tony williams

「WILDERNESS」(東芝EMI TOCJ−6083)
TONY WILLIAMS

 1995年の録音で、トニーが死去したのは97年なので晩年の作品と言っていい。同じ時期にビル・ラズウェルやデレク・ベイリーとコラボしたアルカナやマイルストリビュート作品、ニュー・ライフタイムなどなどさまざまなタイプの演奏を行っており、めちゃくちゃ意欲的だった。そういう一環としての本作なので、これこそがトニー・ウィリアムスが本当にやりたかったことなのだ、みたいな捉え方はどうかと思う。とにかく才能がありまくって、いろんな種類の音楽を同時にやりたくて仕方がないひとだったのだろう。本作も、メンバーを見ると、マイケル・ブレッカーをフロントに、パット・メセニー、ハービー・ハンコック、スタンリー・クラークというえげつない面子のクインテットによる演奏で、さぞかしゴリゴリのジャズが展開しているのだろうと思ってしまうが、聴いてみると、7分半もある一曲目は、トニーが作曲した曲をオケが演奏するというもので、トニーはドラムを(たぶん)叩いていない。この時点でかなり驚くのだが、2曲目のクインテットの曲も、びっくりするほどかつてのフュージョン的なフュージョン(変な言い方だが)で、トニーのドラムはきっちりビートを刻む。ブレッカーが吹きまくり、ハンコックはシンセを弾き倒しているが、トニーの影は薄い。そんな感じで、トニーのコンポジションをオケが演奏したものとクインテットの演奏などが並べられていて、全体でひとつの組曲のようになっているのだと思う。いわゆる4ビートチューンが一曲もないとライナーにはあるが、まあそんなことはない。一曲のなかにさまざまな場面が用意されていて、わくわくするような展開があったりするのも、トニーのトータルミュージシャンとしての才能なのだろう。あとは、ときどき挟まれるオケだけの曲をどう感じるか、だろうが、私は好きで(すごくシンプルだけど潔い)。メセニーもブレッカーもハンコックも大活躍で(とくにハンコック)、充実のアルバムだと思う。たぶん、この豪華絢爛なメンツも、トニーにしてみれば、いつもの友達に声をかけたよ程度の人選なのかもしれない。ほんとに曲ごとにバラエティにとんでいるので、聞き飽きない(深すぎるバラードやスパニッシュからファンキーまで?)。こんなんやない、わしゃトニー・ウィリアムスのバリバリのドラムが聴きたいんじゃあ! というひとにはそういうタイプのアルバムを聴いてもらうしかないが、ほんとは5曲目とか8曲目とか10曲目とか12曲目とか……めちゃくちゃドラムもすごいんですよね。なにがやりたいのかわからんような曲もあるが、それもまたミステリアスでよい。とてもいいアルバムだと思います。