「TAKEZO YAMADA SPECIAL」(OWL WING RECORD OWL−017)
TAKEZO YAMADA
いや、もう、めちゃくちゃ良くないですか? 今が何年やねん、とか、ハードバップを再現、とかいったことがどうでもいいように思えるぐらい、これは普遍的に聴かれるべき音楽だと思う。ガトス・ミーティングで何度もライヴに接している山田丈造の初リーダーアルバム。ガトス・ミーティングのようにオリジナル中心でしかもフリージャズ的な演奏とはちがって、こちらが本来の姿なのだろう。こういういきいきとしたハードバッパーぶりが、フリーの猛者ぞろいのガトスのなかではええ感じに作用している。林さんが「○○もいいんだけどさ、俺は丈造が好きなんだよね。あの、リー・モーガンみたいにバーッというのがさ」と言っておられたが、まったく同意見です。そして、本作は山田が気心の知れた、同じ方向性を目指している、同年代のミュージシャンを集めての、気合いの入りまくった演奏なのだと思う。全員、音楽性、技術、個性……どれひとつ不足のないひとたちが集まっていて、一聴かつてのハードバップを再現したような感じに聴こえるかもしれないが、そこにはモードもフリーもフュージョンも……とにかくいろんなものを知ったうえで、なおかつぎらぎら輝いているような演奏をしているわけで、その深みというか切り口というか、そういうものは、ただの再現とはまったくちがうものであることは言うまでもない。山田は、作曲(ハードバップというものの本質を上手くとらえて、しかも現代的な曲ですばらしい)、プレイ両方でバリバリ活躍していて、とにかくすがすがしい。日本人が2020年にやってるハードバップ……みたいな意識はまったく持たずに素直に聞けばストレートに腹に入ってくる演奏である。フレーズもリズムもアーティキュレイションも素晴らしいが、とにかく「音」がいいですよね。オープンもミュートもすげーいい音。個々の曲には触れないが全部好き。ドラムがとにかく鋭角的でずっと刺激的だし、ピアノもかなり過激でアクロバチックなソロも絶妙なバッキングもどれも聴き惚れるし、ベースもこういう音楽にぴったりのバックアップ(ソロも)をしていて、とにかく全員超すごいのだが(まあ、一種のスーパーバンドといっていいのでは?)、なかでも個人的にはテナーの曽我部泰紀がめちゃくちゃ気に入った……が、どこかで聞いた名前だと思ったらグローバルにいた人だったのか。たぶん生で聞いてるはずである。いやー、音の濁らせ方といいフレージングといい、すばらしいですね。ほんまに上手くて個性的でほれぼれする。今後、どんどん有名になっていくんでしょうね。こういう柔らかい音が基本で、グロウルもして、硬質な破裂音も出せるひとは向かうところ敵なしである。テナーを完全にコントロールしてる印象。この年でこの表現力とは驚くしかない。オリジナルを中心にスタンダードやらなにやら絶妙の選曲。聴き所満載だがとくに印象に残った演奏を挙げれば、まずはいきのいいブリブリしたハードバップである1曲目で、もうこのアルバムの全てが言い尽くされてるだろう。2曲目のスタンダード冒頭のミュートプレイ×見事にスウィングするブラッシュもこういう演奏の醍醐味だと思う。3曲目は曽我部の曲で、ややモードっぽい部分もあるバードな曲だが、曽我部のテナー、山田のトランペットも緊張感を持ったブロウを聴かせ、ピアノの高橋もテンションを保ったままテーマに雪崩れ込む。押さえつけるようなリズムの2ビートっぽい曲で山田の曲。タイトルどおりファンキーな香りがふんぷんとする。テナー、トランペット、ピアノのそれぞれのソロが終わったあとの2管での同時ソロもいいですね。4曲目の「ファンキー・ボーイ」はガツガツと力強く押さえつけるようなおもろいリズム。5曲目のバラードでのトランペットの歌い上げは最高で、つづくテナーのスモーキーで柔らかい音色もたまらん。短いカデンツァも美しい。