glenn wilson

「THE DEVIL’S HOPYARD」(JAZZ MANIAC JR3625)
TROMBARI

 バリトンのグレン・ウィルソン、そしてトロンボーンのジム・ピューといえば名だたるビッグバンドを渡り歩いてきた超有名セクションミュージシャンであり、ソロイストでもある。このふたりがなんと、その名も「トロンバリ」なるバンドを立ち上げ、トーマス・チェイピンの曲ばかりを取り上げたアルバムを作るとは……。ミュージシャンは経歴や一面だけで判断してはいかんなあ。このアルバムはめちゃくちゃいいのだ。1曲目からそのタイトなアンサンブル、アコースティックな音色、ドライヴしまくるソロ、見事なアレンジ、そしてチェイピンの曲に対する愛情と尊敬あふれる解釈などに参ってしまいました。ツインベースで、ヴァイオリンやチェロなどを加えた編成の大胆さもツボにはまった。長文のライナーノートは署名がないのでだれが書いたのかわからないのだが、内容からしてたぶんグレン・ウィルソンだと思う。ウィルソンとピューは、基本的にはあくまでハードバップ的な演奏を貫いているのだが、ときとしてフリーに踏み込むような部分も多数あって、なによりチェイピンの曲をチェイピンの解釈に基づいてストレートにアレンジ・演奏することで十分アヴァンギャルドな嗜好も満足させる出来映えになっている。とかなんとか言うまえに、とにかく「かっこいい!」と叫びたくなるようなめちゃくちゃ楽しい演奏ばかり。2曲目の「DIVA」だけがエンリコ・ラヴァの曲なのだが、3曲目以降は「デヴィルズ・ホップヤード組曲」となっていて、チェイピンワールドに浸ることができる。がっちりしたアレンジがすばらしいのだが、そのなかで自由にふるまうバリトンとトロンボーン、そしてストリングスのかっこよさ(ソロイストとしても)……もう言うことない演奏である。しかし、考えてみれば、このバリトンとトロンボーンの超絶技巧でなんでもバリバリ吹けるが狙っているところはめちゃめちゃ高くて、エンターテインメントとアヴァンギャルドが同居している……という点はまさにトーマス・チェイピンの音楽性と同じではないか、と思う。トロンボーンとバリトンという組み合わせはハードバップではどれぐらい例があるのかしらないけど、そういえば「ボーン・アンド・バリ」というのがあったなあ。ライナーはチェイピンとの交友についても細かく書かれていて、ライオネル・ハンプトンのバンドではじめて日本をふたりで訪れたとき、広島の平和公園を訪れ、たがいに深く感動し、チェイピンは自分の版権管理会社を「ピース・パーク・パブリッシング」と名付けた、という話なども。傑作!