「WEIRD NIGHTMARE」(SONY MUSIC ENTERTAINMENT/COLUMBIA CK 52739)
HAL WILLNER PRESENTS MEDITATIONS ON MINGUS
ハル・ウィルナーのトリビュート作品の一枚でミンガスに捧げられたもの。このひとのトリビュート作は、単にそのひとの曲をやるとかそういったものではなく、考え抜かれた人選による深い音楽になっている。本作もまさにそういう一枚。分厚く垂れこめた黒雲によって向こうが見えない暗闇のなかを手探りで歩いていく……そんなイメージが全編にわたって感じられる。タイトルが「恐ろしい悪夢」となっているのもわかる気がする。ミンガス集としては異色であり、曲をそのまま演奏しているわけではないが、ミンガスのある側面を分厚く切り取ったような雰囲気が延々と続く。メンバー的にもキース・リチャード、エルヴィス・コステロ、チャーリー・ワッツ……といったビッグネームが参加しているが、そういうひとたちもウィルナーの音楽のなかですりつぶされ、どろどろに溶かされ、この凄まじい音楽を構成する要素のひとつになっている。戯画化され、いびつな方向から解釈されたミンガス観のようだが、何度も聴いていると、たしかに非常に真っ向からのミンガスミュージックへのトリビュートになっていることに気づく。二重三重の仕掛けなのだ。素材としてはミンガスの曲のなかでも癖の強いものが選ばれており、ヴォーカルや朗読の使い方もいい感じで、「おお、神よ、私のうえに原爆を落とさないでください」のようなストレートなブルースや「直立猿人」のようにパワフルでわかりやすい解釈の曲もあるが、基本的にはまさに「悪夢」的表現が貫かれている。それがミンガスの音楽、思想……とどうつながるのか、という話をはじめると終わらなくなるが、私の思いを一言だけ言うと、ミンガスがアメリカ黒人として生きた、クリエイトした、反抗した、怒った、傷ついた、悲しんだその人生はここで表現されているような、黒雲に閉ざされた悪夢のなかを手探りで、しかもつねに前進しようという思いの連続だったのではないかと思う。重くて深いミンガストリビュートです。ジャケットもなんかいい感じ。傑作。