「SHOUT FOR TRANE」(A WHYNOT RECORDS WN−008/MTCJ−2017)
JOE LEE WILSON & THE BOND STREET
やはり、私にはジャズボーカルはわからん。これは名盤だとある先輩に言われて聴いてみたわけだが、はじめて聴いたとき、これは笑っていいのかどうなのかとしばし悩んだ。一曲目「ジョン・コルトレーン」と繰り返し叫ぶモードっぽいマイナー曲で、途中「トリビュート、トリビュート、トリビュート」と繰り返すところなど、絶対笑う。やってるほうが真剣なだけに、笑いの反動も大きくなる。葬式の途中で笑いたくなるというアレだ。歌詞も、たいしたことを言ってるわけではなく、この歌詞ではたしてトリビュートになるのかはわからない。とにかく大げさな演奏で、そのあたりがコルトレーン的ということなのか。森士郎と藤原清澄が参加しており、その演奏は自己主張がはっきりしていて立派。とくに森のソロは、一種の昂揚状態にあるバンドのなかで、クールで知的な興奮を呼び起こす。モンティ・ウォーターズというアルト〜ソプラノ奏者は、ホワイノットでもリーダー作が出ているが、よれっとした感じで私の苦手なタイプ。フィールダー・フロイドというトランペットは超まともなひとでめちゃうまい。2曲目は一転して大スタンダードで「ソフィスティケイテッド・レイディ」。だみ声のおっさんが歌っている演歌っぽくて、なかなか。3曲目はホレス・シルヴァーの「ソング・フォー・マイ・ファザー」で、急にベタな選曲だなあと思ったが、じつはこれがいちばんいいかも。本人のヴォーカルも1曲目のような感情過多で内容がない感じではなく、演奏と中身がちゃんと合っている。大げささが自然で、感動的である。4曲目は、ジョー・リー・ウィルソンのオリジナルで、やはりメッセージ色が強い。ジャズというか、ちょっとソウル入ってる? モンティ・ウォーターズのソプラノがぺらぺらで私には合わないです。ラストは「フォー」。ウィルソンはバップスキャットを展開するが、うーん……ツボは心得ていると思うが、ビバップのフレーズをちゃんとスキャットできているわけではなく、ラップ(?)みたいです。ここでもフロイドのトランペットの快調さだけが耳につくが、このトランペッターも本作のサウンドに適合しているわけではないように思う。