workshop de lyon

「50e ANNIVERSAIRE」(BISOU RECORDS BIS−004−U)
WORKSHOP DE LYON

 ワークショップ・ド・リヨンのことを知ったのは昔のジャズ批評だったが、なかなかアルバムを聴く機会がなく、一枚だけ中古で見つけて聴いただけだったが、そのグループがこうして50周年を迎え、なんと初期のすべてのアルバム(8枚)を初CD化して、しかもそこに未発表の音源をほぼCD1枚分付け加えたボックスを発売、そのうえ値段が4860円って……安すぎるやろ! これはもう買うしかないわけで、このボックスによって1967年に成立(当時は「フリージャズ・ワーク・ショップ」という名で、1枚目のアルバムもその名義)したワークショップ・ド・リヨンの全貌がわかる。ご存じのようにフランスにおけるフリージャズの中心的なグループで、ARFIという団体の核でもある。もともとアート・アンサンブル・オブ・シカゴっぽいグループだが、アート・アンサンブルがAACMの中核的存在であるのと似ている。そして、初期のルイ・スクラヴィスが参加しているころの音源もたっぷりあって、いやー、わくわくしますね。では、一枚ずつ簡単に紹介を。

「INTER FREQUENCES」
FREE JAZZ WORKSHOP

 このころはまだ「フリージャズワークショップ」(なんという「そのまま」のネーミング)名義で、トランペットが入った5人編成である。2管にピアノ、ベース、ドラムの3リズムという、ある意味オーソドックスな編成だが、やってることは編成とは関係なく自由である。1曲目はピアノとドラムとベースによる不穏なインプロヴィゼイションで幕を開け、最初はずっとトリオによる即興が続くが(全員、この種の音楽についてかなり「手練れ」な印象を受ける)、4分を過ぎたあたりから声や管の音が聞こえ出す。それまでは、すごく上手いひとたちがフリーインプロヴィゼイションをしてる、という感じだったのだが、そこから急に遊び心というか、アートアンサンブル的な楽しさが加わり、面白くなる。そして延々とフリーインプロヴィゼイションが続き、7分当たりから、え? これって曲か? という感じになるがそのあたりはよくわからない(クレジットにはトランペットのジーン・メルーの作曲となっている)。たしかにアート・アンサンブルっぽい。15分もあるが飽きさせない。遊び心と緊張感が同居している。2曲目はベースによる高音部のアルコで幕を開け、そこから重厚なベースソロが続く。管楽器の陰鬱なロングトーンがそこに乗ってきて、ベースはますます奔放に弾きまくる。かっこいい。ドラムもそこに加わり、一本芯の通った、というか、マイナーワンコード的な骨太の即興が展開される。3曲目はドラムソロのみの曲。正攻法だがかなり聴かせます。4曲目は集団即興。ドラムとアルトのモーリス・メルルの激しいデュオになる場面がめちゃかっこいい。全員いい味出しまくりで、本作の白眉か。5曲目は一転して静かな即興で、ピアノとベースによる濃密きわまりないからみではじまる。おっ、ええ感じやん、と思って聴いていくと、ドラムが入り、なんともいえない雰囲気で推移する。ピアノがすばらしく、このままトリオで終わるのかな、と思ったところに、トランペットが入ってきてテーマを吹く。あとはそのテーマに基づいての演奏(変奏的)だが、次第にじわじわと盛り上がり、凛々しく、朗々と歌うトランペットとその間隙を埋めるように吹くサックスによってこの曲はクライマックスを迎える。あー、面白かった。買ってからこの1枚目ばかりしつこくしつこく聞いていたのは、このグループがどういうものかを身体でわかろうとしたためだが、とにかく1枚目の出来ばえがこれだからあとも相当期待できるというもんです。

