「NIES JA 1978」(BLACK & BLUE CDSOL−46048)
MARY LOU WILLIAMS
ブラック・アンド・ブルーはこんなのも録音していたのか……! メリー・ルー・ウィリアムスは学生時代にパブロのカタログを見ていて、セシル・テイラーとの共演盤があることで名前を覚え、のちにそのアルバムを聴いて仰天した覚えがある。とにかくワン・アンド・オンリーのひとで、ストライドピアノやブギウギ(4曲目の「ロール・エム」など)がベースにあるのかもしれないが、とにかく重い。の重量感に驚く。軽快なスウィングするはずの曲も、ひたすらヘヴィである。ヘヴィなのに軽快である。楽しく、歌心にあふれ、ブルーズであり、踊れる音楽なのだが……重い。これがかっこいい! 鉈でぶった切るようなリズム主体のフレーズはごつごつしているのに楽しい。そして、ぶち込まれる左手の思い切りのよさ。均等にコロコロ転がるテディ・ウィルソンなどのスウィングではなく、ガラガラとあちこちにぶつかりながら転がっていくすばらしいスウィング。ドラムがジョー・ジョーンズというのも注目で、ベイシーのOBセッションなどでニヤニヤしながら古臭いドラムを叩いているひと……ではまったくないことが本作のがっつりした録音でわかる。嬉々として叩いているであろう3曲目、6曲目などのソロなんか、(こういう言葉は誤解を招きそうだが)クリエイティヴなアイデアに満ちていて、ドラマーとしての創造性がほとばしっている。トリオを支えるベースもいい……と思ったら、なんとロニー・ボイキンス。なるほど、すごいメンバーである。全体にドスの利いた、ねちっこいノリの演奏で、しかもかっこいいし、楽しいというところが他とちがうところである。リーダーであるメリー・ルーの個性が、普通にスタンダードやブルーズを弾いているだけなのに、マグマのようにぐつぐつとにじみ出て、すべてを侵食するところがすごい。そして、ベースとドラムの個性も同じようににじみ出て、溶け合って、煮えたぎる。インタープレイや丁々発止のやりとりも随所にあって、スターとその伴奏……みたいな小洒落たスウィングジャズと一線を画するブラックネスあふれるめちゃくちゃかっこいいピアノトリオである。「セントルイス・ブルーズ」もかなり濃厚なアレンジをほどこされており、生まれ変わっている。オリジナル曲もすばらしい(7曲目とか)。一筋縄ではいかないメリー・ルーの、時代を超えた創造性や個性が感じ取れる傑作。大推薦。