リリースされたのは後というややこしいアルバム。正直、「プリーチ・ブラザー!」よりも(録音のせいか)ウィルカーソンのテナーが太く、たくましく録音されていて、はるかにこちらの方が個人的には好ましい。2作に共通しているのはグラント・グリーンのギターで、ソロにバッキングにアンサンブルに、ととても重要な役割をしている。A面1曲目はラテンフレーバーのブルースだが、ウィルカーソンのテナーも例の揺れるようなビブラートも含めて絶好調である。グリーンのギターソロもほんまにかっこよくて、1曲目にふさわしい快演。2曲目は「ジャンバラヤ」みたいなニューオリンズ的な雰囲気もあるクラーベの似合う楽しい演奏。ウィルカーソンは単にこういうリズムを取り入れるだけでなく、自身が対応してソロをしている。かなりのロングソロだが飽きさせないだけの実力がある。そして、グラント・グリーンのギターもピッキングのひとつひとつに心がこもっているような気がする。ジョニー・エイシアのピアノも気迫があります。3曲目はアップテンポの循環だが、なかなかハードな曲調である。こういうコード分解のソロをばりばり吹く、というのは、ウィキペディアとかに書いてるイリノイ・ジャケー、アーネット・コブ云々というだけでは説明できず、やはりバップのひとなのだと思う。グリーンのギターソロもジョニー・エイシアのピアノも秀逸。B面に行って、シャッフルの軽快なブルース。テナーの独特のねちっこさも、このぐらいのテンポだとよくわかる。フレーズのすみずみにまで気を配って吹いている、腕のあるテナーマンだ。この曲でのソロが本作中の白眉かも。グラント・グリーンのロングソロも聴きごたえ十分。まるでブギウギピアノのようなエイシアのピアノソロも面白い(このひと、63年に亡くなったらしいから、この録音の翌年に亡くなったわけである。もともとトランぺッターでありサックス奏者でもあった、という経歴がかなり謎。錚々たる共演歴のひとである)。2曲目もカラッと明るい曲調にウィルカーソンのねばりつくようなテナーがていねいなフレーズを重ねていく。これはもうソウルジャズとかR&Bとかホンカーとかとはまるでちがう普通の4ビートジャズで、しかもなかなかええ感じである。1曲目でもそう思ったが、ウィルカーソンはだれかのバックでリフを吹いたり、シンプルなテーマを吹いたりするときも、かなり考えていろいろ気遣いをして、いちばんいい表現をさぐろうとしているようで、そこらあたりがリーダーの器ということだろうか。とにかく神経の細かいひとではあったと思う。ラストはスタンダードの「プア・バタフライ」。本作唯一のバラードだが、テナーもピアノもいい味を出している。ウィルカーソンは、ホンカー系のひとならベン・ウエブスターばりに中音域のサブトーンでいやらしく吹くところを高音じ吹ききるあたりが、スタンリー・タレンタインを思わせるのである。つまり、新時代の奏者という感じ。全体に、この手のソウルジャズにありがちの「作曲はいいかげん」ということがなく、リフのブルースであってもきちんと作曲されたものであるのも、なんというかウィルカーソンのひととなりを感じる(6曲中4曲がウィルカーソンの曲)。