「LA CHASSE DE SHIRAH SHARIBAD」
WORKSHOP DE LYON

 1作目からトランペットが外れ、ルイ・スクラヴィスが参加。1曲目はベースソロからスタートだが、気合い入りまくりで、ときどき漏れる「声」は本人のものなのか。ピアノが5拍子のリフを弾きはじめ、全員によるテーマがはじまる。そのあとけっこう劇的な展開のあと、日本風の旋律による別のテーマがはじまり、ピアノのリフとそれをバックにブロウしまくるスクラヴィスのクラリネットがめちゃくちゃかっこいい。一種の組曲なのか。2曲目はいきなり2管による対位法的なテーマではじまる。あー、こういうの好き。スクラヴィスっぽいなあ、と思っていたらやはりスクラヴィスの曲だった。テーマが終わると、一転して軋むようなノイズになり、そこにピアノがからんでいき……という一筋縄ではいかない展開もいいですね。3曲目は管楽器の、なんだかへろへろで下手くそっぽいな吹き伸ばしではじまり(こういうところはアートアンサンブルっぽい)、それがだんだんと展開していくという私好みの曲。ピアノはかなりガンガンいきます。こういう、なんでもありのゆるい即興をやっても、ベーシックな音楽性やテクニックは顕れるもので、それはなにも悪いことではなく、とてもいいことだと思う。最後のへんてこなテーマ(?)は2管で合わしているのかそれともモリース・メルルの二本同時吹きなのか? まあ、どっちでもいいけど。4曲目は、ベースの重々しいアルコに乗ってメルルのアルトが活躍。マウスピースをはずしてネックに直接唇を付けてるのかも。ヴォイスと音が絶妙にまじりあった即興。今でもこういうことはやられている。アルコのキレッキレなソロとそこにからみつくサックス(ソプラノ?)の微妙な表現。これは美味しい! ときどき崩落的に入るピアノとドラムのリフ(?)。そしてロングトーンによるテーマ。きらきら輝いて美しい。そして、このメンバーからピアノが外れた4人によるライヴ演奏がボーナストラックとして2曲入っている(時期的には三枚目のあとにあたる)。変な音階によるテーマを管楽器とヴォイスが奏でる、という、いかにもな曲で楽しい。二曲目はバスクラとベースが低音で奏でるリフに乗ってドラムが遊ぶ。だれだかわからないが(スクラヴィスでないことはたしか)何人かがしゃべったり叫んだりする即興演劇的な側面も。いやー、めちゃめちゃおもろいやないですか。

「TIENS!LES OURGEONS ECLATENT…」
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 ピアノが抜けて四人編成に。今までとちがい短いチューンを集めた感じだが、このグループの性格というかほかと似ていない独自性がはっきりしてきた。ピアノとトランペットが抜けたことでグループしてぎゅっと引き締まり、無駄が削ぎ落され(ピアノとトランペットが無駄だったという意味ではない)、全員がしゃかりきになって動かねばならないようになり(テーマを吹いたあともアンサンブルに、パーカッションに、ボイスに……と十忙し)、熱気もこもるようになった。カルロ・アクティス・ダートのグループを連想させるが、あれもアート・アンサンブルに範を取ったバンドなのだ。メルルのサックスはもちろん、スクラヴィスが本領発揮しまくりで、ドラムも大活躍で、とにかくめちゃくちゃ面白い。1曲目はヨーロッパ的な祝祭日を思わせる曲で楽しい。2曲目はスクラヴィスが暴れまくり、ドラムが叩きまくる(裏ジャケットではベースのボルカートの作曲となっているがブックレットではメルルの曲となっている)。3曲目はフリーインプロヴァイズドな感じだが、ボルカートの曲ということになっている。メルルが2本くわえて吹くノイズ(?)がいい刺激を与えている。ラストはフェイドアウト。4曲目はヴォイスというか叫び(?)も交えたフリーな感じではじまる。メルルがサックスを吹きながらヴォイスでわけのわからない言葉を叫ぶというヴォイスインプロヴァイズの極致のような演奏をみせ、1977年という時期を考えると、ここまでやりきったのは凄いんじゃないかと思う(時期とか考えなくても面白いが)。ドラムもめちゃいい。5曲目はドラムのイントロからはじまるテーマだけの短い演奏(レコードのA面を締めくくるという意味もあるのかも)。6曲目はゆっくりしたバラードっぽい曲と思わせておいて、そのテーマが速くなる。スクラヴィスのバスクラとベースのデュオ。スクラヴィスのバスクラの深い音色が圧倒的で、てっきりスクラヴィスの作曲だと思っていたらボルカートの曲だった。バスクラのスラップタンギングがめちゃかっこいい! 7曲目はソプラノとドラムのデュオによる即興。スクラヴィスの作曲ということになっているので、このソプラノはスクラヴィスということである。途中からもう一本サックスが加わり(アルト?)ベースが入ってくる。最後、アルトとベース、ドラムによる激しい即興(かっこいいです)になるが、そのあいだずっと叫んでるのはスクラヴィスなのか? とにかくめちゃかっこいいです。ドラムが凄い。8曲目はメルルによるタンゴ曲。フィーチュアされるフリーキーなトランペットはだれ? と思ったが、どうやらメルルによるチューバ(ユーフォ?)らしい。短い演奏。9曲目はトラディショナルをアイダ・コックスが歌ったバージョンをこのバンドでリアレンジした、はいうことらしい(よく知らん)。耳なじむテーマをバックにひたすらフリーキー。ラストの10曲目はバスクラはベースがバンプを延々と奏で、メルルが(チューバ)で乗っかるという演奏だが、一瞬で終わる。これも、B面の締めくくり的な意味があるのだろう。いやー、とりあえず本作はここまでのこのグループの最高傑作と思う。このグループだけにとどまらず、フリージャズ史に燦然と輝く傑作である。少なくともこの1枚だけでもみんな聴いてほしいです。

