「EIVETS REDNOW」(MOTOWN RECORD COMPANY/POLYDOR POCT−5510)
EIVETS REDNOW
私は正直スティーヴィー・ワンダーのいいリスナーではない。というかアルバムを一枚も持っていない。「キー・オブ・ライフ」も「ホッター・ザ・ジュライ」もなにも持っていない。もちろんめちゃくちゃすごいコンポーザー、ボーカリスト、キーボード奏者、ハーモニカ奏者であるとは思うが、私の好みとは音楽の方向性が違うというだけだ。しかし、本作はチチ松村さんの「盲目の音楽家を捜して」という本に載っていたのを読んでどうしても聴きたくなり、けっこう探したのだが、その当時は中古価格がめちゃくちゃ高く、あきらめたのだった。名前もスティーヴィー・ワンダーの名前のアナグラム、というか、後ろから読んだだけですぐにバレる。そのハーププレイに焦点を当てた演奏で、歌を歌っていないのである。こうしてなんとか入手して聴いてみると、これがすばらしいのです。ほんとのことを言うと、ゴージャスすぎるバックも邪魔で、シンプルにハープだけ聴かせてくれればもっとよかったような気もする。それにしてもスティーヴィーのハープの瑞々しさ、音色のすばらしさ、フレージングのかっこよさ、テクニックの巧みさよ。たいへんな説得力があり、この小さな楽器に秘められた音楽的な表現力をぐいぐい引き出していて怖いぐらいだ。まあ全体に気楽に聴けるアルバムに仕上がっている(そういう狙いだと思われる)が、スティーヴィーのハーモニカに絞って聴けば、身震いするようなかっこよさがある。音程、音色、フレージング……どれをとっても完璧で、このひとのボーカルものの合間にちょろっと演奏されるハープが、ここではたっぷり聴ける、という意味でも、聴いてよかったと思います。