6曲目はタイトルチューン(山田丈造の曲)で、ピアノレスでテナーの曽我部がフリーキーにブロウしまくったあと、山田のソロはフリーリズムになって、ここがまたテンション高くてかっこいいのだ。ピアノソロも自由な感じではじまるがそのあとめまぐるしい展開になり、まるで自分のリーダー作のようにやりたい放題ぶちかまし、ゴリゴリに盛り上がっていく。短いが溌剌としたドラムソロも数えてみたら7曲目はミンガスの曲で、サビのリズムの面白さなどは原曲を踏襲している。普通に聴くぶんにはすごく楽しい演奏なのだが、山田自身によるライナーを読むと、いろいろな思いからミンガスのこの曲を取り上げた、ということが書かれていて興味深かった。8曲目のバラードはスタンダードかと思ったら山田作曲だった。ええ曲や! ミュートで切々とつづられるが、こういうある種の「古い」と感じられるかもしれない吹き方こそがルイ・アームストロング以来の「ジャズ」の表現であって、それをこのひとは大切にしているのだなと思った。丁寧で繊細でしかも力強い。9曲目も山田の曲で3拍子の曲。70年代ジャズ的な濃い、どろどろした熱いものを内包した演奏で、めちゃくちゃかっこいい(こればっか)。山田のソロ、曽我部のソロはどちらも凛とした、イマジネーションあふれる演奏だが、ここでのピアノソロはほんまに攻めてて、ドラムとのからみも最高であります。興奮! そしてラストはあの(!)日野皓正の「シティ・コネクション」で、この曲には個人的な思い入れがありすぎるのだが、南里文雄のところに入り浸っていたらしいうちの親父がジャズファンで、ジャズを聴けジャズを、としつこく言われていたにもかかわらず一切聴かなかった私が、テレビのコマーシャルで流れた日野さんの「シティ・コネクション」聴いて、突然ジャズに目覚めて、まだ未成年なのに「あー、ホットウイスキー。あー、マンハッタン……」みたいな感じでレコードを買いに行った。そして、「このトランペットは……」とか言ってると、親父が「日野やろ? これはトランペットやない。コルネットや」と言われ、ジャケットを確認するとたしかにそうだったので驚いた。そこからフュージョンなるものをいろいろ聞くようになり、そのすぐあとに山下トリオを聴いて……という流れになるのだが、いまだに「シティ・コネクション」は大好きなのです。それを山田さんが演ってくれたのは正直感動なのである。やっぱりこうして聴いても、ええ曲やなあ……と思う。あのアルバムはほかにもええ曲ばっかで1曲目の「ヒノズ・レゲエ」も掴みとしては完璧で、あと「サンバ・デラ・クールズ」という曲もよかったなあ。クイーカというものをあの曲ではじめて知った。「ブルー・スマイルズ」の再演もあってジャズ的にも聞きごたえがあった。あ、いやいや、「シティ・コネクション」の話ではなかった。「タケゾー・ヤマダ・スペシャル」の話なのだ。かなり原曲どおりにやっていて、エレピやファンキーなテナーもフィーチュアされるが、山田丈造の透明感のあるトランペットがやはりかっこいい!(テーマの吹き方のニュアンスもほんまかっこいいですわ)。あれ? 印象に残った曲を……と思ったら全曲感想を書いてしまった。それぐらいどの曲もいいということやね。さて、このアルバム、最初聞いたときは興奮しまくって冷静に聴けなかったけど、今はエンターテインメントして心穏やかに聞くことができる。しかし……凄いよね。表面を撫でたような「今のハードバップ」とはわけがちがうのだ。そういう演奏を志向するひとたちが今、あちこちに出てきているようでとても心強い(関西にもおられます……って普段フリージャズしか聴かないお前が言うな、と言われるかもしれないが、ほんとにそう思います)。こういう演奏を「若いのにこんな演奏して凄いね」とか「古いジャズを今の時代に再現」とか言ったらもうおしまいなのであって、こういうものはずーーーーーーっと脈々と続いているものなのだ。傑作。