「CONCERT LAVE」
WORKSHOP DE LYON

 ボックスの4枚目は、ライヴとスタジオの2枚のアルバムをカップリングしてある。まずはライヴのほうから。前作から3年たった本作では、たっぷりと即興を聴かせてくれる。もしかしたらこのグループがこれだけ奔放な即興に徹したのははじめてかもしれない。しかも、さすがにこのメンバーなので瑞々しいインプロヴィゼイションを繰り広げて飽きさせない。ときには古いジャズやヨーロッパのトラディショナルなもの、民族音楽的なものからのインスピレイションを混ぜ込んだ(というか、自然に出てきた?)ような展開に思わず陶然となる。全員、即興に際してのアイデアが明確で、雰囲気に流されたような演奏ではないので、とても説得力があり、こうして時空を超えて聴きつがれるのだろう。とにかく全員が活躍していて、4人のメンバーのうちだれひとり欠けてもこの音楽は成立しないだろうと思わせる。メルルもスクラヴィスもすばらしいが、スクラヴィスに関しては後年の大活躍のときに、先達のポルタルとはまた違った、即興での斬り合い、みたいな場面でもばんばん吹きまくるのはこういったところでつちかわれたものかもしれない。ベースも凄いし、ドラムは4曲目の超ロングソロで場をさらうが、そこにでたらめヴォイスの数々が降ってきて、最終的にはとんでもない状況になるあたりも必聴である。ラストの5曲目にいたって、ようやくしっかりしたコンポジションの曲が登場する(メルルの曲)。これはめちゃかっこいい。バスクラを中心としたヴァンプが心地よい。

「MUSIQUE BASALTE」
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 一年まえの前作とは打って変わって、コンポジション中心のスタジオ作。いきなりメルルがアルト奏者としての実力を見せつけるような演奏で幕を開け、そのあとは、短い演奏ばかりの、一種の組曲のようになる。これがまた面白いのでありまして、作曲とコンポジションががっちり融合した刺激的でかっこいい曲ばかり。ある意味、このグループの頂点(のひとつ)と言っていいかもしれない。作曲と即興が見事に融合したアルバムで、本当にすばらしい。

