「I REMEMBER…」(GRYPHON PRODUCTIONS RJ7471)
PHIL WOODS
学生のころ、本作収録の「スウィート・ウィリー」をやったことがある。本作での編成をビッグバンド化したアレンジだったと思うが、なかなか難曲でありました。私はフィル・ウッズのいい聴き手ではなく、レコードもたぶんこのアルバムとあと一枚ぐらいしか持っていないが、本作は好きであります。ウッズが後年取り組むリトルビッグバンド的なグループの萌芽がここにもあるような気もする。ウッズが交友のあったミュージシャンのことを思い出して作ったアルバムということで、タイトルもそうなっている。8曲中、デディケートされているのはウッズと同じアルト奏者が3名(キャノンボール・アダレイとポール・デスモンドとチャーリー・パーカー)含まれている(オリバー・ネルソンも入れれば4人)。あとは、オスカー・ペティフォードとトロンボーン奏者のウィリー・デニス、パーカッションのウィリー・ロドリゲス、ヴィブラホンのゲイリー・マクファーランドであり、基本的には曲名=そのひとの名前である。こうして捧げられているメンバーを見るだけで、ウッズの交友範囲というか音楽性が浮かび上がってくるような気がする。、全曲、作曲もアレンジメントもウッズが担当しており、たいへんな意欲作である。コンダクションのハリー・ラビノヴィッツM.B.E.というひとの「M.B.E.」というのは大英帝国勲章のなかの「メンバー」というランクの叙勲者であることを示しているらしい。メンバーは当時のウッズカルテットがベースになっており、そこに5本の弦楽器やオーボエ、フレンチホルン、ギターなどを含むオーケストラが加わり、かなりの大編成となっている。エレキギターやエレピが入っているサウンドがいかにも時代を感じさせるし、かなり癖の強いアレンジの部分(A−4「オリー」の中間部分とか)もあるが、全体としては非常に面白い演奏ばかりだと思う。ビッグバンドジャズというよりはオーケストラという感じでしょうか。ウッズのソロだけをひたすら際立たせるようなアレンジではなく、ソロもテーマもアレンジも含めてバランスのよい構成になっているところがすばらしく、それがリーダーであるウッズの狙いどころなのだろう。ウッズの溌剌とした、スムーズすぎるぐらいスムーズなソロももちろん聴きどころなのだが、たとえばスティットの「ペン・オブ・クインシー」などとはちがい、かなりバリバリ吹いているにもかかわらずソロがオーケストレイションに溶け込んでいる感じ。肝心(?)のB−3「スウィート・ウィリー」は、今聞くと、曲もアレンジもトロンボーンソロもウッズのソロも最高で本作中の白眉だと思う。後半出てくるユニゾンのソリ(?)とドラムの掛け合いの部分はビバップのコードチェンジをきっちり縫ったもので、非常に勉強になりました。今でも歌えるなあ。ほかの曲では、B−2の「フラットジャックス・ウィリー」というラテンナンバーのアレンジや、B−4のバラード「ゲイリー」のウッズのソロなどが気にいってます。傑作。