「CHARLES WILLIAMS」(MAINSTREEM/P−VINE RECORDS PCD−23920)
CHARLES WILLIAMS
コテコテデラックスで名前のみ有名になっていたチャールズ・ウィリアムズ。ようやく聴くことができたが、なるほどなるほど、これは原田和典というひとがあれだけ煽る気持ちもわかる。それほどすごかった。すごいだけじゃなくて、完全に私の好みである。ブルースを熱く吹くアルト、というのはほかにもいるけど、音がへろへろだったり、か細かったりすると興ざめだが、チャールズ・ウィリアムスは芯のしっかりした、太い音で、高音から低音までぶりぶりだ。こういうアルトなら私も大好きなのだ。共演のバッバ・ブルックス(このひとの晩年のリーダー作は何年かまえに、たまたま買っていた。もう、衰えが目立ったが、この歳で吹けるということは全盛期はかくや、と思わせるような出来で、そして、本作は彼のその「全盛期」が聴けるのだ)も、タフテナーで、しかも大味でない、という私の好みで、ドン・ピューレンがオルガンで参加している点も点数高い。選曲も、ブルース中心だが、スタンダードもあって、魅力たっぷり。ああ、これはもう一作の「ソング・フロム・ジ・オールド・カントリー」の入ってる盤が出るのがめちゃめちゃ楽しみだ。この作品、コーナーポケットのマスターに聴かせたかったなあ……。
「TREES AND GRASS AND THINGS」(MAINSTREEM/P−VINE RECORDS PCD−23929)
CHARLES WILLIAMS
二枚目も復刻された。前作とメンバーは一人を除いて全部一緒。狙っているサウンドも一緒。本作の目玉はおそらくラストに入ってる「ソング・フロム・ジ・オールド・カントリー」の初演と、前作のテッド・ダンバーにかわって参加しているギターのコーネル・デュプリー。「ソング・フロム……」のほうは、まったくアダムス〜ピューレンバンドとアレンジもほとんどかわらず、ちょっとのんびりしてるなあという程度で、遜色まるでなし。また、いろんな曲で活躍しているコーネル・デュプリーはさすがにこってりしたブルース臭に満ちたソロやバッキングでグループに貢献している。このバンドのおいしいところは、ブルースっぽい曲と、マイナー系泣き節の二本だてだと思うが、本作でもそれが嫌というほど味わえる。リーダーのウィリアムスのソロ(ええ音やなあ)はもちろんだが、バッバ・ブルックスのソウルフルなテナーが毎曲楽しみなのだ。このひともええ音や。原田和典という評論家は、「なにゆうとんねんこのおっさん」と思うような意見も吐くひとだが、このチャールズ・ウィリアムスに関しては、まさにそうですあなたのおっしゃるとおりですよくぞ復刻してくださいましたと最大級の讃辞を送りたい。「ええ曲ばっか」の傑作アルバムです。
「STICKBALL」(MAINSTREAM RECORDS CDSOL−45226)
CHARLES WILLIAMS
チャールズ・ウィリアムスというひとはメイシオやハンク・クロフォードなんかにくらべてもずっと熱血のアルトをブロウするブルースアルトだと思う(マウスピースはたぶんセルマーソロイスト)。私が聴いたことがあるコンボでのリーダー作2作は、いずれも絶品だったが、そんなチャールズ・ウィリアムスに大編成のバックをつけて、ゴージャスに歌わせてみたらどうなるか……というのが本作の趣向だろう。選曲も往年のR&B〜ソウルなどのポップヒットチューンが多く、全体のサウンドも懐かしいというかレトロで、さすがにコンボのときのように血管ぶちぎれのブロウ……とまではいかず、音色はあくまで澄み渡っていて、非常にメロウな面も引き出せているが、アルトの録音がちょっと引っ込んでいることもあり、なんとなく物足りないなあと思っていたのだが、あるとき酒を飲んで聴いてみると、なんとなんとこれがめちゃくちゃいい感じに聞こえるのである。こういうことがあるから酒を飲んでレコードを聞かなければならんのだ(←ちがう)。まあ、このひとのアルバムのなかではお上品な方なのだろうが、「なんやこれ。ぬるいなあ」と思ったかたがいらっしゃったら、ぜひ一杯飲んでから再度聴くことをおすすめしたい。たとえばソニー・クリスの最晩年の2作(「ジョイ・オブ・サックス」とか「ウォーム・アンド・ソニー」とか)あたりに比べても全然いけます。――とまあ、3曲目まではまあそういう感じ(どういう感じ?)なのだが、4曲目からちょっと様相が変わってきて、けっこうガッツのあるへヴィなファンクやどブルースにシフトして、突然聴きごたえ十分な雰囲気になる。チャールズ・ウィリアムスも本領発揮の気合いのブロウを展開するし、オルガンのドン・プーレンも狂ったような錐揉みのソロをぶちまけ、コーネル・デュプリーも繊細な音色なのにギトギトのブルースを聞かせてくれる。1〜3曲目まで聴いて、うーん……と思ったひとはあきらめずに4曲目以降を聴くべし! 編曲と指揮はアーニー・ウィルキンスで、これがなかなか時代を感じさせて悪くないのです。ストリングスセクションも、日本語のメンバー紹介ではチェロの3人しか書いていないが、ジャケット写真を見ると、かなり大勢の本格的なものだ。ホーンセクションはランディ・ブレッカー、フランク・ウエス、クリス・ウッズなど猛者揃いだし、リズムもレギュラーのドン・プーレンをはじめ、コーネル・デュプリーやデヴィッド・スピノザ、ゴードン・エドワーズ、レイ・バレット……とまるでスタッフ。そして、盟友にしてティナ・ブルックスの兄にしてブローテナーのバッバ・ブルックスももちろん参加している。こういう企画だとホーンセクションにソロは回ってこないことがおおいと思うが、本作ではたとえば4曲目の先発ソロはたぶんクリス・ウッズで、ウィリアムズとは対照的なスタイルでのめちゃくちゃいいソロである。また、7曲目のスローブルースではバッバ・ブルックスが低音部ではサブトーンでいやらしーく、高音部ではダーティートーンで熱く盛り上げる……という定番の吹き方でブルーノートスケール一発のソロをブロウして、すばらしい。その後のチャールズ・ウィリアムスのソロもまるでブルースギターのように泣きまくる最高の演奏。ラストの「ウィーロー・ウィープ・フォー・ミー」はなぜかこれだけバッバのテナーをフィーチャーしたジャズで、コンボによる演奏。バッバがサブトーンで泣きまくる(もとのレコードには入ってなくて、CD化のときの追加曲らしい)。しかも、テナーはテーマだけで、そのあとウィリアムズのアルトソロになり、ブレイクになってエンディング(最後の最後に、テナーに引き継がれているような気がするがどこからなのかよくわからん)。いい演奏だが、やはり全体の統一感としてはちょっと欠ける感じなので、レコードに収録されなかったのもわかる。思うに、これだけの実力あるプレイヤーがたった3枚のリーダー作しか吹き込めなかったのは、名前のせいではないか。チャールズ・ウィリアムスって……めちゃくちゃ地味やん。