「ANNIVERSAIRE」
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 CD5枚目もカップリング。まずは、前作から6年後のスタジオ録音で、グループ結成から20年という節目のアルバム。これがまあ、6年の歳月を感じさせない、ものすごい傑作でした。まずどれか1枚、というならこれからでもいいかも。もう完全に「ワークショップ・ド・リヨン」のオリジナリティが確立しまくっていて、ほかのフリージャズのグループのドとも似ていないような個性が築き上げられいて、感動すら覚える。かっこいいけどかなりむずかしいコンポジション、アレンジとそれを演奏できる抜群の技量があってこそのこの演奏なのだが、いわゆるフリージャズへの視線とか、黒人ジャズ的なものの残滓はほとんど感じられない。それはもう見事なまでのすがすがしさである。1曲目のメルルの曲からして、バスクラの低音か前面に出たこの不穏で、諧謔的で、ビート感のある曲の圧倒的なスピードは、こういう風にざっくりした言い方はよくないかもしれないが、いかにも「フランス」という感じのサウンドである。フリーになる場面はまったくないのに、そこから漂ってくる「気配」はじつに自由なものである。2曲目も同様で、かっちりしたコンポジションなのにフリーな感じである。めちゃくちゃすごい表現力のソプラノソロがフィーチュアされるが、コンポジション部分の凄まじさも特筆すべきである。もしかしたら前半と後半のソプラノはちがうのかなあ。とにかくめちゃくちゃかっこいいのだ。メルルのサックス奏者としての実力を思い知らされる演奏。3曲目もすげー。いや3曲目こそすげーのかも。激しいドラムのビートに乗って、ふたりのサックスが超難しい譜面を怒濤のアンサンブルで奏でていく。ドラムのソロがフィーチュアされるが、「ドラムソロ!」という感じではなく、曲のなかに折り込まれている。いやー、これはすごいわ。4曲目もしっかり書き込まれた譜面だが、クラシック的であり、かつ転がっていく石のようなビート感がある。ヴォイスの使いかた、スクラヴィスのバスクラの凄み、いきいきとした躍動感など、どこをとってもすばらしすぎる。1曲のなかにさまざまなドラマが盛り込まれていて、そういうのはたしかにアート・アンサンブル的であり、また、モゴトヨーヨーなどにも通じる部分だと思うが、ワークショップ・ド・リヨンはいかにも明るいフランスの雰囲気が感じられる(というような表層的な理解ではあかんのかもしれないが)。5曲目は2管(ふたりともアルト?)の無伴奏によるイントロダクション(ノンブレスで、これだけでも凄まじく十分聞きごたえあり)からノリノリのチューンが始まる。5拍子だが軽快で、なんともワークショップ・ド・リヨン的な曲である。ソロに入るとモードジャズ風になる。どっちが先発かわからないが、いずれもめちゃくちゃ熱いブロウが聴ける(後者はブルースっぽい)。前者はモードジャズ的で後者はややファンキーな感じ。ええ曲でええ演奏。6曲目は、ミニマルミュージック的にはじまり、そのパターンがずっと続くのだが、そこにエレベ(とアコベ)とドラム、演劇的なヴォイス(巻上公一を連想させる)などの奔放で過激なソロが現れては消えるという趣向のめちゃくちゃかっこいい演奏。すばらしい。

「FONDUS」
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 前作から10年後の録音。ルイ・スクラヴィスが抜けて、ジーン−ポール・オーティンが加入しているが、演奏のグレードはまったく落ちていない。どちらかというと、前作、前々作がコンポジションに重きを置いた作りになっていたのに対して、本作は全曲即興という思い切ったアルバム。1曲目、チャルメラみたいに聞こえるのはおそらくオーティンのソプラニ―ノだろう。2曲目は循環呼吸によるロングトーンが印象的な演奏。本当に「戯れている」という感じ。一周回ってここへ戻ってきたか、という風にも取れる。実に見事にこちらの予想を裏切り、思わぬところに着地してくれて、快感である。3曲目はソプラニーノのノイズっぽい音とアルコベースが呼応してはじまり、不穏なバラードとして推移していく。4曲目は、ドラムのティンパニ的な演奏のうえに乗って、管楽器が不協和音的な音をくねくねとまき散らしていく。ちょっと中近東のダブルリードを思わせるような演奏。5曲目も、まさに集団即興という演奏だが、ドラムがバイタルで躍動感あふれる。オーティンのバスクラとメルルのソプラノによるタンギング大会。なんとなく調性が出てきて、まとまっていき、また離れていく。真剣な遊び。6曲目はぐちゃぐちゃっとしたベースに、アルト(?)が妙にへしゃげたような旋律を奏でていく、かなりアヴァンギャルドでヘンテコな即興。半分ぐらいいったところでドラムが入ってくる。こういうグズグズした演奏も好きだなあ。そのあとバスクラリネットに交替。最後の最後はバスクラとソプラノが呼応してのまるで譜面があるかのような展開になって幕。すばらしい。

