jack wilkins

「MERGE」(CHIAROSCURO RECORDS CR(D)106)
JACK WILKINS

 マイケル・ブレッカーの4ビートとして知られているアルバムで、「YOU CAN’T LIVE WITHOUT IT」と「MERGE」のカップリングから「MERGE」収録の「BROWN WARM & WINTERY」だけを削ったものだが、マイケル云々よりもなんといってもリーダーのギタリストジャック・ウィルキンスの気迫みなぎる演奏がとにかくすごい。「MERGE」のほうはウィルキンス、ランディ・ブレッカー、エディ・ゴメス、ジャック・ディジョネットのカルテットで、「YOU CAN’T LIVE WITHOUT IT」のほうはマイケル、ランディ、フィル・マーコウィッツのピアノ、ジョン・バーのベース、アル・フォスターのドラムというクインテット。曲順の構成も変えてあるので、ちょっとややこしいが、普通に鑑賞する分には違和感はない。とにかく1曲目の超アップテンポのウィルキンスのオリジナルでのギターとランディの完璧なソロには瞠目する。そして、それをあおりまくるエディ・ゴメスのベースもすばらしい。2曲目はうってかわって楽しくスウィングする4ビートだが、ここでは作曲者であるディジョネットが弾くピアノがめちゃくちゃすごい。3曲目はマイケルをフィーチュアした「インヴィテイション」だが、ルバートではじまり、途中からインテンポになるあたりから壮絶極まりないハードなブロウになり、あとはあれよあれよと聞き惚れるばかり。この曲は、後年に至るまでのマイケルの愛奏曲でもある。テナー→ギター→トランペットというソロ順で、やはりマイケルが輝きまくっているがほかのソロも充実しまくっている。ラストでマイケルがテーマを吹きはじめるあたりのごちゃごちゃっとした雰囲気は、この曲がジャムセッション的演奏だからなのかもしれないが、かえってスリリングである。4曲目はこれもスタンダードで「ファッツ・ニュー」。流麗なギターが先発で、続いてランディのこれも見事なトランペットソロが続く。ランディはずっと16分音符でコード分解のバップのお手本みたいなソロを吹きまくっているのだが、続くマイケルは最初、元のリズムに戻して、サブトーンでバラードを切々と吹き、往年のジャズジャイアンツ(コールマン・ホーキンスとかベン・ウエブスターとか……)を想起させるような演奏ですばらしい。なんでもできるなあ。そのあと、かなり個性的なピアノソロがあって、これもすばらしいです。そして、ピアノソロ(無伴奏)のまま終わる。なんや、これは! かっこええやないか! 5曲目は「ファット・イズ・ディス・シング・コールド・ラヴ」で、かなりアップテンポ。ギターソロからはじまり、ランディ、マイケルとソロが続くが、やはりテナーに耳が吸い付けられるよなあ。あいかわらずテクニックと音楽がしっかりと結びついた最高のソロでした。ピアノソロもかっこいい。6曲目は「バズ」という曲名で作曲は「ブレッカー」とだけあるので、どっちかわからん!(まあ、ランディなのだけど……)サンバ的なリズムの曲。ランディのフリューゲルが、大げさに言うと、天空を舞うような清々しいソロを繰り広げる。7曲目はまたまたスタンダードで「フォーリン・イン・ラヴ・ウィズ・ラヴ」だが、冒頭、エディ・ゴメスのえげつない超絶技巧の圧倒的なソロがフィーチュアされる。続くランディのフリューゲルも楽器コントロールも端正で見事。最後のウィルキンスのギターもランディと同じ言葉を送りたい。ディジョネットのドラムとのバースもめちゃくちゃすごいし、最後のギターとランディが同時に演奏しまくるパートも圧巻。8曲目はリターン・トゥ・フォーエヴァーとかでやってるチック・コリアのおなじみの曲だが、ここではエディ・ゴメスのベースとウィルキンスのギターのデュオで演奏される。デュオといっても、リズムギターとピチカートのベースのうえにアルコベースとエレキギターが多重録音されているので、実質はカルテットと言えないこともない。これがすばらしいのであります。ラストはこれもコルトレーン〜ケニー・バレルの演奏で有名なトミー・フラナガンのブルース「フレイト・トレイン」で、多くのテナー奏者の愛奏曲である。このバップ曲でマイケルはバップ曲の新解釈のお手本のように見事な演奏をする。ウィルキンスとランディも同様で、聴きごたえ十分。ラストの延々続くアル・フォスターとのワンコーラスバースも熱い。いやー、かっこええなー。傑作。