corey wilkes

「KIND OF MILES  LIVE AT THE VELVET LOUNGE」(KATALYST ENTERTAINMENT)
COREY WILKES

 コーリー・ウィルクスは私の知る限りではあのアート・アンサンブル・オブ・シカゴにレスターの死後に参加したり、本作にも参加しててずっとしゃべりながら(歌いながら?)演奏しているカヒール・エルザバーのグループに入ったり……とシカゴを拠点にどっしりした活動を続けているトランぺッターという印象だったが(本作もあのベルベット・ラウンジでのライヴ!)、ここまでマイルスに入れ込んでいたとは知らんかった。フリーっぽいことはもちろん、ヒップホップでコワモテなアルバムを出したり、いろいろやるところもレスターっぽいなあと思っていたのだが、その発想の源泉にはマイルスがあるようで、本作も「イエスタデイズ」(アルバムジャケットでは「イエスタデイ’ズ」と誤記。マイルスのブルーノート盤にたしか入ってたような……)、「イッツ・アバウト・ザットタイム」、「トゥトゥ」、「ソー・ファット〜イン・イッツ・ライト・プレイス」(後者はレディオヘッドの「エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス」のこと)などマイルス関連の曲が年代バラバラて演奏されている。このアルバムが発売されたときのことはなんとなく覚えているのだが、よくあるマイルス・トリビュートだろうと思って聴かなかった。でも、今回、中古で出ていて超安かったのと、パーカッションがカヒールなので、カヒール目当てで購入したら、うひょーっ、めちゃくちゃかっこええやないの!4曲ともものすごく長くて、1曲目の「イエスタデイズ」が約20分、最後の曲は26分もあるが、グルーヴもあるし、曲としての起伏もあるし、まったくダレずに聴ける。リズムセクションがいいせいもある。カヒールはずーっとお経みたいな歌(?)をけっこうでかい声で歌いながら叩いていて、それがまったくマイルストリビュートらしさをぶち壊していて最高である。ドラムもツボをよく心得ていて盛り上げまくる。1曲目の唯一のジャズっぽい曲である「イエスタデイズ」もなんだか古くさい雰囲気ではじまり、え? と思ったのだが、テーマを昔のマイルス風に吹いたあとは4ビートではなくR&Bな感じになり、ミュートトランペットの古風さ(途中でオープンにする)とビートのコテコテさのギャップが楽しい。これまで聴いたアルバムではさほど感じなかったのだが、コーリーというひとは相当ジャズも上手いのだ。テナーのひとはまったく知らないのだが、上手いのだがスムーズに吹きまくるというより武骨な野武士のような感じ(シカゴのテナーマンの特徴なのか? ボン・フリーマンに教わったとか書いてあったのでそのせいか? アモンズ、フレッド・アンダーソンなどにも通じる)でなかなかええなあとこの1曲目のときは思っていたのだが、2曲目以降ではそれが「うわーっ、めちゃくちゃええやん!」という印象になった。そしてキーボードのグレッグ・スペロというひとだが、このひとも面白い。途中で、絶対ジャズのひとでは弾かないようなフレーズを弾いたりしてる。そして、カヒールのパーカッションソロはこのマイルストリビュート曲をアフリカに染める。おもろいなあ。2曲目はおなじみの「イン・ナ・サイレント・ウェイ」のアレだが、1曲目ではブルーノート〜プレスティッジ期のマイルスになりきっていたコーリーが、いきなりフィルモアのマイルスに変身だ。これは笑うしかない。テナーも1曲目ではフリーキーな感じだったのが、ここではグロスマンかリーブマンみたいなフレーズを延々吹きまくり、しかも最後は絶叫! このひと、もっと有名になってもいいのになあ(もしかしたら俺が知らんだけで有名なのか?)。エレピのソロもぶっとんでて、それにからむ(?)たぶんカヒールの声というか叫びだけがマイルス憑依を現実に引き戻す。でも、当時のマイルスバンドにドン・アライアスやムトゥーメのかわりとしてカヒールが参加しててもおかしくないよね。でも、こんなに声だしたら怒られるか。でも、3曲目の「トゥトゥ」が、じつはコーリーが一番やりたかった曲では?と私はにらんでいる。じつにいきいきした演奏なのだ。トランペットはもちろんエレピが爆発している。しかしベースソロ〜パーカッションソロのあたりからまたしても民族音楽の匂いが充満してきてすばらしい(まあ、もともとそういう曲でもあるが)。そしてラストの「ソー・ファット〜イン・イッツ・ライト・プレイス」だが、冒頭から異様に昂揚する。そして、ぐっと引き締まったところで「ソー・ファット」のテーマらしきものをベースが奏でるがまあただの一発もの的な扱いだ(一応AABAっぽくは弾いているけどそのあとソロになったらなんの関係もなくなる)。でも、いいではないか! コーリー・ウィルクスにはこういうのが一番向いているのでは? ダーティーな音もまじえて自由自在に、好き勝手に吹きまくるウィルクスとそれに延々からむカヒールの「声」。テナーソロも思索的でアイデアをきちんと発展していく感じもあって好感度大。この曲でもゴリゴリと腰のすわったブロウを展開してくれて惚れました。かなり長めのピアノソロのあとはカヒールの「歌いながら叩く」スタイルがこれでもかというぐらい満喫できる。いやー、面白かった。マイルス・トリビュートかと思ったらエスニック・ヘリティッジ・アンサンブルだった……みたいな印象。傑作。