「CHANT BIEN FATAL」
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 6枚目もカップリングというか、アルバム一枚と、それに最新(?)の未発表ライヴのテイクが6曲も入っている。で、このアルバムのほうだが、これは前作よりも時期的には前に位置する。前々作の約3年後の演奏。すでにオースティンは加わっている。「FONDUS」とは打って変わってバリバリのコンポジション。短い曲多し。ちょっとカルロ・アクティス・ダートのカルテットを思わせるところもある。1曲目から16ビート的というかサンバっぽい曲調。サックスのふたりが凄まじいテクニックを披露して、正直、目が点になる。これって循環呼吸だよなあ。いや、圧倒されます。完全即興の「FONDUS」とこのアルバムのあまりの差に驚くと同時に、このグループの幅の広さにびっくりする。2曲目もロッキンな曲で、「ワークショップ・ド・リヨン」を聞いているとは思えないほどのふり幅の大きさ。かっこいい。でも、グズグズしたプログレ的なアレンジは「ワークショップ……」的かも。3曲目は5拍子だが異常に爽やかな曲。一見フュージョン風、じつは変態……ということか。なんかよくわからないヴォイスもかっこいい。アジテーションなのかなあ。英語じゃないので全然わからない。ソプラニーノのあっけらかんとした爽やかさも逆に「変」です。スパイロ・ジャイラか! 4曲目は相当複雑なコンポジション。これを吹きこなすにはかなり練習がいるのでは。アレンジもソロもめちゃくちゃかっこいいです。5曲目は祝祭日的な明るさと、テーマのリズミカルな面白さが前面に出た曲。じつは相当変態である。ベースラインを聞いているだけで、イーッとなる。ものすごく面白い演奏で、かなり画期的かも。考え抜かれたアレンジと即興の応酬。ドラマチックで興奮しまくり! 本作の白眉か? いやー、すごいすごい。6曲目はタイトルチューンで、「チャント」とあるとおり、一種のバラードで、淡々としたなかに慟哭が感じられる。バスクラが効いていてかっこいい。長いアルトソロのあと、アンサンブルによる第二テーマがはじまる。そして最初に戻ってエンディング。これはすばらしい。7曲目は明るいカリプソっぽい曲だが、テーマのあとサックスとベースのデュオになったあたりから、なんとなく物憂げな雰囲気になって最高。そしてソプラノ(ソプラニーノ?)とドラムのデュオになるところも上手過ぎてハーとため息が出る。8曲目はメルルとベースのデュオで、調性は感じられるがインプロヴィゼイションだと思われる。長年かけて到達した境地というべきか。9曲目はマーチ風のヘンテコな曲。なんとなくふわっとしたアンサンブルなのだが、きっちり譜面があるようだ(掛け声もいい感じ)。でも、このバンドは譜面があろうが即興だろうがあまり関係ない状態になっている。つまりどんなときも自由さと独特のグルーヴが感じられるのだ。最後の10曲目はアンサンブル主体の曲で明るい風のような演奏だった。

「ARZANA」
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 2003年にメルルが死去したが、ジーン・アサナールが加入し、ワークショップ・ド・リヨンは継続した。これは2010年のライヴで未発表の6曲。これもまたすばらしい演奏である。未発表音源なので簡単に触れておくが、「FONDUS」から13年という月日が流れているというのに、結成以来変わらぬベースとドラムはなおいきいきとしているし、新加入のアサナールも完全に溶け込んだ演奏である。新曲も意欲的で、このグループが不死鳥のように創造的な活力を保っていることがわかって感動的である。既発表のものと遜色ない、貴重な音源だ。アート・アンサンブル・オブ・シカゴやエスニック・ヘリティッジ・アンサンブルなどのように、すばらしいグループはすばらしいものを創造するだけでなく、あとへ伝えていくのだ。しかし、このアサナールも今年(2017年)の9月に若くして亡くなり、今、ワークショップ・ド・リヨンはどうなっているのだろう。とにかく50周年を盛大に祝っているらしいので、まだ継続しているのだと思う。

 こうして「ワークショップ・ド・リヨン」の歩みを聴いてきたわけだが、気づくのは、最初をのぞいてピアノがいないこと、バスクラとソプラノ、アルトといった高音サックスを一貫して採用し続けており、それがヨーロッパ的な響きにつながっているような気がする。コンポジションと即興の有機的な結合、そして、曲のオリジナリティをみてもアメリカのフリ―ジャズとは異なったものを確立していることは明らかで、この圧倒的な音楽的成果を一挙に味わえるという機会を逃す手はない! 全部傑作です。リヨンは現在も活動を続けていて、ここに収められていない作品もいろいろあるようだが、それらをこれからボチボチ聴いていくという喜びが増えました。